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Please speak!  作者: 長野原春
71/113

困ったお姉さんです

「なんだ今日は食べれないのかー・・・。」

 目の前で冬姉ががっくりうなだれた。

「ご、ごめんね冬華さん、私が早とちりしちゃったから!」

「いいんだよいいんだよ、楽しみは取っておくもんだからね。明日ここに来る理由ができたよ・・・うん。というわけで帰る。」

 冬姉が帰る準備をする。

 そんなに食べたかったんですか、お菓子。

「というかせっかく来たんだから夕飯くらい食べていきなよ。どーせ帰ったって自分で作らないだろ。」

「最近は作ってなかっただけであたしは普通に料理できますー!前に食べさせたでしょーが!!」

 そうだったっけ。

「まあまあ、秋穂さんだって冬華さんが一緒にいた方が夕飯も楽しいと思うよ。一緒に食べようよ。」

「分かったよー。その代わり夏央の隣で食べる!」

『なっちの隣は私の場所だぁ!!』

 黙っていたミー子が俺に突撃してきた。

 その気持ちはありがたいんだけど突撃はしないでいただきたい。

「おやおや美衣ちゃん、あなたは夏央の彼女かもしれないけど、あたしは夏央の実の姉ですぞ?夏央のおしめを替えたのもあたしぞ?」

「そんな恥ずかしい話はやめろ。」

『もしなっちが下半身不随になったら私がなっちのおしめを替える。』

「やめろォ!」

 この年でおしめを替えられるとか恥ずかしすぎるだろ。

 俺の心が死ぬ。

「そっ、その時は私も手伝うよっ!」

「あんたはこの話を止めろ!」

 春姉は暴走した2人を止める役目だ!

「というか何の話をしてたんだっけ。」

『だれがなっちの隣に座るかという話。』

「そうだった!夏央の隣はあたしの席だからー!」

『私。』

 冬姉とミー子に両側から腕を引っ張られる。

「たまには私もなつくんの隣がいいかなー、なんて・・・。」

 春姉が控えめに俺の左手の人差し指を触る。

 めっちゃ控えめアピールっすね。

「夏央?早く選んでよ。」

「・・・(じー)。」

「え、えと、私は別にいいから・・・。」

 春姉が俺の指から手を離した。

 こういう時、俺が取るべき行動は・・・。

「おおっ!夏央が父さんの隣に座るなんて珍しいなあ!!」

「どうしてこうなったの・・・。」

「・・・(もぐもぐ)。」

「なつくん、考えたね・・・。」

 うん、平等っていいと思うんだ。

 結局誰を選んでも誰かしら荒れるだろうから、こういう策を取らせてもらいました。

 これが一番荒れない。

 次に荒れないのは春姉か、ミー子か。

 冬姉を選んだら間違いなくミー子が荒れるからな。

 まあミー子を選んだとしても、

『お姉ちゃんより彼女を取るのー!?』

 ってなるような気もするけど。

「夏央も美衣ちゃんも、お菓子を作るのはいいけど私を太らせないでね?」

 母さんが腹を触りながら言った。

「食わなくてもいいんだぜ?」

「何言ってるの、おいしいから食べるに決まってるじゃない。」

 食べるんだ。

「あたしも夏央の作ったお菓子は食べちゃうなー。小夜里(さより)の味に似てるような気もするし、どんどんいけちゃう。」

 小夜里・・・ああ、店長か。

「俺と店長のお菓子の味、似てる?」

「まあ、ちょっとね?なんというか、美衣ちゃんのお菓子の味と小夜里のお菓子の味を足して2で割った感じの・・・。」

 それはきっと初めて料理やお菓子を習ったのがミー子で、あの店でいくつかお菓子の作り方を習ったこともあるからだろう。

 でも冬姉がそういってくれるなら、結構おいしいものなんじゃないかな。

 ミー子のお菓子も、店長のお菓子も、どっちもおいしいからなー。

「そういえば父さんは夏央が作ったお菓子って食べたことないなあ。」

「父さんは全然家にいなかったから・・・。」

「まあそれもそうか!いやあ、パティシエ志望の作るお菓子とか、楽しみだなあ!父さん楽しみだぞ!」

「それはどうも。」

「・・・(ぺこり)。」

 楽しみにしてくれているというだけで、次お菓子を作る原動力にもなる。

 喜んでくれるといいなあ。


『それじゃあ今日は帰る。』

「おう、また明日な。」

「・・・(こくり)。」

 ミー子が家に帰っていった。

 と言っても隣だけど。

 ピロン♪

 ラインがきた、なんだろう。

『夜這いに来てもいいぞ。』

 無視しよう。

「そんじゃあたしも帰る。」

「おう、明日も来るんだろ?」

「当たり前じゃん?お菓子食べたいからねえ!」

「今度冬姉のために何か作ってあげるよ。何がいい?」

「ちょっとちょっと、夏央ったら何だい?お姉ちゃんのこと大好きかい?」

「いらないんならいいけど。」

「いやいやいやいるいるいる!あー、考えとく!じゃ、また明日ね!」

 冬姉、何が食べたいんだろ。

 マカロンとか、難しいやつは勘弁だなあ。

 ああ、でも進学したらそういうのも作るようになるんだよな・・・?

 練習しておいた方がいいんだろうか。

「や~っとなつくんと2人きりだ~!」

 後ろから何かに抱きつかれた。

 いや何かじゃない、これは春姉だ。

 肩甲骨辺りに当たっている控え目な感触で分かってしまう。

 言ったら殺されそうだけど。

 というかこのテンション。

「春姉?飲んでる?」

「飲んでないよ~えっへへ~。」

 完全に飲んでいらっしゃった。

「母さん、なぜ飲ませた。」

「ええ?まあ土曜日で明日春女は何もないって言うし、いいかなあって・・・。」

 いいかなあはダメなんですよ。

 特にこの人は。

 酒に酔った勢いで何するか分からないんだから!

「な~つ~く~ん!お姉ちゃんの部屋においでよー!」

 腕をガッとつかまれる。

 まずい。

「母さん、まずい気がする。父さんも助けて。」

「仲が良いのはいいことだと思うぞ!」

「いいじゃない、春女の話し相手になってあげないさいよ。」

 こいつらも酒飲んで酔っ払ってやがるな!?

「ほら早く~。」

 ぐいぐい引っ張られる。

 なんでこういう時だけ力が異常に強いんだ!

 リミットブレイクか何かか!?

 あっけなく春姉の部屋に連れ込まれる俺、情けない。

「でーん!」

「あかーん!!」

 春姉にベッドに押し倒された!!

 ダメ!襲われる!

 奪われちゃう!!

「・・・すんすん。」

「何してんの。」

「なつくんの匂いを嗅いでるんだよ~。」

 く、首元を嗅がないでいただきたい。

「舐めていい?」

「絶対にダメ。水持って来るから待ってて。」

「えー。」

 いったん部屋を出る。

 あぶねえ、あれはあぶねえ。

 やっぱあの姉に酒を飲ませちゃいかんな・・・、ただの危険生物だ。

「ほら春姉、水持って・・・寝てるし。」

 春姉がベッドに横になって寝ていた。

「ん・・・んぅ。」

「悩ましげな声を出すな。」

 ぺしっと頭をはたく。

「なつくん?」

「少し飲んだだけでそうなるとかどんだけだよ・・・。とりあえずこれ飲んで。」

「あ、うん、ありがとう・・・。」

 まったく。

「なつくん、私のこと嫌い?」

「なんだいきなり。」

「いやー、お酒飲んだときってなんだかなつくんが厳しいような気がしてね?」

「あー、酔った時の春姉は危険生物だからな・・・。」

「危険生物!?」

 春姉が頭をのけぞらせた。

 ショックだったらしい。

「今この状況だって、春姉が強引に連れてきたんだからな?」

「だって、なつくんと一緒にいたいんだもん。」

 頬を膨らませて言う春姉。

「別に一緒にいればいいと思う。」

「一緒にいれる時間が少ないんだもん!彼女がいるから仕方ないけど・・・それでも少ないんだもん!」

 俺の時間もあるしなあ・・・。

 好意を向けられるのは、悪い気はしないんだけど。

「なつくんは、私の大好きな義弟だもん。一緒にいれれば、それだけで楽しいんだもん・・・。」

 春姉の隣に座ってから、ずっと手を握られている。

 だんだん、握る力が強くなっていく。

「俺がミー子と一緒にいる時間を少なくすればいいのか?」

「そ、そういうことじゃないよ!美衣ちゃんはなつくんの大切な彼女だもん、一緒にいて当然だよ!」

「じゃあどうすればいいかね。」

「・・・分かってるんだよ、自分が、わがままだってこと。」

 春姉の声が急に小さくなった。

 うつむき、表情も暗くなる。

 手を握る力も、弱くなる。

「なつくんにとって、美衣ちゃんといる時間も大切だし、自分の時間だって大切だよね。分かってるのに、ついなつくんにかまってほしくなっちゃうの。今まで好きな人なんかできたことなかったのに、一丁前に好きになっちゃってるんだよ。諦めたいのに、諦めがつかないんだよ、どうしても。本当にダメなお姉ちゃんだよね。」

 自覚はあるが、止められないということか。

「なつくんといるとドキドキして、自分でも何してるか分からなくなっちゃう。ねえ、今私こんなにドキドキしてるんだよ・・・?」

 そういって、握っていた俺の手を、自分の胸へ誘導する春姉。

 当たった瞬間、すごくドキドキしているのが伝わってきた。

「って何してんだ!」

「わっ!?ご、ごめん!私また・・・!」

 パッと俺の手を離す。

 きっと、本当に人を好きになったのが初めてなんだろう。

 それで、ドキドキすると混乱してしまうということ・・・か。

「ほんと、酒に酔った時は何するか分からねえな・・・。」

「普段は、なつくんに迷惑かけちゃうと思って抑えてるんだけど、お酒を飲むと・・・。」

 分かってるんなら飲まないでくれ。

 ・・・と言いたいところなんだけど、恋は盲目とも言うしなあ。

 本当に、人を好きになるっていうのは、難儀なことだ。


 俺はどうすればいいんだろう。

 もちろん一番大切にしているのはミー子だ。

 ただ、問題はそれ以外。

 冬姉は実の姉だしまあ別として、春姉や紗由さん、あとは・・・五十嵐。

 ミー子は俺の交友関係を制限したくないとは言っているが、実際俺がほかの女子と会うことをあまりよろしく思っていない。

 そこはきっと、ミー子の自分への自信のなさだろう。

 ミー子はちょっと、自己評価がどうにも低い部分がある。

 まあ、自己評価が高いよりはいいんだけど。

 男の友達なら、別に気にすることはないだろう。

 ただここで問題になるのは、俺の男友達と言えば京介ぐらいしかいないことだ。

 以前旅行中に久々に再開した桜柳(さくやぎ)も、あれから連絡は全然取り合っていない。

 そうなるとやっぱり会うのは女性方・・・。

 別にミー子がずっと一緒にいてほしいっていうのならば俺はそれでもかまわない。

 その気持ちを抑えて、ミー子は俺がほかの人と会うことを許してくれている。

 かといって春姉のお願いを聞いていてもなあ・・・。

 うーん、悩ましい。

 春姉のお願いを聞かないっていうのは、家族的な意味でも俺の心が痛む。

 ただそうすると今度は俺個人の時間が無くなってしまう。

 やっぱりどうしたらいいんだろ。

「・・・でもまずはこれで悩む前に進路だよなあ。」

 専門学校に入学するのは別にいい。

 ミー子と一緒のところに行くのもいい、むしろ行きたい。

 ただ、約束したとはいえ、本当にやっていけるか・・・。

 一緒に店を開いて、そこから生活していけるのか。

 うーん、悩んでいるせいか、気持ちがネガティブになっているような気がする。

 どうすればいいもんか・・・。


『やあやあなっち?なんかいつにもまして眠そうだね?』

「ちょっと寝れなくてな。」

 結局考えすぎて寝れなかった。

 というわけでミー子の部屋に来ました。

 自分の部屋にずっといるのもあれですからね。

「そういうミー子は全く眠くなさそうだな。」

『もちろん。朝起きて走ってますからね!』

 元気なことで。

 そんなに早く起きれるミー子がうらやましいですな。

『やっぱりなっちも朝一緒に走ろうよ。気持ちよく一日が始まるよ?』

「そのあと気持ちよく眠ってしまう未来しか見えないからやっぱり遠慮しておきますわ。」

『うまいこと言うね。』

「うまいっすかね。」

 適当に言っただけなんだけどね。

『というか、日曜日なのに8時に起きてるって珍しいね。』

「ああ、一睡もしてないからな。」

『そりゃ大変だ!寝なさいよ!ってか本当に珍しいね!?』

 ああ、自分でも珍しいと思っちゃうよ。

 でもこの問題はきっと解決すべきなんだよなあ・・・。

『ベッドに入るか私に膝枕してもらうかしなさい。』

「なんすかその選択肢。」

『お、反応したね。さあいらっしゃいな。』

 せっかくなのでミー子に膝枕してもらう。

『塩梅はどうだい?』

「いいね。」

『ならよかった。』

 頭をなでられると気持ち良くて、眠くなる。

 ・・・ちょっと、ミー子に聞いてみようかな。

「なあミー子さんや。」

『なんだいなっちさんや。』

 斬新な呼び方ですね・・・。

「俺が他の女性と一緒にいるのを見て、ミー子はどう思う?」

『いきなりだね。』

「ああ、いきなりですまん。」

『まあ、少しは嫌かなって気持ちもあるよ。』

 ミー子が正直なことを言う。

 そりゃそうだよな、付き合ってるしな。

『だってなっちは私の彼氏だもん。ハルさんとか、紗由さんとか・・・仲いいけど、私はそれ以上に彼女ですからね。どうせあれでしょ、ハルさんに寂しいだのなんだの言われたんでしょ。』

「・・・わあ、鋭い。」

『あったりめえよ。彼女とかそういう以前に、私たち幼なじみですよ?』 

 そうだよなあ。

 やっぱり、一番近くにいるんだよなあ。

『まあなっちは優しいからね。考えすぎちゃうこともあるもんね。』

「今回のことはなあ・・・。」

 考えていかないといけないことだろうからなあ。

『なっちは優しいから、全員をどうにかしようと考えちゃうもんね。』

「そうなんだよなあ・・・。」

 全員と、あと俺と。

 頭痛くなっちゃうな。

『今はそういうこと考える前に、なっちには休むのが必要そう。寝た方がいいよ。』

「確かにな・・・。」

 気づいたら朝になってたからな・・・。

『さすがに膝枕だと眠りづらいよね。ベッドに行った方がいいよ。』

「ミー子のベッドか。」

『匂い嗅ぎ放題。』

「それはなんとも変態ちっくですな。」

 ミー子のベッドは意識しなくても息をすればほのかな柑橘系の香り。

 嫌いな匂いではないけど、眠るのに適した匂いではない。

『なっちが寝るまで添い寝してやろうか。』

「むしろ眠れなくなる可能性。」

 ミー子が目の前にいてくれるのはなんかあれだ。

 顔が近いと、なんだ、興奮する。

『まあなっちの優しいところ、私は大好きだよ。』

「春姉は家族だからな。」

『そういうところじゃないよ。私のことも考えてくれてるんでしょ?』

「当たり前だろ。」

 ミー子も大切だし、春姉も大切だ。

 もちろん、紗由さんや五十嵐とか、祈木や白奈先輩みたいな友達も。

 ・・・あ、京介だって超大切だ。

 大切なものは、すべて大切にしたい。

 これって、わがままなんだろうか。

『みんなのことを考えられるところは、なっちの素敵なところ。人を大切にできるのはとってもいいこと。』

「そ、そうか。」

『優しいから、いろいろ考えすぎちゃって迷っちゃうんだよね。たまには、何かを捨てるのも大切だよ。』

 そんなこと、できそうにない。

 俺、甘いんだろうか。

『ちなみに私のわがままを言うと、私はなっちと一緒にいたい。同棲とかしたい。いつでも隣にいたい。今までずっと一緒にいたから、これからもいたい。これは私のわがまま。なっちのわがままは大切なもの全部を大切にしたい、かな。』

 やっぱり、この思いは俺のわがままなんだな。

 俺の考えって、甘いんだろうか。

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