鎌谷くん撃退作戦
鎌谷はあれ以降、鎌谷が特にかまってくるようなことはなかった。
諦めてくれたのかと安堵したミー子と俺は、受験に集中するために先生との面接練習や小論文の練習、お菓子作りの練習にいそしんだ。
1ヶ月ほど経っただろうか、ミー子がびくつきながら俺に抱きついてきた。
「どうした!?」
「・・・(びくびく)。」
ミー子は震えて何も話してくれない。
「ミー子?話してくれないと分からないぞ?」
『鎌谷くんです。』
「は、鎌谷!?」
「・・・(こくこく)。」
なりを潜めたんじゃねえのかあいつ!
そろそろテストも近づいてくるっつーのにめんどくせえなあいつは!
・・・もしや俺らの受験を壊すために動いてるとか?
考えすぎか?
「何かされたのか?」
『朝走ってたのよ。』
「ほう。」
『そしたら鎌谷くんがいて。』
「それだけか?」
「・・・(ふるふる)。」
「追いかけられたとかか?」
『先回りしてたのか、分身したのか、3回も私のことを覗いてて・・・。』
何それ怖い。
『行く先々にいるもんだから怖くて・・・、そんでもってなっちの家に行こうとしたら、私のこと見てて。』
「近くにいるってことか!?」
『もうどっかに行っちゃったみたいなんだけど!』
あの野郎この期に及んでストーカーを働くとは。
「先生に相談してみるか?」
『その方がいいのかな。』
ミー子が涙目になっている。
こんなミー子は見たくない
おのれ鎌谷の野郎・・・!
「ぶん殴ってやろうかあいつ。」
『なっち勝てるの?』
心配してくれるのは分かるけど、なんか恥ずかしいなその質問。
「大丈夫、今実はけっこう怒ってるんだ。」
『バーサーカーなっち爆☆誕。』
「震えてるぞ。強がらなくていい。」
「・・・(ぎゅう)。」
俺に抱きつく力が強くなる。
相当怖かったようだ。
『なんで私ばっかりこんな目に遭うんだろ。』
ミー子が悲しそうな顔をする。
ほんと、なんでミー子ばっかりこんな目に。
「んで、俺も話を聞けばいいのかな?」
というわけで、京介くんに協力を仰ぎました。
「すまんな京介、俺一人だと多分ダメだ。」
「いいのいいの。俺も結構思うところがあるしね?」
突撃は今日の放課後、俺と京介で鎌谷に仕掛ける予定だ。
「ま、まあ勘違いするなよ!?夏央じゃなくて、美衣ちゃんのためなんだからね!?」
「へいへい、ありがとさん。」
ミー子のためならそれでいいし。
「俺だって美衣ちゃんは大切なんだからな!俺もその・・・幼なじみとしてカウントしてくれるだろ!?」
「中学って幼なじみって言うのか?」
「大丈夫!13才ならまだ幼い!」
「そ、そうか・・・。」
じゃあこいつも幼なじみでいいか。
「ねえ開耶、見てあれー、絢駒くんも鈴波くんも殺気立ってるー。」
「ほんとだ花乃子ー、2人ともこわーい。」
・・・え、俺たちそんな悪い顔をしてましたかね?
「普段の優しい雰囲気のかけらもなーい。」
「そんな2人を見たのあたし初めてー。」
「そ、そうか。あー、去年ならもっとすごいものが見れたかもな?」
京介が苦笑いで答える。
あー、去年な。
そういえば停学になったなー。
あの時の俺、どんな顔をしてたんだろ。
「えー、やだー、絢駒くんったらこーわーいー。」
「そのころの絢駒くんをあたしに見せてー。」
「いや、多分ガチでやばいやつ。」
「ああ、夏央、停学になったもんな。」
それを聞いて、秋島と五十嵐がぎょっとする。
「え?絢駒くんだよ?こんなになんというか、強そうな見た目じゃないのにー?」
「あたしもそう思うなー、どう見ても戦闘タイプじゃない。」
「だろー?キレると夏央は案外怖いんだぜ。」
「やーだー、なんだか絢駒くんを見る目変わっちゃうー。」
「で、でもそんな絢駒くんもかっこいいかもー。」
「「え?」」
秋島と京介が五十嵐の方を向いた。
「あっ・・・やっぱり今のなしでー。」
五十嵐が苦しそうに笑った。
「だってよ、夏央?」
「ごめん、俺の彼女はミー子だけなんで。」
「さて、今日はミー子バイトだよな?」
「・・・(こくり)。」
「今日は、ミー子だけで行ってもらう。大丈夫か?」
『なっちが何とかしてくれるってこと?』
「まあ・・・うん、そういうことだ。」
『やっぱりなっちかっこいいよ。』
おっと、そんなこと言われるとは思ってなかったぜ?
『いつも頼っちゃって申し訳ないね。』
「ミー子、謝るのは無しだ。」
『おっとそうだった、ほんとにありがとう。』
「美衣ちゃん、俺も助けてあげるからね!」
『おっと陽花に報告しないと。』
「陽花には今回の話してあるから!許可もらってるから!!」
あ、話してたんだ。
『ほう、そんじゃ、礼を言うぜ。ありがとな、京介!』
「なんかいつもと違う。」
『いや、なんか京介くんって、ふざけないとかなあって。』
「こんな時までふざけなくてもいいと思うよ!?」
いや、それでいいよミー子。
「夏央、笑いこらえてるよな!?」
「こ、コラエテナイヨ。」
「こらえてるじゃん!」
「おおー、夏央、俺バイト以外で夜遅くに外出たの初めてかも。」
「優等生かよ。」
「ほら、俺成績優秀者じゃん?」
「関係ねえ・・・。」
そういえば京介と夜飯食いに行くとか、夜遊びに行くとか、あんまりなかったな。
「あそこが俺たちのバイト先だ。」
「知ってる。」
「たぶん鎌谷はミー子が帰る時間ごろに来ると思うんだ。だから、ちょっと待機だ。」
「最近は夜寒くなくなってきたから、待機も楽だな。」
「ああ、もうすぐ5月も半ばか・・・。」
「ゴールデンウィークとか、遊んだ?」
「バイトとお菓子の練習しかしてなかった。」
「受験一直線だね・・・。」
店の近くの公園で、ミー子のバイト上がりを待つ。
10時まではあと30分。
絶対に、ミー子は鎌谷の手には渡さないぞ。
「あれ鎌谷じゃない?」
京介がバイト先の店に近づく人影に気付いたみたいだ。
身長、横幅、歩き方を見て間違いない、あれは鎌谷だ。
「突撃する?」
「いや、今はまだやめておこう。ミー子をストーキングし始めたらで。」
「了解。今は警戒しておこう。」
鎌谷は店の外から厨房が見える位置に立っている。
多分、勤務中のミー子を眺めているのだろう。
「ほんとは今すぐ取り押さえたいくらいなんだがな。」
「まあまあ、夏央落ち着いて。」
「はー・・・。」
「まあ気持ちはわかるけどね。」
「ミー子は何でこんなに被害に遭うんだろうな。」
「なんでだろねえ・・・運が悪いとしか。」
そうだよなあ・・・。
本当、ミー子は運が悪い。
「不審者として通報できないのかな。」
「確かにあれはもう不審者だよねえ・・・。」
店の前をうろうろして、窓から店内を覗いている。
ニット帽をかぶってマスクをしている。
こりゃ職質されても文句は言えねえぞ・・・。
「例えばだけどさ。」
「うん。」
「例えば祈木がストーカーされてたとしたら、その犯人をどうする?」
「殺す。」
「京介にしては穏やかじゃないな。」
「なんでだろね。さすがにそれだけは許せないかもなあ。まあ、だから今夏央と一緒にいるんだけどね?」
京介が俺の方を見て笑う。
「だからって?」
「夏央も俺と同じ気持ちだと思う。だから、暴走しないように抑える役割があるかなってね。」
「ああそういう・・・。」
・・・まったく、ありがたいやつだ。
「というわけで、俺が同じような状況になったら夏央も手伝ってね?」
「そうだな、それは約束するわ。」
そろそろ10時だ。
「鎌谷が動いたよ。」
バレないように後をつける。
鎌谷が向かったのは、ミー子がバイト帰りにいつも通っている裏路地だ。
近道ではあるが、割と暗くて細い道なので、ここで仮に暴漢に襲われようものなら逃げ道はない。
正直あまりこの道は使ってほしくなかった。
「え、美衣ちゃんいつもこの道通ってんの?」
「そうみたいなんだよな。」
「危ないんじゃない?」
「そうなんだけどなあ、確かに近道なんだよ。あとミー子って、自分みたいなのが襲われるわけないって思ってるみたいで・・・。」
「あー、美衣ちゃん思ってそう。」
「だろ?あいつ、あんまり自分の中の女の部分に自信がないみたいでさ。」
「ああ、美衣ちゃん、そういうところ自信なさそうだよね。」
ミー子に帰ったら俺の部屋で待っててくれと連絡する。
返事はすぐに返ってきた。
「ミー子、そろそろここを通るみたいだ。ミー子が通ったら仕掛けるぞ。」
「うん、了解。」
幸い夜なだけあって、辺りはとても静かだ。
自転車の漕ぐ音がよく聞こえた。
ミー子が、俺たちの横を通り過ぎた。
「行くぞ京介。」
「ほいほい。」
ミー子が路地を抜けたあたりで、鎌谷が動き出した。
ミー子を追おうとする鎌谷の腕を捕まえる。
「よう鎌谷、こんなところで何をしてるんだ?」
「・・・っ!」
鎌谷が俺の手を振り切り逃げようとする。
「はいストップ。夏央だけじゃないよ?」
京介が退路を塞ぐ。
細い路地で助かった。
「な、なんだよいきなり・・・ぼ、僕は偶然ここに。」
「じゃあなんで俺のことを見て何も答えずに逃げたんだろうね?」
「・・・そっ、それは・・・だ、誰だっていきなり腕をつかまれて声をかけられたら、に、逃げるだろ?」
「俺の顔、確認してから逃げたよね?」
「ぼ、僕は目が悪いんだ。き、キミの顔なんか見えてないよ。」
「そんなに見えねえならメガネ新調してこいやデブ。」
「そ、そうやって人の身体的特徴を悪く言うのは、よ、よくないと思うんだけど。」
「・・・それは、嫌がる女の子を追いかけまわすよりもよくないことなのか?」
「・・・嫌がる?誰が?」
鎌谷が、「お前は何をおかしなことを言っているんだ」というような目で俺を見る。
いや・・・え?
「誰がってお前、ミー子に決まってんだろ?」
「え?鏡崎さんが?な、何言ってんのさ、そんなわけな、ないじゃないか。」
え、こいつ何言ってんの。
ミー子が嫌がっているわけがない?
いやそんなわけないだろ。
「僕は鏡崎さんが大好きなんだ。」
「おう、そうか。悪いな、俺の彼女だ。」
「僕は鏡崎さんに真摯に好意を抱いているんだよ。だから、僕のこの好意は鏡崎さんにとって喜ばしいものであるはずだし、か、鏡崎さんもそれを笑顔で受け入れてくれるはずなんだ。」
「お前本気で何言ってんの?」
「だ、だから僕のこの好意をアピールしているのも鏡崎さんへのまっすぐな気持ちだし、まっすぐな鏡崎さんは僕の好意を素直に受け止めてくれるんだ。だから、僕の鏡崎さんへの好きは止められない。」
あー・・・これは完全にストーカーの考え方ですわ。
ヤダヤダ怖い怖い。
「お前がどう思ってるのかは知らねえんだけどさ、当の本人は嫌がっているわけよ。率直に言うけどもうミー子に近寄らねえでくれねえかな?」
「・・・何を言ってるんだよ。い、嫌がってるわけないだろ?そ、そうだ、キミが鏡崎さんから僕を遠ざけるために嘘を言っているんだろう?は、恥ずかしいと思わないの?」
ミー子から鎌谷を遠ざけたいのは本当だけど嘘は言っていない。
恥ずかしいと思わないのって、それすごくお前に向かって言いたいんですけど。
「むしろ何で俺の言葉を疑うんだ?俺はミー子の彼氏なんだぞ?お前はまともに会話もしてないじゃんか。」
「そ、それはキミが僕と鏡崎さんの会話を邪魔するから!・・・そうだ、キミは何で僕と鏡崎さんの邪魔をするんだよ?」
「お前俺の話聞いてるの?俺とミー子は付き合ってるって何回言ったら分かるんだろうね?鎌谷くん、どこか悪いの?頭?」
なるべく嫌味ったらしく言ってやる。
まあたぶんこいつ頭悪いんだろうけど。
「そ、そんなわけないだろ!?キミたちが付き合っているだなんてあり得るわけないじゃないか!!」
!?
「ぼ、僕は1年のころ、鏡崎さんに落としたハンカチを拾ってもらってからずっと好きだったんだ!ぼ、僕の方が彼氏と言っても過言じゃないね!!」
「過言だろ。」
いくらなんでも妄想激しすぎだろコイツ。
「いや、あのね?ごめん、鎌谷怖いよお前。」
「何が怖いんだよ!僕は鏡崎さんのために動いているんだぞ!」
「いやミー子のためなら動かないでくれよ、むしろ近寄るな」
「き、キミに何と言われようと僕は知らない!鏡崎さんは僕が手に入れるんだから!」
いや怖い怖い。
こいつ頭おかしいんじゃないか。
「ちなみに、ミー子を手に入れてどうするつもりなんだよ?」
絶対そんなことはさせないけど、とりあえず聞いてみよう。
「決まっているだろう?僕の愛を受け止めてもらうんだよ。」
「へえ?」
愛を受け止めてもらうねえ・・・。
いや無理だろ。
「僕の愛を全身で受け止めてもらうんだ。僕の部屋で、学校にも行かないで、一日中、いやいつ何時でも、僕たちは愛し合うんだ。それが愛の究極系だろ?」
「・・・はい?」
「わ、分からないのかい?愛し合うのに最適な方法・・・そう、何度でも抱かせてもらうのさ!鏡崎さんを、僕が抱くんだ!大丈夫、僕は童貞だけど、愛さえあればきっとできるはずなんだ!鏡崎さんの身体は、僕が汚すんだよ!」
あ、こいつやばい。
京介に目で合図をする。
すると、京介が小さく親指を上げた。
ああ、最高だよ京介。
てかどうしよう俺こいつのこと本気で殴ってやりたい。
「でも鏡崎さんを手に入れたいのに、キミが邪魔なんだよ絢駒くん!僕たちの邪魔をして何が楽しいんだい!?大人しく消えてほしいんだけど!」
お前だよ大人しく消えてほしいのは。
お前さえいなきゃミー子がこんなにおびえることもないのに。
あーどうしようマジでイラついてきた。
「!」
京介から視線を感じた。
(気持ちは分かるけど我慢!俺を信じろ!)
とでも言いたげな京介。
そ、そうか、我慢か。
そうだな、感情的になっちゃいけない。
大丈夫、ミー子をこいつの手に渡すことなんて絶対ないんだから。
・・・冷静に考えてみると、まだ鎌谷が行動に移す前でよかった。
激しいことを考えているわりに、行動にすることはできなかったのか。
それとも、今日が実は危なかったとか。
「つーか、お前ミー子に嫌われてるって分かってないのかよ?」
「嫌ってるわけがないからね!ふ、普段の対応はいわゆるツンデレってやつだ!かわいいじゃないか!」
あれがどうしてツンデレだと思えるんだ。
ストーカーの考えることって分からねえ。
・・・そろそろかな?
少しだけ、赤い光が見えた。
よし俺らの勝ちぃ!
「ストーカーの通報を受けてきたのだが。」
警察官が2人、やってきた。
「ええ、そこの男が俺の彼女に嫌がらせでストーカーをしているんです。」
「は!?何!?なんなのさこれは!!」
鎌谷が辺りを見回す。
左右から警察官がやってきて、もう逃げ場はない状態だ。
「いや、お前怖いから警察呼んだんだよ。」
「な、なんで僕がそんなことされなきゃいけないんだ!僕はただ鏡崎さんのことが大好きなだけなんだぞ!!」
「いや、それがまじ迷惑なんだって。」
「あ、警察さん、証拠ならここにあるんで。これ聞いてもらえます?」
京介が自分のケータイを差し出す。
「な、ひ、卑怯だぞ!僕を貶めようとしていたんだろう!!」
会話を録音していたことに気付いた鎌谷が怒りの形相で俺をにらむ。
「貶めるっつーか、お前なんかやばそうだから聞いたらなんかやばいこと言いそうだなって思ってな。」
「お、男2人で僕をこんな、嵌めるなんて、男として恥ずかしいと思わないのかい!?」
「いや、ストーカーしてる方がよっぽど恥ずかしいだろ。男なら直接告白してバシッとフラれてきやがれってんだクソ野郎。」
「フラれる!?僕がそんなことあるわけ―――」
「じゃあ直接はっきり言ってみろよ。そんな勇気もなかったんだろ?」
「ふ、ふざけるな!僕は―――」
「うん、わかったわかった。続きは署で聞くから、大人しくしようか?」
録音を聞き終えたらしい警察の人が、鎌谷の左右から腕をつかんだ。
「な、離せ!僕は何も悪いことは―――!」
鎌谷が暴れる。
「なっ、こら、暴れるんじゃない!」
「これ以上暴れると罪が重くなるぞ!」
警察がそういうと、鎌谷は大人しくなった。
「彼女のために頑張ったんだな、あとのことは僕たちに任せてくれ。」
「よろしくお願いします。」
パトカーが鎌谷を乗せて発車する。
「一件落着なんじゃない?」
「・・・だな。」
「ん、なんか心残り?あいつが美衣ちゃんに手を出さなかっただけよかったじゃん。」
「思いっきりぶん殴ってやりたかった・・・。」
「あー、うん、そうかもね・・・。」




