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第22話 ドリアード

「これか……」


 目の前の地面から露出している一本の根。

 それは、ウンディーネ=ロペが大量に水を出したことで抉れた大地から現れた木の根の一本だった。


 隠れていた岩影から、そっとここまで足を忍ばせ近づいてきたのだ。


 もう、あとは手を少し伸ばすだけで届く。

 一見、普通の木の根だ。ビゲートによる、視覚と地図情報の同期がなければ到底その存在に気がつかなかっただろう。


 しかし、ここまで近づいてまじまじと見るとその木の根の特異性は明らかだった。


 土が水で洗い流されたそれは、滑らかなつやつやとした質感で、どこか人の肌を思わせるような光沢をたたえていた。


 その上、わずかにねじれて伸びる佇まいはどこか淫靡さすら漂ってくる。


 そう、無造作に掴むにをためらわれるぐらいには、生々しいのだ。


『エルダ、はやく。ウンディーネ=ロペがもたんぞ』

「わ、わかってるよ」


 そのためらう僕の気持ちを見透かすように催促してくるビゲート。

 僕は覚悟を決めると、恐る恐る手を伸ばす。


 指先が、触れる。


 想像していたよりもさらに滑らかな手触り。

 固いのだけれど、わずかに柔軟性もある。


 そのまま、優しくその太いものを手のひらで包み込むようにして握りこんでいく。


 その時だった。

 先ほどまでの闘争による喧騒が嘘のように静まり返っている。


 感じる視線。


 一つはウンディーネ=ロペのもの。

 怜悧で冷たい、恐怖を喚起させるような刺さりそうな視線。


 もう一つは、ドリアードのものだった。

 怯えたような、しかし清濁あわせて包み込むような超然とした視線だ。


 その、人ならざる力を湛えた二対の視線が、右手を伸ばしてドリアードを握りしめている僕へと向けられていた。


「ひっ」


 思わずもれる声。包むように握っていた右手に変に力が入ってしまう。


 その瞬間だった。

 びくんと、ドリアードの体が痙攣する。

 その全身がいつの間にか、真っ赤な光で絞りあげるように拘束されている。


 ドリアードと僕との、賃貸契約が始まっていた。


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