買い物です
『授業っていつからだっけ?』
「明日からじゃないか?」
『あ、明日からか。準備しとかないとな。』
「新しいノートとか、買ってあるか?」
『やべ、買ってないっすわ。』
また素晴らしいノートを作らなければ!
点数稼いじゃうよ!
『俺氏今日バイトなのよ。』
「お、マジっすか。じゃあ今日ミー子の分一緒に買っておくわ。」
『おう、レシートよろしくな。』
「分かった。」
『ありがとう、感謝するぜ。』
・・・これはつっこむべきなのか。
いや、ケータイで意思を伝えている以上、口調はどうとでもなる。
これはおそらく気にしない方がいいんだろう。
『というわけで俺氏は先に帰りますよっと。』
「おう、バイト頑張ってな。」
『もちろんだぜ兄者。』
いつから俺は彼氏から兄者になったんだろう。
「・・・(ひらひら)。」
ミー子が手を振って教室を去っていった。
ピロン♪
ラインが来た。
あれ、ミー子からだ。
『ツッコミ待ちだったんですがねえ。』
「つっこんでよかったのかよ!」
思わずケータイに向かって大きな声を出してしまった。
「おやおや、なーにを面白いことをしてるのかね絢駒くんはー。」
下校後の教室には人が少ない・・・のだが、残念ながら五十嵐に見られてしまった。
「いや、ちょっとミー子がツッコミどころ満載のことを言ってきたもんでね。」
「ああー、鏡崎ちゃんねー。鏡崎ちゃん面白いもんねー、うんうん。」
五十嵐がうなずく。
確かに、ミー子は面白いよな。
「というか、五十嵐は何を?」
「あたし?あたしは今日は部活ないからこれから帰るとこよー。」
「陸上部だっけ。」
「そそ、たまに部活休みの日があるからねー。明日から授業始まるし、ペンとかノートとか買って行こうかなー、と。」
「あ、そうなのか。俺も行くところなんだよ。」
・・・あっれえ、俺何言ってんの。
これ、俺が一緒に行こうって誘ってるようなものじゃないですかー。
「よし、あたしは彼女じゃないけど、一緒に行ってあげようー。あたしを鏡崎ちゃんだと思うといいよー。」
テンション低めだが、なんとなくうれしそうな五十嵐。
そういえば男を狙っているとかなんとか・・・。
「ミー子だと思うのは無理だな。」
「ありゃ、そりゃそうだよねえ。というか、あたしと一緒でいいの?」
「まあ、買い物するだけだし、いいだろ。」
五十嵐と一緒にノートを買いに行くことになった。
「そういえば、秋島はどうしたんだ?」
「ああ、花乃子?あの子は・・・そう、いいやつだったよ・・・。」
いったい秋島に何があったというんだ。
「あんなことをする子じゃ、ないと思ってたんだけどねえ・・・。」
どうやら秋島は犯罪者になってしまったらしい。
「バイトを・・・始めてしまってねえ。」
違うらしい。
「まあ、クラスの雰囲気からしてあたしらいつも一緒にいるように感じるかもしれないけど、放課後はあたしが部活だったり花乃子がバイトだったりでそんなに一緒にいないのよー。」
「へえ、そうなのか、意外だ。」
「まあ、中学から一緒だし、とーっても仲が良いのは間違いじゃないけどねー?」
「確かに、秋島と五十嵐は仲良いよな。」
「いいよー、すごくいいよー、絢駒くんと鏡崎ちゃんくらいいいよー。」
「そうなるとキケンな領域に入っちゃうんだけど。」
「冗談だよー。」
本当につかみどころがないなコイツは!
「ところでー、あたしと絢駒くんが放課後一緒にいるとか、なんかデートみたいな光景ですがー。」
「お互いよく知らないし俺には彼女もいるのにデートとな。」
「例えばー、この状況を鈴波くんが見ていてー、写真を撮られてー、鏡崎ちゃんに送られたとしたらー。」
それはちょっとまずいですねえ。
また女の子と親交を深めてー!とか怒られそうですな。
「ちゃっちゃと買い物を済ませてしまおう。」
「じゃああたしが個人的にあこがれていたシチュエーションで。」
何それ。
「いくよー。」
そういって、今まで適当に距離を取ってきた五十嵐が近づいてくる。
ちょっと待て何するつもりだ。
「えい。」
俺の腕に、五十嵐の腕が絡められる。
「おいちょっと待て五十嵐、そりゃダメだ。」
腕を振り払うと、五十嵐が満足げな顔を見せた。
「ほうほう、腕を絡めるとはこういう感じなんですなあ。うーん、もうちょっとであててんのよができたんだけどー。」
「やらんでいい。」
当たって認識できるようなもんでもないだろう、言わないけど。
「よしよし、なんとなく彼女の気分が分かったし、早めに買いに行っちゃおう。ついてくるんだ。」
「さっきちゃっちゃと行こうって言ったの俺なんだけど。」
「ほらほら、男なら細かいことは気にしないのー。」
五十嵐が俺の手を引いてホームセンターに向かう。
スキンシップが多いなコイツは!!
「おっ、これもダメですかい」
五十嵐から、手を引く。
「残念ながらな。それにあれだ、もし俺に彼女がいなかったとして、そんなことされたら俺勘違いしちゃうぞ?」
「いいんじゃない?」
・・・えっ。
なんすかそれ。
「まあ今日はただの買い物だ。今のは聞かなかったことにするから、早く買い物終わらせちゃおうぜ。」
「えー、聞かなかったことにするのー?それちょっと女の子に対して失礼極まりなくなーい?」
「そ、そりゃあれだ、五十嵐が俺に対して本気で好意がある場合だ。それにほら、俺がそっちに傾きそうになったら全力でビンタするんだろ?」
「・・・あー、そんなことも言ったっけねえ。」
「な?だからほら、早く行こうぜ。」
「んー、じゃあ、そうだなー。本気だったら・・・絢駒くん、どうする?」
・・・え、ちょ、何それ。
今の会話の流れだと五十嵐がまるで俺に好意があるようじゃないですかね?
知り合ってまだ全然時間たってませんよ?
「どうするもこうするも、俺の彼女はミー子だぞ。」
「ほうほう、絢駒くんも意志が強いね。まあいいや、行こうか。」
五十嵐がホームセンターの方へ向かう。
なんだったんだ・・・。
「うーん、新しい色ペンも買っておきたいよねえ。」
「そういえば俺も赤ペンのインクが足りなかったような・・・。」
「赤ペン?絢駒くん、普段何色のペン使ってるの?」
「基本的にシャーペンか赤と青かな。」
大切なところは赤文字、ちょっと大切なところは青文字。
それくらいの使い分けでいいだろう。
「あー、少ないねえ。」
それくらいの使い分けでいいんじゃないの?
「あたしのノートは8色ものペンを使い分けてるからねー。見よ!」
「カラフル!?」
五十嵐のノートは本人の性格とは真逆の見て目にうるさいタイプのノートだった。
「どうどう?」
「カラフルなのは女の子っぽいかもしれないけど・・・。」
字が女の子に多い丸文字ではなく、どちらかというと男寄りのシャープな文字。
それでいてカラフル。
なんだか違和感満載のノートだった。
「というわけであたしはたくさんのペンをたくさん使うのでー、ペンを何度も買う必要があるのでございまするー。」
「そ、そうか。じゃあ俺はノートを選んでくるわ。」
「おっ、いってらー。」
五十嵐から離れ、ノートを選ぶ。
まあ、普通の5冊セットのノートでいいよな。
「よーしあたしもペン選んだしノート買おうっとー。」
「早いな!?」
「いつも同じペンだからねー。」
五十嵐がノートを手に取る。
まあ、みんなそれだよな。
カラーバリエーションが多いからあんまり色が被ることはないが、基本的にはみんな、同じノートを使っている。
「よーし、買って帰りましょうかね。」
「そうだな。」
ノートとペンを買って、家に帰ろうとする。
なぜか、五十嵐がついてきた。
「あれ、ついてくるの?」
「ついてくるも何も、あたしの家もこっち方面よ?」
「あ、そ、そうか。」
五十嵐と2人きり、冷静になって考えてみれば、この状況ってあまりよろしくない。
先ほどのことを思い出して、顔が熱くなる。
本気だったらどうすると、五十嵐が言った。
その瞬間、五十嵐の表情に変化があった。
緊張を引き出すには十分だ。
「あ、あのさ、絢駒くん。」
「・・・なんすか。」
五十嵐に呼ばれただけで、緊張してしまう。
なんというか、この感じ・・・。
「さっきの話の続き、してもいいかなー。」
さっきの話・・・。
もしかしなくても、好意がどうとか、そういう話だろ。
俺の彼女はミー子だ。
俺にはミー子しかいないし、ミー子だって・・・。
「まあいいや、女は度胸、言ってしまえー。」
「ミー子以外は考えてないぞ。」
「いいのいいの。言いたいだけ。聞くだけ、聞いてほしいなー。」
聞くだけ、か。
でも、それを聞いてしまったら・・・。
明日から、気まずくならないかな?
「まだ出会って間もないけど・・・話してて、面白い人だなって思った。あたし、絢駒くんの事好きかもしれない。」
「・・・ま、まじですか。」
「えーと、うん、まじです。」
・・・俺に告白されたときのミー子も、こんなに緊張してたんだろうか。
あの時のミー子はかわいかったなあ。
「・・・絢駒くん、今、鏡崎ちゃんの事考えてるよね。」
「鋭いな。」
「女ってのは、そんなもんなのよー。望みがないのは分かってたけど、とりあえず伝えておきたかっただけよー。」
気持ちは伝わった。
出会ってこんな短期間で、人って好きになれるもんなんだな。
それは、勉強になった。
「うちの学校は席替えとかないし、一年間あたしの前の席だから、気まずくなるとかは嫌なのよー。でも、この気持ちは伝えたかった。だからちょっと難しいかもしれないけどー・・・友達、やってくれる?」
「お、おう、それなら・・・。」
「・・・そっか、よかったー。花乃子ともども、1年間よろしくね。」
「そうだな、よろしく。」
その後も、2人で帰りながらいろいろ話した。
家が近づいてきた。
まだ五十嵐は一緒だ。
「・・・もしかして、俺と五十嵐の家って結構近い?」
「かもしれないね?」
結局、五十嵐の家は俺の家やミー子の家となかなか近かった。
毎日登下校が一緒になるかもしれないレベルで。
「というか、もしかして同じ中学?」
「実を言うと同じ小学校だよねえ。今まで奇跡的に一回も絢駒くんや鏡崎ちゃんと同じクラスにならなかったんだけどー。」
何その衝撃の事実。
「だから高校に入って喋れない子がいるって聞いてもしかして中学のあの子?って思ったんだけど、本当に鏡崎ちゃんだったんだねー。」
「・・・あれ、中学の時も陸上部だった?」
「そうそう、大会にも出たよ?」
「中学の時さ、髪長かった?」
「そうだねー、高校上がってバッサリ切ったねー。」
・・・中学で見覚えあったかもしれない。
表彰されてたような・・・。
「というわけで、これからよろしくねー?」
「あ、ああ、よろしく・・・。」
『こんばんわ。』
「おう、バイトお疲れさん。」
ミー子が部屋に入ってきた。
もう11時ですが、もしかして泊まっていくつもりだろうか。
『ノート、受け取りに来たよ。』
「・・・ああ、そんな話してたな。」
「・・・?」
ミー子が首を傾げた。
そして、近づいてくる。
「・・・(ぴた)。」
おでこに、ミー子の手が当てられる。
冷たい。
『熱はないか。』
「いきなりどうした?」
『んー、なんかげっそりしてないかい?体調悪い?』
げっそり・・・げっそりか。
うん、確実にあれのせいだな・・・。
「あー・・・ちょっといいか。」
『え、何の話?なんかちょっと暗くない?別れたりしないよ?』
「いやそんな話じゃねえよ?ちょっと真面目な話・・・。」
さっきの話は、やっぱりミー子に言うべきだ。
「今日の帰りの話なんだが、聞いてほしい。」
『そんなに改まってどうしちゃったのよ。』
「今日、ノートを買いに行くっていう目的が被ったから、五十嵐と一緒に買いに行ったんだよ。」
『ほう、買い物とはいえ私以外の女の子と行くなんて珍しいじゃない。』
「ああ、まあそうなんだが・・・。」
『まさか、浮気しちゃったねえとか言われて、もしばらされたくなければ・・・とかなって脅されてる?』
全然違う方向まで考えるミー子。
うん、まあそういう考えも出るか・・・。
「そういうことじゃないんだ。あの・・・五十嵐に告白というものをされまして。」
「・・・。」
ミー子がぽかんと口を開けた。
そりゃ驚くだろう。
まだ3年生が始まってから、2日しか経ってないのだ。
初めて同じクラスになった秋島や五十嵐とも、まだ出会ってから2日なのだ。
最初から男を狙ってる雰囲気の五十嵐だったが、先ほどのものは決して軽い感じではなかった。
彼女は、本気なんだろう。
『へえ、五十嵐さんか・・・。ちょっと驚きだねえ。邪魔しない的なこと言ってたのにね。』
「ああ、そうなんだが・・・。」
『まあ、最初から普通に話せてたもんね。なっちはモテるし、仕方ない。』
モテる・・・俺が?
そんなことはないと思うけども・・・。
『とはいえ、なっちは私の彼氏だぞ。でもあれだ、気まずいのは嫌だし、仲良くしていこうか。』
「・・・おう、意外だ。敵視でもするもんかと思ってたが。」
『んなことせんよ。余裕をもって接するのサ。』
「へえ、そりゃいいな。」
『私、負けないもん。』
「・・・敵視してない?」
「・・・(ふるふる)。」
そ、そうかなあ。
『明日からもっとべたべたしようか。』
「すでにかなりベタベタしてると思うんだけど。」
正直俺はバカップルと言われたら言い返せない。
否定できる要素ないもん。
『じゃああれだ、腕組んで登校しよう。』
「俺に対する精神攻撃かな?」
学生でそんなにベタベタするの?
周りの視線だけで殺されそう。
『じゃああれね。なっちが学校内で寝たら、なっちを起こしておはようのチュウをする。』
「絶対寝れねえ!!」
この前の、廊下で愛を叫んだ京介よりもぶっちぎりで恥ずかしい。
そんなことされたら俺お婿に行けない。
というかそれ以前に学校にいけない。
『じゃあ学校でセッ・・・かくだから一緒にお昼ごはん食べようよ。』
「なんのせっかくだから!?昼ごはんはいっつも一緒だろ!」
こいつわざとやってやがるな!?
『まあ冗談ですよ。あの子なんかマイペースだけど頑固そうだし、これから多分私がいてもアタックされるよ、なっち。』
「まじか。」
『たぶんね。』
じゃあこれから五十嵐のことを華麗にかわしていかないといけないということか・・・。
いやまあ、あくまで友達。
「案外秋島が止めてくれたりして。」
『それはないんじゃないかな。それくらいで止まるんだったら、それは本当に好きかどうか、怪しいし。』
本当に好き・・・。
『例えばだよ。恋人がピンチで、いますぐ助けに行かないといけない。でもそれをやったら周りからは干されて立場を失い、どこか違う場所へ行かなきゃいけなくなる。実行しようとしたら周りの人に止められた。なっちだったらどうする?』
「もちろんミー子を助けるに決まってんだろ。逃げた先で一緒にうまくやればいいだけの話だ。」
『そういうことじゃないかな。周りに止められたくらいで止まらないよ、本当にやりたいことはね。』
おお、なんかいいこと言ってる・・・。
でもそういうことだよな。
本当に好きなら、周りは気にせず好きな人を追いかけちゃうよな。
やりすぎはよくないけど。




