第三夜
こんな夢を見た——
澄み渡る快晴の朝、私は学校へと向かっていた。
ルミナス魔法学校。その学校は家から箒で15分程度のところにある。今日ものんびり空を飛びながら、今日のお弁当は何かな、なんて考えていた。視界の端で学校の制服を着た男の子が鳥の群れに突っ込んでいった。きっと一年生なのだろう。私も箒に乗りたての頃は制御を失って建物にぶつかったりしていたものだ。
「おーい、ルナ!おはよう」
「あっおはよう!リルル」
横から親友のリルルが合流した。かわいい物好きのリルルは箒もピンクのリボンでデコっている。私のと同じ、学校指定箒なのに大違いだ。
「今日の体育、なんだっけ?」
「えーと、たしか箒での中距離走だったような……」
「やった!得意なやつだ!」
リルルが嬉しそうに言った。リルルは学年でも1、2を争う箒走の走者なのだ。そして、じつはそのライバルというのが私なのである。今日の体育でもいい勝負になるに違いない。
「えー、なんかワクワクしてきた。そうだ!このまま学校まで競争しない?ウォーミングアップってことでさ」
テンションが上がったリルルが提案した。学校までの競争はいままでもたくさんやってきた。断る理由はない。ここで一勝して流れを掴ませてもらおう。私は頷いて、一旦箒を停止させ地面に降りた。
「さあ、ルナ?負ける用意はできてるかしら?」
「そっちこそ、負け惜しみはいわないでよね」
私とリルルは同時に地面を蹴った。瞬時に上昇し学校目指して疾走する。全力で学校を目指すが、リルルはピッタリ横に付いてきている。私はそこで敢えてさらに上昇することを選んだ。上昇する分トータルの距離は伸びるが、上空は走行する箒が少ない分安全に加速できるのだ。20メートルほど上昇した私はさらに速度を上げて学校を目指した。
5分もしないうちに学校が見えてきた。高度を下げると、リルルはわずかに後方にいる。
——勝った!
私は学校の敷地に入ったところで箒を止めて後を振り返った。ビュンと音をたててリルルが横を通り抜けていった。止まる気配はない。思わずリルルを目で追うと、100メートルほど先で停止したリルルがこちらを振り返った。
「教室までが競争だよ!私、「学校」としか言ってないもんね」
そう言って舌を出したリルルはそのまま校内へと入っていく。
やられた!私は悔しさで顔を歪めながらもリルルの後を追った。
校内で飛行している生徒は少ないが、天井がある分外よりスピードが出しにくい。それはリルルも同様な様で、2人の差は開いてはいないものの距離が詰められずにいた。先に校内に入った分リルルが圧倒的に有利だ。
どうやって差を詰めるか、私は頭を巡らせた。リルルと私は実力が拮抗している分、正攻法だと逆転は難しい。リスクをとってスピードを上げる手段もあるが、無関係の生徒を巻き込みかねない。私は頭を抱えた。
——あっ、そうだ。
その時、私の視界に他の生徒が召喚した妖精が入ってきた。
たしか、リルルは「学校まで競争」と言っていた。それなら、手段は箒に限らず車でもなんでもいいはずだ。そもそも、先に屁理屈を言ったのはリルルの方だ。非難される謂れはない。
私は片手を宙に出し、神経を集中させた。手の周囲に魔法陣が浮かび、赤く光った。次の瞬間、宙に小型のワイバーンが出現した。
「お願い!教室まで全速力で!」
箒片手にワイバーンに乗っかった私は大きな声でそう宣言した。ワイバーンは一鳴きすると、天井スレスレを猛スピードで走り出した。
その風圧に驚いたのか、廊下を歩いている生徒たちがちらりとこちらを見たが、すぐ何事もなかったかの様に歩き出した。ここは魔法学校、こんなことは日常茶飯事なのだ。
ワイバーンはみるみるうちにリルルとの距離を詰めて行く。勝ち誇った様にこちらを振り向いたリルルは、その表情を驚きに変えていた。
教室まであと数メートルのところでリルルを追い抜いた私は、そのまま勢い余ってワイバーンごと教室の扉に突っ込んでいった。
大きな音をたてて扉が砕け散り、私は教室へと到着した。室内の生徒たちは一瞬驚いたようだったが、すぐに平常心を取り戻し、私へとあいさつした。ここは魔法学校、教室の扉が壊れるなど日常茶飯事なのだ。
「絶対勝ったと思ったのに、残念。授業では負けないからね!」
数秒遅れて教室にたどり着いたリルルは、悔しそうに私にいった。
嬉しくて思わずガッツポーズをする私の頭を、先生が名簿で思いっきり叩いた。
——そこで目が覚めた。




