雪女とゴミステーション
昨日、初めて温かいお風呂に入った。
体の隅々がポカポカして気持ちよくなって昇天しそうだった。
紅くなった髪の毛先を見て、氷上は格好いいじゃんと言ってくれた。
また惚れ直してしまった。
と言うかもう溶ける心配がないので気にせずにこたつむりになれるし、真夏に出かけられる。
今年は氷上と日差しきらめく青空の下、海水浴が出来そうだ。楽しみ。
ラーメン屋の暖簾をくぐると、カウンター席でクレハさんが食事をしていた。
「おお、雪女、氷上にはちゃんと伝えたかの?」
私に気が付いた鬼の女将が声を掛けてくる。
「うん、とりあえず女将のところでアルバイトするって言っておいた」
私を気にすることもなく、クレハさんは餃子を口に運ぶ。
その後に浮かべた笑みを見ると、やっぱり人間身が感じられる。
彼女を気にしていた私の前に味噌ラーメンが出された。
「金策の話をするから食べながらきいとおれ」
「うん、いただきます」
熱々にラーメンが食べられると思ってもみなかった、バターが味噌に濃厚さを生んでいて美味しい。
50年くらい前に妖怪が蝦夷に遠征をしていた理由が分かった気がする。
冷やし味噌ラーメンもいいけれど、こちらは心が温まりそうだ。身と共に。
ずずっと麺を頬張っていると女将が話し始めた。
「まずここはかの者の計らいにより、高位存在のハロワみたいになっておる」
ハロワ。
「その手数料がある為、ラーメン屋が赤字でも、本当の赤字に傾くことはない」
うまいことやってるのか。
「で、斡旋する依頼は討伐と採取と探索がある」
ゲームみたいかな。
「序盤の場合、討伐は主にこの世界で、採取と探索は主に狭間の世界かの。まあ依頼をこなしていけばそんな枠組みは通用しなくなるし上位存在の討伐も受けられるぞ」
なんかすべてのクエストをクリアすると探索しかすることがない某ゲームみたい。
「今お前さんが受けられるのはこれくらいじゃの」
そう言って紙束を女将から渡された。
「討、犬神5万円」
え、河原でエロ本読んでたりする犬神でゲームソフト十本買えるのか。
他の紙も眺めていく。
討、蟹坊主 一匹2万円
討、オオウサギ 一匹7千円
討、大ネズミ 一匹5千円
討、付喪神 10万円
討(捕獲)迷子のケットシー 10万円
採、狭間の石ころ 1つ10円
採、狭間のネジ 1つ100円
採、齧りかけの焼魚 1つ300円
採、狭間の落とし物の瞳 1つ2千円
採、狭間サボテンの皮 1つ3千円
採、消えない蝋燭 1つ2万円
採、狭間の果実 1つ3万円
採、精霊石 1つ10万円
探、オオカミ 一匹8千円
探、グレムリン 5万円
探、(採取)胎動するさなぎ 20万円
探、狐者異 一匹3千円
探、ネコマタ 30万円
探、スケルトン 一匹10万円
「女将のおすすめとかある?」
尋ねられると思っていなかったのか、彼女は少し目を大きくして答えた。
「ううぬ、狭間で石ころを拾いながら狼を狙ったらどうかの」
「分かった、そうする」
女将にごちそうさまでしたと告げて、裏口から狭間に行こうとした時クレハさんに呼び止められた。
「雪ちゃん待って」
なれない呼び方をして来た彼女は、はいこれ、と言って鞄を渡してきた。
「この鞄に入れれば何でもビルに転送されるから、お金の受け取りがスムーズになるから」
それは便利だ。
ありがとうございますといったあと、私はすぐさま裏口の扉を凍らせて、狭間の世界にお金儲けに旅立った。
狭間の時刻は今、現代の方へと繋がっているみたいだ。
夜目は利く方だがこんな中ではお金……石ころやネジを拾うのは難しい。
それでも光が点々としている現代の夜よりも、こちらの方が明るい。
今回の狭間の世界はバリバリいつもの商店街だった。
人がいないのは当たり前として、ここじゃオオカミすら出なさそうだ。
これだったら氷上のエロ本を河原において、犬神を誘い出すべきだったかと思った矢先、何かを踏んでしまった。
もうそれはつぶれてしまっていて、摘まみ上げると人間の眼球くらいの大きさだった。
これはお金にならなそうと思いながらも鞄に入れた。
なんかもう帰ろうかなと適当に歩を進めてると、黒い影がゴミステーションを漁っていた。
影はゴミに夢中になっていたので、スケルトンかオオカミであったらいいなと思いながら、手に氷で作りだした十手を影に振り下ろした。
振り下ろしてるさなかスケルトンはゴミを漁らないなと思った。
頭蓋骨が真っ二つに割れたそれは狐者異だった。
人間ベースだが大体の身なりは汚れているので、洋画に出てくるゾンビを倒した気分だった。
そのまま鞄に入れようとしたけれど肩が引っかかり入らなかったので、適当に作りだした氷の包丁でばらばらにして突っ込んだ。
孤者異は右手に焼き魚を持っていたので300円ゲットだ。
というか何で焼き魚を持ちながらゴミステーションを漁っていたのだろうか。
鼻を向けて見ると少しだけ甘い香りがゴミステーションから漂ってきた。
普通にゴミ袋の中が気になる。
でもばっちいので氷でトングを作り出し、それで袋を掴んで鞄に入れた。
精神的に疲れたので帰る事にした。
人間が毎日お風呂に入る理由が分かった気がするわ。
精神的に壱時間。空を見上げると、壱時間たっても位置をずらさない半分の月が笑ったような気がした。
ラーメン屋に戻ると出迎えてくれたのはロリババアではなくクレハさんだった。
「お疲れ様、パインケーキ焼いてみたのだけれど食べる?」
この人が焼くパンの美味しさを私は知っている。
「いただきます」
クレハさんに見られながらパインケーキを頬張っていると、二階から女将が下りてきた。
「ほい雪女、初給料じゃ」
ロリババアから渡された紙封筒中には福沢君が4人、一葉さんが1人、野口君が2人、と百円が三枚入っていた。
「何かの間違いでは? こんなに稼いだ気がしないんだけれど、オオカミの群れとも会っていないし」
「合ってるよ。ゴミ袋に腐りかけの果実が入っててな、腐りかけだから2割で買い取ったみたいじゃぞ。上は」
初給料は思いのほか高収入だった。
帰り道の途中のコンビニで今日発売のマルチプレイが出来るハンティングゲームのソフト2つ、今日の収入で買いスキップで家へと向かった。
「ただいまー」
「お疲れー、欲しがってたゲーム買っておいたぞ」
「えっ?!」
まさかのバッティングだった。




