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夢百夜  作者: ゆず


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第四夜

こんな夢を見た——

 時間を進める方法が発見されてから早25年、様々な機械が開発され、人々の生活は一変した。手紙や荷物はまるで瞬間移動の様に一瞬で届くし、品物だってあっという間に作成できる。まだ生き物には適応されていないが、先日マウスでの実験に成功したとニュースになっていた。近々タイムマシンができるかも、なんていう人もいる。未来へ一方通行のタイムマシンに乗りたがる人がいるのかは疑問だが。


 この技術は料理業界にも革新をもたらした。長時間煮込む料理の時間短縮だけでなく、材料さえ揃えられればレシピが確立された料理なら一瞬で再現できるようになったのだ。その結果、料理人たちはレシピを隠すようになってしまった。もちろんいいこともある。人件費が削減できるので、美味しい料理が安く食べられるようになったのだ。


 そんな世の中でも、料理学校は必要とされていた。レシピさえあれば、ということはレシピは自分で開発する必要がある。料理学校では新たなレシピ開発のアドバイスをもらうべく、料理人の卵たちが奮闘していた。


 私もそんな卵の1人である。日々レシピを変えて料理しては、講師に試食させアドバイスをもらっていた。講師も直接レシピへのアドバイスはしないが、プロの舌を持った人物から的確な感想をもらえるのは大きいのだ。


「蓮君、調子はどうかな?」

「はい、俊樹先生。いまいちです。なかなか自分の特徴がみつからなくて……」

「君の料理は美味しいのだが、今の時代は美味しいだけじゃやっていけないからな。まぁ、焦らないことだ。数をこなすことで見えてくるものもあるはずだから」

 そう言って俊樹先生は私の肩を叩いた。


 俊樹は世間でも有名な料理人だ。新しいのにどこか懐かしい料理の数々は有名人さえ虜にしている。深夜とはいえ、料理対決の番組にも呼ばれている。チャンピオンの座を守る俊樹が、チャレンジャーと料理対決をするという番組だ。花のある番組ではないが、細々したファンがいるのか3年程続いている。なんのことはない、私もファンの1人だった。


 ある日、番組に激震がおきた。3年間ずっとチャンピオンの座を守ってきた俊樹が負けたのだ。しかも、ただの負けではない。私からすると、相手の手法は反則だった。


 番組では、予算が少ないのかチャンピオンとチャレンジャー2人で1つの装置を使う。その関係上、作動時間は長い方に合わせることになっていた。奴——中山隼——はそこを逆手に取った。

 賞味期限の長いレトルト食品を材料にすることで、装置の作動時間を一年にしたのだ。もちろん、相手の料理と共に一年の時間が経った俊樹の料理は腐ってしまった。判定人も意義を唱えたが、ルールのどこにもレトルト食品の使用禁止は記載されていない。仕方がなく、中山に軍配をあげた、というわけだ。


 番組の次の日、学校に行くといつも通り俊樹先生がいた。普段と変わらなく見えるが、どことなく悲しそうだ。そんな先生の様子をみて、私の胸に再び憤りが湧いてきた。

 ——あの卑怯者に一泡吹かせてやる!


 その日から、新たなレシピの開発そっちのけで隼をやっつける方法を探索し始めた。どうやったら長い時間料理の鮮度を保てるのか?思考錯誤してもなかなか解決法がみつからない。少しでも情報を集めるため、空き時間に料理本を読み耽った。


 ある日、図書館で資料を探している時、古そうな文献を読んでいる人を見かけた。温故知新、もしかしたら古い料理本になにか書かれているかもしれない。そう思い当たった私はカウンターに行き、装置が開発される以前の料理本を取り寄せた。

 そして見つけたのだ、逆転の秘策を!今となっては特に意味ない保存法だが、理論上はうまく行くはずだ。私は飛び上がりそうになる気持ちを抑えて、図書館を後にした。


 俊樹の敗退以降番組に挑戦者がいなかったのか、私のエントリーはすぐに通った。決戦は一週間後。その間に私は必死に料理の腕を磨いた。


 たちまち一週間が経ち、遂に決戦の日を迎えた。スタジオのセットには先に中山がいた。テレビでみた通りのむかつく顔をしている。新人シェフである私に負けるわけがないと思っているのか、にやにやと下品に笑っている。私の体に、めきめきと闘志がみなぎった。


 料理対決といっても、やることは簡単である。装置に材料を入れて、どう調理するかをセットする。あとは装置を動かすだけで、あっという間に料理が完成するのだ。材料を放り込んだ私は、間違いがないように慎重にレシピを入力した。


 中山の準備も終わり、スタッフが装置のスタートボタンを押した。ウィーンと30秒ほど音を立てて、装置は静かになった。あとは開けるだけ。


 となりの中山はすでに勝ったかの様に澄ました顔で審査員を見ている。審査員も、不本意ながら勝敗はわかりきっているとでも思っているのか、うんざりした表情で装置を眺めていた。


 煙を上げて装置が開き、2人の料理が出てくる。その様子を眺めていた中山と審査員の顔が驚愕に変わった。なんと、2人の料理療法が出来立てほやほやで出てきたのだ!

「なんだって、ありえない!魔法でも使わなくちゃこんなことありえないはずだ!」

 中山が天をみあげながら嘆いた。審査員も何が起こったか分からず困惑の表情を浮かべている。


 もちろん、私は魔法を使ったわけではない。古の技術、冷凍保存を使ったのだ。今でも冷凍技術そのものは料理に使われている。しかし、今の時代は保存術としての側面は失われていた。出来立てを冷凍しておいて長く保存し面倒な時に食べる、装置が開発される前は当たり前だったが、今ではそんなこと誰も知らないのだ。


 審査員が神妙な面持ちで2つの料理を食べている。私の料理に口をつける際、わずかにためらいを見せた。得たいのしれない代物を口にするのだ、仕方がない。しかし、料理を口に含んだ瞬間、表情が緩んだ。


 結果は3対0で私の勝ちだった。私は思わず雄叫びをあげた。

 

 ——そこで目が覚めた。

 

 

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