受験準備中です 3
『どこが問題だろうね。』
ミー子が自分で書いた小論文を見せてくる。
「確かに最近コンビニなんかではプチスイーツみたいな小さい洋菓子が売ってるよな。」
『そうそう、そういうのが人気でさ、今後も人気は続いていくんじゃないかと思っているわけですよ。』
「確かに続きそうな気はするな。」
『ただ、私的には手軽な洋菓子もいいけど、和菓子の方にも目を向けてほしいなと思いまして。』
「なるほど?」
『でもなんだかまとまらないんですよね。』
「ちょっと読むから待っててな。」
「・・・ん。」
ミー子の書いた小論文を読み進めていく。
するとさっそく問題点が見つかった。
「ミー子、自分の意見を提示する前に、まず反対意見への理解が必要だと思うぞ。」
『なんだそれ。』
「さっきミー子が言った、『私は手軽な洋菓子もいいけど』ってところだ。まずミー子が自分の意見を書く前に、現時点でその洋菓子たちの何がいいのか、どういう理由で人気を博しているのかに対する理解を書いた方がいいと思う。」
『つまり。』
「今コンビニなどで売られているお手軽スイーツはこういう理由で売れている。確かにこれなら人気が出るのも分かる。っていうことを書く。」
『そしたら。』
「そこまで書いてから自分の意見だ。人気が出ているのも分かる、だがしかし!私はこう思っています!っていうのをな。」
『ほうほう。』
「そんで自分の意見を出したらなんでそうなるのかの理由をつけるんだ。まあこれはできてるからいいとして。」
『で最後に。』
「理由を書いたら、こういう理由であるので、私はこういう意見であるっていうのをしっかり書く。説明も必要なら、自分の意見をどうすれば実現できるのかということも説明すればいい。」
『つまりまとめると、問題提起→反対意見への理解→私の考え→理由→私の考えの倍プッシュ、と。』
「倍プッシュかどうかは分からないけど・・・まあ、自分の意見を推し進めるということで。」
『なるほど理解した。先生たちもこれくらい細かく教えてくれればいいのに。』
「俺のもネットで見た知識を活かしてるだけだけどな。」
『素早く吸収して自分の知識にするなっち、やり手。』
「そんなことはねえよ。」
『このなっちのアドバイスが、のちに私を救うことになるよ。』
「それならいいけどな。」
『よし、ケータイにメモしておいたぜ。』
ぐっ、と右手を握るミー子。
「もっかい小論文の練習するか?」
『私、小論文はぼっちで書きたいの。』
「ぼっちって。」
『お心遣いありがとう、嬉しい。』
小論文の問題も解決したわけだし、やることがない。
どうしようか。
『なっち、電話。』
「お、まじだ。」
マナーモードにしていたから気づかなかったが、電話が来ている。
相手は京介だ。
「おっす京介、どうした?」
『夏央、暇な日ない?』
「ヒマー?火曜と木曜と土日なら一応空いてるけど・・・。」
『じゃあ木曜!一緒にデカいプール行かねえ!?』
「プール?」
『そーそー!去年予定合わなくて行けなかったじゃん!それに夏休みも最後だし、行かねえ!?』
プールか。
まあ来月に入試があるけど、少しくらいなら遊んでも大丈夫だろ。
「俺と京介だけか?」
『何言ってんだ!何で野郎だけで行くんだよ!陽花も連れていくし美衣ちゃんも行くだろ?というか美衣ちゃんそこにいるんだろ?』
さすが、よく分かっていらっしゃる。
「ミー子、行くか?」
『行きましょう。』
「ミー子もいいってさ。木曜だよな?」
『おう!木通駅集合な!』
「どこに行くかとかは決まってるのか?」
『越生!』
「遠いな!?」
というわけで。
「よーし夏央!今日は泳ぐぞ!」
「あんまり水泳は得意じゃないんだが・・・。」
『陽花と遊びに行くの久しぶりだね。』
「だねー!楽しみにしてたよ、かがみん!」
電車に乗って目的地へと向かう。
調べたところによると、そこのプールの売りはウォータースライダーらしい。
楽しそうだ。
しかもプールの後は温泉にも入れるらしい。
「とはいえ普段行かないところまで行くよな。しかも乗り換え3回とな・・・。」
「まあまあ、夏央だって頭が悪いわけじゃないんだから行き方は間違えないだろ?」
「まあそうだけど・・・。」
基本的に遠いのはそんなに好きじゃない。
旅行とかならいいんだけど。
「しかもあれだ、乗換駅がほぼ終点だ。」
『覚えるの楽でいいね。』
しかもそのうちの一つはかの有名な小江戸だ。
そこを華麗に通り過ぎていく。
『しかし片道1時間半かかるとはね。』
「でもこんな感じでみんなで遠出できるのって夏休みとか冬休みくらいじゃん!あたし水着も新調しちゃったからねー!」
『水着?フッ。』
「アヤ、かがみんの水着がなんだか分かる?」
「いや・・・去年のやつじゃないのか?」
『フッ。』
ごまかそうとするミー子。
「もしかして那空さんと一緒に水着でも買いに行ったのか?」
『フッ。』
どうやら教えてくれないらしい。
「かがみん、きっとすっごい水着なんだろうね。」
「ああ、きっと見た人全員が心を奪われるような水着なんだろうな。」
「なになに、美衣ちゃんそんなすごい水着なの?」
「きっとかがみん、去年よりおっぱいも大きくなったんだよ!」
「なるほど・・・そりゃ水着にも自信が出てくるかもな!」
「じゃあきっと後で俺たちの前に颯爽と美衣ちゃんが現れるに違いない!」
「・・・(ぷるぷる)。」
ミー子が震え出した。
どうしたんだろう。
よく見たら顔も赤いじゃないか。
「どうしたミー子、プール行く前から熱中症か?」
『どいつもこいつも水着に対するハードル上げやがってよォォォォォォォォ!?どうしたらいいんだよ私はァァァァァァァァ!!』
耐え切れなくなったミー子がすさまじい勢いで手を動かした。
手話のつもりなんだろうが、正直俺たちには武道の達人か何かにしか見えなかった。
「ここで最後の乗り換えだ。」
いつもは乗らない電車に乗り換えた先に、もう一度乗り換えるらしい。
もうどんな電車に乗るのかも分からない。
「お、来た来た、夏央あれ乗るぞー。」
「ん・・・ん?」
駅に乗り入れてきた電車を見ると、なんかいつもといろいろ違う。
まず電車が4両だ。
めっちゃ短いじゃんか、どうしたの。
「この電車ってこんなに短いの?」
「いつもこうだと思うぞ?今日だけ4両ってのもおかしいだろ?」
「確かに・・・。」
10両の電車で見慣れていたからか。
『なっち、4両の電車に驚いてるの?』
「え、ああ・・・あんまり見ないじゃん?」
『お母さんの実家の方は2両だよ。』
「もっと少なかった!?」
そういえば那空さんの実家って東北だったな。
へえ、東北ってそんな感じ・・・なのか?
「なあ京介、あれはどういうことだ?」
「ん?」
「あれ・・・。」
指差したのは、電車の先頭。
「ワンマン、って書いてあるんだけど・・・。」
「ああ、それは」
「私が説明しよう!」
祈木が割り込んできた。
「どうしたのいきなり。」
「いや、あたしさっきからしゃべってなくない?」
「知らんがな。」
「いいからいいから!それに関してはあたしが説明するの!ワンマン運転ってのは電車に車掌さんが乗らないで運転手が一人で電車を運転するんだよ!だから普段車掌さんがやるような仕事もワンマン運転では運転手がやるの!」
「運転手の仕事倍増だな!?」
仕事が増えて給料は変わるんだろうか。
きっと変わらないのではないだろうか。
これが日本社会の闇なのでは・・・!?
『なっちが変なこと考えてる顔してる。』
「早く乗らないと行っちゃうぞー。」
「あ、待って!」
乗ると、別にそこまで他の電車とは変わりなかった。
・・・と思ったが。
「さっきの電車より揺れるな・・・。」
『なっちってそんなに神経質だっけか。』
「いや、いつも乗らないから新鮮な感じで・・・。」
『さっき4両の電車に驚いてたけどさ、一緒に旅行に行った時の観光列車も4両だったじゃない。』
「あれはこういう通勤電車とかじゃないから違和感がなかっただけで・・・。」
そういえばあの観光列車すごかったな・・・また乗りたい。
『前に次の旅行の話してたよね。北海道に行くって話。』
「してたな。」
『あっちの特急も4両ですよ。』
「特急とかって4両が基本なの?」
『そういうわけじゃないと思うけど・・・。』
電車のことはよく分からん。
「このまま終点まで行くんだよな?」
「そうそう!そっからバスが出てるから!」
じゃあつくまでまだかかるということか。
「京介は祈木とよく出かけてるのか?」
「うーん・・・俺あんまり金ないからそこまで遠くには行けないんだよね・・・。だいたい陽花の買い物に付き合うことが多いけど。」
「今旅行するお金貯めてるんだよねー!」
「へえ、旅行か。いいじゃん、どこ行くの?」
「京都!」
「お土産よろしくな。」
「すんごいお店に行くから、土産話を楽しみにしてるといいよ、アヤ!」
お土産って言ってんのに土産話と来たか。
『そのすごいお店とは?』
「京都で人気ナンバーワンのわらび餅のお店!」
『そりゃすげえ。』
ナンバーワンか、どんなお店なんだろう。
「だから土産話期待しててね!」
『八つ橋食べたいなあ。』
「考えとくね!」
俺らも北海道行ったらこいつらにお土産を買って行ってやろう。
北海道なんてなかなか行かないだろうしな。
そもそもまだ計画すら立ててないけど・・・。
「終着駅ー!」
テンションの高い祈木が走って階段を上がっていく。
すると、チンアナゴのようなよく分からない機械が生えている。
「何これ?」
「夏央、これ見たことない?簡易改札機。」
「え、これが改札機なの?」
あ、機械の先端にスイカマークがついてる。
「ここにピッとすればいいんだぜ。」
「無賃乗車できちゃうじゃん。」
「他の駅に行ったときにバレるだろ・・・。」
大丈夫なのか、この改札機。
『私たちの住んでるところじゃあまり見ないよね。』
「見たことないな。母さんだったら日本中飛び回ってるから見てるかもしれないけど。」
「というか京介はよく知ってるな。」
「俺、成績優秀者ですから。」
「関係あんのかそれ。」
駅を出て待っていると、バスが来た。
これに乗っていけばいいのか。
「さすがの夏央でもバスの乗り方は分かるよな?」
「バカにしてんのか。」
今日はちょっと初めて見るものが多かっただけでさすがにバスぐらい乗れるわ。
電車内ではミー子が俺の隣に座っていたが、今度は祈木が隣に座った。
「京介の隣じゃなくていいのか?」
「休日にアヤと会うの久しぶりじゃん?」
「確か修学旅行の時も隣だったよな。」
「そーだね!」
そして京介とミー子も隣で座っている。
たまにはいいか。
「妬いちゃう?」
「いや?中学のころとか京介にミー子の相手を任せることもあったからなー。」
「ミー子がそっけなく見えるかもしれないけど、ミー子と京介も結構仲良いんだぜ?」
「かがみんがそっけないのはいつものことでしょ。頭の中では面白いこと考えてるけどね。」
確かにな。
ケータイで対応してるからなおさらそう感じるが、基本的にミー子の反応は淡白だと感じる人が多い。
特に、他の人と話すときは会話のテンポを気にして短い文で済ませることが多いしな。
「まあ、きょーちゃんに対するかがみんの扱いって見てて面白いからいいんだけどね。」
「そうだな。」
「なあ聞いてくれよ美衣ちゃん。あ、これ食べていいよ。」
「・・・(もぐもぐ)。」
始まった始まった。
「進路の話さ、親に相談したんだけど、やっぱり考古学専攻は止められちゃってさ・・・。」
『そうなの?』
「夏央が言ってたことと同じようなことを親が言ってたよ。やっぱりダメなのかな・・・。」
『自分の進路は自分で決めないと。なっちだってパティシエは母親に楽じゃないって言われたうえで目指してるんだから。』
「そっか、夏央かっこいいな。」
『私の自慢の彼氏なのよ。』
ミー子が何を言っているのかはケータイが見えないので分からないが、なぜか俺がかっこいいと言われている。
「そういえば、祈木は京介の進路の話聞いただろ?」
「まあ、聞いたね。」
「どうなんだよ、祈木からしても考古学専攻って、将来寂しくなる可能性もあるだろ?」
「可能性はあるよね。でも、あたしのせいできょーちゃんのやりたいことができなくなったら嫌だし、やりたいことがあるならそれを優先させてあげたいよね。」
「かっこいいな・・・。」
「褒めても何も出ないよ。あたしは外国語専攻でいくよ、進路。」
外国語か。
英語が得意な祈木なら大丈夫だろ。
「あれか、京介が調査で外国に行くときに祈木もついて行くとかか?」
「ああ、それもいいね!」
そこまでは考えてなかったのね。
まあ英語圏に行くとも限らないけど。
ああ、だから外国語か。
英語以外にもやるんだよな。
『京介くんが本気でやりたいのなら、自分の思いを親にちゃんと伝える。これ大事。』
「ありがとう美衣ちゃん、俺頑張るわ!あ、そろそろ着くぞー!」
お、もう着くのか。
「なんか祈木と久しぶりにちゃんと喋ったな。」
「そだね、やっぱりクラスが違うと彼氏以外の接点がねー・・・。」
「忙しい?」
「まああたしも受験準備してるからねえ……推薦入試で受けるつもりだからこの夏が本番だよね。」
「推薦は9月だっけか。」
「そうそう、お互い頑張ろうね。」
「おう。」
「夏央の水着見るの修学旅行以来だなー!」
「変わってないんだしテンション上がる事でもないだろ。」
「この際男でも・・・ゲッヘッヘ。」
「きゃー!・・・いや何やってんだよ俺たち。」
ゲッヘッヘじゃねえよ。
「祈木が水着新調したって言ってたけど京介は見たのか?」
「見たも何も一緒に買いに行ったの俺だからね?」
「ですよね、彼氏ですもんね。」
「夏央は美衣ちゃんと水着買いに行ったりしないの?」
「今年は夏休みあんまり遊んでられないし、そもそも俺とミー子だけだと海行こうっていう発想がないからなあ・・・。」
「夏央は運動が好きじゃないし美衣ちゃんは肌晒すのが好きじゃないからか。」
「そういうこと、よく分かってんじゃねえか。」
「まあだてに付き合い長くないからな!」
夏でもミー子は長袖を着たりするしな。
「で、どう?美衣ちゃんの水着には期待しているんですかい?」
「多分だけど、あの反応だと期待するもんでもないと思う。」
「そんなこと言っていいのかい彼氏ィ。」
「なんとなく、予想なんだけどな。」
「でも修学旅行の時の水着はかわいかったじゃん、セパレートのやつ。」
「たぶんあれじゃないと思うぞ。」
「美衣ちゃん、どんな水着を着てくるんだ・・・?」
京介が楽しみです、といった顔をする。
俺の予想なら恐らく・・・。
「よし夏央、今日はこのプールの売りのウォータースライダーで遊びまくろうぜ?」
「彼女とも遊べよ。」
「だってー、夏央と遊ぶことがだいぶ減ったんだもん!」
「もん、じゃねえよ。お互い彼女ができればそんなもんだろ。」
「そうかなー。」
邪魔するのも悪い気がするじゃん?
つまりはそういうことだよ。




