少しだけ未来の話
『ほうほう、店長から夜の特別授業(意味深)を受けていたわけか。』
「意味深をつけるんじゃない。」
それだとそっち方面になっちゃうから、いけませんよ。
「ミー子も特待受けるか?」
『特待生かー、どうしようかな。』
できれば早めに決めた方がいいよな。
「一応俺は受けることにしてるんだけど、多分倍率とか高いよな。」
『そりゃそうでしょ。なっちは上手だから大丈夫だよ、多分。』
「別に俺は上手いってわけじゃないんだよな、きっと。」
水島くんを見てるとね、どうもね。
『私別に器用じゃないからなあ。』
「不器用だと思ったこと一回もないんですが。」
『不器用ではないけど、器用でもないみたいな感じさ。』
うーん、ミー子は器用だと思うんだけどな。
普段ほとんどやらないけど、裁縫とかもできるし。
『一応考えとくよ。教えてくれてありがとねなっち。』
「いやいや。」
『そんで、夜の特別授業ってそれだけだったん?』
「それだけですが。」
『え、あの大人の魅力にあふれた店長だよ!?』
「彼女的には何もなくてよかっただろ!?」
というか店長に何かされそうになったら俺は逃げる。
『まあそうだけどさ、店長美人じゃん?』
「それは認める。」
確かに店長は美人だ。
もしかしたら店長目当てでうちの店に来る人がいるかもしれないくらいには美人だ。
相手もいないみたいだし、狙い目だろう。
でも俺は違うんですよ。
「俺はミー子がいるからいいの。他の女性はいいんです。」
『うれしいこと言ってくれるじゃない。結婚する?』
「まだ法律的に許されないんだよね、俺。」
17歳だからね、仕方ないね。
『私は大丈夫な年齢よ。』
「あんたが大丈夫でも俺はダメなの!」
『つれないなあ。』
「法律だっつの。」
法律の縛りとか金の縛りとかなければそりゃ結婚でもないんでもしたいさ。
でももうちょっと待っててほしいんだよね。
『ちなみに子どもだったら男の子と女の子、どっちがほしい?』
「子どもかあ・・・。」
なんか気が早い気もするが、まあいいだろ。
そうだなあ・・・俺だったら、うーん。
「男・・・かな?」
『ほう、なぜに?』
「苗字残せるじゃん?」
『そっかそっか、絢駒って苗字、珍しいもんね!前の名字もなかなかだったけど。』
敷島か。
確かに周りにいなかった気がする。
「それを言ったら鏡崎も珍しいけどな?」
『婿養子に入ってなっちが鏡崎になって私の苗字を残してくれてもいいのよ。』
「絢駒でいいっすかね。」
婿養子はあれだね、抵抗があるね。
『知ってるかい、私のこの鏡崎って苗字、私の家族と親戚のもう一世帯しかないんだぜ。』
「というと?」
『うちはもうなっちは婿養子に入らない限りこの苗字を残せないから、親戚の方に頑張っていただくしかないね。』
そんなに少ない苗字だったのか・・・。
『案外ありそうな苗字ではあるんだけどね。』
「ああ、そこまで少ないとは思ってなかった。」
『婿養子になるのちょっと考えた?』
「ごめん、考えなかった。」
『あらあら。』
ミー子的にはその苗字を残してほしい・・・のかな?
『まあでもなっちが婿養子に入らんでも残す道はあるけどね。』
「親戚の人の話?」
『そうじゃなくて、お母さんが再婚して彼氏さんに婿養子に入ってもらって、弟を作ってもらえばだね。』
「めっちゃ複雑じゃねえか。」
義理の父と実の母親の子どもって。
そこまで年離れてたらいろいろ考えさせられるだろ。
義理の父・・・あ、俺の父さんも義理の父なんだよな。
そういえば、うちは父さんと母さんが子供を作るようなことはしなかったな。
まあ、冬姉と春姉と俺、こんなに子どもがいればもういらないか。
『まあうちはいいとして、もし子供が生まれたらつけたい名前とかってあるの?』
「名前かあ・・・。」
全く考えたことなかったなあ・・・。
男だったらとか、女だったら、とかだよな。
「ミー子は何か考えてるのか?」
『いや全然。』
「話振っておいてそれですか・・・。」
『なんならお寺の住職さんにいい名前を付けてもらうのもアリかと。』
「そういう手もあるんだな・・・。」
正直な話、子どもの名前を付けるとかいう話になったときは、嫁さんと一緒に考えたいなあとか思う。
後悔しないように、一緒に決めたいなあ。
「あんまり子どもとか興味ない?」
『そういうことじゃないんだけど、人の名前考えるとか、あんまり自信ない。』
「そういうことか。」
そんならなおさら一緒に考えたいね。
『まあ、高校生からこんな話をして何になるんだっていう話ですけどね。』
「元も子もないこと言わないでくださいよ・・・。」
『でも、なっちとの未来を考えるとか、なんか楽しい。』
ミー子が笑顔で言う。
『これからもずっとなっちと一緒にいられるとか、最高じゃん?』
「確かにそうだな。俺はミー子と離れる気はねえよ?」
『私だってないよ?あるわけないじゃん。』
くそう、可愛いなまったく。
『なっちとの子どもって考えたら何となく興奮してきた。』
「何してんだよ。」
『ムラムラしますわ。』
「女の子がそんなことを言うんじゃありません。」
ミー子が両手をわきわきさせながら迫ってくる。
「おいやめろ。」
いったん動きを止めて、ケータイを打つミー子。
『よいではないかー。』
また迫ってきた。
「こらこら。」
また動きを止めて、ケータイを打つ。
『スキンシップってやつですよ。』
また迫ってきた。
ずいぶん律儀ですな。
「・・・(どーん)。」
案外ミー子が力を込めていたせいであっけなく押し倒されてしまった。
上から覆いかぶさってくる。
『別に何をしようってわけでもないんだけどね。』
「そ、そうなのか。」
『期待した?』
「いや・・・。」
『ちょっとこのままで。』
ミー子が近づいて、顔を擦り付けてくる。
猫か。
『なんならおっぱいくらいは触ってもいいですよ。夜だし。』
「さ、触らんよ。」
『まあ絶壁だもんね。』
「んー、前に触ったとき絶壁って感じはしなかったけどなあ。」
『まあ一応、微かにふくらんでいるといった感じかなー。』
「あ、それっぽいかも。」
『そこはもうちょっとフォローしてくれてもいいんじゃないかなあ。』
フォローしても嘘になっちゃうからなあ・・・。
「ちょっとだけ確認してみてもいい?」
「・・・?」
服の上からちょっとだけ、本当にちょっとだけミー子の胸に触れた。
もにゅ、というよりはぺふ、というような擬音があっているかもしれない。
『触ったね、別にいいけど。』
「うん、やっぱりさっきのミー子の認識で間違ってないかも。」
『確認ってそういうことかよ!』
やっぱりあれだな。
小さくてもおっぱいはおっぱいだな。
柔らかい。
『もっと触るかい?』
「あ、いや、いいです。」
『今度は照れるんだね、可愛い。』
「やめろって。」
流れで触っちゃったけど、やっぱり恥ずかしくなってきた。
「・・・・・・ぃぃっ。」
ミー子が耳元で何かささやいた。
顔を見ると、にやにや笑っている。
たぶんこいつかわいいって言ったな。
「こんにゃろ!」
「・・・(びくうっ)!!」
ミー子の脇腹を手でつつくと、いい反応をしてくれた。
『セクハラだ!』
「胸触るよりも?」
『これはいかんですよ!』
「そうかあ・・・。」
いかんらしい。
くすぐったかったのかな。
『お返ししたいけどなっちに元気になられても困るしなあ。』
「俺も、ミー子を襲っても困る。」
『じゃあ帰る。』
「おう、そうしてくれ。」
『また明日来るからね。』
「何言ってんだ、いつでも来ていいんだぞ?」
『じゃあこのまま居座ってもいい?』
「すまねえ。」
ミー子が笑った。
『そんじゃね、また明日。』
「おう、また明日。」
ミー子が帰っていった。
・・・。
・・・あっぶねえええ。
多分あのままミー子が家にいたら間違いなく危なかった。
俺もちょっと高まってた。
・・・寝るか。
「・・・(どすん)。」
「ぐおっほ!!」
急に何かが乗っかってきた!
「なんだあ!?」
「・・・(でろでろでん)。」
「ひぃやああああああああああああ!!!」
目の前にはいつぞやの能面。
前も同じようなことされた気がするけど、怖いものは怖い。
背格好を見るにミー子だな。
というかこんなことをしてくるやつはミー子しか知らない。
よく見たら肩が震えている。
笑ってやがるなこんにゃろめ。
「何すんだー!」
「・・・(じたばた)。」
捕まえたところで足をばたつかせるミー子。
「・・・やってることすげえ子どもっぽいと思うんだ。」
『多分幼なじみだからできることよ。いいことだと思う。』
いいことなのかなあ?
『ちなみになっちの腕ががっちりおっぱいをロックしてるんですよ。確信犯?』
「あ、ごめん。」
『これ失礼なやつだ。小さくて気づかなかったパターンのやつだ。』
「で、朝から何の用だ?」
『スルーかよっ!もう朝じゃないよっ!』
時計を見ると昼の1時。
俺そんなに寝てたのか・・・。
『クリーム買ってきたから私にも教えて!』
買ってきた・・・買ってきた!?
「え、今から!?」
『いやいや、もちろんごはんとか食べた後でいいよ。さあさあ、私にクリーム絞りを教えてくだされ。』
「お、おう・・・まず飯食うわ。」
『キッチンに用意してあるから。』
「ミー子が作ったのか。」
『秋穂さん、仕事だって言うから私が作るって言いました。』
ミー子も頑張るなあ。
俺も早起きすれば作れるかも。
『ほれほれ、食べてけって。』
テーブルに置かれたハムエッグ。
俺を起こす直前に作ったんだろう、まだ温かい。
『ほれ塩コショウ。なっちはこれだろ?』
「よく分かってるじゃんか。」
『なんたって彼女だからな!』
「ところでどうしたのその口調。」
『気分。』
文字って便利だなあ。
『おいしいっすかね。』
「焼き加減最高。」
『やったぜ。』
やっぱりミー子は料理上手だな。
まあ、そりゃそうか、俺に料理を教えてくれたのミー子だもんな。
『なっちって箸を使うの上手だよね。』
「そう?」
『私多分そんなに上手じゃないし・・・。』
「いつも見てるけど十分だと思うよ?」
『そうかね?』
「俺はまあ・・・小さい時に特訓させられたからね。」
『なっちの字がキレイなのもそれ?』
「ああ、それだな。」
うん、箸も字もそうだね。
うっすら記憶に残っている、小学校に上がる前の猛特訓。
そういえば、思い出といえばあれくらいか。
『なんか変な顔してる。考え事?』
「ん?ああいや、そういうことじゃなくてな。俺の箸とか字の特訓したの、父さんなんだよ。」
『ああ・・・。』
ミー子には通じたようだ。
前の父さん・・・あんまり記憶にないけど、唯一これだけはすげえ教えてくれたなー。
もうほとんど覚えてないけど。
「ん、ごちそうさま。おいしかった。」
『そりゃよかった。じゃあ、お皿片づけて練習と行きましょうか。』
「おう、いいぜ。」
生クリームと、絞り袋と口金が用意してあった。
口金はうちにあるものだけど、生クリームと絞り袋は買ってきたのか。
『よっしゃ準備できた。さあこれからなっちの夜の特別授業が始まるね!』
「思いっきり昼なんですが。」
『細かいことは気にしないんだよ。女にもてないよ?』
「ミー子にもててるからいいんだよ。」
『照れちゃうからそういうこと言うのやめて。』
表情を見る限りそんな風には見えないけど。
というかもうクリームを絞る用意までできちゃってるじゃないですか。
「俺が教える必要あるんだろうか・・・。」
『いやいや、私は今まで誰にも教わってないし。』
もうなんかすげえ手際よさそうなんだけど。
持ち方もすでに合ってるよ。
それでいいんだよ。
・・・さて、ミー子が絞り袋を持ったということはケータイも手話もできないということだ。
つまり、ここからはミー子の目を見て何を言ってるかを読む必要がある。
絞り袋を持ったまま、ミー子がこちらを見てくる。
「持ち方はそれでいいぞ。俺が教えるまでもないなー。」
「・・・(こくり)。」
よし、何を言ってるかは分かった。
さてこっからだ。
「じゃあまずは丸口金だな。まずは垂直に持つそうだ。」
「・・・?」
目が「こう?」と言っている。
「ああ、それでいいぞ。んで、こっから絞るんだけど、口金を動かさないように絞るんだって。」
「・・・(こくり)。」
「そんで、絞り終えたら力を抜いて、ひらがなの「の」の字を書くように左下に向かって動かすとツノが残らないみたいだ。」
「・・・。」
「んー、そうだな、確かにものによってはツノをわざと立たせるものもあるかもな。」
「・・・。」
「でもまあ、綺麗なやり方はこうなんだって店長から聞いたんだよ。」
「・・・(こくり)。」
よし、会話が成立している。
大体ミー子の言いたいことも読み取れているみたいだ。
「星口金は天板に押し付けないようにな。模様を綺麗に見せるってことを意識すればいいらしいぞ。」
「・・・(こくり)。」
うん、結構綺麗にできてるな。
「・・・。」
「・・・えーと、なんだ?」
「・・・?」
あ、分かったコイツふざけてるな。
「はいはい、ミー子はキレイですよー。」
「・・・(むふ)。」
ああ、どうせ私キレイ?とでも聞きたかったんだろう。
今は偶然分かったけど、この状態でふざけられると基本的に何を言おうとしてるか分からないからな・・・。
「・・・。」
「ん、ああ次か。次はこの片目口金ってやつな。こう口金を横向きにして、絞り袋を30°くらいに倒すと模様が出やすいみたいだぞ。」
ミー子が絞り袋を倒してクリームを絞る。
「ミー子、それだと45°くらいだからもうちょっと倒すといいぞ。」
「・・・(こくり)。」
あれ、なんかこのセリフ聞いたな。
確か店長に指摘されたんだよな・・・俺だっけ?
あの後輩くんだっけ。
・・・いや、確か彼はセンスが良かったはずだから、きっと指摘されたのは俺だろう。
俺とミー子、おんなじところで間違えてやんの。
「・・・?」
「ああいや、なんでもないぞ。」
笑っていたらミー子に不思議そうな顔で見られてしまった。
・・・まあ、表情が前より豊かになったとはいえ、基本的にミー子の表情は硬いからいつでも不思議そうな顔をしているようには見えるんだけど。
「・・・。」
「お、綺麗にできたな。」
「・・・(ふんす)。」
さすがはミー子、手際がいいぜ。
「・・・。」
「まあ、飾りで見せるんだったらまっすぐより波があった方が華やかに見えるよな。」
「・・・。」
「どうクリームを使い分けるかが作ったものの華やかさを左右するかもな。特にケーキとかは。」
「・・・?」
「ミー子ならできるだろ。現にこんなに上手にできてるんだからな。昨日の俺よりきれいにできてる。」
「・・・(ドヤ)。」
「勝ち誇ったような顔しやがって。」
まあ楽しそうだしいいか。
「・・・。」
「・・・ごめん、何を言おうとしているのか分からねえ。」
「・・・・・・く。」
「いやそれだけ言われても分からねえよ。」
しかもそれ声というより音だし。
ミー子が絞り袋をいったん置き、手話で話し始めた。
『私も特待性狙ってみようかしら。』
「どれくらい枠があるんだろうな?」
『もし一枠しかなかったらなっちに譲る。』
気を使われてますね。
「いや、ここはあれだ、もし一枠しかなかったらそれを賭けて勝負と行こうじゃん?」
『そんなこと言う?それなら望むところ。』
「よーし、じゃあ俺クリーム絞りの練習しよっと。」
『私も練習する。』
ミー子の対抗心に火がついたっぽい。
負けず嫌いですね。




