レアチーズケーキ
「さてやりましょう。」
『手伝うぜ。』
「よしきた。」
俺とミー子はとあるお方のためにお菓子を作ります。
材料は生クリームとグラニュー糖、クリームチーズとプレーンヨーグルト、そんでもって粉ゼラチン、バター、プレーンビスケット。
あとソースを作るのに必要なラズベリーとレモン汁。
そう、紗由さんのためのチーズケーキだ。
ラズベリーソースということで、レアチーズケーキだけど大丈夫だよね。
「なつくん、その材料で何を作るのかな?」
「レアチーズケーキだよ。」
「それは・・・私も食べられるのかな?」
「残念ながら紗由さんへのお祝いの品なので。」
「あ、そうだったんだね・・・。じー・・・っ。」
「俺じゃなくて紗由さんにお聞きください。」
「そうだね・・・。」
春姉がとぼとぼ歩いてソファに座る。
紗由さんのことだからきっと分けてくれるよ。
・・・いや、「これは私のだー!!」とか言ってあげない可能性もある。
『バターをレンジに入れたから、溶かしてる間にビスケットを砕こう。』
「もう始めてたのか、じゃあやろうか。」
袋にビスケットを入れて袋を閉じ、棒で叩く。
結構細かくなるまで砕くよ。
「・・・(ごん、ごん)。」
ミー子がケータイを手放したのでこれからは沈黙の会話タイムだ。
ピー、ピー、ピー。
「よし、じゃあそれと混ぜるぞ。」
「・・・(こくり)。」
溶けたバターと砕いたビスケットを混ぜ合わせます。
「・・・(こと)。」
「おう、用意ありがとな。」
ミー子が用意してくれた平らなバットに今混ぜたものを敷き、表面を平らにして冷蔵庫に保管します。
「・・・。」
「おう、よろしく。」
ミー子が生クリームを泡立て始めたので、こっちでグラニュー糖の準備だ。
「グラニュー糖入れるぞー。」
「・・・(こくり)。」
あとはミー子がクリームはいい感じにしてくれるだろうから任せる。
そしたら今度はボウルに水を入れ、その中に粉ゼラチンを投入。
そのまま600wで30秒熱してゼラチンを溶かす。
えーっと次は・・・。
「よし、クリームチーズとグラニュー糖を混ぜてだな。」
「・・・。」
「おう、ヨーグルトの用意ありがとう。」
ヨーグルトを加えて、その後にゼラチンを混ぜる。
よく混ざったら、最後に生クリームを混ぜる。
「じゃあ流し込もうか。」
「・・・(こくり)。」
できたものをバットに流し込む。
平らにならして、ふたをする。
完成だ。
『簡単だったね。』
「俺らでやればこんなもんよ。」
そんじゃあ次。
「ラズベリーソースを作るぞー。」
『そうだね。』
まずは解凍したラズベリーを用意します。
鍋に入れ、砂糖をかけて置いておきます。
砂糖が馴染んで水分が出てきたら、弱火にかけます。
ラズベリーが柔らかくなってきたら身を潰します。
「じゃあ濾していくぞ。」
「・・・(こくり)。」
目の細かいザルに入れて濾していきます。
少しずつ濾していき、種を取り除きます。
濾す作業が終わったらレモン汁を入れます。
この時に灰汁が出たらしっかりとります。
「ミー子、味見してみてくれ。」
「・・・(ぱくり)。」
ミー子がソースを舌の上で転がす。
「・・・。」
「OK、砂糖を足そう。」
すっぱかったらしい。
色をキレイに見せる関係で最低でもレモンは4分の1くらいは入れるもんな。
『冷やすと少し固くなるから、あんまり煮詰めすぎちゃだめよ。』
「おう、了解。」
何も持っていなければ手話でも会話できるんだよな。
まあ火をかけるのはこれくらいでいいかな。
『なっち。』
「なんだい。」
『チーズケーキさ、私がこのソースでデコレーションしてもいいかい?』
「何をするんだ?」
『こう、ソースを使ってハートを描いていくのですよ。』
「紗由さんに渡すやつなんだけど・・・。」
『喜びそうじゃない?』
「確かに・・・。」
まあ見た目もお菓子には大事な要素か・・・。
「じゃあ頼んだ。」
「・・・ん。」
「・・・急にしゃべったから驚いた。」
『反応しただけじゃない。』
春姉はテレビ見てるし俺以外の声がするとびっくりするんですよ。
聞こえるようになってからわかったことだが、ミー子の地声はかなり高い。
そしてなんというか・・・子供っぽい。
なんとなく子ども時代を思い出すような声だ。
懐かしいようでもあるが、今となっては突然聞こえればびっくりする。
『まずは両方冷やしましょうね。』
「そうだな。」
チーズケーキに関しては3時間くらい冷やさないといけない。
ソースも冷蔵庫に入れたら、あとは片付けだ。
「なつくーん・・・。」
春姉が切なそうな声をあげた。
「な、なんだよ。」
「さっきからすっっっっっっっごいいい匂いがぁ・・・。」
「・・・ソース、余ってたらクッキーか何かに乗せて食べてみたら?」
「の、残しておいてほしいなー・・・。」
「よーしミー子、全部使うぞー。」
「・・・ん。」
「うわああああん!なつくんのいじわる!!」
「冗談だって。」
ラズベリーソースはチーズケーキに全部使うには多いくらいの量を作った。
まあ乗せて食う以外にも使えるだろう。
「・・・(じゃー)。」
俺と春姉が話している間に、ミー子は片付け始めていた。
「すまんすまん、手伝うよ。」
「・・・(ふい)。」
ミー子があごでキッチンペーパーを指した。
ミー子が洗うから俺は食器を拭いてくれってことか。
少々行儀は悪いけど、コミュニケーションの手段が限られているから仕方ない。
ミー子が何を考えているかも毎回当たるわけじゃないから、できれば情報ははっきりしていた方がいい。
「了解。」
「・・・ん。」
やっぱミー子の声はかわいいなあ。
本人はお気に召してないみたいだけど。
なんせ声をほめるとロリコン扱いされるからな・・・。
ブーッ!ブーッ!
「あ、なつくん、電話なってるよ。ほい。」
「ありがと春姉。ミー子、ちょっと外すな。」
「・・・(こくり)。」
紗由さんからの連絡だ。
何だろう。
「もしもし。」
『ヘェェェェェェェェェェェェイ!!』
「・・・切っていいすかね?」
『待ってよ!お姉ちゃんからの連絡だよ!?』
「だから俺の姉は冬姉と春姉だけだと。」
『そこに紗由姉も入れないと!!』
「紗由さんはお友達でお願いします。」
『友達!!ありがとう!!』
感謝された。
まあ嫌いじゃないからね。
年上だけど、友達がいい。
「・・・(じー)。」
「ミー子は特別。俺の彼女。」
『太郎ちゃんも一緒なんだね!あ、はるさめにこれから家に行くねって伝えてね!』
「俺に電話するのではなく春姉に直接電話すればよかったのでは。」
『なつおくんの声を聴きたかったんだよ!じゃね!!』
何その彼女みたいなセリフ。
「春姉、これから紗由さんがうちに来るって。」
「またレポートかな。」
「紗由さん来たらさ、春姉の部屋にいてもらっていいか?ケーキまだ完成してないからさ」
「あ、分かった!きっと紗由も喜ぶよ!」
「それだといいね。」
『はるさめー!!』
「もう来たのかよ!?」
「紗由はほんといつもいきなりだなー!」
春姉がリビングから出ていく。
『やっぱりあの人は台風というたとえが似合う。』
「ハリケーンとかそんな感じだよな。」
『あの物件とかを飛ばしていくやつね。』
「貧乏になるわ。」
懐かしいゲームを思い出した。
たまにやりたくなるな、ああいうの。
『トルネードとかもぴったりかも。』
「台風もハリケーンもサイクロンもトルネードも一緒だろ。」
『どっから来たんだサイクロンくん。』
「ほら、一緒にしてあげないとかわいそうだろ?」
『仲間意識ってやつね、仕方ないね。』
「・・・俺ら何の話してたんだっけ。」
『ほら、紗由さんはバギクロスだねって。』
「もうそれ別ゲームになってますやん・・・。」
それも久しぶりに聞いたわ。
『えー?はるさめの部屋に行くの?なつおくんと太郎ちゃんに会いたいんだけど。』
『今実技試験の練習中だから邪魔しないであげて!』
春姉が絶妙なウソをつく。
実技試験ではチーズケーキなんてもんは作らないけど、実際学校に入ったら作るのかな。
『さて、あとは冷やすだけですよ。』
「そうだな、片付けも終わったし、やることねーな。」
『なっちソファに座って。』
「ん?」
ミー子に言われた通り、ソファに座る。
「・・・(ぼふ)。」
「うおっ。」
ミー子が俺の膝に寝転がった。
膝枕ってやつだ。
「どうしたんだいきなり。」
『ケータイでタイマーをかけた。一緒に寝よう。』
「えっ?」
『ここで一緒に寝るの。いいでしょ?』
「ああ、まあいいけど・・・。」
いきなりなんだ?
『でもこれだとなっちが寝づらいか。じゃあこう肩を寄せ合ってですね。』
「こうか。」
『よし、お休み。』
「お、おう。」
そういってミー子はすぐに寝てしまった。
気まぐれだな・・・まあいいや、俺も寝るか。
ピピッ!ピピッ!
「・・・ん。」
結構寝入ってしまっていたらしい。
レアチーズケーキを冷やし始めて、2時間が経過していた。
もう少しすれば、結構いい時間だ。
「あれ?」
ミー子は、俺の肩に頭を預けて寝ていた。
ただ、寝る前と着ている服が違う。
調理中は『NS87』と書かれたTシャツだったけど、今は水色のTシャツになっている。
胸のところには赤い文字で『Dynamite DEKAI』と書かれている。
笑わせに来ているんだろうか。
Dynamiteって・・・。
DEKAIって割りにすとんとしてるし・・・。
言ったら殺されるけど。
「というかいつの間に着替えたんだよ・・・。」
すごいなその服。
写真撮ろ。
「Dynamite DEKAI・・・ぷふっ。」
テーブルの近くに、さっきまで着ていたと思われるNS87のTシャツが置かれている。
そしてその近くにもう一枚。
裏返してあって、模様が分からない。
「これは・・・?」
模様を確認してやろうと、ひっくり返す。
黒いTシャツに、今度は緑の特大文字で『NAI』。
「ぶほぉっ!!」
思わず噴き出した。
きっとどっちを着ようか迷ったんだろう。
完全に俺を笑わせに来ている。
何だよこのTシャツ・・・。
「・・・ん。」
ミー子が起きた。
「おはよう。」
「・・・(こくり)。」
ミー子が自分のTシャツを確認する。
そして、思い出したかのようにセクシーポーズをした。
Dynamite DEKAIの文字が胸によって盛り上が・・・らない。
「もう俺その文字だけで笑った。」
『大成功。』
ダメだよ、ミー子が胸をネタにするのはずるいよ。
普段気にしてるのに。
『今日はこれを着て過ごすよ。』
「俺今日耐えられるかな。」
『この私の魅力に?』
「いや、笑いの衝動に。」
「・・・(どす)。」
「なんでぇ!?」
なんで俺殴られたんだ!?
いやほら、ミー子の魅力は脚だから。
「あれ、今日スカートだったっけ?」
『私のこと何も見てなかったのね。』
「ケーキ作ってたから・・・。」
『私のこと、ちゃんと見てくれると嬉しいなあ。』
「すまん、生足スリッパは俺への刺激が強い。」
『なっちは黒タイツじゃなくてもいいのよね。なんか変態ちっくよね。』
「俺これに関しては本当に変態なんじゃないかなって思うよ。」
『でも私に魅力を感じてくれてるっていう点に関しては嬉しいですよ。』
「そうなのか。」
『だからってジロジロ見ちゃいけないですよ。』
「すみません。」
時間、そろそろいいだろうか。
「お、いい感じかな。」
『ちゃんと固まったね。』
「じゃあミー子、後は頼んだ。」
『任された。』
ラップを外し、少しずつラズベリーソースを乗せていく。
そしてつまようじを使い、模様を入れていく。
「ハートの模様、いい感じになってるな。」
『やっぱり見た目も大事。』
「そうだな。」
『完成だ!!』
「よっしゃ!」
紗由さんお待ちかね、チーズケーキの出来上がりだ。
「味見しよう。」
『そうだね。』
ほんの少しだけ切って、ミー子と一緒に食べる。
うん、いい出来だ。
「美味しくできたな。」
「・・・ん。」
「よし、春姉の部屋にはテーブルもあるし、持って行ってやろう。」
「・・・ん。」
今更だけどその返事かわいいな。
「おらー!夏央さまと美衣ちゃんのお通りだー!」
春姉の部屋の扉を開ける。
「おらはるさめどうだー!」
「ちょ、紗由やめてってー!」
春姉の部屋で、紗由さんが春姉の胸を揉んでいた。
あ、もちろん服の上から。
「・・・。」
「・・・。」
固まる俺とミー子。
「な、なつくん・・・!?」
「お!なつおくん!」
春姉の胸から手を離さない紗由さん。
「・・・。」
俺たちは無言で扉を閉めた。
『わ、わあああああああっ!!なつくん待って!そういうのじゃないから!!』
部屋から春姉の悲鳴が聞こえる。
「ま、まさか春姉と紗由さんがそういう関係だったとは・・・。」
「だから違うんだって!!」
春姉が勢いよく扉を開けた。
涙目で出てきた春姉だったが、その胸にはいまだに紗由さんの手ががっしりくっついている。
『何この面白い状況。』
「やったああああぁぁぁぁぁ!!チーズケーキだー!!!」
「さ、紗由っ!そろそろ離してって!」
リビングへ降りてきて、チーズケーキを見た瞬間に紗由さんが喜びの表情を見せた。
そしていまだに春姉の胸をつかんで離さない。
『なんだこの胸は!けしからん!!』
「わああああ!?」
春姉の胸をつかんでいる紗由さんの胸を今度はミー子がつかみ始めた。
何この状況。
俺も波に乗っていいのかな。
『気をつけろ!!なっちが私の背後を狙っているぞ!!』
あ、ダメだ気づかれてる。
「そんなつもりはないから安心してくれ。」
『今私が指摘したからやめたよね。』
「・・・そんなことよりチーズケーキ食おうぜ?」
「みんなで食べるよ!!」
紗由さんがいつも通りの大きな声で言う。
『紗由さん、これは紗由さんのだから全部食べちゃってもいいんですよ?』
「みんなで食べた方が楽しいじゃん!」
「紗由・・・。」
紗由さん優しいなあ、胸触りっぱなしだけど。
「ちなみに私のバッグの中にはこんなものが入っています。」
春姉の胸からやっと手を離し、紗由さんがバッグの中から―――
「酒じゃねえか!!」
「なつおくんが作ってくれてるかなと信じて!!」
「すげえな!?」
未来予知か何かかな?
ちなみに名前にはパレットと書いてある・・・ワインかな。
『ワインっぽいけど色が私たちの知るものじゃない。』
「太郎ちゃんたちはまだまだ子どもだからね!これはロゼワインっていうんだよ!綺麗でしょ!」
『確かに色が綺麗。』
「これを飲みながら食べるよ!はるさめも一杯だけ飲ませてあげる!」
「わ、私も?」
え、春姉も・・・?
てかまだ夜ですらないんだけど・・・。
「いいじゃんいいじゃん!お酒は夜じゃないと飲んじゃいけないなんていう決まりはないよ!さあてなつおくん!切り分けて!」
「おおーー!!なんかキレイな模様!」
紗由さんがミー子の作ったハートマークを褒めた。
「・・・(にこ)。」
褒められてうれしそうな顔をするミー子。
「美味しそう・・・私も食べられるなんてうれしいな。紗由、ありがとね!」
「うんうん!どういたしまして!ほらほら、みんなで食べようよ!」
4人分に切り分け、それぞれ飲み物を構える。
紗由さんと春姉はロゼワイン、俺とミー子は紅茶だ。
「なつおくん、乾杯の音頭を取って!」
「俺!?」
「男なんだからこれからやらされる可能性もあるぞー?」
え、そんなもんなのか。
「えっと、じゃあ・・・紗由さんの写真が雑誌に掲載されたことを祝いまして、乾杯!」
「かんぱ~~~い!!」
紅茶はカップなのでそっと乾杯。
こんな時間からワインとかこの人たち大丈夫なのかな。
「こ、このワインおいしい・・・!」
「でしょ!ちょっといいの買った甲斐があったよー!」
『いいやつなんですか?』
「うん!なつおくんのチーズケーキに合わせたかったからね!下手なの選べないなって!」
なんかそう言われるとケーキに対するハードルが上がるんですが・・・。
「じゃあいっただっきまーす!」
紗由さんがチーズケーキを一口、口に入れる。
「はっ!!」
紗由さんが大きく目を見開いた。
「これは・・・!おいしい!おいしいよなつおくん!!」
「そ、それは良かったです。」
「ほんとだ、なつくん、美衣ちゃん、すごくおいしいよ!」
『大成功。』
「やったな、ミー子!」
「じゃあそんなかわいい弟くんにはお姉ちゃんからキスのプレゼントをしてあげよう。」
『なっちは絶対に私が守る!!』
「どうしてそうなるんだ。」
「えっへへ~、じゃあ私もなつくんにちゅーしてあげようかなー。」
「酔っぱらうの早いんだよアンタは!!」




