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Please speak!  作者: 長野原春
78/113

パパの出番です

「・・・。」

 リビングのソファで、腕を組んだ父さんが座っている。

「・・・。」

 そして、父さんを前に正座をする京介。

 今日は、久しぶりに京介が家に来た。

 というか何だこの重い雰囲気。

 別に初対面ってわけじゃないだろ。

「・・・。」

 ポン、と父さんが京介の肩に手を置いた。

「・・・。」

 神妙な面持ちで父さんを見つめる京介。

 そして、

「だーっはっはっはっはっはっは!!!まさか京介くんが考古学を志望しているとはなあ!!!」

「いやあ!!!俺も清松さんが考古学者だとは知りませんでしたよ!!!」

 父さんと京介がぐっと固く握手をする。

「聞いておきたいんだが、京介くん、本気か?」

「今の時点では、一番やりたいことです。」

「そうかそうか!じゃあ今日はこの俺が京介くんに考古学の素晴らしさを教えよう!!」

 うん、やっぱり父さんはこうなると思ってた。


「まあ考古学者っていうのは、世界中にある遺跡なんかを発掘して、そこから昔の人類は何をしていたのか、また生活がどう変化していったのかということを考える職業だ。俺は今は個人で研究を進めて論文を書いたり、あとはたまに大学に呼ばれて講義をしたりしてる。」

「発掘・・・世界中ってことは、もちろん外国もですよね?」

「ああ、むしろ発掘の仕事は外国がほとんどだ。よその国でプロジェクトチームを組んで、何日間にもわたって遺跡の発掘をするんだ。発掘されないことには何も始まらないからな。だから、案外体力仕事なんだ、まあ、京介くんは夏央より体力ありそうだから、大丈夫だろうな!」

「おい何で俺を引き合いに出すんだ。」

 ひどい。

 なにも俺と比べなくたっていいじゃないか。

 分かってるよ俺の体力があんまりないことなんて!

 普通にミー子に負けるからね!

『呼ばれた気がした。』

「呼んではないな。」

 隣にいつの間にかいたミー子に冷静に対応する。

 もう慣れた。

『どういう状況?』

「見たらわかるぞ。」

「・・・?」

 京介が、右手をばっと上げた。

「清松さん!質問があります!」

「はい京介くん!」

「考古学者のやりがいって何ですか!」

『なるほどね。』

 やりがいか。

 考古学者ってどういうやりがいがあるんだろう?

「やりがいな、そりゃあたくさんあるってもんよ!いろんな遺跡に触れることでな、もっと知りたい、もっとこのころの文化を学びたいっていう知的好奇心ってやつか、あれが止まらねえんだよ。それにな、もしかしたら、自分の発見が世紀の大発見になるかもしれないんだぜ?どうだ?ワクワクしないか?」

「めっちゃワクワクします!」

「よおし京介くん、うちの大学に来てくれればいいぞ!」

「行きます!」

 京介の進路決まっちゃった!?

「ちょっ、京介、大丈夫なのか?」

「なんか俺、清松さんの下でならできる気がする!」

「俺も普段は大学で研究してるし、京介くんが来てくれたら大歓迎だ!」

『京介くんが考古学か・・・頭いいし、いいんじゃない?』

 いや、いいとは思うんだけど!

「父さん、考古学者で辛いこととかないのかよ!?楽しいところだけじゃないだろ!?」

「んっ、そうだなあ・・・まあ、稼げるようになるにはちょっと時間がかかるな。大学院に進んで、まず論文を書かなきゃいけないし・・・日々地道に頑張っていくしかないな。」

「大丈夫です!地道に勉強するのは好きです!」

「あと外の仕事が多いから、夏は暑いし冬はめっちゃ寒い。かなりの体力仕事なんだよ。大丈夫か?」

「頑張りたいです!もし俺の体力がまだ足りないなら、大学に入ってから体力づくりします!」

「そうかそうかその意気だ!今度うちの大学のパンフレット持ってくるからなー!」

「ありがとうございます!」

 おおすげえ・・・京介の進路決まっちゃったよ。

「進路のことどうするんだ?谷岡先生に言うの?」

「あ、そうだそうだ、先生に言わないと!」

『進路決まりましたって言うの?』

「そうそう!俺まだ決まってないんですって言ってたからさ!先生も安心すると思う!」

 確かに決まってないよりは決まってた方が安心するか・・・。

「夏央、どうしたの?そんな心配そうな顔して。」

「いや・・・まあ、ちょっと・・・。」

「え、何その反応。よくわかんないけど、言いたいことあるならはっきり言ってくれよな!」

「あー、まあ、もし京介が本当に考古学者になったらの話なんだけど。」

 これは京介ではなく、今であれば祈木の話だ。

 俺の実体験になっちゃうんだけど。

「海外での調査とかになるとさ、結構な時間、日本に帰ってこれないんだよ。京介にとってはいいかもしれないけど、まあ例えば・・・祈木と結婚したとしてさ、子どももいるとしよう。長い間家を空けるのって、結構相手が心配になるもんなんだよ。まあ、なんつーか、俺も、父さんが海外に言ってる間、正直寂しかったんだ。それでも、大丈夫か?」

「な、夏央、寂しかったのか・・・。」

「当たり前じゃんか。母さんも仕事で家にいる日が少ないし、夜、俺と春姉だけっての、結構寂しいんだぞ?そういう家族のこととか、考古学者を目指すんだったら、京介もそういうとこ、考えた方がいいぞ。」

「あ、そっか・・・そういうところか・・・。」

 まあ、そこを分かってもらいたいってだけの話。

 自分のことだけじゃなくて、残される側のことも、ね。

「美衣ちゃんは、例えば夏央が一人でしばらく海外に行くってなったらどうする?」

『正直すげえ嫌。なっちがどっか行っちゃうくらいなら、私がなっちについて行く。』

「さすが美衣ちゃんだね・・・。」

「いや、俺もミー子と離れたくねえ。」

「夏央も美衣ちゃんも、しばらく引き離したらどうなるんだろうな・・・。」

『発狂する。』

「そしたら美衣ちゃんの声も戻るんじゃ?」

『たぶんそんなんじゃ戻らない。』

 ・・・というか、ミー子の声はいつになったら戻ってくれるんだろう。

 正直なところ、多分もういいところまで来てると思う。

 あともう一つ、何かとっかかりが必要なのかもしれないが・・・。

「ミー子、ちょっと声出す感じで踏ん張ってみてよ。」

「・・・!」

 口を開けて何か言いたそうにするミー子。

「今なんて言おうとした?」

『あ。』

 声出そうとしたのね。

「もっかい!」

「・・・かひゅっ。」

 それは声とは言えない。

 掠れた吐息だ。

『なんか出そう。』

「何が出るんだよ。」

「・・・げほっ。」

 咳じゃねえか。

「はい、ミー子、あー!」

「・・・・・・・・・・・・ぁ。」

「!?」

 今出なかったか!?

 ちょっとそれっぽいの出なかったか!?

「美衣ちゃん今声出たんじゃないの!?」

 京介も反応する。

「え、声なんて聞こえたか?最近父さん耳が遠くなってきたのかな?もう年かぁ・・・。」

 勝手にしょんぼりしてる父さん。

 年かどうかは知りませんが。

「ミー子、今出たよな!?」

『多分、出たような気がする。』

「しゃべれる?」

「・・・(ふるふる)。」

 それはできないらしい。

「というか、興奮しすぎてどんな声かわからなかったんだけど、もっかい聞かせて?」

「・・・・・・・・・ぇ。」

「・・・なあ、ミー子。」

『それ以上言わないでくれ。私の危惧していたことが起きている。』

 ミー子から聞こえた声 (のようなもの)は、予想していた以上に高かった。

 それこそ、ミー子が声を失った時と同じような・・・。

『ごめん、喉痛いわ。これが限界。』

「そ、そうか。無理させてごめんな。」

「・・・(ふるふる)。」

 ミー子が首を振った。

 そして、俺にケータイを向ける。

『希望が見えた。ありがとう。』

「そ、そうか。俺も早くミー子の声が聞きたいぜ。」

『頑張る!』

「やべえ、俺も今美衣ちゃんの声聞いちゃった気がするよ!」

「京介も聞こえたのか?」

「ああ、なんというか・・・ロリ声?のような・・・。」

『やべえ、私の声変わってない!!』

 ミー子の顔が焦りに変わった。


「そういえば京介くん、うちの大学のパンフレットをと言ったけど、どうしようか?住所を教えてくれたら郵送することもできるが。」

「分かりました!住所だったら夏央の家のパソコンに入ってなかったっけ。」

「あ、そういえば入ってるな、年賀状関係で。」

「分かった!じゃあ明日にでも届くと思うぞ!」

「清松さん、今日はありがとうございました!」

「いやいや!こっちとしてもうれしいことだからな!俺も大学で待ってるぞ!」

「はい!」

 京介がルンルンで帰っていく。

 考古学者かあ・・・。

『なっち、京介くんに考古学者やってほしくないんでしょ。』

「ん、まあ・・・残される側の気分を知ってるからな。」

『そりゃ仕方ないね。』

「美衣ちゃん、今日はうちで夕飯を食べていくのか?」

『はい、今日はお母さんが遅いので。』

 夕飯の時間まではまだ結構あるので、ミー子の部屋でゲームをすることにした。

「そういえば最近パラロスやってなかったな。」

『まあ今テスト期間だしね。それに受験とかで忙しいし。でもまあ、ちょっとした息抜きなら問題ないでしょうよ。』

 コントローラーを握るミー子。

「久しぶりにミー子と対戦がしたいな。」

『お、負けないぞ。』

 キャラクターを選択してミー子との一騎打ちが始まる。

 俺は安定のメタトロン、ミー子もいつものサンダルフォンだ。

 メタトロンは近接戦、サンダルフォンは遠距離戦が得意だ。

 つまり、間合いに持っていくことができれば、俺だってミー子に勝てる!

「・・・が、そこを何とかしてくれないのがミー子さんだ。」

「・・・(こくり)。」

 なかなか俺の間合いに入ることができない。

 ミー子の遠距離攻撃で体力がちょとずつ削られていく。

 くそっ、近づいて一撃できれば一気に体力を持っていくことができるのに。

 遠距離タイプのサンダルフォンは防御力が低いから、連続攻撃に持っていければ・・・。

 何か、ミー子を崩す攻撃は・・・。

 ・・・そうだ。

「・・・にしても、さっきのミー子の声、可愛かったよなー。」

 ミー子の手が止まった。

 もらった!

 間合いを切り詰め、がら空きになったサンダルフォンの身体に連続攻撃を叩き込む。

「イェーイ!!」

『卑怯過ぎません!?』

「揺さぶりにかかるミー子の負けだー!」

「・・・(どす)。」

「いてえ。」

 物理攻撃をくらった!

「なにすんだ。」

『ちょっと気にしてるからやめろ。』

 気にしてんのかい。

 可愛い声だしいいと思うんだけどなあ。

「でもまあその・・・。」

 ミー子の身体をぎゅっと抱きしめる。

「久しぶりに、7年ぶりにミー子の声が聞けたよ。」

「・・・(ぎゅ)。」

「いいじゃん、可愛い声してたよ。」

「・・・(ぽか)。」

 どうやら自分のロリボイスはお気に召さないらしい。

『ちゃんと、声出してしゃべれるように頑張るよ。』

「ああ、楽しみにしてるよ。」

『そういえば、病院に行かないとね。』

「ああ、二五市(にこいち)先生に報告しないとな。」

『お母さんにも、言わないと。』

「そうだな、言わなきゃいけない人がいっぱいいるよな。」

『ちゃんと喋れるようになったら、みんなにありがとうって言わないと。』

「ああ、いろんな人に支えてもらったもんな。」

『本当に、よかったなあ。』

 そこまでいって、ミー子が泣き出した。

 よっぽど嬉しかったんだろう。

 小学5年生から今まで7年間くらい、ミー子はずっと声が出せなかったのだ。

 もう声が戻ってこないかもしれないと思うこともあった。

 それでもやっと、たった一音だけど、声が出たんだ。

 俺だって、この時を待ち望んでいたんだ。

「ほんと、よかったな・・・!」

「・・・(こくこく)!」

 泣いて笑いながら、うなずくミー子。

「まったく、忙しいやつだ。」

 ミー子の頭をなでる俺も、すでにちょっと泣きそうだ。

 次は、ちゃんとミー子がしゃべってるところを見たい。

 きっと、そう長くないうちに聞けるだろう。

「おいおいミー子、目が赤いぞ。」

『泣いてんだから仕方ないだろ。』

「それもそうだな。」

『まったく、なっちはおバカさんですね。』

「え、知らなかったの?俺ってバカなんだぜ。」

『前から知ってたよ。ずっと前からね。』

「さすがだな。」

『当たり前じゃん。いつから一緒にいると思ってるのよ。』

「いつだったかなあ。」

 いつから一緒にいたとかもう覚えてないよ。

 物心ついた時には一緒にいたもん。

『私これから毎日ボイストレーニングしますよ。』

「声出すと喉が痛いんじゃなかったのか?」

『無理しない程度で。』

「そっか、それだったら応援するよ。」

『絶対しゃべれるようになるからさ。待っててね。』

「ああ、待ってるぞ。」


 Side 美衣

 やっと、やっと!

 ちょっとだけだけど、私の声が・・・!

「・・・・・・・・・・・・・ぇっ、げほっ!」

 まだ出すには喉に負担がかかるけど、声が出た!

 まあ、まさか声が出なくなった時と変わってないとは思わなかったけど・・・。

 それでも!

 これで私の声は出るんだって言う確証が持てた!

 よかった・・・ほんとによかった!

 病院では声が出るかもとは言われたけど、正直言うとこれから一生声が出ないんじゃないかって疑ってるところがあった。

 もう、なっちに私の声を聞かせてあげられないんじゃないかって。

 もしちゃんと声が出るようになったら、その時はなっちになんて言おうか。

 なっちに一番最初に言う言葉。

 大好き?

 それとも・・・これからも一緒に?

 ・・・いや、やっぱりまずは、ありがとうからだよね。

「ただいまー。お風呂沸いてるー?」

 お母さんが家に帰ってきた。

 まずはお母さんに聞かせてあげないと。

「・・・・・・ぉ!」

「え、あれ!?美衣!?」

「・・・げほっ。」

「い、今、小さいけど声が・・・?」

「・・・(こくり)。」

 呆然とするお母さん。

 でも、よく見ると目に涙が溜まっていってるのが分かる。

「美衣!よかったじゃない!」

 お母さんが抱き着いてくる。

 ちょっと待って、やめてよ。

 そんな泣きながら来られたら私も泣いちゃうじゃない。

『まだちょっとしか出ないんだけどね。』

「それでもいいのよ!少しずつでも、自分の声を取り戻していけばいいの!」

『私ちゃんと声を出せるように、頑張るからね。』

「お母さんも応援してるからね!」

「・・・(こくり)!」

 そうだ、まだ報告しなきゃいけない人たちがいた。

「・・・。」

 仏壇の前で手を合わせる。

 最後に会ったのはいつだっけ。

 私は入院してて・・・ずっと寝てたから、最後にいつ会ったのかも覚えてないんだよね。

 お葬式にも、火葬にも行けなくて。

 次に会ったのは、無機質な墓石と、写真だけだったよね。

 ごめんね、私、何もできなかったよね。

 本当に、親不孝な娘でごめんなさい。

 風羽(ふう)も、ごめんね。

 あれから、声を失ってから、本当にいろいろなことがあったけど。

 お父さん、風羽、私ね、やっと声が出たんだよ。

 まだ、掠れてほとんど聞こえないような、小さい声だけど。

 次は、私がちゃんと喋ってるところを、見せてあげるから。

 それまで、どうか見守っててください。

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