マカロンアイス
『みなさん、これから夏休みが始まります。1年生は初めての夏休み、そして、3年生は最後の夏休みになりますね。』
2年生に対しては何も言わないのか。
にしても、最後の夏休みか・・・。
『3年生の皆さんは、最後の夏休みを有効活用して進路の決定などを頑張っていただきたい。』
俺はこの夏休みが正念場なんだよな・・・。
ミー子・・・え、寝てやがる。
ミー子らしいなあ。
『夏バテなどには気を付けて、鳶ヶ谷の学生として―――』
まあ確かに校長の話は長くて眠くなっちゃうな。
長いもんな。
周りを見ると、やはりと言うべきか下を向いている生徒がたくさんだ。
もういいや、俺も寝るか。
「それではみなさん、今日はこれで終了になりますので最後の夏休みを存分に楽しんで下さいね!」
楽しめないんだよなあ・・・。
「補習や面接練習などがあるのであれば、遅刻しないように学校に来てくださいね!」
俺は夏休みに面接練習や小論文の練習があるから学校に行かないといけないんですよね。
まあいいや、俺は後半楽しむから。
もう夏休み終わったらフィーバー状態になるからさ。
「それではみなさん、2学期に元気にお会いしましょう!」
『ほれ、帰るぞなっち。』
「そうだな。」
『お菓子の材料でも買って帰ろうか。』
「お、そうだな。」
久しぶりというわけでもないが、最近やっていなかった気がする。
いかんいかん、俺もミー子もAO入試でやらなければならないことだもんな。
「絢駒くーん。」
「お、五十嵐か。」
「夏休み中、絢駒くんの家に遊びに行ってもいいかーい?」
『許さぬ。』
俺ではなくミー子が答えた。
「えー、ダメかい、かがみん。」
『いつの間に私のことをそう呼ぶようになったのだ。』
「あなたのお友達のまねー。」
『陽花か・・・まあいいけど。なっちも私も夏休みの終わりあたりにAO入試だから、夏休みは集中したいのです。』
「あ、そういうことねー?」
「まあ、そういうことなんだよ。」
「それなら仕方ないかー・・・。じゃ、また夏休み明けにね。受験がんばってー!」
「おう、ありがとう。」
『私も頑張りますよ。』
「さあて、何を作りますか?」
『うん、何にしようかね。』
「んーーー・・・。」
スーパーの棚を見て悩む。
何を作ろうかね。
もう夏なんだよなあ。
『なっち!!!!!!!!!』
「なんだ!!」
!の多さに驚いた。
『私作りたいものがあるの。』
「おう、なんだ。」
『難易度の高いものですよ。』
「ほう。」
『マカロンさ。』
「マカロンか。」
『オウイェ。』
「なんだその反応。」
にしてもマカロンか。
確かになかなかに難易度は高い。
『それにこの時期にピッタリのマカロンがあるんだ。』
「ほう、何かね?」
『コンビニに売ってるのあるじゃん?あのマカロンアイスってのを作ってみたくてね。』
「へえ、そんなのあるんだ?」
『行ってみるといいよ。』
「いや、行くよりもミー子と作る方がいいわ。」
『マジか。じゃあ材料買おうか。』
「おし、一応普通のマカロンのクリームも作るか。」
『冷たくないやつね。』
「そうそう、クリーム絞りの練習にもなるだろ?」
『なっち、頭いいね。』
「いやそれほどでもねえよ?」
今日はまあ・・・チョコレートのやつでいいかな。
『チョコレートと生クリームと、オレンジキュラソーを買う。』
「あ、チョコレート多めで。俺はアーモンドパウダーと粉砂糖でも買っておくよ。俺の家にココアパウダーとグラニュー糖はあるからな。」
『OK!』
ミー子が目当てのものを探しに行く。
確かアーモンドパウダーと粉砂糖は一緒のところにあったよな。
にしてもマカロンかー。
ちゃんと作れるかな。
『さてさてさて、いっちょやりますか。』
「そのセリフなんかのアニメでなかったっけ。」
『いや知らない。』
「そう?」
なんかあったような気がする。
まあいいか。
『アイスはそこまで時間かからないし、まずはマカロンの生地でも作りましょう。』
「そうだな。」
『私は粉類をふっておくので、なっちは天板にオーブンシートを敷いておいてください。』
「俺の仕事簡単すぎやしませんかね。」
30秒もかからないんですけど。
ミー子は答える前にケータイを置いてしまった。
じゃあここからはもう静かな空間だ。
「んじゃ俺メレンゲでも作りますよ。」
「・・・(こくり)。」
ボウルに卵白とグラニュー糖を入れ、ハンドミキサーで混ぜます。
まあ泡立てて角が立たないくらいにかな。
ボウルの隣に違うボウルが置かれる。
粉ができていた。
「おう、ありがとな。」
「・・・(こくり)。」
メレンゲの混ぜ具合を調節していると、目の前にケータイが現れた。
『私アイス作るね。』
「お、おう、了解。」
ちょっとびっくりした。
じゃあこの粉とメレンゲを混ぜていこう。
ここで大切なのは、粉っぽさがなくなるまで切るように混ぜていくこと。
しかし、混ぜすぎてはいけないことだ。
あんまり混ぜすぎるとふくらまなくなってしまう。
ここが難しいんだよな。
さて、生地にツヤが出るまで混ぜます。
ミー子の方は・・・順調みたいだな。
「・・・(ぐっ)。」
こっちを見て、問題ないとでも言わんばかりにサムズアップ。
あっちは心配ないな。
だいたいゴムベラですくって、ゆっくり流れ落ちるくらいになればOKだ。
そろそろいいかな。
そしたら絞り袋に入れ、用意した天板の上に絞る。
よし、じゃあ30分くらい乾燥させよう。
触っても指につかなくなるくらいが目安だ。
「んじゃ俺はガナッシュクリームを作るぞ。」
「・・・(こくり)。」
こっちはめちゃくちゃ簡単だ。
チョコを細かく刻んで、生クリームを温める。
沸騰直前で火を止めて、チョコレートに混ぜれば完成だからな。
まあチョコを刻むっていう手順が面倒なんだけど・・・。
ミー子がチョコアイスの分で刻んだものはもう残ってないし。
仕方ない、やるか。
「・・・(にや)。」
こいつわざと残さなかったな。
チョコを刻んでガナッシュクリームができるころにはもう乾燥が終わっていた。
『焼いちゃうよー。』
「おう、了解。」
140℃で10分焼きます。
ガナッシュクリームは一度氷水で冷やしておこう。
『マカロン、ほとんどなっちが作ったね。』
「じゃあ次の機会にはミー子が作るんだな。」
『一緒に作ってよね。』
「ほいほい。」
焼きあがった生地を乾燥させて、天板からはがしたらあとはガナッシュクリームを絞って挟めば完成。
ミー子の方は・・・チョコアイスを挟むのか。
『こんなもんかね。』
「おう、完成だ。」
『ちゃんとふくらんでよかったね。』
「確かに、ふくらまない可能性もあるもんなあ。」
ちゃんと完成してよかった。
『これは後でみんなで食べよう。』
「だな。」
『じゃあアイスの方は冷凍庫に入れとくね。』
「おう。」
普通のマカロンは冷蔵庫へ。
生クリームを使ってるからね、傷みやすいもんね。
まあ、今日食べちゃうからいいんだけどね。
『ただいま~。』
家の扉が開くとともに、声が聞こえた。
春姉や母さんより低いこの声は・・・冬姉だ!
「お帰り冬姉!なんか久しぶりじゃない!?」
「前回帰ってきた時に仕事が忙しいって言ったじゃん。やっと休み入ったのよー。」
3ヶ月経ってるんだが・・・。
「というわけで、今度あたしの家に来てご飯作ってね?」
「そんな約束してたねえ・・・。」
冬姉の家かあ、そんなに近くないんだよなあ・・・。
「てか、なんかいい匂いしない!?」
「ああ、ミー子と一緒にマカロン作ってたんだよ。」
「そうなんだ~!もしかして今日食べる!?」
「ああ、みんな帰ってきてからな。」
「やった~!あたし運良い!」
確かにこんなピンポイントで帰ってくるなんて運良いな。
『あらあら冬華さんお帰りなさい。』
「よう美衣ちゃん!ただいま!ってここあんたの家じゃないでしょ。」
『フヘヘ。』
「そんじゃ夏央、あたしお風呂入ってくるから。」
「おう、行ってら。」
「一緒に入るなら来てもいいよ?」
「行かねえよ!」
冬姉が意気揚々と脱衣所へ向かう。
『入らないの?』
「なんでミー子までそういうの?」
こいつ頭のネジがおかしくなったか?
『いや、姉弟水入らずという言葉があるじゃないですか。』
「恥ずかしいわ。」
『冬華さんおっぱい大きいもんね。』
「そういうことじゃなく。」
なんで判断基準がそこなんだよ。
『よし、じゃあ私が入ってくる。』
「は?」
ミー子が脱衣所へ向かう。
あの子は何がしたいの・・・。
Side 美衣
いえーい冬華さんとおーふろー。
風呂の扉を勢いよく開ける。
『バァァァァァァァン。』
「おお、夏央・・・あれ、美衣ちゃん。」
冬華さんはたいして驚かなかった。
「あ、それお風呂でもケータイが使えるやつだよね。」
冬華さんの興味は私の右手にいってしまったようだ。
そう、最近私はお風呂に入る時もケータイを使えるように防水ケースを買ったのでした。
普段使うことはないけど、こういう時にコミュニケーションツールとしては便利よね。
なっちとお風呂入る時にも使っていきたい。
・・・あ、なっちは手話でもOKか。
「・・・ん。」
「あれ、美衣ちゃん声が!!」
あ、こっちは驚いてくれた。
「いつの間に出るようになったのー!」
冬華さんが抱き着いてくる。
そして押し付けられる冬華さんの巨乳。
おのれ・・・。
『最近出るようになりました。まだこんなもんですけどね。』
「でも出たならいいじゃーん!よかったねえ!」
わしわしと頭を撫でられる。
冬華さんも、私の声が出なくなったところを見た人だからね。
それなりにくるものがあるのかもしれない。
「にしてもあれだね、ロリボイスだね。」
『やめてください。』
やっぱり言われたよロリボイス。
なんでこうも私の声は・・・くそっ!
「じゃあ美衣ちゃんの声が出た記念に、私が美衣ちゃんの頭洗ってあげるねー。」
記念ならもうちょっと何か豪華な・・・。
「ほーれほれお姉ちゃんのおててだぞー♪」
冬華さんが絶妙な力加減で頭を洗ってくれる。
ただ・・・背中に当たってるんだよね。
文字通り当てつけかコラ。
「美衣ちゃん、表情が険しいよ?」
『いや、まあ世の中の理不尽さをね?』
「・・・あー、そういうことね?大丈夫大丈夫、成人した後でも育つからさ!」
『兆候が全くないのでね?』
「基本的に女性は妊娠すると胸が大きくなると言われてるよ。」
『授乳のためでしょうがー。そのあとも大きくあってほしいんですけれども。』
後ろを向くと、目の前に冬華さんの巨乳があった。
くそう・・・。
「私は気にしなくてもいいと思うよ。」
大きい人はそう言えるんだろ!?
そもそも最初からそんな大きいのに妊娠したらあんたはどうなるんだよ!!
・・・まあいいか。
「でもあれだね、美衣ちゃんと夏央の子どもだったら見てみたいなあ。」
『公認ですね。』
「いいんじゃない?夏央には美衣ちゃんしかいないかなあって思ってたしさ。」
あらそれは嬉しいわ。
さあじゃあ冬華さんの髪の毛を洗ってやりましょう。
Side 夏央
「風呂かあ・・・。」
別に冬姉の風呂は全然いいんだけど、ミー子の風呂ね。
うん。
うん・・・。
そういえば最近一緒に入ってないな。
いや、男と女が風呂に入るっていうこと自体あまりないことか。
俺の感覚が狂っちまってるんだな。
『ただいまー。』
お、春姉も帰ってきた。
「お帰り春姉、大学お疲れ様。」
「うん、あ!なんか作ったね!」
「さすが春姉、鼻が利くね。」
「こんなにチョコの匂いがすればわかるよ~!冬華さんも帰ってきたんだね!」
「うん、今ミー子と風呂に入ってるよ。」
「美衣ちゃんと・・・?」
うん、まあそこ疑問だよね。
でも小さい頃は一応ミー子と冬姉でよく入っていたような気が・・・。
どうだろ、俺とも入ってたし、なんなら冬姉が俺とミー子をまとめて面倒見てくれてた気もする。
「それでそれで、何を作ったの?」
「冷蔵庫見ればわかるよ。」
「素直に教えてくれてもいいのに~・・・あ、マカロンだ!」
マカロンを見た瞬間急激にテンションが上がる春姉。
いいね、嬉しそうにされると作った甲斐がある。
「秋穂さんにも連絡しといたよ!喜んでる!」
「早いな!?」
俺としては帰ってきて『うわあマカロンがある嬉しい~!』みたいな反応の方が嬉しいんだけど・・・まあいいか。
「いつ食べるの!?今!?」
「グイグイ来るね!?」
そんなに食べたいらしい。
「みんな集まってからにしたいんだけど、それまで待てる?」
「待つよ・・・待つけど・・・待ち遠しい!」
「はい、そのまま待っててくださいねー。」
「なつくんひどい!」
そういってリビングから出て行く春姉。
足音から察するに、部屋に行ったらしい。
ふて寝かな?
「ふ~さっぱりさっぱり~!」
冬姉とミー子が風呂から上がってきた。
『あ、なっちごめんね?片付け全部任せちゃって・・・。』
「いや、全然平気。」
それよりも・・・。
「夏央、顔が赤いぞ~?もしかしてこのお姉ちゃんに欲情したのか~?」
冬姉がにやにやしている。
別に冬姉に欲情しているわけではない。
冬姉とミー子の風呂上がりの格好に問題があるのだ。
何でどっちも上がキャミソールだけなんだよ。
特に冬姉、その胸の大きさでその恰好はいかんだろ。
いや、ミー子もある意味アレだけど・・・って俺変態みたいじゃないですか。
「そうじゃないから普通の服着てください。」
「何言ってんの、キャミだって普通の服じゃん。家にいるんだからこれくらい楽な服装でもいいでしょ~。」
他人の前でそんな恰好をしていないか非常に心配だ。
ミー子は外で肌をさらすようなことはほとんどないから心配してないけど。
『キャミに興奮したか。』
「・・・した。」
『きゃー!』
きゃーじゃねえんだよ。
かがむと見えるからやめて。
何がとは言わないけど。
「片付け終わったし、俺は部屋にいるからな。」
自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がる。
もしあれが俺とミー子のふたりきりだったらちょっと危なかったかも。
・・・まあそんなことはいいとして。
これから夏休み。
俺とミー子は何度か学校に行くけれども。
この夏休みが本番だ。
AO入試で何とか決めたいからね。
ミー子もそれで決まってくれるといいけど・・・。
い、いや、決めたい、決めるといいじゃない。
決めるんだよな、うん。
『とう。』
「ごはっ!?」
腹に結構な重量。
ミー子さんでした。
『どう?』
「いくら軽いミー子さんだろうとそれは重いです。」
『やったね!』
「やったねじゃねえんだよ。」
『怒った?』
「怒ってない。」
『だってなっち、なんだか思い詰めてるような顔してたからさ。』
「まあ、ちょっと入試のことでね。そんなに顔に出てた?」
『出てた出てた。大丈夫だよなっち、私もなっちも受かるよ。店長さんにクリーム絞りだって教えてもらったし、結構上達してるじゃん!』
励ましてくれるミー子。
・・・なんか。
「・・・わ。」
思わず抱きしめてしまった。
驚いたのか、若干ミー子の声が聞こえた。
「声、だいぶはっきりしてきたんじゃないか?」
「・・・ん。」
ちょっとうれしそうなミー子の表情。
なんか、元気出た。
「入試、受かろうな。」
「・・・ん。」




