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第2話 地下水脈と賃貸契約

「──いたたっ」


 薄暗いなか、僕は意識を取り戻す。

 落下していく途中から穴が坂のように傾斜がついていたようだ。そのお陰で、地面に叩きつけられることなく、滑り落ちるようにして落ちてこられたようだった。


 手早く全身を確認する。細やかなすり傷はあるが、幸いなことに骨折や捻挫はしていない。


「とりあえず、簡単にでも、消毒を……。──っ!」


 ここまで歩いてくる途中で積んでおいたヤクトの草の葉を取り出す。落下する間になくさずに済んだようだ。

 その葉を揉みほぐすようにして草の汁を絞ると、すり傷に塗っていく。


 それがすむと改めて僕は周囲を見回す。

 地下の洞窟のようだ。意外と広い。そして、うっすらと青白い光がある。天井付近に何か、光源となるものがあるようだ。その天井の一部には、僕が落ちてきたものらしき穴も見える。到底、登って地上にもどれそうにはない。


 僕はそこで、マッピングスキルを使用する。


 ──あの光っているのは、魔物なのか。エレキマタンゴ? 聞いたこと、無いな。


 マッピングスキルの地図はこの地下の周囲の様子とともに、細やかな魔物を示す丸がびっしりと表示されていた。


 ──あの、エレキマタンゴは少なくとも現状では、近づかなければ害は無さそうだよな。襲われていないし。ただ、天井にびっしりと生えているから、他の魔物がいるか判別が困難なのは、とてもまずい。できるだけ早く、地上に戻りたい。この地図の赤い線が、俺の通ってきたところだから……


 天井の穴の部分へと続く僕の通ってきた場所を示す赤い線は地図では途中で切れている。高低差にも地図の表示制限があるのだろう。

 そちらは諦めて他の部分をみていく。


 ──あれ……? これはもしかして、川?


 マッピングスキルの地図の一部に、水の流れによるものらしき形状の地形を発見する。

 地下なので、川というよりは、地下水脈かもしれない。


 何はともあれ、水は、切実にほしい。そして、水の流れがあるの手あれば、たどれば地上へと繋がっている可能性もある。

 他の手がかりがない僕は、その地下水脈を目指して歩き出すのだった。


 ◇◆


「──すごい、神秘的だ……」


 マッピングスキルを見ながら水辺へたどり着いた僕の目の前には、地底湖が広がっていた。


 天井には相変わらずびっしりとエレキマタンゴが生え、青白い光を放っている。

 その光に浮かび上がる静謐な地底湖は、とても厳かな雰囲気だった。


 こんなときだが、思わず見とれてしまう。

 しかし気を取り直して、指先を地底湖の水面に浸し、落下の時の傷の汚れを洗おうとした時だった。


 地底湖の水面の一部が音もなく隆起し始める。

 水が無音のまま盛り上がり、それがやがて人のような形を取る。


 それは、水で出来た少女のような見た目だった。


 ──ま、まずいっ! ウンディーネかっ!


 魔物だ。

 しかも、精霊種のなかでも最強格とされる四大元素の一つたる、水の精霊。


 その荒れ狂う力は容易く町一つを呑み込み壊滅させたと伝承が残る、魔物。


 しかも精霊種の魔物には基本的に剣も槍も効かず、スキルのみがダメージを与えられると言われている。

 戦闘スキルが重用される理由の一つでもあった。


 ──くっ。エレキマタンゴに埋もれてマッピングスキルの地図で発見できなかった。不覚。どうする、今から逃げても到底逃げ切れない。人の見た目に近くても、魔物だ。交渉なんて、絶対に無理だし……


 しっかりとウンディーネに認識されているのだと、わかる。そのウンディーネが片手をあげると、その周りに水が浮かび上がり、水球のようなものが形成される。

 たぶん、あれが高速で撃ち出されてくるのだろう。


 ──ここで、死ぬのか。くっ。せめて戦って……


 僕が腰のショートソードに手をかけた時だった。

 予想通り、ウンディーネが水球を撃ち出してくる。

 速い。ショートソードを抜くのすら、間に合わない。


 せめてもと、僕はその水球を睨むように見つめる。

 自らの命を奪うものから、目をそらしたくなかった。せめてもの、矜持だ。


 眼前に迫る水球。このまま頭を吹き飛ばされるのを覚悟した、その時だった。


 水球が突然、破裂する。

 霧状になったそれが僕の全身を包み込む。


「──生きて、る?」


 僕が唖然としてウンディーネの方をみると不思議なことが起きていた。

 その全身に、赤い光の線のような物が絡み付いているのだ。その光が、水のはずのウンディーネの体を、きつく縛りあげていた。

 そして、その光は僕のマッピングスキルのスキルボートから伸びているようだった。


『契約を、受け入れます、から。離して……お願い……』


 そしてなんと、魔物であるはずのウンディーネの声が、はっきりと僕の耳に聞こえた。




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