本番です 2
「それでは・・・就職後のキャリアプランなどはありますか?」
「はい、まずは就職してパティシエとしての経験を積み、また経営などの勉強をして、ゆくゆくは自分の店を持ちたいなと思っています。」
「パティシエとしての仕事は男女かかわりなくハードな仕事になると思いますが、大丈夫ですか?」
「はい、事前に調べていまして、必要な業務であるのですべて責任を持って取り組みたいと思っています。しかし、まだ実際の業務にはついていませんので具体的にイメージをつかめてはいないというのが現状です。」
「では、休日の過ごし方について教えてください。」
「はい、日中はアルバイトしていることが多いです。アルバイトのない日は友達と会って遊んでいることが多いです。夜は本などを読みながら過ごしています。」
夜に本など読んでいませんが。
「推薦入試を希望した理由を教えてください。」
「はい、御校が第一志望なので、受験するチャンスを増やしたいと思ったからです。」
「では最後に・・・停学の件に関しては高校から聞いています。もしも同じようなことがわが校で起きた場合、あなたはまた同じような行動をとりますか?」
それが最後の質問か・・・。
「・・・はい。それに関しては、時と場合によります。私が暴力沙汰を起こしてしまったのは、私の恋人が教師から暴行を受けていたからです。我を失ってしまったことを恥ずかしく思っています。なので、以前のようなことが起こらないように、注意して生活していきたいと思っています。」
「はい、ありがとうございました。以上で面接は終了です。」
「本日はお忙しい中ありがとうございました。」
ええとこの後立ち上がって・・・。
「それでは、よろしくお願いします。」
笑顔も忘れずに。
「失礼します。」
お辞儀をして、部屋を出る。
お、終わった・・・!
すげえ緊張した!
で、でもまだ気は抜けないぞ。
これからが本番だ。
立っている職員に話しかける。
「すみません、絢駒夏央です。特待生試験の会場をお聞きしたのですが。」
「はい、絢駒さんで最後ですので、案内します。」
俺が最後かよ。
『これより特待生試験を開始します。対象の学生は準備をしてください。』
「よしミー子、やるぞ。」
「・・・(こくり)。」
今までの練習の成果を発揮するとき!
『この試験では実技試験、クリーム絞りを行ってもらいます。物品操作の手順、衛生なども評価点に入りますのでご注意ください。』
クリーム絞りだけじゃなく、何から何までが評価対象ってことか、気が抜けねえな。
よっし、頑張るか!
『まず店長のことを思い出しましょう。』
「そうだな。」
俺とミー子のために夜遅くまで店を開けて練習に付き合ってくれた店長。
あの人がいなければ俺たちはこの場にはいなかったかもしれない。
店長への恩返しは、この試験に合格することだ。
待っていてください、店長。
『それではみなさん、指定された位置についてください。』
番号の順番に位置につく。
受験番号順なので、またミー子とは遠くなってしまう。
また孤独の戦いか・・・いや、同じテーブルにもう一人いるけど。
『試験を開始します。クリーム絞り試験、1種類目はローズです。それでは、始めてください。』
クリームを絞る準備をして、店長の言葉を思い出す。
『のの字を書くようにして円を描いてね。』
のの字を意識して、できるだけきれいに!
集中力を切らさないように、なるべく同じものを作るイメージで・・・。
・・・。
このクリーム絞りは、今だけのものじゃない。
きっと入学した後もずっと使っていく技術だ。
だからこんなところでは躓いていられない。
『やめ。次はシェルになります。用意をしてください。』
今思ったけどコック帽めちゃくちゃ邪魔。
いかんいかん、集中を切らさないようにしなければ。
『それでは、始めてください。』
シェルは、素早くやることが大切だ。
『左に向かってクリームを絞って、そのまま右に引く、いいね!』
右に引くときは力を抜くんですよね、店長。
よし、行くぞ!
これも、なるべく同じものを作るイメージだ。
同じもの・・・同じもの・・・。
・・・もしかしたら俺は機械なのかもしれない。
そうだ、俺は同じものを延々と作り続ける機械・・・。
・・・。
いやだめだ、こういうのは真心を込めてやらないと。
きれいに、きれいに。
『やめ。最後はパイピングです。用意をしてください。』
この試験は合計10分の非常に短い試験だ。
ただ、この短い試験に俺のこれからがかかっている。
最後まで集中を切らさないように!
次で最後だ!
『それでは、始めてください。』
まっすぐ線を書くことを心掛ける。
『腕だけじゃなく上半身全体を使って!』
そうだ、店長にそう指導されたんだ。
あの日は結構遅くまで練習に付き合ってもらったんだ。
パイピングは結構難しかった。
それでも今なら・・・!
幸いこの試験では文字を書くことまでは求められていない。
まっすぐなら練習してきたし、もうちゃんと書けるはずだ!
ずらさないように、まっすぐ。
そう、まるでピンと張りつめた糸のように。
すーっと線を引いていく。
さっきまで絞っていたローズもシェルも、その形をきれいに維持している。
俺、結構できてる気がする。
正確に、まっすぐな線を。
店長の教えに倣って、上半身を使って。
きっと店長も昔はこうやって努力していたんだ。
俺もバイトじゃなく、作る立場として店に立ちたい!
可能な限り、線を書いて・・・!
『やめ。以上で試験は終了となります。受験生の皆さん、お疲れさまでした。』
これで、すべて終わった。
このクリーム絞りが、今の俺にできる最高のものだ。
これが、どういう結果になるんだろう。
今から、待ち遠しい。
『なっち、お疲れさま。』
「おう、ミー子もお疲れ。どうだった?」
『まあできるだけのことはやったよ。多分きれいにできたはず。そっちはどう?』
「俺も、今の全力は出し切ったよ。あとは結果を待つだけだな。」
『そうね、結果が楽しみ。』
「早く見たいもんだな。さ、帰ろうか。」
『そうだね、そういえば冬華さんがとっておきの情報とかそんなことを言ってたし。』
「それ確かに気になるな。」
試験はこれで終わり。
やれることはやり切ったし、なんだかすっきりした気分だ。
『さあ地下鉄乗って帰りましょうか。さっきの警笛は勘弁だけど。』
「あれはうるさかったな・・・。」
2人してのけ反ったことを思い出す。
『耳が痛くなりそうよね。』
「周りの人の無反応が恐ろしかったな。」
『きっとあの人たち鼓膜がすでにないんだよ。』
「すごいこと言ってるな。」
でも確かにあれを聞き続けていたら鼓膜が吹っ飛びそうだ。
駅から近いしこの学校は結構いいな。
よーし、帰るぞー。
ICカードにお金をチャージし、ホームに入る。
『まあ結局普通の電車と地下鉄は全然違かったね。』
「周りの景色は楽しめないもんな。」
『確かに。』
まあそもそも普段の電車で外を見ることもあまりないけど。
待っていると、電車がやってきた。
プァーン!!
警戒していてもミー子と一緒にのけ反った。
なんで周りの人は無反応なんだよ!!
本当に鼓膜がないんじゃないのかぁー!?
やっぱり耳が吹っ飛んだかと思ったぞ!?
『耳がキンキンするぞよ。』
「分かる。」
音がでかすぎるんだよなあ。
受かったら毎日この警笛を喰らわなきゃいけないのか・・・。
『これは私たちも慣れるころには鼓膜が吹っ飛んでいるのではないでしょうか。』
「あり得ますね・・・。」
いつか耳鼻科を受診しなきゃいけなくなる気がする。
『このような電車ではなくまた観光列車に乗りたいです。』
「ああー・・・いいなあ。」
ミー子との旅行で乗った観光列車はよかった。
「またどっか行きたいよなあ。」
『うどん食べたい。』
「四国の方か?」
『うどん県ね。』
「香川県な?」
でも香川県か、確かに良さそうだ。
『なっちといろいろ行きたいなあ。』
「金があればなあ。」
『老後ゆったり旅行にでも行きましょうよ。』
「先の長い話だなあ・・・。」
『でもなっちとのこれからは楽しみよ。』
「ミー子、顔が赤いぞ。」
『うるせーなアホ。』
「ひどいなあ・・・。」
といいながらミー子の照れ隠しですね、かわいい。
『にしてもさ。』
「うん?」
『あんだけ練習して、あんなに応援されて、試験は一瞬だったね。』
微妙な表情で言うミー子。
確かに、あっという間に終わった感じだ。
「やれることはやり切ったんだから大丈夫だろ?」
『そうね。あとは結果を待つだけ。』
「一緒にパティシエ目指すとか、楽しみだろ?」
『進んでいく道がこれからも一緒とか、私にはもうなっちしかいない感じだね。』
「ミー子さんミー子さん、顔が赤くなっておりますよ。」
『黙ってろよクソ野郎。』
「ミー子さん?」
照れ隠しの言葉が激しくなってきましたねえ。
あれだ、急に構われたくなくなる猫みたいなもんだ。
『よっしゃ帰ってきた。あとは夏休みを満喫するだけじゃい。』
「でももう夏休み終わりますよ。」
『私としたことがっ・・・!』
「まあ京介たちとプール行って温泉行ったじゃない。」
『陽花と比べてみじめになっただけだよ!』
「俺はかわいくて好きだけど。」
『ヘンタイ!』
「ええ・・・。」
ヘンタイと言われましても。
『電車内は涼しいのに帰り道は暑いね。』
「8月ですからね。」
『アイスでも買おうよ。』
「自分へのご褒美ってやつだね?」
『そうよ。』
と言っても財布にはそんなに入っていないのでコンビニに入る。
『あ、あれだ。』
「なんだ?」
『恋人らしいものにしよう。』
?
恋人らしいもの?
そういってミー子が手に取ったのは2人で分けられるタイプのアイス。
なるほど。
「ありがとうございましたー。」
『ほれ。』
「あざっす。」
ミー子から半分もらい、アイスを食べる。
冷たいですねえ。
暑い夏にこれはいいわ。
『恋人感ないね。』
「ないな。」
『幼なじみ感はんぱないわ。』
「彼女だけどまず前提として俺ら幼なじみだからね?」
『そうだったね。』
「だってミー子さん、俺たち付き合い自体はもう17年ですよ。」
『イコール年齢なんですが。』
「だって0歳のころの写真にミー子が写っているんですよ、俺と一緒に。」
『私のアルバムにも写ってるんだよなあ。』
そう考えるとほんとに付き合い長いなあ・・・。
いつまでいても飽きないしずっと楽しいからいいんだけどね。
『でも私、なっちと幼なじみで良かったと思うよ。』
「そうか?」
『うん、まあつらいことはあったけど、こうして今はなっちとお付き合いできてるわけだし。』
「そうだな、俺もミー子がずっと隣にいてくれてよかったよ。」
『やん、恥ずかしい。』
「お、今回は照れ隠しなしか。」
『正直なときもあるんだよ。』
「そりゃいいや、素直なミー子かわいいもんな。」
『うるさいうるさい。』
いつもと違う素直なミー子。
いいねいいね。
『ほら、冬華がいい情報持ってるっていうんだから早く帰ろうよ。』
「ああ、そういえばそのいい情報ってのはなんだろうな。」
『冬華さんはゲーム業界で働いている人・・・つまり何かの最新情報に違いない。』
「分かんないよ?案外彼氏できましたーとかだったりして。」
『あの冬華さんだよ?』
「あのって・・・いやまあ気持ちは分かるけど。」
自称ブラコンだからな、あの姉。
いや俺も冬姉が嫌いってわけじゃないけど。
そろそろ年齢もあれだし・・・ね?
今年25だったっけ?
あ・・・。
もしかしてミー子をモデルにしたキャラクターのギャルゲーの話だろうか。
それは勘弁してほしいんだが・・・。
『よし、じゃあアイスも食べたし帰りましょう。』
「そうだな。」
『なっち。』
「なんだい?」
『暑いのは承知でお願いがあるのです。』
「言ってみたまえ。」
『手つないで帰ろ。』
ミー子が右手を差し出す。
なるほどね?
「暑いのなんて気にしてらんねえな!」
ミー子の手を取って歩く。
早くも手汗をかいているような気もするけどそんなの知らない。
そもそもどっちの汗か分からないし。
『私からお願いしておいてなんだけど、やっぱり暑いね。』
「今日の最高気温37℃とか言ってたしな。」
『ふざけた気温だぜ、10年前はこんなに暑くなかった。』
「確かに。」
小学校の頃の夏はこんなに暑くなかったはず。
やっぱり温暖化の影響だろうか。
『私たちが30代になるころには夏の気温が45℃まで上がるのでは。』
「溶けちゃう。」
『じゃあ液体になったなっちをペットボトルに詰めてグイっと一杯だな。』
「えぐいこと言いますね・・・。」
『されたくなかったら溶けないことだな。』
「イエッサー。」
家に着くと、玄関で冬姉が待っていた。
有言実行じゃないですか。
でもわざわざ玄関で待っていなくてもよかったのに。
「お帰り!夏央も美衣ちゃんもお疲れ様!」
「ただいま冬姉。」
『ただいま。』
「どうだった?いけそう?」
「結果が来るまで分からないよ。」
「結果とかじゃなくて自分が受けてみてどうだったかって聞いてんの。」
「どうだろ。」
『なっちと一緒に受かる気満々です。』
「うーん、美衣ちゃんよろしい!」
そういう返答でいいのね、なるほど。
「夏央、暑い!」
「そりゃそうだろうね。」
ずっと玄関で待っていたんだろう。
冬姉は汗びっしょりだ。
というか白いタンクトップが透けてブラジャーが見えている。
冬姉だし何とも思わないけど。
『冬華さん。』
「どしたの?」
『とっておきの情報とは。』
ミー子が冬姉に詰め寄った。
「あれ、合格したらって言わなかったっけ?」
『あれ?』
「え?」
合格したら?
あ、そういえば朝そんなことを言っていた気がする。
そうだ、今日の試験が終わったらじゃないんだわ。
『何かの最新情報じゃないんですか!!!!』
「美衣ちゃん痛いかな。」
冬姉の肩を強くつかむミー子。
最新情報だとしたら合格発表を待つ間に情報が開示されてしまう可能性がある。
そういう情報は早く聞くからこそ価値があるんだ。
・・・よね?
「美衣ちゃんは鋭いなー。そうそう、最新情報だよ。ゲームのね?」
『待ってました。早く私めに教えろください。』
言葉がおかしくなっている。
外の熱にやられたんだろうか。
いや、多分・・・。
「あの、リビング行かない?」
この玄関がめっちゃ暑いからだろう。
『1秒でも早く聞きたいじゃなああああい!?』
「はいリビング行きましょうねー。」
ミー子を引きずってリビングに行く。
ちゃんとエアコンが聞いてて涼しいぞ。
「っはー生き返るー!」
「冬姉とりあえず飲み物飲んで。」
「はいはい、分かってますよー。」
『ハヤクオシエテ!』
ミー子はもう待ちきれないらしい。
まあ俺も気になるけどね。
何のゲームだろう?
でも冬姉がミー子に教えるくらいだから・・・。
「んくっ、んっ、んっ・・・だっは。」
「よくそんな勢いでサイダー飲めるね。」
「あとがキツいんだけどね。ううぅっ。」
「じゃあやるなよ。」
『ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォォォォォォォォイ!』
ミー子が壊れ始めた。
なんだこれ。
「あっはははは!分かったよ美衣ちゃん教える、教えるから!」
『早く。』
教えてくれる相手に催促とは・・・。
「聞いて驚け、来年の4月にPALADISE LOST 2が発売されるよ?」
『ア゛ァ゛ァ゛イ゛!!』
どう発音するのかもわからない文字を見せ、ミー子が立ち上がった。
よほどうれしかったらしい。




