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Please speak!  作者: 長野原春
98/113

激励です

「・・・おなか痛くなってきた。」

「夏央、大丈夫?」

 母さんが心配そうにこちらを見る。

「ちょっとトイレに・・・。」

 あれか、これは緊張のせいか。

 ついに、明日まで迫ってきた。

 やはりというかなんというか、トイレに入っても何も出てこない。

 明日のことを気にしすぎてるんだろう。

 

 ガチャン。


 家の扉が開く音だ。

 誰だろう。

 トットットッと歩く音が前を過ぎていく。

 ただいまもお邪魔しますも何も言わないし足音も軽いから、これはきっとミー子だろう。

 多分、ミー子も緊張してるんだろうなあ・・・。

 結局何も出なかったのでトイレを出ると、リビングにミー子が見えた。

「いらっしゃい。」

『手を洗いなさい。』

「洗ったっつーの。」

 ソファーに座っているミー子だが、なんとなくそわそわしているのがわかる。

 うん、しちゃうよね、仕方ないね。

 ミー子の隣に座ると、ころんと肩に頭をのせてきた。

『明日だね。』

「明日だな。」

『行けそう?』

「行けるって思わないと。」

『強いね。』

「強がってるだけだよ。」

 明日はついに入試だ。

 努力の結果をね、見せるときですよ。

 小論文やら、面接やら。

 あと、クリーム絞りの実技もね。

 みんなに期待を一身に背負うわけですね、怖いね。

 でもまあ、怖がってちゃ受かるもんも受からないでしょう。

 頑張らないとね。

「夏央も美衣ちゃんも頑張ってたじゃない。胸張っていきな。」

「ああ、ありがとう。」

『なっちの部屋行きたい。』

「ん、そっか。じゃあ行くか。」

「・・・ん。」

 

『とはいっても心配なもんは心配なんですよね。』

「そりゃあ、俺だって完全に自信があるわけじゃないさ。」

『喋れないって正直迷惑なんだよね、とか言われたらどうしよう。』

「差別だって言って間違えなく訴えるから安心していいよ。」

『あらやだかっこいいわ。』

 そんな差別絶対許さん。

 というかミー子は声が全くでないわけじゃない。

 回復の見込みだってあるはずだ。

『今日どうやって過ごせばいいのかわからないんだぜ。』

「面接のイメトレだけしてればいいんじゃない?深く考える必要はないと思うよ。」

『せやろか工藤。』

「工藤って誰だよ。あんまり考えすぎて眠れなくなっても困るしな。」

『今日はなっちと一緒に寝る予定。』

「あ、そうなの?」

「・・・ん。」

 ミー子と寝るなんて久しぶりじゃないか。

『超安心ぐっすりのなっちと寝るの。』

「超安心ぐっすりってどこかで聞いたことがあるような。」

『なっちはわからなくても大丈夫だよ。』

「どういうことですかねえ。」

 まったく思い出せない。


「お、電話だ。」

 もう夜だけど、こんな時間に誰だろう。

 ケータイには『父さん』の文字。

「もしもし?」

『アメリカからこんばんわ!お父さんです!』

「アメリカ!?」

 そういえば最近家にいないと思ってたら外国に行ってたのか!

『最近忙しそうだったから夏央にはいってなかったんだよな!明後日には帰るから安心してくれ!』

「あーはいはい。んで、こんな夜にどうしたの。」

『美衣ちゃんは今いるか?』

「え、ミー子?隣にいるよ。」

『さすが、仲がいいなあ!ちょっとスピーカーにしてくれるか?』

 父さんの指示通りスピーカーに設定する。

『よっ美衣ちゃん!夏央のお父さんだ!!』

「・・・ん。」

『いい声じゃないか。もうすぐ声が戻るかもしれないなあ。』

「・・・(こつこつ)。」

 しゃべることができないので、マイクのあたりをたたくミー子。

『夏央も美衣ちゃんも明日は入試なんだろう?父さんが応援しないでどうする。』

「・・・。」

『あれ、迷惑だった?』

「い、いや、ちょっとびっくりしただけ。」

『ははっ、まあ普段からあんまりかまってやれなくて申し訳ないと思ってるよ。でも、父さんは夏央と美衣ちゃんの頑張りはちゃんと見てきた!クリーム絞りの練習だって、小論文の対策だってちゃんとやってきただろう。だから、明日は自信をもって入試に励むといいぞ!考えすぎは要注意だ!』

「ああ、ありがとう。」

「・・・(とんとん)。」

『受かった後にみんなで飯でも食いに行こう。じゃあ、明日は頑張れよ!父さん応援してるからな!お休み!』

「ああ、おやすみ。」

「・・・(とんとん)。」

 電話を切る。

 ミー子の方を見ると、若干涙目になっていた。

『頑張らないとね。』

「ああ、父さんの激励も受け取ったことだしな。」

 コンコン。

「ん?」

『あ、なつくん、私だよ。入ってもいいかな?』

 春姉の声だ。

「ああ、いいよ。」

「お邪魔しま~す・・・あ、美衣ちゃんも来てたんだね。」

『来てますよ。』

「2人とも、明日は受験なんだよね。」

『受験です。』

 春姉が、俺とミー子の手を握った。

「明日、頑張ってね!私応援してるから!」

「ありがとう、春姉。」

「なつくんと美衣ちゃんなら大丈夫!私も大丈夫だったから!」

『それはどういう。』

「わ、私、自分で言うのもなんだけど他の人より頑張って大学受験してるから!!」

 そうだった。

 春姉はほかの人とはちょっと違う方法で大学に合格しているんだった。

 しかも独学で。

「私、なつくんと美衣ちゃんの頑張りはずっと見てきたから!台所でクリーム絞りの練習してるのも見てたし、なつくんの部屋で一緒に小論文の対策してるのも見てきてるから!だからきっと大丈夫!考えすぎなければ大丈夫だから!」

「あっはは。」

「・・・ふふ。」

 さっき聞いたことと同じことを言われ、思わず笑いが漏れてしまう。

「な、なに?お姉ちゃん応援してるんだからね?」

「いやごめん・・・実はさっき父さんから電話が来てたんだけどさ。今春姉が言ったことと全く同じこと言ってたからおかしくなっちゃって・・・あっはは。」

『さすが親子。』

「えっ、お父さんがそんな・・・あはは、そうだったんだ。」

 春姉も一緒になって笑う。

『清松さんとハルさんからパワーをもらったので明日いける気がする。』

「そ、そうだよ!きっと大丈夫!」

「春姉、ありがとな。」

「うん!じゃあ、お休み。」

『おやすみなさい。』

 すでに母さん、父さん、春姉といろいろな人から応援されている。

 頑張るか。

『なっち、今日は明日に備えて早く寝ようか。』

「そうだな、寝るか。」

 ミー子と一緒にベッドに入ろうとする。

 と、そこでまたケータイが鳴った。

「んー?」

 父さんとはさっき電話したし、誰だろう。

 もしかして冬姉も応援してくれるということだろうか。

 と、

「あー・・・。」

 紗由さんからだ。

「えーと、もしもし?」

『こんばんわああああああああああああああ!!!』

「切っていい?」

『ちょっ、ひどい!待って待って!それでも私の弟かぁ!?』

「春姉の弟の夏央です。」

『もう!なつおくんは真面目なんだから!今太郎ちゃんと一緒?』

「一緒ですよ。」

『あ・・・もしかしてお楽しみ中だった?』

「切るよ?」

『待って!冗談だからー!』

 電話口で紗由さんが焦り始める。

「で、何ですか?」

『なつおくんと太郎ちゃん、明日受験なんでしょ?』

「そっすね。」

 そういえば、紗由さんも大学生なんだよな。

 しかも薬学部。

 つまりなかなかの頭脳の持ち主と・・・。

『頑張ってね!私は一般受験以外知らないからあんまりアドバイスはできないけど、面接はしっかりね!もし質問が分からなかったら分かりませんってはっきり言っちゃうのも手だからね!』

「ありがとうございます。」

『それじゃ!邪魔にならないようにお姉ちゃんは早めに切るからね!合格後にまた会おう!』

 電話が切れる。

『こんな夜でも紗由さんの声の大きさは変わらないね。目が覚めてしまったよ。』

「ああ、声デカかったわ・・・どうする?」

『一緒に寝たい。』

「了解、おいで。」

 ミー子が布団へ入る。

 暑いのでタオルケットしかかけていなかったが、これはかけなくてもいいかもしれない。

「・・・。」

 ミー子がケータイの光度を最低まで落とす。

 もうちょっとしゃべるつもりだろうか。

「明日、何時に起きる?」

『目覚ましなんて設定しなくても私はいつも通り起きるよ。』

 ということは5時か。

『考えすぎはだめって清松さんにもハルさんにも言われたから明日はいつも通りにしようかなって。なっちも一緒に走る?』

「んー、どうしようかな。」

『じゃあ、朝起きれたら一緒に走ろう。そのあと一緒にお風呂に入ろうね。』

「えっ?」 

 いきなりのことで変な声が出る。

 なんで一緒に風呂に?

『一緒にお身体をきれいにしてから入試を受けようじゃないですか。』

「ほう。」

『というわけで一緒にね。』

「一緒に入る理由は?」

『なっちと一緒だと私は嬉しい。』

「なるほど。」

 すごく単純な理由だ。

『なっちは私と一緒は嫌?』

「嫌なわけないだろ?」

『じゃあいいじゃない。前も一緒に入ってたわけだし。』

「あの時は・・・。」

 ミー子がまだ元気じゃなかった時だ。

 今は、違う。

『私がなっちの背中を流すから、なっちは私の背中を流してね。』

「どんどん決まっていくぞ。」

『というわけでお休み。』

 ミー子がケータイを置き、背を向けた。

「え、決定なんだ!?」

「・・・。」

 反応してくれない。

 どうやら確定らしい。

 いつもより早いけど・・・まあいいか。

「じゃあ、明日頑張ろうな。」

「・・・(こくり)。」

 そこは反応するのね。


「・・・ん。」

「あ、目が覚めた!」

 ミー子が、こちらをのぞき込んでいる。

 これは・・・体勢的に膝枕かな?

「おーい、私だよー。」

「・・・えーと。」

 喋ってるね?

 それにさっき膝枕で寝てないし。

 ・・・あれ?

「そんな変な顔してどうしたの?」

 目が覚めた時に見せた笑顔からは打って変わってきょとんとした表情。

 よく見るとミー子じゃない。

 ミー子より顔立ちは幼い感じがするし、ヘアピンもつけてないし、なにより左側の髪の毛がはねてない。

「もしかして、風羽(ふう)ちゃん?」

「お兄ちゃんさすが!」

 名前を呼んだ瞬間に笑顔になる風羽ちゃん。

 てことは、夢の中か。

「今日はどうしたんだ?」

「お兄ちゃんにお礼を言いに来たの。」

「お礼?俺、何か感謝されるようなことしたっけ?」

「あるよ。お兄ちゃん、お姉ちゃんをここまで連れてきてくれて、ありがとね。」

「そういうことか。でもあれはミー子の頑張りもあったぞ?」

「でも、手を引っ張ってくれたのはお兄ちゃんだよ。」

「そう・・・かな。」

 ニコニコ笑う風羽ちゃん。

 そっか、風羽ちゃんはいつも俺たちを見てくれてるんだな。

「だから、あともう少しだけ、お姉ちゃんをお願い。」

「もう少し・・・いや、いつまでも俺がミー子を引っ張ってやるさ。」

「おお!お兄ちゃんかっこいいね!」

「当たり前だろ?今の俺は、ミー子の彼氏なんだぜ?」

「そうだったね!あーあ、私も生きていれば、お兄ちゃんに愛の告白でもできたんだけどなあ。」

 何の気なしに言う風羽ちゃん。

 冗談で言っているのは明らかだ。

「じゃあお兄ちゃん、お姉ちゃんをいつまでもよろしくね!あと頑張って!」


「・・・ん。」

「・・・(ゆさゆさ)。」

 目を覚ますと、ミー子に揺すられていた。

『おはよう。』

「おう、おはよう。」

『なんか笑顔だったけど、いい夢でも見た?』

 どうやら寝ている間に顔に出ていたらしい。

「ああ、風羽ちゃんに応援された。」

『あらそうなの。』

「あと、お姉ちゃんをよろしくだってよ。」

『余計なことを言うもんだねあの妹は。それに、なっちの方には出てきてお姉ちゃんの方には出てこないとは、どういうことだい。』

「おばちゃんみたいな口調になってるぞ。」

『ごめんあそばせ。ほらなっち、用意して。』

「用意?」

『ランニングの時間だオラァ!』

「ヒエーン!」


『いい汗が流れたね。』

「入試前から疲れたぞ・・・。」

 普段そこまで汗かかないはずなのに、シャツが汗でびっしょりだ。

『ほらほら、お風呂入りますよ。』

 躊躇なく服を脱ぐミー子。

 ミー子の恥ずかしいのラインが分からない。

 洗濯機の上にケータイを置き、手話に切り替える。

『お風呂沸いてるじゃん。』

「出る前に沸かしておいたんだよ。」

『さっすがなっち、デキる男は違うね。』

「だろ?」

『にごりのある入浴剤を使っているところになっちの思惑を感じる。』

「HAHAHA。」

 私だって男ですからね。

 今日は大事な日だからね。

 シャワーを浴び、湯船に浸かるミー子。

『夏でも風呂はいいものですなあ。』

「そうだな。」

『こっちを見なさい。』

 顔をグイっと動かされる。

『首から下は見えてないんだから恥ずかしがってんじゃないよ。』

「いやー・・・。」

『なるほど、巧みな想像力でこの下を補完していると。』

「みなまで言うな?」

『そんなにみたいなら立ち上がってやろうか。』

「いいです。」

『そうだね、なっちが立ち上がっちゃって立ち上がれなくなるもんね。』

「女の子が下ネタをさらっというんじゃない。」

 ミー子がにやりとした。

 楽しんでるなコイツ。

『くっついていい?』

「やめて?」

『彼女なのに彼氏にくっつけないとは・・・。』

「・・・どうぞ。」

『わーい。』

 ミー子が背中を向けてくっついてくる。

 俺の胸とミー子の背中が密着してるぞ・・・。

『なっちソファの完成である。』

「あ、俺座椅子替わりなんだ?」

『落ち着きますね。』

「そ、そうですか。」

 俺は落ち着かないけど。

『ついに今日だね。』

「そうだな。」

『あんまり深く考えすぎるなとは言われたけど考えちゃうね。』

「失敗した時のこと?」

『私はほら、そんなにポジティブではないし。』

 なんとなく気にしてそうなミー子の頭を撫でてやる。

『なんだい?』

「昨日あれだけ応援してもらったんだ、大丈夫だろ。」

『ほんとに?』

「ダメだったら・・・まあその時はその時だ。今は考えなくていい。」

「・・・んー。」

「それよりも、合格して俺との新しい学生生活を考えた方が楽しくない?」

『確かに。』

 俺もミー子と一緒に新たな生活を歩めるとか考えるとかなり楽しい。

『ちなみに進学したら家を出る予定などは?』

「あー・・・バイト先を変えたくないからないかなー。」

『ああ、あの店長さんの下を離れるのが嫌と。』

「いろいろよくしてもらったからなー。」

『やっぱりなっち年上の方が好きね。』

「なんでそうなる。」

『許しててへぺろ。そろそろ上がろうか。』


 学校の制服に着替え、出る準備をする。

 専門学校の方から、学校の制服で来るようにと指定があった。

『まだ時間結構あるけど。』

「余裕はあっても困らないだろ?電車に乗って腹が痛くなるかもしれないし。」

『そうね。』

 出る時間まではあと20分あるが、もう準備は万端だ。

 ミー子も緊張してるみたいだし、なにか話題は・・・。

 と、いきなりケータイが鳴った。

「・・・相沢!?」

 こんな朝早くから、相沢から電話だ。

 あいつから連絡が来るなんて初めてだが。

「もしもし?」

『相沢だよ。今日入試なんでしょ?頑張ってね。鏡崎さんにも伝えてね。』

 あれ、俺相沢に今日入試だって伝えたっけ。

「あ、ありがとな。」

『それじゃ、私は二度寝するから。レディーを朝早くに起こしたんだから、ちゃんと合格してくるんだよ?』

「電話かけてきたのはそっちなんだが。」

『それじゃーねー。』

 こっちの話を聞かずに電話が切れる。

 あいつは・・・。

「相沢が頑張れだってよ。」

『ほうほう。今陽花からも連絡が来たよ。』

 ミー子のケータイのラインに、祈木からの応援メッセージ。

 俺の方にも電話中に来ていたみたいだ。

『アヤがんばってこーい!そんでもってあたしの番になったら応援よろしく!』

 祈木の番っていつだっけ。

 そんなことを考えていたら、京介からも電話が来た。

「もしもし?」

『夏央くん?愛しの京介ちゃんよ。』

「バイバイ。」

「・・・ぶっは。」

 ミー子が吹き出した。

『いきなりひどいやつだなー!今日入試だろ?どーせ緊張してるだろうから緊張をほぐしてやろうと思ったのに。』

「ああ、隣にいるミー子の緊張が一気に吹っ飛んだみたいだぜ。」

『美衣ちゃんもいるのか。じゃあ2人とも頑張ってこいよ!』

「・・・ん。」

「おう、ありがとな。」

 電話を切り、荷物をまとめる。

「じゃあ行こうか。」

『そうね。』

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