本番です
「行ってきます。」
『行ってきます。』
玄関では、母さんと春姉が見送りに来てくれた。
「夏央も美衣ちゃんも、お母さんは大丈夫だと思ってるからやれること全部やってきな。」
「分かった。」
「・・・(こくり)。」
「なつくん、美衣ちゃん、行ってらっしゃい!」
家を出ると、そこには最近会っていなかった人が。
「絢駒くんうぃーっす。」
「やっほー。」
秋島と五十嵐だ。
「五十嵐は近所だからいいとして、秋島はどうしたんだ?」
「昨日から開耶のおうちにお泊りさせていただいてるのですー。」
「親が旅行に行ってるから寂しいなーって時にちょうど花乃子が来てくれたんだー。」
『そんでなんでなっちの家に?』
「なに言ってんのさおふたりさん。今日入試なんでしょー?」
「あたしたちが応援しに来てあげたんだよー。」
『あら嬉しいわ。』
「あたしが応援するのは絢駒くんだけだけどー。」
『なんだとコラ。』
「だって絢駒くんのこと好きだしー。」
『隠さなくなったなええコラ。』
五十嵐相手に敵対心を燃やすミー子。
「ほらほら鏡崎ちゃんも開耶もおさえておさえてー。絢駒くん、鏡崎ちゃん、入試頑張ってねー。」
「ああ、ありがとう秋島。」
『ありがとう。』
「じゃああたしからも、絢駒くん頑張ってねー!」
「ありがとな。」
『私はないのかコラ。』
「さっき言ったじゃーん。」
『なんですと。』
「あっはっは。」
朝から面白いものを見せてもらった。
なんか元気出てきたぞ。
「ほらミー子、駅行くぞ。」
『あいよ。』
「じゃあ秋島、五十嵐、また夏休み明けにな。」
「ばいばーい。」
「じゃーねー。」
『またね秋島さん。』
「うん、またねー。」
「えー、ちょっとあたしはー?」
『さて何のことでしょう。』
駅に向かって歩いていると、電話が鳴った。
歩きながら電話というのは行儀が悪いけど、まあ仕方ない。
「もしもし?」
『絢駒くん?高塔でーす。』
「店長!?」
しばらくぶりに聞いたその声。
店長って呼んでるから忘れてたけど、そういえば名字は高塔だったな。
『今日入試なんでしょ?ちゃっちゃと受かってバイトに戻ってきてね。』
「あ、はい、ありがとうございます。」
『美衣ちゃんにも同じことを伝えてね。』
「隣にいますよ。」
『じゃあ代わって。』
ミー子にケータイを渡す。
「・・・(こくこく)。」
会話が成立しているようには思えないが、大丈夫だろうか。
「・・・(にこ)。」
・・・多分大丈夫だろう。
「・・・(こつこつ)。」
マイクのあたりを爪でたたくミー子。
そして電話を切った。
『店長さんはやっぱり優しいね。』
「そうだな。」
あんな言い方だったけど、応援してくれているのは間違いない。
美人なのにたまにぶっきらぼうなところがあるからなー。
『ねえなっち、駅前に誰かいますよ。』
「駅前なんだからそりゃ誰かいるだろ。」
『そういうことではなく。』
「ん?」
ミー子の指さした方を見ると・・・。
「あ、冬姉だ。」
階段の近くに、冬姉が立っていた。
「どうしたの?」
「あ!夏央、美衣ちゃんおはよう!いやー、昨日家に行こうと思ったんだけど飲み会が長引いちゃったからさ、朝駅で夏央と美衣ちゃんを待ち構えてたわけよ。」
俺らを待ってたのか。
『てっきり彼氏と待ち合わせでもしているのかと。』
「いまだに夏央を越える男はいないからそれはないかもね。」
『さすがはブラコン。』
そろそろ彼氏でも見つけてくれるとありがたいんですけどねえ・・・。
「まあまああたしの話はいいとして、夏央、美衣ちゃん。頑張ってくるんだよ。」
「もちろん。」
『頑張りますよ。』
「夏央と美衣ちゃんはあたしの自慢の弟と妹なんだから、きっと大丈夫なはず。」
「そういってもらえると嬉しいね。」
『だね。』
「合格したら夏央にはお姉ちゃんがちゅーしてあげるからね。」
「小さいころさんざんされたので遠慮しておきます。」
『なっちの唇は私が守る。』
「美衣ちゃんは合格したらとっておきの情報を教えてあげちゃう。」
『何それ気になる。』
とっておきの情報って何だろう。
俺も気になる。
「よし、じゃあ頑張ってこい!今日は家にいるから、帰ってきたらお姉ちゃんが出迎えてあげるからね!」
「ありがとう、行ってきます!」
『行ってきます。』
『昨日今日で1年分くらいの応援をされた気がする。』
「普段応援されることなんてめったにないからな。」
『そんなに頑張る機会自体ないもんね。』
「そうだな。」
でも、ここまで応援されると逆に緊張してきた。
みんなの期待を背負いまくってるし。
『なっち、どうしたの?』
「えっ、な、なんだ?」
『なんか思い詰めてる顔してる。』
「・・・さすがっすね。」
『幼なじみなめんな。まあ私も緊張してるけどね。』
「いやー、すげえ期待がかかってるなってね。」
『みんなが私たちを応援してくれてるんだよ。ここは男らしくビシッと期待に応えるんだよ。』
「ミー子は?」
『男らしくビシッと・・・って誰が男じゃーい。』
まさかの一人ツッコミ。
『私はやる時はやる女。なっちが弱気なら私だけ合格しちゃうぜ。』
「昨日弱気だったのは誰でしたっけ。」
『過去は振り返らないのサ。』
表情まで作ってキメるミー子。
「まったく、かなわねえなー。」
『別になっちを尻に敷くわけじゃないから安心してね?』
「その話どっから出てきたの?」
乗り換えの駅に着いたのでいったん電車を降りる。
『これから地下鉄に乗るんでしょ。普段乗らないからドキドキするね。』
「普通の電車と変わらないんじゃない?」
『夢がないなあ。』
なんてミー子と話していると、電車がやってきた。
プァーン!!!
急に警笛が鳴りミー子と一緒にのけ反った。
耳が吹っ飛ぶかと思った。
そうか、地下で音がこもるから警笛がものすごい音になるのか。
『完全に目が覚め申した。』
「分かる。」
『もし専門学校に合格したらこれに毎日乗るわけでしょ?』
「そうだな。」
『急に先が不安になって来たぞ・・・。』
というか周りの人、よく無反応でいられるな・・・。
『さっきの音がまだ耳に残ってる気がするよ。』
「すげえうるさかったもんな。」
地下鉄に乗ってからしばらく経つはずだが・・・まああの警笛の衝撃がそれだけ大きかったんだろう。
というか耳やられてないよな?
「俺の声はちゃんと聞こえてるよな?」
『それは大丈夫。』
「ならいいけど。」
目的地まではもうすぐ。
つまり、本番ももうすぐということだ。
落ち着け、多分大丈夫なはず。
春姉も父さんも大丈夫って言ってくれたし。
変な方に考えなければいいだけだ。
『もうすぐ駅に着くよね?』
「そうだな。」
『なっち、お願いがあるんだけど。』
「なんだ?」
『学校に着くまででいいから、私と手をつないでほしい。』
「分かった。」
ミー子の手を握ると、いつもと違ってミー子の手が若干濡れていた。
『汗が出た。』
「緊張するのは仕方ない、行こう。」
手をつないで、専門学校を目指す。
なんか俺の手も汗で濡れてきた気がする。
結構緊張してる。
「お、見えてきたな。」
『私たちはあそこに通うのね!』
「ちょっと気が早くないですかね・・・。」
『もう合格という確信を持つことにした。』
「なるほど、心持ちが軽くなりそうだ。」
そうかそうか、俺も来年からここに通うことになるんだな!
「ミー子さん、準備はいいっすか。」
『もちろんよ。』
「よし、じゃあ入るぞ。」
『ウィッス。あ、手つないでくれてありがとう。ちょっと気が楽になった。』
ミー子の手が離れる。
『ちょっとだけふざけていい?』
「どうぞ。」
『突入~!!』
「ウオー!」
迷惑にならないように声は小さめで学校に突入した。
「それではしばらくお待ちください。」
ミー子は手続きがあるとか何とかでどこかへ連れていかれた。
あれか、面接とか筆談になるからか。
早速一人にされてしまった。
いやまあ面接は一人だから仕方ないけどさ・・・。
なんとなく、ミー子がいないのは心細い。
周りを見ると、俺と同じような受験生たちが待っている。
顔つきは自信たっぷりなヤツから自信なさそうなヤツまで様々だ。
俺は周りの人にどう映っているんだろうか。
「いやきっと大丈夫だ・・・。」
周りに聞こえないように、小さな声でつぶやく。
目を閉じると、今朝夢で見た風羽ちゃんが頭に浮かんだ。
『お兄ちゃん頑張って!』
そんな声が聞こえてきそうだ。
よーし、お兄ちゃん頑張っちゃうぞー。
これの元ネタなんだっけ。
『一人で何してんのさ。』
「む、行動に出ていたか。」
『変質者。』
「ひでえ言い方だ・・・。」
『周りから見たらあながち間違っていないかと。』
「まじか・・・。」
なんとなく、周りの人の視線を感じる。
行動には気を付けよう。
「手続きは終わったのか?」
『うん、問題なさそう。』
「早くミー子の声が聞きたいなあ。」
『私も、早くなっちとちゃんとおしゃべりしたい。』
「そうだな。」
声自体は出ているんだ、もしかしたら・・・。
・・・にしても、この待つ時間は緊張するなあ。
周りの人たちもどことなく表情が硬い。
まあ、今後の人生を決める大舞台だもんな。
頑張るっきゃないな!
『一人で考えて勝手に体が動くなっちの癖はよくないと思う。』
「・・・申し訳ない。」
まったく意識してませんでした。
『お待たせいたしました。まもなく試験を開始します。受験生の皆さん移動を開始してください。』
「始まるぞミー子。」
『ちゃっちゃと合格したりましょうや。』
「かっこいいな・・・。」
多分ここからはミー子と喋れないだろう。
「じゃあ、やるぞ。」
「・・・ん。」
「それでは、小論文試験を開始します。試験内容は『自身の製菓の経験について』です。制限時間は1時間、文字数は800文字です。」
製菓の経験?
お菓子を作ることになったきっかけ、とかかな?
きっかけか・・・。
「それでは、始めてください。」
一斉にペンが走る音がする。
余裕ぶっこいてる暇はない。
よし・・・。
お菓子を作るきっかけ・・・。
最初にお菓子の作り方を教えてくれたのはミー子だ。
もともとミー子には料理も教えてもらっていた。
そのあとは俺がお菓子作りにはまって・・・。
確か、そんな感じだったな。
そう考えると今ここにいるのもミー子から始まったんだな。
ミー子はどんな小論文を書いているんだろう。
製菓の経験というと、バイトも外せないな。
スイーツを作る機会を与えてくれた店長。
季節限定のメニューも考えて、OKをもらったりした。
そういえば、ミー子も手伝ってくれたよな。
製菓の経験に関しては、周りに支えてもらってばっかりか。
あとはもう、みんなが喜ぶ顔を見るのが好きだから。
この前のマカロンアイスだって、みんなの喜ぶ顔が見れてうれしかった。
きっと俺はそういうのが好きなんだろう。
これからもそれを続けていきたい。
自分の作ったお菓子をお客さんが喜んで買って行ってくれるような・・・。
・・・よし、できた。
誤字がないか確認しないと・・・。
普段間違えないようなところが怖いからな。
「やめてください。」
・・・マジか。
あまり確認できてないんだけど・・・。
やっぱり1時間で800文字って全く余裕ないな。
「ではこれから休憩に入ります。そのあとは面接ですので、早めの準備をお願いします。」
次は面接か。
でも俺受験番号結構後の方っぽいし、待たされるのかな。
『ヘイ兄ちゃん、どうだったよ。』
ミー子が手話で話しかけてくる。
「まあ、書きたいこと書かせてもらったよ。ミー子の方はどうだった?」
『きっかけも経験もちゃんと頭の中に入ってるからね、余裕ですよ。』
「そりゃいいね。」
『そんじゃ、面接頑張ろうね。』
「おう。」
そういってミー子がトイレの方へ向かう。
俺も行っとくか。
・・・こうしてみると、結構男子多いな。
でもよくテレビに出るような有名なパティシエって男が多い気がする。
なぜかは知らんけど。
俺も、もしかしたらテレビに出る日が来るかもしれない。
いや、どっちかっていうと店が取材されるくらいがいいなあ。
『今話題の洋菓子店!』
・・・みたいな。
いや、洋菓子とは限らないけど。
さて、面接会場に行きますか。
うわー・・・ずらっと並んでいますねえ。
俺、やっぱり結構後ろの方なのかも。
時間かかりそうだな、眠くならないように気を付けないと。
ミー子は・・・あれ、意外と前の方にいる。
一緒に願書出したのに。
さて・・・今のうちになんて答えるか考えておこう。
さっきトイレで確認してきたけど、身だしなみは大丈夫だよな。
髪も変じゃないし、爪もちゃんと切って来たし。
服装も・・・大丈夫なはず。
準備は万端だ。
あとは変に緊張しなければ・・・。
というか、受ける人が結構多いから待つのがだるいなあ。
気を付けないととはいったものの、眠くなりそうだ。
ミー子が部屋の中へ入って行く。
ミー子頑張れ。
・・・そういえば、面接が終わった後も俺たちは試験が残ってるんだよなあ。
特待生試験・・・そっちが本番だ。
そうだそうだ、こんな面接なんかで緊張してる場合じゃないぞ。
特待生で受かって父さんと母さんに楽させてやるんだ。
『次の方どうぞー。』
来た!
「はい。」
ノックは3回。
『どうぞ。』
「失礼します。」
面接官に軽く会釈をする。
「よろしくお願いします。」
練習したとはいえ、結構緊張するな。
「高校名と名前をお願いします。」
「はい、彩玉県立鳶ヶ谷高校普通科の絢駒夏央と申します。本日はよろしくお願いします!」
「どうぞ、おかけください。」
「失礼します。」
椅子に座ると、面接官と目が合った。
こ、怖ええええええええ!!
「絢駒さん、本日はわが校に受験いただき、ありがとうございます。それではこれから面接を開始します。」
「はい。」
「それでは・・・昨晩はよく眠れましたか?」
おっと、リラックス問題か。
そうだそうだ、面接で大事なのはリラックスだ。
「はい、今日の面接に備え、昨晩は22時に就寝しました。」
「そうなんですね。それでは、本校を志望した理由を教えてください。」
「はい、私は小学生のころからお菓子を作り、人に食べてもらうことで周囲の人を笑顔にするのが大好きでした。今になってもその思いは変わらず、私はその思いを仕事にしたいと思いました。その中で、貴校のことを知り、貴校では実際の洋菓子店などの実習なども豊富で、私が将来パティシエを目指していくうえで良い経験になると思い、貴校を志望しました。」
「ありがとうございます。では・・・在学中に最も打ち込んだことを教えてください。」
「はい。私が在学中に最も打ち込んだことは、アルバイトです。私は現在も個人経営のカフェでアルバイトをしていて、そこでは手作りの洋菓子を販売しています。私はそこで商業としての製菓を学び、また、季節限定の商品を考案して、実際に販売することで売り上げに貢献しました。貴校に入学した後も、そのカフェでのアルバイトを続けたいと思っています。」
「分かりました、ありがとうございます。」




