面談です
『ねえ。』
「なんだ?」
登校中、立ち止まったところでミー子が話しかけてきた。
立ち止まったと言っても、信号があるわけでも、目の前を車が通ったわけでもない。
今日は、いつもと少しだけ違う道だ。
『今朝見たんだよ私。』
「何をだ。」
ミー子は毎朝ランニングにいそしんでいる。
何か、変なものを見たのかもしれない。
『今日はね、いつもとちょっとだけコースを変えたんですよ。』
「ほう。」
『そしたらね、ここからある人が出てくるのが見えちゃったんですよ。』
「ほう、そのある人とは?」
『見てわからねえか。』
立ち止まったのは、近所の一軒家。
表札には、「五十嵐」と書いてある。
・・・ああ、うん。
「そうだね。」
『めちゃくちゃ家近いじゃねえか!!』
ここは五十嵐開耶さんの家の前です。
「五十嵐の話だと、一度も一緒のクラスになったことがないだけで、小学校から一緒の学校だそうだ。」
『一回も同じクラスになったことがないってある意味奇跡的だな!?』
変な偶然ってあるもんだな。
『ということは、五十嵐さんは前からなっちのことを知っていたかもしれないと。』
「まあ、そういうことになるな。」
『異例な速さの告白にも少し納得がいったよ。』
ミー子が頭を垂れた。
『陸上部って言ってたし、朝早く家を出て行ったのは朝練かな。』
「そうなんじゃないか?」
『私がこの家の前を走ったとき、しゃべりはしなかったけど目は合ったし、陸上部に勧誘されたらどうしよう。』
「3年生にもなって勧誘されるのか・・・。」
『よく考えたらなさそうね。』
俺もないと思う。
『どっちかっていうと私たちはあれだね、空いた時間があったら一緒にお菓子を作っていかないとじゃない?』
「それもそうだなあ、後は体験入学とかも行かないとだよなあ。」
『正直、私たちはあまり頭がいいともいないし、狙うんだったらAO入試で受かりたいしね。』
「今のうちから準備を始めておかないとなあ。」
『まずは先生との面談でどこに行くかとか言わないとね。』
「ああそうか、二者面談があるんだっけか。」
『授業開始日より順次開始って、配られた手紙にあったじゃないの。』
順次開始ってそれ俺はかなり早い段階で面談することになるんじゃないですかねえ。
「ちなみに、どこに学校があるかとか調べた?」
『調べたよ。一番近いところだと、早稲田の方にあるらしいじゃない。』
「距離的にはそこだよなあ。」
『専門学校らしいけど、基礎を学ぶんならそこでいいんじゃないの?』
「そうだよな。」
『落とさないように一緒に頑張りましょうよ。』
「おっ、おはよう絢駒くん、鏡崎ちゃん。」
教室には秋島がいた。
こいつ来るの早いな。
ああいや、外で朝練をしてる五十嵐の方が早いか。
「おはよう秋島。」
『秋島さんおはよう。』
「うんうん、おはようー。あ、絢駒くんさ、ちょっといいかなー?」
「ん?俺?」
「そうそう、絢駒くん。あ、鏡崎ちゃんにはちょっと待ってもらうことになるんだけど・・・いいかな?」
『その会話の流れで何の話があるのかは大体わかったからいいよ。』
物分かりが非常によろしいミー子。
うん、俺もミー子のセリフで何の話か大体わかった。
「おっけーおっけー。じゃあちょっと行こうか絢駒くん。」
秋島に連れられ、教室を出る。
「んー、じゃあちょっと屋上前のとこでいいよねー。」
「まあ、ここだともうそろそろ登校してくるやつらも多くなってくるか。」
「そうそう。というか何の話なのか分かってるみたいだねー?」
「まあ・・・うん、昨日の話だろ?」
「そうそう。」
秋島と一緒に、屋上前の小さなスペースに行く。
残念ながら屋上への鍵は開いていないので、ここで妥協だ。
「というわけで・・・さて、昨日何がありましたー?」
「それは俺から秋島に言っちゃってもいいやつなのか?」
「うん、私はぜーんぶ知ってるからね?」
「あっそう。」
おそらく昨日の夜にでも五十嵐が話したんだろう。
昨日はバイトだったらしいからな。
「まあなんだ、その・・・五十嵐から好きだと言われてな。」
「うんうん、そうだよねえ。開耶も悪い子だなー、絢駒くんと鏡崎ちゃんの邪魔はしないって言ってたのにねー。」
「あ、ああ・・・まあ、驚いたよ。」
まさか好意を持たれていると思ってなかったし。
「さすがに昨日の今日ではちょっと気まずいかなーって思うんだけどー、仲良くしてあげてほしいなあって。」
「ああ、で、できる限りは仲良くするつもりだよ。」
「うん、絢駒くんは優しそうだし、そういってくれるだろうなあって思ったよー。」
「お、おう。」
「開耶ってば今まで異性と話した経験とかほぼゼロだからねえ。」
「まじか。」
「そうそう、だから絢駒くん、頼むよー。」
た、頼まれましてもね。
普通にしゃべることくらいしかできないんだけど・・・。
「お、あ、絢駒くん、おはよう。」
後ろに五十嵐が座った。
さすがに昨日の今日で普通にとはいかないのか、もじもじしている。
「おはよう、五十嵐。」
『五十嵐さん、おはよう。』
「あ、うん、鏡崎ちゃん、おはよう。」
挨拶が微妙にぎこちない。
ミーコのこともそりゃあ意識しちゃうよなあ。
『ヘイユー、なっちを好きになるなんて、見る目があるじゃない?』
おいちょっとお前いきなり何言ってんの。
「鏡崎ちゃん!?」
秋島も驚いてるじゃねえか。
「お、おおう、そりゃ知ってるよねー。」
『確かになっちは優しいし料理も美味いし、顔も悪くはないし、とっても優良物件よね。』
「物件扱いかい。」
褒められてるのは分かるけど。
「あ、あたしは絢駒くんと話してて楽しいなあって思ってただけで!」
『これから知っていくつもりだったのね。まあでも私が彼女だし、負けないっすよ。』
宣戦布告かな?
「負けない!?え、じゃああたしが狙ってるっていうのも・・・。」
『別にいいんじゃない?なっちのこと好きなんでしょ?』
「う・・・うん。」
俺この場にいてもいいのかな。
なんか恥ずかしいんだけど。
『狙ってもいいけど、なっちは私にぞっこんだからね。奪えるもんなら奪ってみやがれ!』
「・・・そ、そこまで言うならあたし、ほ、本気で狙っちゃうよー?」
『いいともさ。』
「絢駒くん、彼女からお許しもらったよ・・・?」
「ま、まあミー子がそういうなら、いいんじゃない。」
疲れそうだけども・・・。
「はい、おはようございます!皆さん席についてくださーい!」
谷岡先生がやってきた。
先生の呼びかけに応じて、みんなが席に着く。
「出席は・・・皆さんいますね!省略します!」
いいのかそれ。
「さて、今日から授業が始まります!ちゃんと教科書などの用意はできてますか?」
はい、英語の教科書を忘れました。
ちゃんと確認しておくんだった・・・。
「あと、今日の放課後からしばらく個人面談があります!1日5人ずつ面談をしていきますので、バイトの日程などは各自合わせておいてくださいね!」
5人ずつってことは俺の面談は今日か。
となると、出席番号9番のミー子は明日か。
京介は18番だし、明々後日になるのか。
「絢駒くんって進路とか決まってるの?」
秋島がこちらを向いて話しかけてくる。
正直、振り返る時に一緒に揺れる胸が非常に気になる。
ミー子がすごい形相でこっちを見ているけども。
「ああ、俺は専門学校かな。」
「へー、理髪師?」
「何をもってそう考えたのか教えてくれるかな。」
お菓子作りが趣味って言ったじゃん。
なんかあなたの思考回路変じゃないですか?
「冗談冗談。漁師でしょー?」
「冗談を言い続けてるよね?」
ってか漁師って専門学校とかあるのか?
見てやって覚えるタイプじゃないのああいうのって。
「製菓の専門学校だよ。パティシエ目指すの。」
「えっ、なんか意外。」
「ねえ秋島、一昨日の俺の話聞いてた?」
「聞いてないけどー?」
もうやだこのマイペース。
というかあなた俺にお菓子作ってくれてもいいよ的なこと言ってたよね。
「開耶はどうするのー?」
「やりたいことないしー・・・でもとりあえず大学は出たいよねー。」
「私はどうしようかなー。」
聞いてきた本人は何も考えていなかったらしい。
「鏡崎ちゃんはー?絢駒くんと同じなのかな?」
「・・・(こくり)。」
五十嵐の問いにミー子が答える。
五十嵐がちょっとだけ難しい顔をした。
『五十嵐さんもパティシエ目指してみる?』
「あたしはそういうの苦手なんだよねー・・・大人しく勉強して大学目指しますよ。」
「ほうほう、絢駒くんはパティシエを目指しているんですね!早稲田の製菓の専門学校ですか。」
「はい、そこを目指しているんです。AO入試で入りたいと思ってます。」
「AO入試ですか、それなら小論文や面接の練習を進めていかなければですね!」
「頑張らないとですよね。俺あんまり成績よくないので、指定校とかは受けられませんし・・・。」
「・・・あー、1年や2年の前半の成績が足を引っ張ってしまっていますね・・・。」
谷岡先生が少し難しい顔をする。
そもそも製菓の専門学校って指定校推薦とかあるのか?
たしか指定校推薦の学校リストにはなかったような気がするけど。
「これ、絢駒くんがこの学校に合格すると、来年の指定校推薦のリストに学校が追加されるんですよ。」
ああ、そういうことか。
俺が合格すれば、俺の後輩たちは指定校推薦をできる可能性が出てくるのか。
つまり俺が頑張ることによってできる学校と専門学校の栄光の架橋!
「なんか後輩に恩恵があるのが少し癪ですね。」
「心が狭くないですか絢駒くん。」
いや、ちょっとね・・・?
「絢駒くんは面接の練習が必要ですかね、国語の成績は高いようですし。」
「分かりました。面接練習ってできるんですかね?」
「はい、先生に頼んでもらえばいつでもしてもらえますよ。先生の時間があればですが・・・いろいろな先生の頼むのがいいと思いますよ。」
「いろいろな先生ですか・・・ちょっと厳しい先生とかも?」
「厳しい先生の方が後々楽だと思いますよ。」
後々楽か・・・。
そうだ、面接練習の事を聞ける人がいそうだ。
あの人に聞けないかな?
「自己紹介でも言っていましたが、絢駒くんはお菓子作りが本当に得意なんですね!」
「ええ、喫茶店でバイトしてまして・・・厨房で」
「そうなんだー!絢駒くん、先生に作ってくれてもいですよ?」
「内申点とか成績点とかその他もろもろの加算がされるのなら考えます。」
「うわー、ちゃっかりしてますねえ・・・。」
「美味しいと言わせられるものを作りますよ?」
「それだと先生の仕事の領分を越えてしまうので、それはできません。」
ちぇっ。
「絢駒くんのバイト先はどこなんですか?先生、個人的に行ってみたいです。」
「あれ、生徒のバイト先って先生は知ってるんじゃないんですか?」
「・・・ああ!そういえば生徒の資料があるんでした!」
ちょっと抜けてるなこの先生。
「えーと、うん、これですね!ほうほう、学校からだと少しだけ遠いんですね。」
「まあ、学校とは反対方面ですから。」
「あら、鏡崎さんと一緒のバイト先なんですね。」
「先生、俺とあいつの資料を見比べてください。」
「ええ?」
先生が俺とミー子の資料を見比べる。
「・・・ああ!住所がほとんど一緒ですね!お隣さんですか。」
「そういうことです。ちなみに彼女です。」
「うわ~、青春してますねえ。幼なじみと恋人関係ってなんだかマンガかドラマみたいです。」
そ、そうだろうか。
「恋人は大切にした方がいいですよ。」
「もちろん、大切にしてますよ。その言い方だと、先生は・・・。」
「彼氏ですか?かれこれ5年はいませんね・・・。」
あっ。
「ま、まあ、先生のことはいいんですよ。幼なじみということは、お互い気心が知れてますし、一緒にいやすいでしょう。」
「ええ、安心できますね。」
「いいことですね。でも、距離が近すぎて逆に進展しないなんてことも・・・。」
・・・。
痛いところを突かれたかもしれない。
確かに他のカップルよりは進展が遅いかもしれない。
俺、このままでいいんだろうか。
っていやいや、今は進路相談の時間じゃないか。
「せ、先生、進路の話じゃないんですかね。」
「あら、そうでした。というわけで、絢駒くんの進路は専門学校ということでいいですね?」
「あ、はい、そういうことです。」
「もしかして、鏡崎さんも一緒だったり?」
「ええ、一緒に行こうってなってます。」
「そうですか。絢駒くん、パティシエの道が簡単ではないことは理解していますね?」
母さんにも言われたこと。
大変な仕事だと言われた。
学校に行くのは簡単でも、そこからパティシエとして成功するのは、簡単なわけがない。
「やりたいだけで続けられるような仕事ではないということは、分かってます。」
「そうですね。パティシエになったとしても、修行の日々です。」
「あいつと一緒なら頑張れます。一緒に店を開こうって約束してるんです。」
「うわお、とっても素敵じゃないですか。じゃあ、先生は応援するしかないですね!」
「応援してくれるんですか。」
「先生ですからね。」
やべえ、この先生好きになりそう。
『面談、どうだったよ。』
面談を終えて教室に戻ると、ミー子が待ってくれていた。
もう下校時刻は過ぎてるし、帰っててよかったのに。
「先生に応援されたよ。大変な道だろうけど頑張れって。」
『秋穂さんも言ってたけど、やっぱり大変なんだろうなあ。』
「今のうちにやめとくか?」
『何言ってんのよ。一緒に店を開くって約束したでしょ。やめるわけないじゃん。』
「ははっ、そうだよな。」
『せっかく私がやる気なんだから、気を削ぐようなこと言わないでよ。なっちと一緒に頑張りたいんだから。』
やべえ、俺マジ頑張らなきゃ。
『なっちとやりたいこと、できたんだから。』
もうマジほんと頑張らなきゃ。
「ごめん、変なこと言ったな。一緒に頑張ろうぜ。」
「・・・(ぷくー)。」
ミー子が頬をふくらませた。
かわいいじゃねえか。
「ごめんって。」
ミー子の頭をなでる。
「・・・(ぺし)。」
はじかれた。
『まったくもう、ほれ、帰りますよ。』
「へいへい。」
『ナンパには乗らねえぞ。』
「HEYHEYじゃねえよ。」
学校を出ると、陸上部が部活をやっているのが目に入った。
五十嵐が、ハードル走をしている。
『うわ、五十嵐さんハードル走めっちゃ早いじゃん。』
「そりゃ表彰されるだけあるよなあ・・・。」
「・・・?」
ミー子が首を傾げた。
やっぱりミー子も覚えていないらしい。
五十嵐は中学生の頃は髪が長かった。
そんでもって、陸上部の大会で表彰されていた。
あの髪をバッサリ切ったんじゃ、気づかねえわな・・・。
やっぱり髪の印象ってでかいんだな。
「そういえば、ミー子髪伸びたな。」
『そういえば切ってないね。』
肩につくくらいだったミー子の髪が、いつの間にか胸のあたりまで伸びている。
もうショートヘアとは言えない長さだ。
いっつもいっしょにいるとほんと気づかないんだな・・・。
『どうせなら伸ばしましょうかね。』
「それはいわゆる、願掛け的な?」
『そうそう、専門学校に合格したら元の長さに戻す。』
「じゃああと半年くらいだな。」
『なんかそのころには髪がうっとうしくなってそう。』
「髪は女の命ってよく聞くけど。」
『私は別にそうは思わないかなー。髪洗うのって面倒だし。』
面倒らしい。
まあ、さすがにそこは人それぞれか・・・。




