美衣ちゃんの願い
「ん~♪これおいしー!」
冬姉がいい笑顔を見せてくれる。
「ほんとにおいしいね!」
春姉もおいしそうに食べてくれる。
「いやあ、夏央と美衣ちゃんがこんなにおいしいお菓子を作れるなんてな!」
父さんが大きな口でガトーショコラを食べる。
「あー、仕事で疲れた体に効くわね~!」
母さんは疲れが抜けたような顔をした。
「秋穂ちゃんの言うこと、分かる気がするわ・・・。」
那空さんも、母さんと同じような顔をした。
『私も食べたいな。』
「まあ、今度自分たち用に作ればいいさ。」
確かに混ざってみんなで食いたい気もする。
まあ、いつかは俺たちが作って、それを売るという生活が始まるんだから、そういう気分になる練習だと思えばいいか。
みんなニコニコしながら食べている。
ああ、なんというか・・・いい光景だな。
「ミー子、こういうの、なんかいいと思わないか?」
「・・・(こくり)。」
ミー子も同じ気持ちでいてくれているらしい。
親孝行とかそういうわけではないけど、いいことをしている気分になれる。
「じゃあこの前買ってきたし、これ飲みましょう!」
那空さんが酒を空けようとする。
その酒は、ブランデー。
「あらいいわねー!このお菓子にはぴったり!」
母さんがグラスを持ってくる。
その数、5人分。
「ちょっと待てー!!!」
「なんで!?」
思わず大声を出してしまいました。
「母さん、なんで5人分のグラスを用意してるの?」
「え?合うでしょ?」
「合うかも!合うかもしれないけど!!」
頼むから学習をしていただけませんか!
父さんも知ってるんだろうし止めてくれよ!
「どうしたのよ夏央。」
「春姉に!!酒を!!飲ませるなっ!!!」
「な、なつくん!私大丈夫だよ!」
「説得力ねえから!!」
春姉には悪いが、ここは強く出させてもらう。
もうなんというか、飲ませるわけにはいかない。
「・・・(ことっ)。」
ミー子が、春姉の前にカップを置いた。
「美衣ちゃん・・・?」
『これも合う。』
ミー子が置いたのは、ミルクティーだ。
え、いつの間に淹れたんですか?
「み、美衣ちゃんありがとう・・・!」
ミー子が、春姉にケータイを見せた。
「うん!いいよ!」
春姉がミー子に応じた。
ミー子、何を言ったんだろう?
「夏央くんも美衣も専門学校目指すのよね!私は応援してるからね!」
「ありがとうございます!」
那空さんも応援してくれるらしい。
こりゃ、本当にみんなの期待には応えないとな。
Side 美衣
ハルさんの部屋へ。
あっさりOKしてくれたけど、大丈夫だろうか。
悪いけど、そんな楽しい話をするつもりでハルさんの部屋に行くわけではない。
扉をノックしよう。
さっき上に行ってたから、今部屋にいるだろう。
『あ、美衣ちゃんかな?入って!』
ん、大丈夫かな。
表情、硬くなってないかな。
・・・あ、表情が硬いのはいっつもか。
「いらっしゃい美衣ちゃん。」
『いらっしゃいました。』
「ふふ、美衣ちゃんの反応は安定だね。」
いつもこんな感じの反応だっけ。
ああ、普段はケータイの会話で何でもできるから、ふざけた感じだもんね。
んー、なんというか、今日はちょっとふざけられないかなあ。
なっちが困っちゃってるからなあ・・・。
「どうしたの?」
『今日、あの場でお酒を飲まなくてよかったです。』
「そ、そうかな?あ、ミルクティーおいしかったよ!」
『よかったです。』
「あれ、なんか雰囲気違うね?」
気づいたかな。
いや別に怒ってるわけじゃないんだけどさ。
うん、怒ってないよ。
『ハルさんがお酒を飲んじゃうと、なっちを困らせちゃいますからね。』
「・・・。」
ハルさんが黙った。
黙るってことは、きっと自覚はあるんだろう。
別に責めに来たわけではない。
「なつくん、何か言ってた?」
ハルさんのテンションが一気に下がる。
まあ、それもそうか。
自分のせいでなっちが困ってるって、分かってるんだろう。
『別にどん詰まりになって困ってるほどではないです。でも、どうしようか悩んでました。』
「というと?」
『私のことも、ハルさんのことも、冬華さんのことも、紗由さんのことも、大切な人は全部大切にしたいって。でも、自分のことも大切にしたいって。それでどうしようか、悩んでました。』
「全部大切にしたい、か・・・。なつくんらしいね。」
『実になっちらしいと思います。でも、身の回りのこと全部大事にしたいなんてそんなのわがままで、実行しようとしても無理ですよ。なっちが疲れてしまいます。』
そう、なっちが人間関係で疲れてしまうところなんて、見たくない。
・・・っていう、私のわがまま。
なっちのためでもない、これは私のためだ。
私、本当にわがままだなあ・・・。
「分かってる・・・分かってるんだけどね・・・。」
ハルさんが、辛そうな顔をする。
「思っちゃうんだよ。なつくんと美衣ちゃんが一緒にいるところを見て、しあわせそうななつくんお顔を見ると・・・私にも、そんな表情を見せてほしいなあって・・・美衣ちゃんに、嫉妬しちゃうんだよ。私は、選ばれなかったから・・・勝手に、寂しくなっちゃって・・・。美衣ちゃんには、分からないよね・・・?」
そりゃ私は分からないけど・・・その言い方はいかがなものか。
いや、まあ・・・つっこまないでおこう。
『ええまあ私には分かりません・・・が、私だって思うことはありますよ。ちょっと待っててくださいね。』
「うん?」
ちょっと長文を失礼・・・。
こういう時は口を開けて言葉にして言いたい・・・。
長くなるのは面倒なんだよなあ。
『なっちは男の友達より、女の友達の方が多いです。でもね、彼女は私なんですよ。でもさっきも言った通り、なっちは優しいので友達を大切にします。お出かけに誘われたら行きます。彼女は私です。できれば、私がずっとなっちの隣にいたいんです。これ、私のわがままだってこと、分かりますか?』
「・・・そうだね。」
『でも私は、なっちの交友関係を邪魔するのも嫌なんです。友達だって必要なはずです。それを拘束する権利なんて、私にあるわけないじゃないですか。』
「・・・。」
『ハルさんの嫉妬は、私には分かりません。でも、なっちと一緒にいたいっていう気持ちは、よく分かります。それを分かった上で、これは私のわがままです。』
私はハルさんに向かって、深く頭を下げた。
『なっちを、これ以上困らせないでください。』
ハルさん、お願いします。
「それは・・・美衣ちゃんのわがままなの?なつくんのためじゃなくて・・・。」
『都合よく言えばなっちのためです。でも、これをなっちのためなんて言うのは、なっちに失礼なんです。』
「ど、どういうことかな・・・。」
ハルさんが、困ったような顔をした。
『確かに今、なっちはハルさんのことで困って、悩んでいます。昨日、私の部屋に来て、どうしたらいいかと聞かれました。』
「なつくん、そうだったんだ・・・。」
ハルさんが悲しそうな顔をする。
そりゃ、自分の好きな人が自分のせいで困ってると知ったら、悲しくもなるよね。
よく、分かる。
『でもこの・・・なっちが困っていることについて、一番最初になっちを悩ませてしまったのは、私なんです。』
あれ。
なんで涙が。
文字に起こすことによって自覚したからだろうか。
『私が、交友関係は制限しないけど、他の女の子と会うのはちょっとだけ嫌かなって言ってしまったから、なっちは優しいから、私のことをちゃんと考えてくれたんです。友達は大切にしたい、でも友人だって大切。』
「あ、その時に私がわがまま言っちゃったから・・・。」
そう、そういうことだ。
なっちが悩んでいるのは、私にも、ハルさんにもわがままを言われてしまったからだ。
さっきも言った通り、なっちは優しいから、私とハルさんのことを考えて、友達のことも大切にしたいからそこまで考えて、多分、疲れてしまったのだ。
おおもとの原因は、私のせい。
だから、今ハルさんにお願いしていることを、なっちのためだなんて言えない。
これ以上なっちが疲れてしまっているところを見たくない。
私の、わがままだ。
「周りの人のことを考えて・・・いま、受験生でこれからも大変なのに・・・。」
ハルさんが頭を抱えた。
『私は今日ハルさんにお願いしに来ただけなので、これで帰ります。あとは、ハルさんが決めてください。』
この空間にいたくない。
泣いちゃいそうだ。
「美衣ちゃん。」
ドアに手をかけたところで、ハルさんが声をかけてきた。
暗い表情で下を向いたまま、こっちを見ようとしない。
何も言う気はないんだろうか。
だったら帰ろう。
「・・・人を好きになるのって、とっても難しいことなんだね。」
・・・そんなの、前から分かってるよ。
早く、帰ろう。
「あれ?ミー子?」
・・・最悪のタイミングだ。
なっちタイミング悪いよ!
なんで今部屋から出てきたんだよ!
「って、どうかしたのか!?」
なっちが私の肩をつかんでくる。
なんだってんだ!
「なんで泣いてるんだよ!」
・・・あれ、私泣いてた?
間に合わなかったか。
私の部屋に戻ってから、泣こうとしたのに。
なっち、私辛いかも。
「うぉ、ど、どした?」
思わずなっちにぎゅっと抱きついてしまう。
「・・・くすん。」
「と、とりあえず俺の部屋来いよ。話なら聞いてやるからさ。」
やっぱりなっちは優しい。
ほんとに、優しい。
ベッドに座ると、なっちも隣に座った。
「春姉と何かあったのか?」
言えるわけないじゃん!
「・・・(ふるふる)。」
「え、何もないの?」
何もないわけないじゃないか!
察してくれよ!!
・・・いやそれこそ無理な話か。
女の子の察してくれよほどめんどくさいことはないとテレビで見たことがある。
『何もないわけではないんだけど、なっちには言えません。』
「なんじゃそりゃ。」
『私とハルさんだけの秘密、女の話ってやつですよ。』
「泣いちゃう話が・・・?」
泣いたのはあんたのことを考えたからだよ!
「な、なんだ?」
なっちに抱きつく。
辛いっすよ。
大好きなのに。
一緒にいたいのに。
でもそれだとなっちを拘束しすぎちゃうから、そんなことできなくて。
でも一緒にいたいんだよ。
私、何でもするよ。
・・・なんて言えないよ。
「み、ミー子さん!?」
なっちを押し倒した。
別に何かしようとかそういうわけじゃない。
ぎゅっと抱きつくと、なっちの心臓の音が聞こえてきた。
ああ、なんだか落ち着くな。
「・・・くすん。」
ああダメだ、泣いちゃうの止められないや。
「まあこれ以上は聞かないけど、なんかつらいことがあったらいつでも俺に言ってくれよ?そばにいることくらいなら、してやれるからさ。」
なっちの手が私の頭の後ろまで回ってきた。
そばにいることくらいって・・・それで十分ですよ。
Side 夏央
どどどどどどどどうしよう。
ミー子は泣いてる理由も教えてくれないし、てか結構ガチで泣いてるし!
ほんと、春姉と何話したんだよ!
てか、ベッドで彼女に押し倒されて泣かれるって、これアカン状況なやつだろ。
さっきから泣いていて全く反応がないが、俺は普通に抱きしめているだけでいいんだろうか。
こういう状況では、ケータイを使うか手話でないと会話ができないことが不便だ。
「・・・くすん。」
鼻をすする音がする。
うーん、どうしたものか。
いや、これは多分、ミー子が泣き止むまでこうしていた方がいいはずだ。
表情が硬いせいで、見た感じ悩みはなさそうなミー子だが、この前ミー子は悩んでいると言っていた。
確か、俺のことで悩んでいる、と。
そういう関連の話かなあ。
俺に女の子の友達が多いのも問題だよなあ・・・。
かといって友達解消なんてのもできるわけないし、ってか、したくねえし。
なるべく、ミー子を優先したい気もするけど、ミー子自身が出かけるのとかに消極的なのもあって、案外一緒に出掛けることとかが少なかったり・・・。
まあこれからは毎週一緒にお菓子作ろうって話はしてるけど。
やっぱあれだな、女の子1人を大切にするって、難しいことなんだなあ。
『いきなり泣きついてごめん。』
「謝ることじゃないだろ。気にしなくていいからな?」
とはいっても、なんだか気にしてそうなミー子。
気にするなって方が無理か。
「もう帰るのか?」
『明日学校ですからね。今日がもし土曜日ならこのまま泊まってなっちに抱きしめられながら寝てたかもしれない。』
なぜ抱きしめながら寝なきゃいけないんだ。
寝返りが打てなくて健康に悪いぞ。
「・・・一つだけ、聞いてもいいか?」
『なんでしょう。』
「俺と、付き合えてよかった?」
「・・・!」
ミー子が驚いた顔をした。
やっぱり、さっき泣いてたのはそういうことだったのかな。
ミー子は少し迷っているような表情で、ケータイをタップする。
『私最近思ったことがあるの。』
「ほう。」
『人を好きになるのって、お互いを尊重して愛し合うのって、難しいなって思った。』
確かに、それは難しいことだ。
自分の思いだけを相手に押し付けてしまえば、それは相手を拘束してしまう。
いわゆるメンヘラって奴だろう。
『でも、後悔はしてないよ。私、なっちを好きになれて、なっちと付き合って、一緒にいれてすごくうれしいし、楽しいよ。』
ミー子が笑う。
「そうか、そう思ってくれてるなら、俺もうれしい。」
『なっちはどうなのよ。』
「俺か?もちろんよかったと思ってるぞ。今となっては、ミー子が一緒にいないなんて、考えられねえからな。」
『バイバイ!』
「おーい!!」
ミー子が超速で家から出て行った。
恥ずかしくなりやがったなあいつ!!




