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Please speak!  作者: 長野原春
81/113

受験準備中です

「じゃあ、絢駒くんの面接練習はこれで終了ね。」

「ありがとうございます。」

 放課後、進路指導室で面接練習を受けに来た。

 AO入試といえば面接があるからな・・・。

「絢駒くん、受け答えは悪くないんだけど、もうちょっと声を大きくしようか。」

「分かりました。」

 声が小さくなるのは学校内で怖いと有名のあなたが担当だったからなんですけどねえ。

 進路指導担当の長谷部(はせべ)先生。

 生徒を想ってのことだが厳しい言動が有名で、面接練習では泣かされた生徒がたびたび目撃されている。

「あと、『えー』とか『まあ』は絶対禁止。質問がよく聞こえなかったらちゃんと『もう一度お願いします』って言っていいんだからね?」

「あ、ありがとうございます。」

「あと、履歴書の字、もうちょっときれいに書こうか。」

「え、あれで精一杯なんですけど・・・。」

「じゃあ今週の木曜日の放課後に補習に参加してね。」

 うわマジか。

「なんの補習ですか?」

「履歴書の字がキレイじゃない生徒を対象に、字の指導。」

 高校生にもなって字の指導があるんですか・・・。

「絢駒くん、ペンはどうやって持ってる?」

「こう、ですかね・・・。」

「うーん、持ち方は悪くないんだけどなー。やっぱり書き方ね。よし、絢駒くんは補習けってーい。」

「バイトなくてよかった・・・。」

 ・・・てか、俺より字がキレイじゃないミー子はどうなるんだ。


『私は字の補習はスルーですよ。』

「なんでだよ!?」

 俺よりきれいじゃないはずなのに!!

『なっちは去年の記憶が無いようですねえ。』

「去年・・・あっ!!」

 そういえばミー子は字が汚いんじゃなく、普段手抜いて書いてるだけだった!!

『というか、なっちもそれなりに汚くないはずなのに、補習なのね。』

「長谷部先生は厳しいからな・・・。」

『毎年の3年生の壁らしい。』

「小柄な先生なんだけどな・・・。」

 ただ身長とか関係なく、でかいオーラが出ている。

「ちなみにミー子、面接練習はどうするんだよ?」

『筆談だからしゃべらなくていいし楽よね。』

「あっ、ずるいなー。」

『ハッハッハ。』

 えー、とかまあ、とかがないわけだ。

 くっそ、それならミー子がしゃべれるようになってこの面接の会話の難しさを知ってもらいたいぜ。

『またお菓子の練習もしないとね。』

「夏休みは練習しまくりだな。」

『本番に向けてね。』

「そうそう。」

 実際、自分たちの作ったものがどういう評価を受けるか分からない。

 分からない以上は、自分たちができる中で一番いいものを作るしかないだろう。

『じゃあ今日も練習しちゃおうよ。』

「今から?もう6時だぞ?」

『うちに材料あるんだ。簡単にできるやつ。』

「簡単なやつか・・・。」

『そうそう、作るだけなら30分、冷やすのに1時間くらい。』

「あ、だいぶ時間かからないですね。」

『でしょ?今から作ればデザートの時間には間に合いますよ。』

「で、何を作るんだ?」

『ティラミス作ろ。』

「お、いいじゃん。」

 ティラミスなー、俺大好き。

 確かにあれなら手軽にできるな。

『私カフェ作って生クリーム泡立てとくから、なっちはたまごとかお願い。』

「了解!」

 じゃあまずは卵黄と砂糖を混ぜていこう。

「ミー子の家はハンドミキサーが2つあるからいいよな・・・。」

『なっちの家で作る時は私が持ってきてるじゃん。』

「いや、持ってく手間が省けるしうちにももう1つ欲しいなあってね。」

『贅沢言いなさんな。』

「そうだなー。」

 混ぜているとだんだん細かい白い泡ができてくる。

 うん、このくらいか。

 次はマスカルポーネを入れて・・・均一になったら残り半分とラム酒を追加。

『ちょうど生クリームが出来上がったぜ旦那。』

「さっすが俺の嫁。」

『そういう意味で言ったんじゃないんだけどな・・・。』

 ミー子の顔が赤くなった。

「ほらほら、続きやるぞ。」

『もう。』

 生クリームの半分をマスカルポーネクリームに混ぜる。

『私フィンガービスケットの準備してるよ。』

「おう、ありがとな。」

 ミー子の手際が非常に良くて助かる。

 2人でやれば最強ね。

 混ぜるときは泡を潰さないようにさっくりと混ぜる。

 そしたらもう半分の生クリームを入れて、さっきと同様均一になるようにさっくりと混ぜる。

『ビスケットも準備終わったぜ。』

「準備終わるタイミング最高すぎるだろ。」

『すべてなっちに合わせている。』

「俺の隣で一生そうしててくれ。」

『もちろん喜んで。』

 会話をしていても、手は止めない。

 容器の一番下に薄くクリームを置く。

 その上にカフェに浸したビスケットを置き、またその上からクリーム。

 後はこれの繰り返しだ。

 またビスケットを乗せて、さらにその上にクリーム。

 一番上は表面になるからきれいにならします。

『私がココアパウダーをかけるぜ。』

「お好きにどうぞ。」

『ていやっ。』

 ココアパウダーをかけたら完成。

 あとは冷やすだけだ。

『やっぱり簡単だったね!』

「手軽だな!」

『さあなっちの家に持っていきましょう。』

「俺の家か?」

『そうそう、今日も夕飯はなっちの家で食べさせてもらいますよ。』

那空(なあ)さんは?」

『お母さん、最近仕事が忙しいのか帰ってこないこともありましてね・・・男でもできたのかしら。』

 那空さんに男か・・・。

 仕事が生きがいみたいな人だしちょっと考えづらいけどな。

『でもちょくちょく連絡入るけど、めっちゃ仕事してるよ。』

「そんな感じするわ。」

『で、今日も忙しいみたいだからなっちのところで食べさせてもらってって。』

「母さんに連絡してあるのかな。」

『お母さんがいつも事前に連絡してるから大丈夫よ。』

「そうなのか。」

 あの2人も相当仲良いし、普段から連絡とりあってるんだろうな。


「え?秋穂さん?今日飲み会だよ?」

 リビングにいた春姉に聞いたら、そんな言葉が帰ってきた。

「なんで俺に言ってくれねえんだよ母さん!!」

「なつくんが起きるの遅いからだよ・・・ギリギリまで寝てちゃダメだよ?」

「だって眠いじゃん。」

「眠いのは分かるけど、大事な情報は逃さないようにしないと、ね?」

「そうだけど・・・。」

 朝は眠いんだ、仕方ないんだ。

『じゃあ誰かが夕飯を作らないといけないわけで。』

「まだお父さんも帰ってきてないしね。なつくんと美衣ちゃんは休んでていいよ!今日は私が作ります!」

 わーい春姉の料理だー。

「あ、何か作ったんだ?」

「俺とミー子でティラミスをね。」

「食べていいの!?」

「みんなで夕飯の後にな。」

「やったー!」

 春姉が無邪気に喜ぶ。

 なんというか、22に見えない。

『ちゃっちゃと作ったものなので味は保証しません。』

「えええ!?」

『嘘です。ちゃんと作ってます。』

 不安にさせるようなこと言うなよ。

「じゃあ私も今日は張り切って夕飯作っちゃうよー!」

 ティラミスが嬉しかったらしい。

「父さんの分も残しておかないとな。」

「お父さんいつ帰ってくるのかな?」

「春姉何も聞いてないの?」

「うーん、連絡は来てないかなあ。」

 まああの父さんのことだし、適当に帰ってくるかどこかで飲んでるかだろう。

『うーん、私も料理したいな。』

「まあ、春姉がやるって言ってるし、任せちゃっていいだろ。」

「・・・・・・・・・ぅ。」

 うなずいたってことは「うん」って言ったのか。

「天使みたいな声が聞こえて何事かと思ったぜ。」

「・・・(どす)。」

「いってえ。」

 やっぱり声をほめられるのはお気に召さないらしい。

 可愛いのに。

「美衣ちゃん、少しずつ声が出るようになったんだねえ。かわいいねー!」

『ハルさんまでやめてください。ほんとやめて。』

 どんだけ嫌なんだよ。

「自分の声、そんなに嫌か?」

『声が戻るのはすごく嬉しいよ。でも成長してないのは全く嬉しくないよ。』

「別に馬鹿にされるとかそういうわけでもないんだから。」

『アニメ声だね、とかロリボイスだねとバカにされそうだ!』

 どうなんだろ、俺はバカにするつもりなんてないけど・・・。

『でもあれか、エッチするときになんか背徳的な何かが。』

「経験ないので知りません。」

 確かにそう考えると合法ロリってやつなのかもしれない。

 だからといってなんだということでもないけど。

『なっち顔赤いね。想像した?』

「そういうことじゃなくてだな・・・。」

 いや、実際想像した。

 彼女にそんなこと言われちゃったらね、そりゃ想像もしちゃいますよ。

『一緒にお風呂でも入る?』

「入りません。」

『つれないねえ。』

 だってこの子絶対くっついて来たりするでしょ。

 俺の理性が持たない。

『いつぞやのなっちは情熱的だったような気がするけど。』

「今その話やめない?」

 あれだろ、俺がミー子に本気で手を出しそうになった日のことだろ。

 思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしいんだよ。

『思いっきり私の胸触ったもんね。』

「やめよって。」

 そういえばそんなことしましたね。

 忘れてないですよ。

『まあこれ以上やるとなっちが泣いちゃうからやめておくね。』

「泣かねえよ。」

 どんなメンタルだよそれ。

『でも私なっちのそういう照れた顔大好きなのよ。』

「Sっ気かな?」

『さすがにいじめてみたいとかは思わないけど。』

 俺もいじめられるのは嫌ですが。


「ん~!ティラミスおいしー!」

 春姉が笑顔でティラミスを食べる。

 うん、こういうのやっぱいいな。

『大成功ですな。』

「そうだな。」

『私にも食べさせて。』

「あーん的な?」

「・・・(こくり)。」

 してあげたいけど。

 してあげたいんだけど、目の前に春姉がいるからなあ。

 冬姉や母さんならバカにされるくらいで済むんだけど、春姉だからなあ。

「ごめん、今はやめとく。」

『そっかー。』

 ごめんよミー子。

「デザートにこんなものが食べられるなんて私は幸せだなあ!」

「そういってもらえて何よりだよ。」

「私も今度何か作るね!」

「じゃあ、期待してる。」

 基本的に俺らが作っちゃうから春姉が作るお菓子ってあんまり食べたことがない。

 料理上手な春姉のことだし、お菓子だってパパッと作れちゃうんだろう。

『なっち、私たちがお店出したら、いつでもみんなのこういう顔が見れちゃうよ。』

「そりゃ楽しみだな。」

 子連れの母親なんかが買いに来たりして、子どもの喜んでいる顔とか、見れたらきっと仕事も楽しいだろう。

 お菓子は人を笑顔にするもんだからな。

『なっちとお店開くの楽しみだなあ。』

「俺も楽しみだよ。」

『その時はきっと私の名字も変わってるかもね。』

「あ・・・。」

 そっか。

 確かにそうだ。

 もしかしたら、その時にはミー子の名字が鏡崎じゃなくて絢駒になってるかもしれないのか。

「2人して何の話?」

『私の名字が変わるかもねって話です。』

「名字・・・結婚!?なつくん、結婚するの!?」

「ま、まだだよ?」

「いつかするんだね!?その時はいっぱいお祝いするね!お酒たくさん持ってく!」

「いらないです。」

 絶対この人には飲ませないぞ。


『補習って明日だっけ?』

「いや、木曜って言っていたし明後日だな。」

『そっかそっか。』

「明日はミー子バイトだよな?」

「・・・(こくり)。」

 ミー子が俺のベッドに寝転がる。

 ミー子の家の方を見ると、明かりはついていない。

 那空さんも、まだ帰ってきていないようだ。

『私、早くなっちと一緒にお店開きたいな。』

「まあ、それするためにはどっか別のところでの下積みとかが必要だろうけどな。」

『そうだね、そこまでが問題だなー。』

 下積み時代に挫折する人も多いと聞く。

 俺も、大丈夫かな。

『専門学校ってさ、結構スケジュールが厳しいらしいよね。』

「2年くらいしかいられないもんな。」

『そしたら、なっちと一緒にいれる時間も減っちゃうかな。』

「うーん、一緒のところに行くわけだし・・・どうだろ。」

 実際、忙しさは今より段違いになるだろう。

 もちろん、手を抜くことなんてできないし。

『じゃあそうだね、今のうちにいっぱい甘えておこう。』

「甘えるって言ったって何するんだよ。」

『えっちなことはしなくてもいいからさ、ちょっと来ておくれよ。』

 ミー子がぽんぽんとベッドをたたく。

「ここでいいのか。」

『そうそう。動かないでね。』

 ミー子が移動し、そのまま俺の目の前までくる。

 俺に乗っかって、足を絡め、抱き着いてくる。

「結構恥ずかしくないですかね、この態勢。」

『密着感あるよ。いいよこれ。』

 いいと言われましても・・・。

「お、俺的には、落ち着かないんだけど。」

『えっちな動画でこういうの見たことあるから?』

「べべべべ別にそういうわけじゃねえし。」

 いや、うん、確かに見たことある。

 そう言われると意識しちゃうじゃないですか。

『大丈夫、今はちょっとなっちのそばにいたいだけ。いつも、そばにいてくれてありがとう。』

「そりゃこっちのセリフだな。俺も、ミー子がいつも近くにいてくれて嬉しいよ。」

『お互い様だね、やった。』

 ミー子がぎゅっと腕に力を込める。

「・・・(ぽんぽん)。」

 背中を軽くたたかれる。

 俺もやれってことか。

「・・・んふー。」

 同じことをしてやると、ミー子は満足げに息を漏らした。

 正直、耳にかかってくすぐったい。

『だんだんエッチな気持ちになってきた?』

「離れていい?」

 なりそう。

『いや~、堪能しました。』

「そりゃよかった。」

『やっぱりなっちと一緒にいるのが一番落ち着ける。なっち大好き。』

「そうだな、俺もミー子の隣が一番落ち着くかな。」

『つまりこれがいい雰囲気ってやつだな!?』

「そうかもな。」

 ミー子が肩に頭を乗せてくる。

『さっき、結婚の話をしたじゃない。』

「ああ、夕飯の時のか。」

『そうそう。なっちはさ、私のことはもらってくれるの?』

「できるのであれば、ミー子はいつでも歓迎だな。」

『そっかそっか。』

 俺の答えに反して、ミー子の反応が少しそっけない。

「もしかして照れてる。」

『うるさいバカ。』

 ・・・あー、やっぱかわいいなあ。

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