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Please speak!  作者: 長野原春
74/113

美衣ちゃん防衛作戦

『へいどうしたの彼氏ィ。』

「いや、まあ・・・な。」

『なんか心配なことでも?』

「いや・・・。」

 そういうことです。

 心配なことがあってきたんです。

 杞憂に終わることを祈っているんです。

『バイト帰りに彼氏が迎えに来るとかなんとも良いシチュエーションじゃないっすか。』

「まあほら、夜遅いしな。」

『今更~?』

 ミー子が俺の頬をつついてくる。

 そうだよな、それ言ったら今更、だよな・・・。

『なんかあったの?』

「まあ・・・。」

『ずいぶん歯切れが悪いじゃないか。』

 本人に言える内容じゃないからね。

 鎌谷に関してはやってくるかどうかも分からないのに疑ってるからな・・・。

 一度も同じクラスになったこともないのに俺とミー子の名前を知っていたし。

「とりあえず帰ろうか。」

「・・・?」

 ミー子が首を傾げた。

「美衣ちゃん、お疲れ様!」

「・・・(ぺこり)。」

 

 辺りを警戒しながら歩いていく。

『挙動不審ですよ。』

「まじっすか。」

 警戒しすぎのようだ。

『そういやさっき夜道には気をつけろって言ってたけど、もしかしてそれ?』

「ああ・・・うん、そういうこと。」

『じゃああれか、なっちの隣の人だね。』

「自分の後ろの人って言えばいいじゃない。」

『どっちでもよくね。』

 確かにどっちでもいいな。

『たまにだけど、授業中とかそうでなくても、「鏡崎さん・・・ハァ」とか聞こえてくるから少し怖いなって思ってた。』

「怖すぎかよ。」

 小声で名前呼ばれてハァハァされるとか怖さ以外の何物でもない。

『んで、もしかしてこの人私のこと好きなのではないかと。』

「好きが高じすぎてると思うんだ。」

 それ本当にストーカーしかねないやつじゃんか。

『近道で帰りたいんだけど。』

「近道だと細い路地を通らなきゃいけないだろ。今日は大通りを使ってけえるぞ。」

『噛んだね。』

 噛みました。

 大通りなら明るいし、人通りもまだ多いから大丈夫だろう。

『あ、私の後ろの人発見。』

「まじかよ。」

 大通りの反対車線側。

 ミー子の方を見ている鎌谷を発見した。

「あいつ・・・!」

『ストップ。』

 ミー子が俺の腕をつかんだ。

 鎌谷は俺の姿を発見したからか、そそくさとどこかへ行ってしまった。

「なんで止めた!?」

『今日初めて見た。だから、まだ偶然って可能性もあるでしょ。』

「そうか?」

『そう。だから、何日か様子見するしかない。』

 せっかく、捕まえられるチャンスだったが・・・。


「しばらく一緒に行動しようか。」

『やだなっちカッコイイ。』

「いやふざけてる場合じゃなく。」

 というかミー子の場合、ふざけているのかそうでないのかの判断が非常にしづらい。

 今のはどうなんだろう。

『夜はどうするの?』

「なるべく外に出ないように・・・。」

『なっちの部屋に泊まっていればいいんだね!』

「ストーカーだとしたら、どこの部屋にいるとかは関係ないんだけどな・・・。」

『経験者は語る。』

 そうだよ。

『どうしようふと外出たひょうしにその場に組み敷かれでもしたら。』

「そうならないようにするんだろ。」

『私さすがに逃げられないね。』

「ぜってーやらせねえから大丈夫だ。外出るんなら俺を呼んでくれていいから。」

『呼びますわ。頼りにしてるぜ。』

「おう任せろ。」

 助けるくらいなら、俺にだってできるはずだ。

『さっき、もし一人で鎌谷くんに会ったら、ちょっと怖かったかも。』

「あれは怖いだろ。」

『なっちがいてくれてよかったよ。なんかね、すごい安心した。』

「案外安心できないかもよ?腕っぷしも強くないし。」

『一緒にいてくれるだけで結構安心できるものよ。』

 そんなもんなのか。

『それに、ちゃんと言えばあきらめてくれるかもよ?』

「ストーカーって簡単にあきらめてくれるもんかなあ。」

 むしろ刺されそう。

 刺され・・・。

「うぐ・・・。」

『どうした。』

「いや、なんかここら辺が痛くて・・・。」

『なっちの古傷が疼いてる!』

 ミー子が依然刺された辺りをぺたぺた触る。

『大丈夫?』

「まあ・・・思い出したら痛くなるとか怖いな・・・。」

『これでなっちが鎌谷くんに刺されでもしたら大変だ。』

「よせ縁起でもない。」

 次刺されたら俺死ぬかもしれない。

 それだけは何としてでも避けたい。

『まあでも、しばらくは1人で出ない方がいいよね。』

「ああ、俺もミー子が襲われるとか絶対嫌だからな。」

『寵愛を感じる。』

「難しい言葉だな。」


「ほうほう、昨日そんなことが?」

 朝、HR前に相沢、秋島、五十嵐、俺で集まった。

 昨日のことの報告だ。

「ああ、昨日ミー子のバイト上がりに迎えに行ったんだ。そしたら、大通りの反対側に鎌谷がいて・・・。」

「初めて見たの?」

「ああ、俺は初めて見た。だから今回は偶然ってことにして見逃したんだが・・・。」

「怖いねー、鏡崎さんに魔の手が忍び寄ってるねー。」

「絢駒くんが守らないとだねー。」

「もし鎌谷がミー子をストーキングしてるというなら、俺は許さないんだけども。」

「絢駒くんだと体格負けしそうだね。」

「ぐ・・・。」

 そうなんだよ。

 なんというか、うん、のしかかられたら終わりなんだよな。

 なんかあいつ殴っても効かなそうだし。

「顎殴って気絶させちゃえばー?」

「あいつ顎ないじゃん。」

 あごと首がつながっているんじゃねってくらい顎ないんだよあいつ。

「アッパー決めれば大丈夫だよー。」

「現実的じゃねえんだよなあ・・・。」

「はいっ!」

 相沢が手を上げた。

 こいつの案ってなんか嫌な予感しかしないんだよなあ・・・。

「もう絢駒くんがずっと一緒にいてラブラブっぷりをアピールするしかないと思うよ!そしたら諦めてくれるかもしれないし!」

「具体的には?」

「鎌谷くんの前でディープなキスでもしてみよう。」

「却下。」

「え、即答なの?」

 下手したら嫉妬で刺されるわ。

 つーか2人きりの時もそんなキスしたことねえし!

 俺らは・・・俺ら、は。

 ・・・一回とんでもないことになりかけたなあ。

「絢駒くん?」

「なななななななんでもない。」

「はい・・・?」

 落ち着こう。

「まあラブラブするかはどうかとしてー、あたしは絢駒くんが近くにいてあげるべきだと思うよー。」

「俺もそうするつもりだ。」

「やだー、かっこいいね彼氏ぃー。私惚れちゃうかもー。」

「残念ながら秋島からの愛は受け付けてないな。」

開耶(さくや)ー、絢駒くんにふーらーれーたー。」

「わ、絢駒くんったら花乃子(かのこ)の好意をむーげーにーしーたー。」

「じゃあ私はいいかもしれないね?」

 やばい、帰りたい。


『集まって何話してたの。』

「秘密。」

『浮気だー!!』

「ちがーう!!」

『夏央、お前マジか!?」

「黙ってろ京介!」

『黙ってろ京介!』

「なんで美衣ちゃんまで!?」

 ここまでお約束。

『え、教えてもらえないの?』

「ミー子のこと、とだけ言っておく。」

『なんとなく察した。』

「俺も察した。」

 なぜ京介まで察するんだろう。

 俺この話京介にはしてないと思うんだけど。

「なんでだって顔してるな?俺は夏央のことなら何でも知ってるんだぜ?」

「ストーカーだー!!」

『京介くんストーカー!?』

「彼女はどうした!」

「鈴波くん、陽花をフったのー?」

「鈴波くーん?」

 余計なのまでついてきた。

「違うから!ちょっと気になってただけだから!てか、俺のことも頼ってくれよ。」

「だって京介腕っぷし強くないじゃん。」

「ケンカしたことないから知らないだろうけどね、俺弱くはないと思うよ?」

「ほんとかよ。」

「少なくとも夏央よりは強いと思う。」

「俺と比べても意味ないと思うぞ。」

 俺強くないもん。

「鈴波くんがあまり強そうに見えないのは私だけかな。」

「私もあんまりー・・・。」

「頭よさそうには見えるかなー。」

「夏央、俺ダメみたいだ。」

「仕方ないよ、そういうイメージがねえんだから。」

 俺も京介が戦闘できるとか初耳だし。

「なんなら俺が夏央に教えてやろうか?どこ狙えばいいとか。」

『なっちを野蛮にさせる気!?』

「いやいや、あんまり痛めつけずに撃退する方法だよ。」

 それは知りたいけど・・・。

「いいか夏央、急所を狙えばいい。」

「股間か?」

「あー、うん。まあ、そういうこと?」

 どうやら違うらしい。

「まあでも夏央が攻撃すると逆上して暴れまわるかもなあ・・・。」

「そうだよなあ・・・。」

 どうすればいいんだろうなあ・・・。

「本当は相手に諦めてもらうのが一番なんだけどな。」

「それができれば苦労はしないぞ。」

「まあそうだよな。」

 

 ・・・となると、一番怖いのは俺がバイトに出ている夜か。

 その時だけ、ミー子のそばにいてやることができない。

 あの時間に鎌谷を見たということは、もしかしたらバイトの上がる時間などを知っていた可能性がある。

 そうなると、俺がバイトの日なども理解している可能性が・・・。

 そうしたら家にいるミー子を誰が守るというんだ。

 経験上、家にいるときもどこにいるときも、ストーカーっていうのはわりとどこでも追いかけてくる。

 しばらく、心が休まりそうにないな・・・。

「それではプリントを配りますので前から回してくださいねー!」

 谷岡先生の元気な声が響く。

「ほい絢駒くーん。」

「さんきゅ。ほい五十嵐。」

「大事にするー。」

「・・・冗談だよな?」

 隣を見ると、ミー子が鎌谷にプリントを渡していた。

「あ、ありがとう鏡崎さん。」

「・・・。」

 特に何も反応はせず、前に向き直る。

「あ、ミー子、次の練習も土曜日でいいのか?」

「・・・(こくり)。」

「おっけー。」

 何気ない会話をしてみると、鎌谷が俺の方をにらんできた。

 お前隠さなくなったな。

 うーん、となるとこの前のストーカーは確定か?

「なんで鏡崎さん・・・ぼ、僕の話はしかとするのに、あ、絢駒くんの話は・・・。」

 小さな声で何かぼそぼそいう鎌谷。

 怖いなあ。

 ミー子がこんなやつに襲われるとか絶対ヤダなあ。

 先生に相談してみるってのはどうだろう。

 若い先生は親身になって聞いてくれそうだ。

 ・・・ただ、最近の学校は都合の悪いことを隠蔽したがると聞く。

 ミー子が無碍な対応を取られたらそれも嫌だな。

 そしたら学校側を訴えても平気なんだろうか。

 いや、そんなこと学生ができるわけないか。

 やっぱりミー子の身は、自分で守るか、俺が守るかしないと。

「それでは今日配ったプリントは保護者の方々に渡してくださいね!明後日提出ですので、よろしくお願いします!それではさようなら!」

『よしなっち、帰ろうか。』

「先生の話先、聞いてたか?」

『手紙を親に渡せばいいんでしょ?』

「ああ、そうそう。」

『さすがにそのくらい聞いてるよー。』

 バカにしてんのかー、とばかりにつついてくるミー子。

「あ、ああ、あの、鏡崎さん、今日、ぼ、僕と一緒に帰りませんか・・・。」

 鎌谷が、突然話しかけてきた。

「・・・(びく)。」

 突然話しかけられて、ミー子の方がはねる。

「・・・(わたし)?」

 自分を指さしながら、首をかしげる。

 鏡崎さんと呼ばれた気がしたが。

「そ、そう、い、一緒に行きたいところがあって・・・。」

『だってなっち。』

「あー・・・すまんな鎌谷、こいつは俺の彼女なんだ。そんでもってミー子は俺と一緒に帰るからな、お前の願いはかなえられない。」

「えっ、ぼ、僕はか、鏡崎さんに聞いてるんだけど。」

 どもりながらも、強気に行ってくる鎌谷。

 え、じゃあミー子に言ってもらうしかないじゃん。

『なっちが言った通り、私はなっちの彼女なので。私はなっち以外の男性と帰るとかはないので。』

「え、でも鏡崎さん、前にす、鈴波くんと一緒にいたよね?」

 初耳なんですが。

「ミー子?」

『3月13日、ホワイトデーにどんなものを返したらいいか、一緒に選んでくれないかと京介くんに頼まれたので一緒に行きました。偶然なっちがバイト中だったんです。そういえば言い忘れてましたごめんなさい。』

 ミー子が頭を下げてくる。

 ああ、京介に頼まれたのか。

 まあ別に京介とミー子が出かけるっていうのは結構何度かあったりする。

 別にあいつも彼女いるし、気にすることじゃないかな。

 てか、それ3年に上がる前の話じゃん・・・。

「俺とミー子と京介は幼なじみなんだよ。幼なじみ同士で出かけても不思議じゃないだろ?」

「で、でも今絢駒くん以外とは・・・。」

「うっせーな細かいこと気にしてんじゃねえよ。」

「ひ・・・っ!」

 おっとおっと、思わず言葉が強くなっちまったぜ。

 ちょっとこいつの反論むかつくな。

「とにかく、こいつは俺の彼女、ミー子も行きたがってない。OK?」

「だからキミには聞いてな」

「うっせえんだよこいつは俺の女だっつってんだろ!帰るぞミー子。」

「・・・!」

 ちょっと強めにミー子の手を引く。

 いきなり引っ張られたことで、ミー子の体制が崩れた。

 転びそうになったミー子を受け止める。

「ごめん、いきなり引っ張って。」

『気を付けてね。』

「ああ・・・。」

「ま、待ってよ、僕は鏡崎さんに・・・。」

 呼び止めようとする鎌谷を無視して、帰ることにした。


『なんだったんだろうね。』

「知らねーよ。」

『怒ってる?』

「まあ、それなりに?」

 なんというか、なかなかにイラっときた。

『実は私が何か忘れているだけだったりして。』

「それなら帰りに誘わずにそのまま言いに来るだろ。」

『それもそうか。』

 あんな奴について行ったら最後、ミー子に何されるか分からない。

 俺が守らないと!

「そういえば、苗字が近いから掃除の時間は一緒だと思うんだけど、あいつは何もしてこないのか?」

『掃除中は特に・・・変な声が聞こえるだけで。』

「怖すぎかよ。」

 その光景見たくねえ。

「俺ら、受験に集中しないといけないのにな。」

『確かに。』

「あいつにかまってる暇ないんだけどな。」

『いっそのこと無視とか。』

「逆上して刺されるぞ。」

『こわい。』

 ストーカーの怖いところは、その何をするのか全く予想がつかないところだ。

 まあ俺も前に・・・うん、刺されたし。

 ミー子のそんなところ、絶対に見たくないからな。

「さっきも言ってた通り、一番手っ取り早いのは鎌谷がミー子のことをあきらめてくれることなんだよ。」

『難しそうですね。』

「うんまあできないから今困ってるんだけどね?」

 ほんと、どうしたものか。

 たとえ鎌谷の目の前で大胆なことをして諦めさせようにも、相手の嫉妬心をあおったらそれはそれで俺が刺される可能性があるんだよなあ・・・。

 もちろん、ミー子が刺されるよりは、俺が刺された方が全然いいけど。

『私、なんというか運が悪いのかな。』

「申し訳ないが否定はできない。」

 だって否定しちゃったら嘘になるもん。

『デスヨネー。早く何とかして受験に集中したいですぞ・・・。』

 そうだよなー、受験に関しては俺のこの先にもかかわることだし、早く何とかしないと。

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