受験準備中です 4
「うん、絢駒くんも鏡崎さんも小論文は大丈夫そうだね。AO合格がかなり現実味を帯びてきたかも。」
「だってよミー子。」
「・・・ん。」
前よりちょっとだけ大きくなったミー子の返事。
相変わらず言葉を話すことはできないけど、着々と回復に進んでいるんだろう。
「本番までもうあまり時間はないからね・・・でもこの調子ならきっと大丈夫!」
『やったぜ。』
8月も中盤に差し掛かり、受験はもう目の前だ。
受かるか受からないかで、進路が決まってしまう。
なんとしてでも、2人で受かりたいんだ。
「この後は面接練習でしょ?本番のような気持ちで頑張ってね。」
「ありがとうございます。」
『今日は谷岡先生。』
「楽に進みそうだな。」
『受け答えの確認してもらう。』
申し訳ないけど谷岡先生では迫力に欠けてしまう。
厳しめの面接練習をしてもらうのなら、この目の前の先生が一番適していると思うんだけど。
『なっちは?』
「茎野先生だ。」
『いいじゃん、珍しい一面が見れるよ。』
「それ、ちょっと楽しみなんだよな。」
あの先生の適当じゃないところとか、めっちゃ見てみたかった。
「失礼します。」
「おー。ああ、今日は絢駒の面接練習か。」
「そうですよ、お久しぶりです。」
「なんかやる気出ねーなー。」
「相変わらずだなアンタ。」
ミー子が言ってたことは本当に正しいのだろうか。
頼りになるのかな。
「俺がそんなすぐに変わるわけないだろ。ほら、ちゃっちゃと終わらせるぞ。」
「分かりましたよ。」
「ほら、最初からやるからいったん出てけ。」
おい本当に大丈夫か?
『用意できたぞ。』
えっと、まずノックから。
『どうぞ。』
「失礼します。」
扉を開けると、茎野先生と目が合う。
さっきと顔つきが違うな。
「高校名と名前をお願いします。」
「はい、鳶ヶ谷高校普通科3年、絢駒夏央と申します。本日はよろしくお願いします。」
「どうぞ、お掛けください。」
あれ、結構ちゃんとしてる・・・?
「では、これから面接を始めます。昨日はよく眠れましたか?」
「はい、このような大切な日に万全の状態で挑みたいと思いまして、昨夜は早めに布団に入りました。」
「そうですか、ではここまで迷わずに来れましたか?」
「はい、当日に迷うことがないように、先日貴校へ下見をしに参りました。」
「ありがとうございます。」
すげえ、確かに先生が真面目モードだ。
「では、本学を志望した理由を教えてください。」
「はい、私は現在パティシエを目指していますが、貴校はパティシエになるために責任を持って指導していただける学校であると先輩から聞きました。それが貴校を志望した理由です。」
嘘だけど。
しかし進路担当の先生からはこういうといいと教わった。
実際今までの面接練習もそれでクリアしてきたし。
「AO入試を希望した理由を教えてください。」
「はい、私は貴校が第一志望であるため、受験する機会を一つでも多く増やすためにAO入試を希望しました。」
「本学が第一志望ということですが、併願はされていますか?」
「はい、併願は考えておりません。」
「ありがとうございます。」
いいぞいいぞ、この調子で続けていこう。
これを本番でもやればいいんだ。
「では、パティシエとして将来どのような仕事をしたいですか?」
「はい、私は最終的には地元で店を開きたいと思っています。地域密着型といいますか、その地域の方々が気軽に来られるような、そんな店を目指したいです。」
「分かりました。では次の質問をさせていただきます。高校時代に何か頑張ったことはありますか?」
「はい、私は喫茶店でアルバイトをしていました。その店で私は厨房を任されていて、日々お菓子作りに励みました。また季節限定のメニューを考案し、実際に売り出すことで店の売り上げにも貢献しました。」
多分これが面接で言える一番頑張ったこと。
最近はバイトできてないけど、受験が終わったらまたバイトしよう。
店長に恩返しがしたい。
「履歴書に書いてある停学の理由を教えてください。」
「はい、その時は新任の先生が女子生徒へ暴行を加えていたので、止めるために教師を殴りました。二度とこういうことはないようにしていきます。」
そういう質問もあるよなそりゃ・・・。
「ん、まあいいんじゃねえの。」
「適当に戻った・・・。」
「なんか文句あっか。」
茎野先生との面接練習が終わった。
確かにミー子の言う通り、いつもと違う感じだった。
いつもあんな感じならいい先生なんだろうに。
「さっき停学のことを質問した時一瞬顔が変わったけど、あの質問初めてだったか?」
「はい・・・ちょっとびっくりしました。」
「停学経験がある以上多分聞かれるから普通に応えられるようにしておいた方がいいぞ。」
「ありがとうございます。」
前にも誰かに言われた気がする。
ほんと、この質問は大事そうだからちゃんと答えられるようにしておかないと。
「絢駒、まだ鏡崎と付き合ってるのか?」
「ちゃんと続いてますよ。」
「ま、愛想尽かされないように頑張れよ。」
「そこはまあ、言われなくても。」
「あ、俺近々再婚するから。」
「まず茎野先生がバツイチだったってことすら知らなかったんですけど?」
「ああ、今はじめて言ったからな。」
「俺じゃなくて先生方に言った方がいいんじゃないですか?」
「そうだな。」
何なんだこの人・・・。
「まあ、おめでとうございます。」
「おう、ありがとよ。」
結婚か。
いずれ俺もしたい・・・もちろんミー子と。
・・・きっとまだまだ先の話だろう。
うん、まずは受験のことを考えないと。
おのれ茎野先生め、俺の考えを変な方向に持って行きやがって。
さすがに言いがかりか。
『お疲れ。』
「おう、お疲れさん。そっちはどうだった?」
『筆談の面接って文字書かなきゃいけないから手が疲れる。』
「そりゃ大変そうだ。」
『茎野先生、どうだった?』
「ああ、確かにあれはいつもと違うな。」
『ある意味面白かったでしょ。』
「確かにな。あ、あとな。」
「・・・?」
「再婚するらしいよ。」
ミー子が固まった。
先生のプライベートなんて何も知らないからね、仕方ない。
『バツイチだったんだ。』
「俺もそれ最初に思った。」
雰囲気から分からなくもないけど、本当だったとは思わないよね。
「面接の受け答えは大丈夫だって?」
『そうみたい。先生に指導してもらった甲斐があったよ。』
「そりゃよかったな。」
『今先生からの指導って言われてエッチなことを思い浮かべなかったか?』
「どうしてそうなった?」
『私の心が汚れているからかもしれない。』
そうか、ミー子の心は汚いのか。
でも確かにそういうのをネタにしたアダルトビデオとかはありそうかもしれない。
『帰りにアイスでも買わない?』
「いいね、俺も食べたい。」
『何にしようか。』
「いろいろあるだろうし見てから決めよう。」
『新発売ないかな。』
「夏だしあるんじゃね?」
『よし行こう。』
入試対策さえ終われば学校に用はないので早々に外へ出る。
夏の日差しは、やはり暑い。
『手つないだら暑いかな。』
「手汗でベタベタになるぞ。」
『それは困った。』
俺もそれは嫌なので手をつなぐのは遠慮しておく。
『こうも暑いとまたプールとか行きたくなるね。』
「ミー子は泳ぐの好きだもんなあ。」
『スポーツが得意なんですよ。』
水に入るのはいいけど泳ぐのは体力使うしなあ。
『よしなっち、スーパーまで競争しようか。』
「Yシャツが汗で濡れてもいいのなら。」
『それもそうね、普通に歩こうか。』
余計な体力は消費しない、これに限るな。
「さあどのアイスにしようか。」
『なっちのおごりでハーゲンダッツ。』
「ちょっと何言ってるか分からないっすね。」
『仕方ないのう。』
ミー子が飲むアイスを手に取る。
『一気飲みできるかな。』
「頭痛が起こると思うが。」
『そもそも飲めないよね。』
ミー子はそんなにがんがんアイス食べるタイプじゃないだろう。
『なっちは何にするの?』
「何にしようかねえ。」
ラインナップを見ても特に目新しいものはない。
期間限定系はまだかな?
『私と同じバニラにするかい?』
「今日はバニラの気分じゃないかなあ。」
なんとなく柑橘系がいいような気がする。
あとさっぱりした感じの。
それならそうだな・・・。
『おう、アイスボックス。』
「やっぱりこれでしょう。」
『手堅いね。』
定番ですからねえ。
「まあこれくらいなら・・・いいか。」
「?」
ミー子から飲むアイスをひったくり、レジに通す。
『そうしてくれるのならダッツにしておけばよかった。』
「なんてことを言うのだ。」
『冗談よ、ありがとねなっち。』
「おう。」
『お礼にキスしてあげちゃう。』
「ここ外だぜ。」
『帰ってからすればいいのよ?』
「あら大胆。」
なんかかなり恋人らしい感じだな。
・・・恋人だもんな?
「じゃあ、帰ろうか。」
『そんなに私にキスをされたいらしい。』
「い、いや・・・。」
『されたくないのか。』
「そういうわけじゃなくて。」
『ちゃんと言ってよ~。』
「さ、されたいです・・・。」
『よし、じゃあ帰ろうか。』
結局アイスを食べながら手をつないで帰った。
何この恥ずかしい感じ。
「・・・(どっす)。」
「うおっ。」
ミー子の部屋に行くなり、ミー子に突撃を食らった。
ベッドに押し倒される。
「ミー子さん?」
「・・・んっ。」
ミー子の唇が俺の唇へ突撃してきた。
「だ、大胆ですね。」
『するって言ったじゃない。』
「有言実行ですね。」
『私はそういう女。』
「前からそうだったね。」
『いいの、私はなっち一筋だからさ。』
「男として嬉しいね。」
『だから私だけ専門落ちたら地の果てまで追いかける。』
「こわっ!!」
有言実行といった手前、これもきっと実行するだろう。
「じゃあ、落ちないように頑張らないとな。」
『もちろんよ。』
ミー子が小論文の練習用紙を取り出す。
俺はどうしようかな。
『見てて。』
「それでいいの?」
『おかしいところがあったら頼む。』
「そういうことね。」
『私はニホン語そんなに上手じゃないからね。もしかしたら間違うかもしれない。』
「わかった。」
ミー子が文を書くところを見ていく。
最初はいい感じだけど・・・。
「・・・ん?」
なんか、ミー子の耳赤くない?
「ミー子さん?」
『なんかじっと見られてると恥ずかしいね。』
「ま、まあ今は真面目な時間だからね?」
『頑張る。』
赤い耳のまま、ミー子が文を書いていく。
『おかしいところない?』
「今のところは大丈夫だぞ。そのまま続けて。」
『分かった。』
なんかちょいちょいこっちを見てくるな。
もしかして俺がいるせいで集中できてない?
「俺いない方がいい?」
『いやいや!なっちにいてほしいですから!』
「ならいいけど。」
もし邪魔になるようなら退散しよう。
『できた。』
「おう、どれどれ・・・。」
文章上特におかしなところはない。
しいて言うなら・・・。
「ここの漢字が違うかな。」
『漢字間違いって減点だよね。』
「どこの学校でもそうじゃないかな。」
『本番で間違えないようにしないと。』
「まあ、漢字間違いがちょこっとあるくらいで特におかしいところはないから、これでいいと思うぞ。」
『このままで平気!?』
「漢字間違いは直そうな。」
『小学一年生から漢字をやり直すか・・・。』
「えっ、そこまで戻るの?」
さすがに小学一年生の漢字くらい書けるだろ。
・・・書けるよね?
『まあ練習も終わったし、久しぶりにゲームでもして遊ぼうか。』
「いいよ、何やる?」
『もちろんパラロスでしょ。腕鈍ってない?』
「わかんね、ちょっと鈍ってるかもしれない。」
『よしじゃあやろう。』
ゲームを起動する。
きっとまたミー子にコテンパンにされるんだろう。
『まずは普通のクエストモードで。』
「対戦もする?」
『オンライン対戦にするか、なっちを倒し続けるか。』
「俺は倒される前提なのね。」
まあミー子は強いからね。
俺もそれなりに強いとは思うんだけどなあ。
ミー子の強さが異常すぎてな。
ほら、俺の倍くらいのスピードで悪魔を倒してるもん。
ミー子の使うサンダルフォン強すぎだろ・・・。
ゲームをやってる時のミー子は真剣そのものだ。
ああ、ダブルスコアで終わってしまった。
『なっち、腕落としたね。』
「最近あまりやれなかったからな・・・。」
『受験受かったらまたやりまくろうか。』
「おう。」
じゃあ、次はオンライン対戦だ。
最近ミー子もやってなかっただろうから順位も落ちてることだろう。
予想通り、ミー子の順位は98位まで落ちていた。
『まあちょっとだけ這い上がってやりますかね。』
「がんばれがんばれ。」
俺の順位?
ランキング外だね。
前は入ってたけど。
「すっげー、めっちゃ倒してる。」
『100位くらいの奴らならよゆーよ。』
これが格の違いってやつだね。
一方俺は。
『なっち、300位の奴らに負けるような腕だっけ?』
「受験終わったら取り戻す・・・!」
俺の愛用メタトロンちゃんがこんなに負けるところなんて見たくない。
くそう・・・。
『セラフィエル使ったら?』
「今の俺の腕じゃどうしようもない・・・。」
『上級者向けだもんね。』
攻撃軌道とか自分で設定しないといけないし。
ミー子はまったくブランクを感じさせない戦いっぷりだ。
すげえなあ・・・。
「にしてもパラロスなんてほんと久しぶりにやったな・・・。」
『私も。』
「久しぶりにしては強すぎるだろ。」
『ミー子さんは強いのです。』
「あーすごいすごい。」
『今馬鹿にしただろ。』
「してないしてない。」
『こうしてくれるわ!』
ミー子が飛びかかってきた。
またもベッドに押し倒される。
「どうしてくれるの?」
『イチャイチャしたい。』
「ん~~~。」
ミー子の要望がどのくらいのイチャイチャなのかわからないが・・・。
とりあえず、頭を撫でる。
「・・・ふふ。」
軽い吐息を漏らし、笑顔になるミー子。
こういうのでいいのかな?
「・・・(ぐりぐり)。」
ミー子が俺の胸に顔をうずめる。
なんだ、かわいいじゃないか。
でもね。
『あつい。』
「絶対言うと思ったわ。」
『でも、悪くない。』
そういって抱きしめてくるミー子。
抱き返してやると、耳が赤くなった。
恥ずかしくなってきたか。
「・・・(ぐいー)。」
遠ざかるミー子。
顔が真っ赤だ。
「押してくる割に恥ずかしがるよな。」
『なんかね、どこかを境に急に恥ずかしくなるんですよ。』
「どこかって何ですか。」
『どこかはどこかだよ。私でもわかんないんだよ。』
まあ確かにもっと恥ずかしいことをしてても平気なときとかあるしな。
『でもなっちに抱きしめてもらえるとなんだか安心する。』
「そうか?」
『うん、超安心。』
「なんか安っぽくなったな・・・。」
『今私もそれ思った。』




