5の3 作戦14 外堀を埋める
「これから、学園に帰るのかい?」
落ち着いた頃、席を立つ挨拶をするとユラベル侯爵様に聞かれた。
「いえ、このあとシャーワント公爵様とお約束をいただいています」
「宰相どのにか?」
「はい。婚約白紙にはなりましたが、発表はまだだと聞きました。発表される前にイメルダリア嬢へアプローチすることをお許しいただこうと思っております」
「ほぉ、そこまで、外堀を埋めるか。
ハハハ、誰に習ったやら、怖い怖い」
ユラベル侯爵様の呟きは僕には聞こえなかった。
「では、失礼します」
僕は、文官に政務局の宰相執務室の場所を教わり、そちらへ向かった。
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宰相執務室でも、すんなりと通され、シャーワント公爵様と向かいに座っている。
「で、私に話とは?」
「私は、イメルダリア嬢に好意を持っております。イリサス様との婚約白紙について発表されていないことはわかっておりますが、イメルダリア嬢に求婚するご許可をいただきたいのです」
「それに私の許可は必要なのか?」
「婚約白紙が発表されない以上、それまでは、イリサス様の婚約者として対応されると思われるので」
「そうか。
それより、これを読んだ」
僕も、テーブルに載る書類は気になっていた。僕たちが、書いた報告書だった。
「これは、君が中心になってまとめたものらしいな」
「いえ、そこに名前のあるみんなでやりました」
「謙虚さか。若者には、必要だな。
これについては、先ほどご令嬢たちには確認した。必要な内容や文の形態などは君が指示したと聞いた」
特に意識していないが、そう言われればそうなのかもしれない。
「夢中でしたので、よくわかりません。申し訳ありません」
「そうか、まあ、いいだろう。
これは、若いわりには大変よくできている。
時系列も、しっかりしているし、証人が必要なところには、きちんと証人の名前が爵位と共に書かれている。証人が、一人だけでないこともいい点だ。
何より、感情が書かれていないところがいい」
「あの、『見ていて気分が悪かった』とか書いてあると思うのですが」
「それは、証人または証言者の言葉だ」
「……」
「例えば、その『見ていて気分が悪かった』という言葉について、『だからこの人が悪いと思う』などと書いてあれば、それは報告書を書いた者の感情や意見だ」
「なるほど」
「報告書は、客観的に書かれていることが、望ましい。もし、作成者が、伝えたいことがあったとしても、それは別にまとめ、後記として書くべきだ」
「勉強になります」
「それと、内容によると、目撃者に君たちの名前があるが」
「っ!」
疑われているのかな?
「大丈夫だ、報告書作成者が目撃者であっても問題ない。
私が知りたいのは入手経路だ。どうやって目撃者になった?」
「学園が休日の時に、待ち伏せして、尾行したり、張り込みしたりしました」
「君たちだけでか?」
「はい。目撃証言である程度時間や場所は特定できましたので。
ディビィルーク・トラリオンとシェノーロンド・ユラベルと一緒にやりました」
「確かに、証人の欄に二人の名前もあるな。
張り込み場所の交渉は?」
「ディビィルーク・トラリオンの知人でしたので、彼が交渉してくれました」
「ふむ、本当によい仲間もいるようだな」
「ありがとうございます。そこにある6人みんなで頑張った報告書です」
「そうか。
それで、先ほどの許可についてだが、二つほど条件がある」
「はい」
「君の言うように、発表前だ。発表もされていないのに、君とイメルダリア嬢が噂になれば、醜聞となるのは、イメルダリア嬢だ」
僕はそれを考えていなかったので、少し恥ずかしくなった。
「だから、口説くにしても、誰にもわからないようにしなさい。まだ、了承をもらっていないのだろう?」
「はい」
「それと、もうひとつ。
もうすぐ、夏休みだ。長期休暇には、ここに来て、研修をしなさい。そうだな、週の始めの3日だけでいいだろう、毎週な」
「は………い??」
「この部屋の二つほど手前に一般文官の部屋がある。机も用意するし、指示も出しておく。そこへ行くように。
私が呼ばない限り、ここまで挨拶に来る必要はない。帰りもしかりだ」
「……」
「わかったか?」
「理由を、聞いても?」
「イメルダリア嬢を口説く許可のためだ。違うか?」
大人の誤魔化しだ。つまり、理由を言う気はない、と。
「わかりました。ご許可いただき、ありがとうございます」
僕は頭を下げた。
そして、早々に退室し、学園へ戻った。
…………。気になることは………ある。が、
とにかく、ユラベル侯爵様とシャーワント公爵様の許可はいただいた。
婚約白紙が、発表されないことを逆手にとる!がんばろう!
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その日の夜、夕食後、たくさんの食べ物と飲み物を持って、ロンとディークがやって来た。
僕は今日の出来事を報告した。陛下にも宰相様にも報告書を誉めていただいたと言ったら、二人も喜んだので、三人でハイタッチした。
そして、宰相様から出された条件について、話した。
「えぇ、お前、姉さんに本気なのかよぉ」
「もちろんだよっ。ロンは義弟になるんだよ。ハハハ」
「気が早すぎだって!姉さんが断るかもしれないだろっ!」
「ヨアンの勝ちだと思うけどぉ」
ロンの肩を叩きながら、ディークが言った。
「それより、ヨアン、夏休みに政務局に通うのか?」
「うん、週3日、ね。イメルダリアさんを口説くための条件だから、断らないよ」
「そっかぁ。……。
僕を夏休みの間、公爵邸の執事見習いにしてくれないか??」
「ディーク!?何言ってるの?」
「お前、本気かよ?」
「もちろん本気。給料はいらない。制服だけ、貸してほしい」
「ま、待ってよ。ディークを執事になんてできないよっ!」
「なんで?僕の力がないから?」
「違う!友達じゃないかっ!友達を執事にはできないっ!」
「大人になれば、よくある話だ。爵位の違う友人が、執事や秘書や側近になるなんて、ありふれた話だろ」
「でも、ディークには、夢があるだろ?」
「ディークの夢って何だよ?」
「あー、お前にはまだ言ってなかったな。僕は外交局を目指してる」
「かっこいいじゃん!ディークっぽくっていいなっ!」
「ありがとう。お前は、医務局だろ?」
「そうだな。いろんな医療を学びたいよ」
「お前も、お前らしい夢だな」
しばらく、将来の夢について、話した。
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「ヨアン、夏休みのこと、本気だから。考えておいてくれ」
ディークがそう言って、二人は、それぞれの部屋に戻っていった。
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