変わりました?
「・・・。」
ミー子が両手を振り上げ立ち上がったまま停止した。
「ミー子?」
「・・・(プルプル)。」
よーく見ると若干震えている。
そしてゆっくり体を曲げ始める。
チャージ中かな?
そして急に隣にいる俺に飛びついてきた。
「なんだい!?」
『ヴォォォォォォォォォォォォォォォイ!!』
さっきから日本語をしゃべってないですね。
「冬姉、ミー子が壊れた。」
「いや、前から思ってたんだけど美衣ちゃんっていつもこんな感じじゃない?」
ひどいぞ冬姉。
でも確かにミー子って結構ぶっ飛んでるところあるんだよな・・・。
『マジか!マジか!!』
「お、やっと日本語になった。」
『ヒィヤァァァァァァァァァァァァァァアアアア!!!』
「戻った。」
「おかしくなったの間違いじゃ・・・。」
いつものことだよ。
にしてもパラロスかあ。
高校1年の時にミー子と一緒に始めたけど、3年たって続編が発売されるとはね。
これはやるしかないでしょ。
まあ、進学なりなんなりで忙しいだろうけど。
『予約するしかないね。』
「冬姉、予約できるの?」
「うーん、まだかな。まああたしもその会社に所属してるわけじゃないし・・・。」
『冬華さん、どうにか私のために確保をお願いいたします。』
ミー子が身体を折ってお願いする。
これ冬姉が焦らしでもしたら土下座しそうな勢いだな。
「どうしよっかな~。」
さすが冬姉、俺の期待通りの行動をしてくれる。
そしてこちらも期待通りというかなんというか・・・ミー子が床に手をついた。
『お願いします!お願いします!お願いします!神様仏様冬華様!!』
「必死だね!?」
必死すぎるだろ。
『もしできないのなら・・・私が一人で徹夜して店に並ぶしか・・・。』
「心配すぎる。」
ミー子みたいな女の子が夜に一人で外に出るとか・・・。
鎌谷みたいなのがいないとも限らないし。
『なんだいなっち、手伝ってくれるのかい?』
「冬明けくらいの時期に徹夜はなあ・・・。」
さすがに辛い気がする。
「まあ、あたしも一応聞いてみるよ。」
『ありがとうございまあああああああす!!』
ミー子がジャンピング土下座をした。
カーペットの上だけど、痛くないのかな。
『なっち。』
「なに?」
『膝を強打し申した。』
「やっぱりね!?」
冬姉が買い物だとか言って外に出て行ったので俺たちは部屋に戻ることにした。
受験が終わったということで、なんだか力が抜けてしまった。
『なっちが腑抜けておる。』
「ミー子もだれてるだろ。」
俺はベッドで寝転がっているが、ミー子はもっとひどい。
立て膝状態でテーブルに突っ伏している。
女の子的にその態勢はどうなんだろうか。
『じゃあそっちいこ。』
そういって俺の隣で横になるミー子。
『今日はお疲れ様。』
「おう、おつかれさん。」
『受かるといいよね。』
「だな。一緒に受かりたいよな。」
『一緒に受かったら学校の近くで一緒に住むかい?」
「うーん、家から通える範囲だしなあ・・・。」
『まあそうよね。なっちとの同棲って結構あこがれるんだけど。』
「それは、専門学校を卒業した後でいいんじゃないかな。」
『なるほど。』
就職がどこになるかもわからないけど。
もしかしたら外国に修行に行ってるかもしれないし。
でもできることならミー子と一緒にいたい。
『ねえなっちさん。』
「なんですかミー子さん。」
『今日、緊張して疲れたよね?』
「まあ・・・疲れたかな。」
『寝よう。』
「明るいぞ?」
『一緒にお昼寝。』
まあ俺のベッドの広さなら問題ないだろうけど。
『なっちを抱き枕にして寝る。』
「俺が寝れないと思うんだ。」
『私が寝れるからいいの。』
「すげえ自己中!?」
『まあ冗談よ、私も疲れたんだ。ちょっとだけ、一緒に寝よう。』
すでに俺が横になっているにもかかわらずベッドをぽんぽんするミー子。
しかもこれ俺のベッドなんですよ。
やはりふざけておられるな?
ドヤ顔やめろ。
「言われてみれば俺も眠いし、ちょっと寝るか。」
「・・・(ぎゅーっ)。」
本当に抱き枕にしてきやがった。
そこまで抱き着く?
「あんまり力込められると眠れないっす。」
『むしろ乗っかって寝たい。』
「飼い主の上で寝る猫か。」
『じゃあこのまま。』
「力は緩めてくれると助かる。」
ミー子が力を緩めてくれた。
よしよし、これなら寝られる。
「・・・ふっ。」
ミー子が態勢を変えようともぞもぞする。
そして、腕に柔らかい感触。
「押し付けないで?」
『なっちが眠れなくなっちゃう?』
「うん。」
その感触って男子としてはものすごく気になるんですよね。
男性にはない柔らかさですし。
ミー子の体温を感じていたらなんだか眠くなってきた。
それはミー子も一緒だろうか。
ミー子も何も言ってこないし、このまま寝てしまおう。
『夏央ー、美衣ちゃーん、夕飯できたけどー?』
ん・・・冬姉の声・・・。
まだ眠い・・・。
『返事ないなー?おーい!』
階段を上がってくる音が聞こえる。
これは冬姉に叩き起こされるな・・・。
「夕飯できたよー?・・・おおっ!」
なんだかうれしそうな声を上げる冬姉。
「これは写真を撮っておこう・・・よし。」
カシャッという音が部屋に響き、冬姉が近づいてきた。
「ほら起きなー?お姉ちゃんが夕飯を作ってあげたんだぞ~?」
「ん、んん・・・。」
「美衣ちゃんもほら~。」
ミー子・・・写真・・・あっ!?
「冬姉!?」
「どうした?」
「なんで写真撮った!?」
「いやーほら、いい光景だったからさ。夏央には見せないけどねー。」
「け、消して!?」
「えーやだよ。面白い写真だしね?」
『何撮ったんですか。』
「んー?美衣ちゃんが夏央の腕に胸を押し付けながら寝てる写真。」
「消して!?」
『後で送ってください。』
「ミー子!?」
いいのかそんな写真!?
「ほら夕飯できたから下行って。早く食べようよ。」
「あ、ああごめん。」
『行きます。』
『冬華さん、こんなに作れるんだったらいつでもお嫁に行けますね。』
「え、お嫁?まだ全然考えてないよー。」
『そろそろいい年なんじゃ?』
「こらいい年って言うなー。夏央が夫になってくれるなら問題ないけどねー。」
「法律的にアウトだよね。」
「法律でOKならいいの?」
「いや、俺にはミー子がいるんでね。」
『そういうことです。』
「いやー!妬いちゃうねー!」
夕食後、冬姉の作った料理を食べてミー子がほめた。
確かにこれなら嫁に行っても問題ないかもしれない。
まあ当の本人は嫁に行く気はないみたいだけど。
「夏央と美衣ちゃんから見て私の料理の改善点は?」
『うーん、結構おいしいしなあ。』
「確かにな。まあしいて言うなら・・・冬姉、味は濃い方が好き?」
「味かー。まあ薄いよりは濃い味の方が好きかもねー。」
今日の夕飯は生姜焼き。
結構白飯が進む味だった。
「あと、みんな汗かいてくると思ったからわざと濃くしたってのもあるけどね?」
『そんなに配慮できるならもう改善するところないのでは?』
「ないかもな。」
「え、じゃああたし夏央と美衣ちゃんのお墨付き?」
「・・・(こくり)。」
「いいと思うよ。」
「よっし!!」
冬姉がガッツポーズをする。
「家で練習してるの?」
「そうそう、友達呼んで食べてもらったりねー。」
『女の人?』
「そうそう、あー、でも一人だけ男呼んだよ。」
『えっ。』
「えっ?」
冬姉が男・・・?
『恋人じゃなくて?』
「違う違う。夏央も美衣ちゃんも多分知ってる人だよ。」
「俺らの知ってる人で冬姉と仲のいい男の人なんていたっけ・・・?」
『私覚えてない。』
そんな人いたっけ・・・?
「七人だよ、覚えてない?」
「あっ!!」
「・・・!」
思い出した!
あいつのことか!
『転校したんじゃ・・・。』
「そうなんだけどね、就職してこっちで働いてたみたい。」
『なるほど。』
七人は冬姉の中学時代の友達だ。
俺が初めて会ったのは小学校1年生、最後に会ったのは小学校3年生の時だ。
冬姉が中学校3年生の時に転校してしまったからすっかり忘れてた。
「名字なんだっけ?」
『そういえば私も聞いたことないな。』
「あたしもずっと七人って呼んでたからねえ・・・。名字は藤山だよ。」
「へえ。」
別に知ったところで何もないけどね?
「で、家に呼んだと。」
「そーそー!久しぶりにいっぱい話したかったしねー!」
一人暮らしをしている女性の部屋に男性を上げるとは・・・さては冬姉、七人くんのこと何とも思ってないな?
『七人くんってどんな見た目だったっけ。』
「あの頃は野球少年って感じだったかなー。この前会ったとき背が大きくなっててびっくりしたけどね。」
「やっぱ時間が経つと変わるんだな。」
「そうねー。ああそうそう、この前うちに来た時に写真撮ったんだよ。」
そういって冬姉が見せてきたのは冬姉と七人くんらしき人物のツーショット。
「これ七人くん?」
「そうだよ?」
俺の記憶の中の人物と一致しない。
おそらくミー子も同じことを思っているだろう。
『二人とも顔が赤い。』
「まあお酒飲んだからねえ。」
『一人暮らしの女の人が男の人を上げてお酒を飲むってのはいささか危険ではないでしょうか。』
「んー、どうだろね。」
どうだろね、じゃない。
それは危険が過ぎるのではないでしょうか。
あれ、冬姉と七人くんって昔付き合ってたっけ?
いやそんな記憶はない。
まあ別に冬姉に彼氏ができるのであればそれはそれでいいけど・・・。
『変わる人と変わらない人がいるものね。』
「変わらない人?」
『ほら、旅行中に会った小学校の頃のね?』
「紫垂の話か。」
確かに小学校時代とあまり変わっていなかったような気がする。
まあどんな人も少なからずは変わると思うけど。
『もちろん私は変わりましたよ。』
「美衣ちゃんは変わったところもあるけど基本的にはそんなに変わってないよね。」
『なぬ。』
「もとの明るい性格とかふざける性格とかは変わってないし。」
「確かにな。」
『大人しくはなったと思うよ。』
「行動に出ないだけで内面は激しかったりするだろ?」
『否定できないのが悔しい。』
その明るいところがミー子のいいところだし全く問題はないんだけどね?
「あたしは変わった?」
『「いやそんなに。」』
「一緒に言わなくてもよくない!?」
この人もともとこういう人だしなあ・・・。
さっぱりした性格だから男子に人気はあったけど全部断ってるし。
あたしはやりたいことやるんだって言ってゲーム会社に入っちゃうし。
一人暮らしもいきなり決めるしな。
「まあでも変わることがいいこととは限らないしさ、夏央と美衣ちゃんはそのままでいなよ。あたしは夏央も美衣ちゃんも大好きだからね。」
『お、急にいいこと言いだしたぞ。』
「そうだな。」
『ちなみになっちは私のこのおふざけが止まらない性格は好き?』
「ミー子の性格ねえ。」
おふざけが止まらないと本人は言うけど真面目なところはちゃんと真面目だったりするしなあ。
面白いしいいと思うけど・・・。
「そもそも、好きじゃなかったら付き合ってないよ。」
『素直に好きって言えよ。』
「・・・好きです。」
ミー子さんは婉曲的な表現は好まないらしい。
『でもなっちが恥ずかしがって素直に言えないところ大好き。』
「俺もその直球で言った後に恥ずかしくなって顔が赤くなるミー子が大好きだぞー。」
『黙ってろ。』
もちろんその照れ隠しもね?
「お姉ちゃんそんなやり取り聞いてたら口から砂糖吐いちゃうよ。」
「すまねえ。」
『冬華さんだってなっちのこと好きでしょ?』
「当たり前じゃん。世のお姉ちゃんはみんな弟のことが好きなんだよ?」
そんな話聞いたことないが。
「なによ夏央、お姉ちゃんの愛が信じられないっていうの?」
「七人くんとよろしくやってくれない?」
「七人ねえ・・・。」
『私の愛が信じられないっていうの!?遊びだったのね!!』
「何も言ってないが。」
『バカ、大好き。』
「なんもつながりが分からねえ。」
もうちょっと脈絡をだね。
「いやー、夏央も美衣ちゃんも今日受験だったとは思えないね。」
「そういえばそうだったな。」
『そうだね。』
緊張したけど、終わってしまえばこんなものだ。
いつまでも緊張してびくびくしていられない。
『ただいまー。』
玄関から母さんの声が聞こえてくる。
「母さんお帰り。」
「あら夏央、美衣ちゃんも。受験お疲れさま。」
「母さんこそ、仕事お疲れさま。」
母さんがYシャツを脱ぐ。
脱衣所に行ってからやってくれるかな。
「あ、お母さんお帰りー。」
「冬華もお帰りなさい。最近どう?」
「特に変わったことはないよー。あ、ねえねえ、今日の夕飯、あたしが作ったんだよ?」
「あらいいじゃない。頑張ったわね。」
「へっへー。」
冬姉が胸を張る。
『私もあのくらい胸が欲しい。』
「どこ見てんだ。」
『いや見るでしょ。』
まあタンクトップだから余計に強調されるけどさ。
まあ確かにミー子と比べると・・・。
「・・・(ぎろっ)。」
「なんでもないです。」
殺意の視線を向けられた。
『おい。』
「なんでもないです。」
『言いたいことあるなら言えよ。』
「何でもないです。」
『逆に失礼では!?』
「小さくてもいいことは・・・あるのでは、ないでしょうか・・・。」
『こっち向いて言えよ。』
「すみません。」
『謝ったな!?』
ミー子さん、無表情は怖いです。
怒りの表情よりも無表情の方が怖いのってなんでだろうね。
『私の心は傷ついた。』
「あー、夏央が美衣ちゃん泣かせたー。」
「えっ!?」
「あら、女の子を泣かせる男は最低よ?」
「はっ!?」
『え、えーん。』
おいちょっとミー子も困ってるじゃないか。
「ちょ、ちょっと上に行ってますわ。」
ミー子を置いて部屋を出る。
『あー、夏央が逃げたー!』
『冬華、夕飯食べてもいい?』
『あ、はいはいどーぞー。』
「・・・。」
そんな母さんと冬姉の会話が聞こえた直後、ミー子が音もなく階段を上がってきた。
無表情で。
しかも電気もつけずに。
「こ、怖い怖い!」
「・・・(しゅたたた)。」
「ああああああああ!!」
部屋内に逃げ込んだが、すぐにミー子が飛び込んできた。
そして壁際まで追い詰められて壁ドンされる。
立場、逆だと思うんだけどなあ・・・。
「とりあえず無表情はめっちゃ怖いぞ?」
『ほら言ってみろよ。』
「な、なにを?」
『さっき冬華さんと秋穂さんの前でなっちが恥ずかしがって言えなかったことだよぉ。』
「・・・おう。」
鋭いなあ。
確かに冬姉と母さんの前で言うのは恥ずかしかったからなあ。
『言ってくれよ。』
「う、うーん・・・。」
『言ってくれないの?』
「この状況だからねえ・・・。」
壁ドンされた状況。
『じゃあ逆になってやる。』
そういってくるっと半周。
ちょうど立場が逆になった。
『ほれ、ばっちこい。』
「・・・。」
『私はなっちが大好きだから、待ってます。』
「・・・そ、そのだな。」
「・・・ん。」
「お、俺は・・・ミー子の胸がなくても大好きだから、気にしなくていいからな?」
『大好きですか。』
「あ、ああ。」
『私のいいところは胸じゃないと。』
「いやいや、ボディラインがすらっとしてて結構好きだぜ?」
『なるほど。』
「ミー子は結構、小さい方が似合うと思う。」
『複雑な気持ちではあるけど、まあ許そうじゃないか。』
ミー子が抱き着いてくる。
『私は胸が大きい人にあこがれるけど、なっちがそう言ってくれるならいいかな。』




