補習です
「もうちょっとこの字のクセをなくせないかな。」
「俺いうほど字汚いですかね?」
「うーん、汚いっていうか・・・言葉に例えるなら、鼻につく?」
「ひでえ。」
放課後、長谷部先生の補習に来た。
字が下手な生徒を対象に、という話だったが、案外俺みたいにそこそこ字がキレイなやつらも呼ばれている。
「なあ夏央、俺何で引っかかったの?」
そう、隣にいる京介みたいに。
「どうせ俺と同じ理由だろ。」
「俺の字も鼻につくの・・・?」
割と何でもできるし実技教科だって点数がかなりいい京介だが、長谷部先生はそんなに甘くなかった。
「で、なんで祈木はあんなに前に座ってるんだよ。」
「ほら、陽花は・・・ね?」
察したわ。
「あたしはスポーツ推薦でどうせ合格決まるはずだからこういうの参加しなくてもいいんだけどなー・・・。」
同じく俺の隣に座った五十嵐が机に突っ伏す。
「寝たら補習増えるぞ五十嵐。」
「えー、じゃあ絢駒くんがあたしの代わりに補習を受ければいいんだよー。」
なんという理不尽。
「ほらそこ!しゃべってないで字の練習!」
字の練習って小学生以来だな。
本当に汚い字じゃないんだけど・・・履歴書って字にそんなに厳しいの?
「級の字ははらいを直線で書いちゃダメ!ちゃんとしなやかな曲線ではらう!」
そういう字で全部書くとすげえ時間かかりそうだな。
「京介、こうか?」
「こうじゃないのか?」
「あたしには違いがさっぱりだよー。」
いや、俺の文字も京介の文字も特徴ってのがあるじゃん?
「ちなみに五十嵐のは?」
「え?あたし?あたしのは・・・別によくないー?」
あ。
「おいちょっと見せてみろ。」
「絢駒くん!?そんな手をつかんで・・・いやー!」
・・・ほらやっぱり。
「夏央のせいで五十嵐さんが前の方に連行されて行ったぞ。」
「少し申し訳なく思ってる。」
「これで夏央と二人きりだな。」
「やめろ気持ち悪い。」
「安心しろ、俺はバイだ。」
「その一言で全く安心できなくなった。」
さすがに冗談だろうけど。
やたら書きづらいような漢字の練習をさせられるけど、案外シンプルな漢字の方が綺麗に書くのって難しかったりする。
まあ俺の名字は画数が多いから、綺麗に書くのって面倒だったりする。
「そう考えると京介はうらやましいな。」
「え、何いきなり。」
「名字、そこまで難しくないだろ?」
「あー、確かに。美衣ちゃんも難しいよね。」
「鏡ってのが難しいんだよな。」
鏡崎・・・崎は簡単なんだけどな。
「介っていう字って、綺麗に書こうとすると案外難しいよね。」
「そうなんだよな、俺も央の字が難しくてな。」
「こう・・・曲げる?的な?」
「そうそう、俺の場合介の字の倍だからね、集中時間も倍ってやつですよ。」
「いやいや、介の字をお忘れかい?上の方もあるよね?」
「・・・そういやそうだったぜ、HAHAHA。」
そう考えると俺も京介もはらうところ多いな。
夏もそうだし、京もそうだし。
「一番簡単なのって誰だろうな。」
「んー、案外名前って誰でも難しいのかも。ほら、朝霞台さんとかいたら書くのも難しそうじゃない?」
「誰だよ朝霞台さん。」
「適当に浮かべてみただけ。」
適当にそんなもん思い浮かびますかね・・・?
「ものすごい書きづらいものだと、こんな字を書く人もいるらしいよ。」
そういって、京介が紙に漢字を書いた。
「・・・ああん?」
書いた、のはいいんだけど。
全く読めない。
え、なにこれ、蓼って書いてなんて読むの?
「夏央知らないかー、これ、蓼って読むんだよ。」
「読めるかっ!!」
読めねーわ確かに書きづらいわひっどい字だな!
めんどくさくてしょうがない。
「ちなみに有名な女優の本名にこの字が使われているんだぜ。」
「女優かあ・・・俺も知ってる人?」
「たぶん誰でも知ってるんじゃね?ほら、とんでもない題名で話題をかっさらっていったバレー映画の。」
「バレー映画・・・?ああ、おっ・・・んっ、んんっ!!」
危うく普通に言いかけた。
いかんいかん、今は補習中だ。
そうね、補習中にいきなり下ネタを言うわけにもいきませんね。
「なに、夏央、いつぞやのようにムラムラしてんの?」
「してねえわ。」
そういえばそんなことあったな。
うん、あの時は大変だった・・・気がする、うん。
「夏央、なんかさっきから一向に字が変わってなくない?」
「正直これでいいだろと思ってるんだけど。」
「惜しいんだよ絢駒くんは!もうちょい!もうちょっと!」
「いつの間に。」
前で指導していたはずの長谷部先生がいつの間にか隣にいた。
さすがに驚いた。
「なんかねー、ほんと、なんか鼻につくんだよね!」
それ先生の裁量じゃないですかー。
「というか、今日の補習っていつまで続くんだろうね?」
「俺にはさっぱりだ。」
でも長谷部先生のことだからかなりやりそう。
「というか俺はもうこれでよくない?」
京介がプリントを見せてくる。
確かに申し分ないと思うんだけど・・・。
「長谷部先生、これでどうですか?」
京介が先生にプリントを見せにいった。
「いいじゃんそれで!鈴波くんはその字を維持できるようにしよう!ほら、練習してって!」
「解放されなかった!」
長谷部先生は甘くなかった。
「今日本当に何時に帰れるんだ・・・?」
「受験生って大変なんだなあ・・・。」
たぶん長谷部先生がいるから大変なんじゃないだろうか。
せめてミー子が一緒にいたらもうちょっとがんばれるんだけどな。
「隣にいるのが野郎だからなあ・・・。」
「いきなり何の話!?ひどくない!?」
「静かにしましょうか?」
「ごめんなさい!」
ほんと、野郎だからなあ・・・。
「夏央は俺が隣だと不満なの?」
「ミー子よりは不満。」
「そりゃ彼女と友達じゃあね!俺だって陽花が隣の方がいいよ!」
「そんなの当たり前だろ。」
「知ってて言うんだ!?」
そんなことは百も承知だよ。
彼女よりほかの人がいいっていうのならもう彼女なんていらないだろ。
「美衣ちゃんが恋しいか。」
「当たり前だろ。」
「いつでもラブラブだな。」
「もう15年以上一緒にいるからな。」
「15年以上前って物心ついてないじゃん。」
「俺が赤ちゃんの時のアルバムにはすでにミー子が一緒にいたよ。」
「本当に付き合い長いんだなあ。」
「京介より11年くらい早いぞ。」
「そりゃあお互いよく分かってるよなあ。」
「・・・そうでもないぞ?」
「え?」
京介が目を丸くした。
そんなに驚くか?
「たまにわからなくなることだってあるよ。別に俺はミー子じゃないからな。」
「そうなんだあ・・・なんか意外だな!」
「逆に、全部お見通しだったら怖いだろ?俺はやだね。」
「あー、それもそうかも。」
分からないところがあるくらいでちょうどいいじゃんか。
「ちなみに夏央は美衣ちゃんのどんなところが分からない?」
「京介も分かるだろうけど、あいつ無表情のことが多いから、いまだに何を考えてるのか分からない時がある。」
「あー、それはさすがに俺でも分からないかな・・・。」
付き合いが長い俺でも分からないんだから、そりゃあ京介じゃ分からんだろう。
ミー子と付き合っている中で、何を考えてるのか分からないと思うことが一番多い。
あ、今照れてるな、とか、状況に応じてわかることはあるけど、基本的には表情が変わってくれないからほとんど分からない。
まあ、考える前にあっちから言ってくれることがほとんどだけど。
「祈木とはどうなんだよ。」
「この前彼女だって言って親に紹介したよ。」
「まじか、親喜んでたか?」
「もちろん、なんか母さんが張り切って夕飯作ってたよ。」
「そうか・・・うち張り切るとかそういうのなかったからなあ。」
「いや、夏央と美衣ちゃんはもはやどっちかの家にいるのがデフォルトじゃん?」
「そうなんだよな。」
付き合うってなっても全く驚かれなかったし。
「でもそこまで続いてラブラブなのってすごいよな。」
「なんで?」
「いやほら、長く一緒にいすぎて異性として認識してないとかないじゃん?」
「んー、そうだな、多分小学校の時からずっと女の子としてみてきたからかな。」
「大切にしてたわけだ。」
「そりゃあ・・・まあ、いろいろあったしな。」
「・・・そうだったね。でももう今は一緒にいて当たり前レベルだよな。」
「そうだなー、ミー子が隣にいないってのが考えられないな。」
「今は?」
「今は・・・ほら、補習じゃん?」
「はは、そうだよな。」
話しながら字の練習してたら字が崩れてきた。
やべ、ちゃんとやろ。
「今日合格できなかった人は来週の補習も参加するように!火曜日の予定を開けておいてください!」
合格できませんでした。
まあ京介も一緒だからいいか・・・。
「夏央、火曜は大丈夫なの?」
「火曜はバイトとかないから平気だよ。京介は?」
「俺はもう受験のためにバイトやめちゃったから平気。」
「すげえな・・・。毎日勉強って感じか。」
「まあそんなとこ。とりあえず慶應目指してみる。」
「とりあえずでそんなところ目指せる京介がすげえよ・・・。」
俺だったら絶対無理。
もし合格できる頭があったとしても緊張で腹下しちゃう。
俺あんまりメンタル強くないかも。
「久しぶりに一緒に帰ろうぜ。」
「いいじゃんいいじゃん、ゲーセン寄ってく?」
「ミー子が待ってくれてるから行かねえっす。」
「はは、了解。」
帰る方向が全く一緒というわけではないので途中までにはなるが、久しぶりに京介と一緒に帰るな。
「そういえば、俺とミー子は同じところ行くからいいけど、京介と祈木は進学したらどうすんだ?」
「お付き合いの話?」
「そうそう、遠くなっちゃうんじゃないのか?」
「まあ・・・俺が車の免許取ればいいかな?お付き合いは続けるつもり。」
「そっか、やっぱ仲良いんだな。」
「夏央と美衣ちゃんにも負けず劣らず、俺たちは仲良いよ?」
「意外だったんだけどなあ・・・。」
「まあ、運命ってやつ?」
「調子のいいこと言ってんな。」
まあ、こいつらの仲は心配するほどでもないか。
普段仲良くしているところはあまり見ないけど、俺らの見えないところでめっちゃ仲良くしてるんだろう。
俺とミー子は・・・まあ、わかりやすいからな。
「でも、中学から一緒だったし、夏央や美衣ちゃんと離れるの、結構寂しいかも。」
「そりゃまあ俺も・・・、でもあれだ、いつか俺らが開く店に来てくれればいいよ。」
「そん時はあれだろ!俺たちを客の第一号にしてくれるんだよな!?」
「さすがに親かな・・・。」
「に、二号でもいいぜ?」
「心配しなくても呼ぶって。だからその時には金をいっぱい持ってくるんだぞ?」
「それただ俺に売り上げに貢献しろって言ってるんだよね?」
「・・・HAHAHA」
「ただいまー。」
「なつくんおかえりー。」
くぐもった春姉の声が聞こえる。
あれ、リビングのドアが閉まってるな。
「おおー、涼しいなー!」
「暑かったからね、エアコンつけちゃったよ。」
春姉が少し申し訳なさそうに笑う。
「別に気にしなくていいと思うよ。帰ってきて暑いよりは涼しい方が全然いいからな。」
「だよね!リビングにいたらもうあっつくてー!」
つか春姉アイス食べてるじゃないですか。
俺も買ってくればよかった。
「ん、どうしたの?アイス?」
視線でバレました。
「あー、うん、俺もアイス買えばよかったなーって。」
「んっふふ~、アイスおいしいよ~?」
「その言葉はずるい・・・!」
買ってくればよかった!
どうしよう、今から買ってくるか。
でも買って帰ってきたら夕飯の時間だよな・・・。
風呂上がりのアイスはまた格別だけど。
「も~、仕方ないなあ、じゃあひとくちあげるよ。」
「まじかありがとう。」
「反応早いなあ・・・。」
春姉に見せつけられてめっちゃ食べたかった。
「はい、あーん。」
「・・・。」
「あれ、食べないの?」
「・・・狙ってた?」
「え、そ、そんなことないよ?アイス、いらない?」
「いや食べるけど。」
この人は全くもう。
狙ったのかそうじゃないのか分からないけど。
まあいいやいただこう。
「おいしい?」
「やっぱ夏はミカンシャーベットだな!」
「これレモンだよ!?」
「ミカンの方が俺は好き。」
「・・・なまいきだなー!?」
「ありがとう、おいしかった!さらばだっ!」
言いたいこと言って部屋に戻る。
もう一度言う。
ミカンの方が俺は好き。
「あー・・・、作文を出さなきゃいけないのか。」
作文かー・・・。
入試の時に作文とか書けるかな・・・。
緊張して書けないかもしれない。
つか作文ってミー子苦手じゃなかったっけ。
まあ、頑張りが伝わればいい・・・か?
AOでも特待生制度とかあるのか・・・へー、クリーム絞りが課題か。
一応できないこともないけど、上手にできるかな。
一回店長に見てもらおうかな。
まあでもまずは面接と書類か・・・。
面接、ちゃんとできるかな。
満を持して挑むためにも、長谷部先生に見てもらわないとだよなあ。
筆談のミー子がちょっとだけうらやましい。
でもどうなんだろう、焦って字が汚くなるかもしれない。
それはそれで字を見て判断されそうだな・・・。
結局は考えながら話すのがいいのかな・・・。
何か眠くなってきたな。
夕飯までは多分まだ時間あるし、ちょっと寝るか。
『あなたが高校時代に頑張ったことを教えてください。』
「えっと・・・その、バイトをがんばりました!」
『バイトの内容について、お聞きしてもよろしいですか?』
「はい!喫茶店で、厨房のバイトをしていました!お菓子を作ることに一生懸命で、たまに新メニューの考案もしていました!」
『では、高校の学生生活の中で印象に残っていることを教えてください。』
「まあ・・・修学旅行ですかね。沖縄に行きまして、水中観光船で海の中を見たのが思い出です。」
『部活は何をされていましたか。』
「あー・・・部活には入っていないですね。バイトで、お菓子を作るのが好きで、そっちを優先していました。」
『では、あなたがこの学校に入学したらやりたいことを教えてください。』
「えーっとですね・・・。」
「ってこの受け答えだめだろお!?」
・・・ああ、夢か。ってまだ15分しか経ってないじゃん。
びっくりしたー・・・あれが現実だったらきっと落ちてた。
・・・俺、本当に面接の受け答えとか大丈夫かな。
今の夢で一気に不安になってしまった。
さすがに一般試験は嫌だし、AOで一発で決めたいからな・・・。
面接練習、ちゃんとやらないと。




