第20話 水素
逆巻く大渦を作り出しながら、押し込むように繰り出されていく大量の水、水、水。
その圧倒的な質量自体を凶器として、対峙するドリアードをその水で押し潰さんとするウンディーネ=ロペ。
それに対するドリアードは流石にウンディーネと同格の四大精霊の一角だった。
その住処たるトレントオブライフの周辺から、何かの植物が生えたかと思うと、ウンディーネの繰り出した大量の水が、その植物へと吸い込まれるように消えていく。
「なんだ、あれ……」
『マップ上に表示する。不味いな、エレキマタンゴの亜種だ。名称不明。しかし危険だ。離れろ、エルダ!』
珍しく焦ったようなビゲートの声。
さんざん僕のことをビビリだと言っていたビゲートがここまで焦るのかと、僕は慌てて走り出す。
エレキマタンゴの亜種とビゲートが言ったことを証明するかのように、水を大量に取り込んだそれから、キノコが生えてくると、ぶくっと歪に膨らみ、なんとキノコが宙に浮き始めていく。
何個も、何個も。
まるで取り込んだ水の分だけ増えていくかのように。
あっという間に、空が宙に舞うキノコで覆い尽くされていく。
「……なんだ、あれ」
『中身は可燃性のガスだ! ちょっとした衝撃で爆発するぞ』
空を埋め尽くしていたそのキノコたちが、まるでビゲートのその声を合図にしたかのようにウンディーネ=ロペへと殺到していく。
真っ赤な服で体を束縛されたウンディーネ=ロペは両手を天高く掲げると、その周囲に渦巻く水が巻き上がっていく。
水の竜巻のようだ。
ウンディーネ=ロペを守るように展開された水の竜巻へ空を舞って襲いかかるキノコたち。
キノコと水の竜巻が触れた瞬間、キノコが破裂するように爆発していく。
パンパン、パンパンと連続する破裂音。
一瞬燃え上がるように現れる炎があたりを照らし、その衝撃で水の竜巻が歪む。
衝撃と熱が十分に離れた僕のところまで届く。
あまりの熱さに思わず顔を両手で庇ってしまう。
しかし、そんなことはお構いなしに、ウンディーネとドリアードの攻防は激しさを増していく。
互いに一歩も引くことなく、水をだし続けるウンディーネ=ロペと、その水を使って爆発するキノコを生み出し続けるドリアード。
いや、互角に見えたウンディーネとドリアードだが、徐々にウンディーネが押され始めていく。
「ビゲート、両者は同格じゃないの?、ウンディーネ=ロペが負けそうじゃない?」
『ウンディーネ=ロペは、債務履行のため人に近しい姿に束縛してる。そのせいだ』
「それって不味いんじゃ」
『いや、いまがチャンスだ。走れ、エルダ』
確かにウンディーネが押し込まれていることで、発生する爆発がドリアードから離れ始めていた。
「まじか……」
僕は嘆く声を漏らしながらも、確かにいましかないか覚悟を決める。ドリアードの宿るトレントオブライフへ向かって走り出すのだった。




