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Please speak!  作者: 長野原春
102/113

その声は突然に

『今日から2学期。』

「そうだな。」

『ちゃくちゃくと卒業に近づいていってるね。』

「そうだな。」

『受験結果が届くのも、どんどん近づいてくるね。』

「・・・そうだな。」

 受験は夏休みの後半に行われた。

 きっと、そろそろ届くことだろう。

『なっち、顔が硬いですぞ。』

「ミー子には言われたくないな。」

「・・・(にこにこ)。」

「あーはいはい。」

 以前だったら考えられない顔してるなあ・・・。

 笑顔も自然になったしな。

「朝っぱらからなにをイチャイチャしてるんだよー。」

「あだっ!!」

 肩にバッグが突っ込んできた。

「おはよう、絢駒くん、鏡崎ちゃん。」

 犯人は秋島だった。

『なっちに攻撃するとは。』

「笑顔のままこっち向かれると怖いよ~。」

 よく笑顔のまま表情を固定できるな・・・。

「・・・(すっ)。」

「無表情の方がもっと怖いねー!?」

 ・・・あれ、そういえばミー子の表情って無表情か笑顔かのどっちかだな。

 きょとんとすることもあるけど、それ以外の顔は見ないような。

 怖がる顔も見たことないし・・・。

「ミー子って他の表情はしないのか?」

『他?』

「まあ、いろいろと・・・。」

『なるほど。』

「あ、私も鏡崎ちゃんの他の表情見てみたーい。」

『えー・・・。』

 さて、どんな顔をするんだろう?

「じゃあちょっと怒りの表情で。」

「・・・(むす)。」

 無表情が眉をしかめただけ。

「驚きの表情。」

「・・・(ぴく)。」

 眉が上がっただけ。

「上目遣い。」

「・・・(ちら)。」

「うっ。」

「絢駒くーん?」

 死ぬかと思った。

「じゃあ笑顔。」

「・・・(にこ)。」

「これは普通。」

「最初の2つほとんど表情変わらなかったよー!?」

 眉毛で表情を表していましたね。

『私の表情に不満があるのですか。』

「いや別に不満があるわけじゃないんだけど・・・。」

「もっと表情豊かにした方がかわいいよー?」

『そうなの?』

「私はそう思うけどなー。」

「無理はしなくていいからな?」

「でもほらー、パティシエだって人と接する機会は多いんだし表情は大切だよー?」

『なるほど、たしかに。』


「あ、おはよー・・・って何やってんの。」

 教室に入ってきた五十嵐が秋島とミー子を見てそういった。

 秋島がミー子の頬を引っ張って笑顔を作っている。

 まったく笑顔に見えないけどね?

「あ、開耶(さくや)おはよー。今ね、鏡崎ちゃんの表情づくりしてるのー。」

「目に表情を感じられないんだけどー・・・。」

 ミー子が何も言わないことをいいことにやりたい放題している秋島。

「ミー子、そんな顔してやるなよ。」

「・・・(ちら)。」

 目だけこっちを見るが、特に反応のようなものはない。

 本当にミー子の表情は増えるんだろうか・・・。

「絢駒くんは何もしてあげないの?」

「別に何しなくてもミー子はかわいいしなあ。」

「そんなノロケを話せって言ってるんじゃないんだよー。」

「・・・。」

「あ、鏡崎ちゃん赤くなった。」

「・・・(ぶんぶん)。」

 恥ずかしくなったのか、ミー子が秋島の拘束から逃げ出した。

「どこ行くんだ?」

『お花摘み。』

 そういって廊下をダッシュするミー子。

 教員に呼び止められる声が聞こえた。

「何してんだあいつ。」

「絢駒くんも教室でそんなこと言うなんて大胆だねー。」

「ほんとだよねー。鏡崎ちゃんがうらやましいなー。」

「・・・。」

 確かに教室内で言うべきではなかったかもしれない。

「絢駒くん?」

「なんだよ。」

「あたしに開耶かわいいって言って。」

「あーはいはい開耶はかわいいなー。」

『浮気の現場を発見。』

「ミー子!?」

 鋭いパンチが飛んできた。

「おっふ。」

『浮気は許さない。』

「してません・・・。」

『私以外の女に愛をささやいた現行犯。』

「明らかに棒読みだったけどねー。」

『今夜覚悟しておいてね。』

「きゃー鏡崎ちゃんだいたーん。」

「・・・。」

 言われて何かを想像したのか、ミー子がまた赤くなった。

『なっち、外野がうるさいね。』

「秋島と五十嵐ならいつものことだぞ。最終的にもっとうるさいのが来るし。」

「お呼びかな?」

「呼んでないです相沢さん。」

 やっぱり来た。

「え、私うるさくないよね?そんな声大きくないよ?」

「声の問題じゃないんだよな。」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!」

「うわ本当にうるせえ!!」

「デキる女はいろいろなフリに対応しないといけないのよ。」

「もっとおしとやかな方が俺は好きだけど。」

「それはキミの幻想さ。」

 幻想だったのか・・・。

 いやまあ確かにミー子がおしとやかかと聞かれると・・・。

『なんでこっちを見たんだ。』

「いや・・・。」

『どうせおしとやかじゃないよ。私はなっちを振り回す方が好きだからね。』

 俺もミー子に振り回されるのは嫌いじゃないけどね?

「この中だとおしとやかに当てはまる人ってー・・・。」

花乃子(かのこ)ぐらいじゃなーい?」

 まあ、秋島はおしとやか・・・か?

「絢駒くん、なんで私から目をそらすんだい?」

「おしとやかとはかけ離れてるよなあって。」

「失敬だね、私だって静かだろう?」

「表は静かかもしれないけど、性格や言動がうるさいんだよね。」

「言動はともかく性格がうるさいって何だろう・・・私席に戻るね。」

 相沢が席に座って考え始める。

「あれ、絢駒くん傷つけたー?」

「そ、そんなことはないと・・・思う。」

『あれは若干気にしていると思われる。』

「や、やっちまったかな?」

『なっちが申し訳ないと思うのであれば謝るのも手だと思うぞ。』

「なるほど・・・。」

 さすがにちょっと心無い言葉だったかもしれない。

「あ、相沢?」

「うーん・・・。」

「さ、さっきはごめんな?さすがに言い過ぎたというか・・・。」

「え?」

「・・・え?」

 相沢がぽかんと口を開けた。

「あ、相沢?」

「なに?」

「さ、さっきのこと・・・。」

「ああ、私は今夜の夕飯を考えてる途中なので邪魔をしないでおくれ。」

「・・・なるほど。」

 ・・・。

 俺の勘違いか・・・。

『相沢さんは読めねえよ。』

「読めねえな・・・。」


「夏央、ちょっとあっちで食おうぜ。」

「な、なんだよ。」

 昼休み、京介に連れられて階段の踊り場まで来た。

 何事かと思ったけど、そこは男のたまり場だった。

 ・・・カツアゲ!?

「たまには男だけで食うのもいいだろ?」

「まあ・・・。」

 ミー子と一緒に食べたかったんだけど。

 よく見ると男どもは去年一緒だった奴らだ。

「なあ絢駒、俺らに女の子と話す方法を教えてくれよ。」

「そんなこと言われても。」

 それを聞くために呼んだのか・・・。

「って、それを言ったら京介だって彼女いるじゃんか。」

「夏央は別格でしょ。昼休みとか女の子に囲まれてるじゃん。」

「あれはミー子と一緒に食べてたら寄ってくるだけであってだな?」

 別に俺が呼んでいるわけじゃない。

 まあ、五十嵐は自分から近寄ってきたりするけど。

 そう、寄ってきた五十嵐に秋島がついてくる、それだけだ。

 あとたまに相沢っていうオプションがついてくる。

「あれか?俺も絢駒みたいにお菓子を作れるようになればいいのか?」

「それは人それぞれではないだろうか・・・。」

 俺は、ほら。

 最初はミー子に教えられて昔からやってきたことだし・・・。

「俺も女の子にモテてーよ!」

「焦る必要はないんじゃ・・・。」

「彼女がいる奴はそう言えんだよー!まあ受験で忙しいからそんな場合じゃないけどさ・・・。」

「高校生活で青春ってのしてみたかったよなー!」

「青春ねえ・・・。」

 俺の場合ミー子の付き合えるようになるまでかなりいろいろあったからなあ・・・。

「そう考えると京介と祈木はかなりうまくいったよな。」

「おかげさまで今でもラブラブなんで。」

「絢駒、鈴波のこと殴ってもいいかな?」

「好きにして。」

「ちょっ!」

 京介が男に囲まれる。

 もう飯を食い終わっていた京介は男どもにもみくちゃにされていた。

「そういえばさ。」

 いつの間にか俺の隣に来ていた奴が俺をつついていた。

「なんだ?」

「絢駒ってさ、鏡崎のどこが好きなんだ?」

「えっ?」

 いきなりそんなことを聞かれて、俺は変な声を上げてしまう。

「ずっと一緒にいるし、どこが好きなんだろうなって思ってさ。」

「どこが・・・。」

「鏡崎が可愛くないとかそういう意味じゃなくて、絢駒が鏡崎のことをどう思ってるのか聞きたかったんだ。」

 俺がミー子をどう思っているかか。

「ミー子はなあ、黙って後ろをついてくる感じが可愛いんだよ。」

「小動物的な感じか?」

「そういうわけじゃないんだけどな。」

「あとは?」

「照れ隠しで若干言葉が荒くなったりすることも可愛いんだよ。あと一緒に料理をしてる時とかも楽しいんだよ。結局は一緒にいて楽しいかってことが大切なんだと思うんだよな。」

「殴りたくなってきたなあ。」

「ひどくない?」

「俺も彼女欲しいなあ。」

「いずれできるよ。」

「できてるやつに言われてもなあ。」


『昼休みはどうだった?』

「まあ、楽しかったよ。」

『ところでなっち。』

「なんだい?」

『さっきの話、後でもうちょっと詳しく聞かせてね。』

「はい?何の話だ?」

『夏央くんは、私のどこが好きなのかなあ。』

「聞いてたのかよ。」

『まあ、ちょっと聞いちゃった。』

 いや本人の前じゃ恥ずかしくて言えないんだけど・・・。

『本人の前じゃ恥ずかしくて言えないって思ってるね。』

「化け物かな?」

『私もなっちの前でそういうこと言うとき恥ずかしいから安心していいよ。』

 なるほど、実体験が元でしたか。

「私もさっき鏡崎ちゃんと聞いてたけど、絢駒くん鏡崎ちゃんのこと好きすぎるよねー。」

「ま、まあ好きなのは本当だし、付き合いも長いし・・・。」

『いろいろあったからね。私はなっちのこと大好きだけど若干依存も入ってると思うし。』

「自分でそれを言えちゃう鏡崎ちゃんすごいね。」

『まあ・・・私はなっちが隣にいてくれなきゃ多分何もできないしね。なっちもそう思わない?』

「そう聞かれると・・・確かにちょっと厳しい部分はあるかもしれないな。」

 いろいろあったのは本当、俺だってミー子が心を閉ざした原因になっているんだから一緒にいてあげるのは当たり前・・・とずっと思ってしまっているけど、実際どうなんだろう。

 ミー子は、一人にしても平気なんだろうか。

 ミー子本人は無理だというと思うけど。

 まあ、一人にはしないけどね。

「そうえいば絢駒くんも鏡崎ちゃんもそろそろ受験結果が来るんだよね。」

「ああ、めっちゃ楽しみなんだよ。」

『私は若干不安。』

「そう?」

『万が一落ちてたらとか考えるとね。』

「わからないことを不安に思ってたって心が疲れるだけじゃね?」

『私は心配性。』


 バタン、と扉が閉じられる。

『さあて、聞かせてもらおうじゃねえか・・・。』

 ミー子が俺を壁際まで追い詰め、逃げ場をなくす。

 いわゆる壁ドンというやつだ。

『聞かせてくれないならここで無理矢理熱いディープキスをします。』

「わ、分かったよ。」

 ミー子が離れ、俺のベッドに座る。

『じゃあ、こっちいらっしゃい。』

 そして、隣に座れと催促する。

 学校から帰ってくるなりいきなりこれだ。

 まあ後で聞かせてとは言ってたけど、まさかこんな早いとは思ってなかった。

 あとこんな展開になるのも予想できなかった。

『いやあ、なっちが聞かせてくれると思ってずっとドキドキしてたんだよ。』

「そ、そうだったのか。」

『だって普段からそんなことって言わないじゃない。』

「まあ、普通はお互い言うこともないと思うよ。」

『私もなっちの好きなところ言うから。』

 ミー子がすり寄ってくる。

『私はなっちのどこが好きだと思う?』

「・・・それ答えたら俺がナルシストみたいにならない?」

『まあそういうことになっちゃうね。私ね、さっきも言った通りなっちへの依存心が結構大きいんだよね。』

「お、おう。」

『だから、私はなっちが何をしてても好きだと思っちゃう。さすがに他の女の子と話してるところは嫉妬しちゃうけど。』

 なるほど・・・。

 そういうところをちゃんと聞いてなかったから知らなかった。

 ミー子には俺がそう見えてたのか。

『なっちと一緒にいれば安心するし、一緒にいなければ不安になるし。なっちが何かをしていればかっこいいとか、手伝いたいとか思うし。まあなっちと一緒にいたいんだ。私、やっぱりおかしいかな?』

「おかしいなんてことはないと思うよ。俺だってミー子と一緒にいたいって思うし、ミー子がなんかしてれば一緒にやりたいなとか思うしな。俺のやってることが全部正しいってわけじゃないとは思うけど、ミー子が俺を好きだと思ってくれるのは本当にうれしいよ。」

 そういうと、ミー子は俺の肩を弱めに殴ってきた。

『そういうところだよ。なっちは私がどう思ってても受け止めてくれるじゃない。なっちがそういうことを言ってくれると私はどんどんなっちのことを好きになっちゃうんだよ。溺れちゃうっていうほうが正しいのかな?』

「何言ってんだ、俺にだってミー子は必要だよ。お互い溺れろとは言わないけどさ、手を取り合ってこれからも一緒にやっていければと思ってるよ。」

『分かった!じゃあこれからも大好きだよ!!私はこれからもなっちのこと大好きだから覚悟しろよ!何があってもなっちのことは話さないからね!?』

「変換ミスしてるぞ。」

『興奮してた。てかこれお互い好きなところを話すってことだったのに違うじゃないの。』

「確かにそうだな。俺はミー子の楽しそうな性格も小柄な身長も顔も、俺と一緒についてきてくれるところも大好きだぞ。」

『好感度がマックス天元突破しちゃうわ。』

 今の話誰かに聞かれてたらマジでバカップルとか言われそうだ。

『よし、なっち。』

 ミー子が俺の肩に手を置く。

「な、なんだ?」

 ミー子は何も言わず、顔だけが近づいてくる。

 キスするつもりかな?

『夏央ー!あんた宛に何か届いてるよー!!』

「「!!」」

 階下から突然響いた母さんの声。

 びっくりした衝撃でお互い顔をぶつけてしまった。

「いてえ・・・。」

「・・・(ぷるぷる)。」

 まったく、何が届いたというのかね。


 届いたのは一通のハガキ。

 送り主は受験した専門学校。

「!!」

 ミー子が勢いよく家の方へ戻っていく。

 きっと自分の家にも届いてると思ったからだろう。

「足早え・・・。」

 ミー子の足には絶対敵わないな。

『お待たせ。』

「帰ってくるのも早いな。」

『わたしにも来てた。』

「じゃあ一緒に確認しようか。」

「・・・(こくり)。」

 俺の部屋に戻り、ハガキを見つめる。

 ここにこれからの俺の人生が・・・。

 ミー子も一緒だ。

『私たちさ、頑張って来たよね。』

「そうだな。」

『小論文の練習も面接の練習も、特待生試験の練習も頑張ったと思うんだ。』

「俺も、自分は結構頑張ったって思うぞ。」

『私から見ても、なっちはすごく頑張ってたと思うよ。』

「俺から見ても、ミー子はしっかり頑張ってたぞ。」

『なら私たち、きっと大丈夫だよね。』

「努力ってのは報われるんだぜ。」

『かっこつけてるな?』

 にやっとした顔でケータイの画面を向けてくるミー子。

 そんなミー子の頭を撫でてやった。

『なんだよいきなり。』

「ミー子、不安なんだろ。」

「・・・。」

 ミー子の動きが止まった。

 こちらを見たまま、何も言わない。

 顔を合わせたまましばらくすると、ミー子は急に笑顔になった。

『やっぱなっちはすごいね。』

「伊達に長年付き合ってないからね。ミー子、見ようか。」

 糊付けされているハガキを開き、中を見る。

 まず目に飛び込んできたのは、合格証書と大きく書かれた文字。

 合格・・・!

「や、やった!やったよなっち!!」

 ・・・えっ?

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