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遠回りしたぶん、幸せになれる  作者: あーちゃん


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第16話 遠回りの意味

第15話では、悠斗が苦手だった「誰かに頼ること」に挑戦しました。


西野に相談し、村瀬に早めに見せ、恒一にも意見をもらう。


ひとりで抱え込むのではなく、未完成の自分を誰かに見せること。

それは、悠斗にとって大きな一歩でした。


今回の第16話では、悠斗が自分の遠回りに、少しずつ意味を見つけていきます。

朝倉悠斗は、会社の会議室で提案資料を広げていた。


 テーブルの上には、印刷した資料が三部並んでいる。


 一部は悠斗のもの。


 一部は西野のもの。


 もう一部は村瀬のもの。


 以前の悠斗なら、資料はひとりで作り、ひとりで悩み、ひとりで直し、完成したものを不安なまま提出していた。


 けれど今回は違った。


 西野に構成を見てもらった。


 村瀬に早めに方向性を確認してもらった。


 恒一に、外部の目線として流れを見てもらった。


 父にも、不安だと伝えた。


 その一つひとつが、資料の中に少しずつ残っていた。


 西野が言った「課題は三つに絞った方が伝わります」という意見。


 村瀬が言った「先方が一番困っているのはコストより運用負荷だ」という指摘。


 恒一が言った「最後に何が楽になるかを具体的にした方がいい」という感想。


 自分ひとりの資料ではない。


 誰かに頼ったことで、資料は前より強くなった。


 悠斗はその事実を、少し不思議な気持ちで見つめていた。


「朝倉さん、ここ、かなり良くなりましたね」


 西野がページをめくりながら言った。


「本当に?」


「はい。先方の立場で読んでも、流れが自然です」


「それならよかった」


「でも、この最後の導入スケジュール、もう少し現実的に見せた方がいいかもしれません。夢物語っぽく見えると、村瀬さんに突っ込まれます」


「すでに突っ込まれそうな予感がする」


 悠斗が言うと、西野が笑った。


「先に直しましょう」


 二人で資料を見ながら、赤ペンを入れていく。


 その作業は、不思議と嫌ではなかった。


 修正されること。


 指摘されること。


 以前なら、それは自分が否定されることに近かった。


 けれど今は、資料をより良くするための作業として受け取れる。


 もちろん、胸が少しざわつくことはある。


 自分の未熟さを見せるのは、まだ恥ずかしい。


 でも、その恥ずかしさの向こうに、誰かと一緒に作る温かさがあると知った。


 午前中、村瀬に資料を見せた。


 村瀬は無言でページをめくり、時々ペンで印をつけた。


 悠斗はその様子を見ながら、昔ほど緊張していない自分に気づいた。


 怖くないわけではない。


 でも、村瀬の指摘を父の声のように受け取ることは少なくなった。


 今の村瀬は、今の村瀬だ。


 過去の父ではない。


 それが少しずつ分けられるようになってきた。


「悪くない」


 村瀬が言った。


 悠斗は思わず息を止めた。


「ありがとうございます」


「前より、相手の困りごとが見えている。自分の言いたいことより、相手が何を受け取りたいかを考えているな」


「西野や友人にも見てもらいました」


「そうか」


 村瀬は軽く頷いた。


「それでいい。仕事は一人で完結させるものじゃない」


 悠斗はその言葉を、静かに受け取った。


 仕事は一人で完結させるものじゃない。


 人生も、きっとそうなのだろう。


 ひとりで完璧になってから誰かと関わるのではない。


 未完成のまま、人と関わりながら少しずつ形になっていく。


「ただし」


 村瀬が続けた。


「最後の提案効果はもっと具体的にしろ。数字と現場の実感がつながっていない」


「はい」


「ここが直れば、出せる」


 以前なら、「ここが直れば出せる」ではなく、「まだ駄目だ」と聞こえていた。


 でも今日は違う。


 ここを直せばいい。


 進むべき場所が見える。


 それは、否定ではなく道案内だった。


 昼休み、悠斗は公園へ向かった。


 空はよく晴れていた。


 風は冷たいが、日差しには少しだけ春の気配があった。


 ベンチに座り、ノートを開く。


 今日の宿題。


『遠回りの意味を決めろ。』


 悠斗はその言葉の下に、ゆっくり書き始めた。


『遠回りに、最初から意味があったわけじゃない。

 苦しかった。

 悔しかった。

 恥ずかしかった。

 遅れていると思った。

 失敗したと思った。

 でも、その道を歩いてきたから、今わかることがある。』


 ペンを止める。


 遠回りの意味。


 考えれば考えるほど、それは簡単に答えを出せるものではなかった。


 遠回りしてよかった。


 そんなふうに綺麗には言えない。


 できることなら、もっと早く父と話したかった。


 美月を傷つける前に、自分の弱さを伝えたかった。


 夢を十年も眠らせず、少しずつでも書き続けたかった。


 友人の幸せを素直に祝える自分でいたかった。


 でも、それができなかった。


 それは事実だ。


 その事実を無理やり美談にすることはできない。


 遠回りしたことを

第16話を読んでくださり、ありがとうございます。


今回のテーマは「遠回りの意味」でした。


遠回りは、決して楽ではありません。

遅れたように感じることもあります。

失った時間に苦しくなる夜もあります。


でも、その道でしか見えなかった景色もあります。


悠斗は、恒一や弥助との会話を通して、遠回りしたからこそ人の痛みに気づけるのかもしれないと思い始めました。


次回は、第17話「負け続けた男たち」へ続きます。

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