練習中です
『秋島さんと五十嵐さんとは仲良くやれそう。』
夜、俺の部屋に来たミー子がいきなりそんなことを言い出した。
うん、仲良くできそうなのはいいことなんだけどね。
「1番の相沢な、バイト先によく来るらしいぜ。」
『知ってる。見たことある。』
えっ、俺気づかなかったんだけど。
もしかして俺観察力ないんだろうか。
『秋島っていう苗字と、前のなっちの苗字、似てるよね。』
「まあ、一字違いだしな。」
敷島と秋島・・・うーん、一文字しか違わないけど、「し」と「あ」だと結構違う感じがするな。
『性格は全然似てないけどね。』
「ああ、秋島、超マイペースだったな。」
『五十嵐さんもそうだったと思うけど。』
あいつら2人して超マイペース組だな。
『鈴波くんはいつも通り浮いてたね。』
「ああ、あの自己紹介なら仕方ねえ。」
もし俺が京介と初対面だったなら、早くも危ない人リスト行きだ。
『そろそろ京介くんって呼んであげようかしら。』
「あいつ喜びそうだなー。」
うん、女の子に優しくしてもらえると喜ぶやつだからなー。
『明日から呼んでみるよ。』
「ん・・・まあ、いいんじゃないか。」
『ちょっと嫌かなって今思っただろ。』
少し思いました。
あれ、俺意外と独占欲的なものが強いんだろうか。
『まあほら、鈴波くんとは中学1年生のころからの付き合いだし、もう6年目突入だからね。』
「あー、あいつと仲良くなってからもうそんなに経つのかあ。」
時の流れってのは早いもんだな。
『なっちと付き合い始めてからはなくなったけど、鈴波くんと2人で出かけたことも何度かあったしね。』
「ああ、そういえばあったな。俺の誕生日プレゼントを買いに行った時だっけ。」
『そうそう。』
まあ、ミー子と京介も、結構仲いいしな。
『というわけで、明日から呼んでみるよ。』
「分かった。たぶんあいつ驚くぞ。」
『もし抱きしめられたら助けてね。』
「おう、その時はぶっころ。」
『なっちって、私が絡むと暴力的だよね。』
「実際の行動にはうつさないけどな。」
一回だけ行動にうつしたけど。
『にしても陽花とクラスが離れちゃうなんて・・・。』
「俺の後ろがテンション高いやつから一気に低いやつになったからな。」
祈木の後の五十嵐だとかなりテンションの落差が激しい。
それでいてマイペース。
なんというか、祈木よりもかなり苦労させられそうだ。
『ぶっころといえば、後ろの人、ちょっと怖い。』
「ああ、鎌谷だっけ?」
「・・・(こくり)。」
確かになんかあいつ変なんだよな・・・。
『あれこそ何かされそうな気がするんだけど。』
「吉田の再来?」
「・・・(かたかた)。」
「ごめん、冗談。」
ミー子が震えた。
『てか、なんで私となっちの名前知ってたんだろ。』
「それは分からねえな・・・。」
『後ろから襲われたらどうしよう。』
「その時は真面目に殺す。」
『うわ、本気。』
あったりまえだろ。
さすがにミー子に手を出されたら俺も自分を抑えられるかどうかわからない。
ちょっと本気でキレるかもしれない。
あ、ちょっとどころじゃないかもしれない。
『まあ鎌谷さんはなっちの隣だし、お願いしますね。』
「まかしとけ。」
なんか変な感じがするからちゃんと見張っておこう。
『とりあえず、後ろ以外は楽しくやれそう?』
「そうだな、まあ見張ってるからさ、楽しくやっていこうな。」
「・・・(こくり)。」
さて、今日は宿題もないしやることもない。
何をしようか。
「・・・(ぽすん)。」
ミー子が隣に座った。
「どした。」
『ちょっと近づきたかっただけ。お願いがあるんだけど。』
「なんだ?」
『頭、ぽんぽんして。』
ミー子が期待のまなざしでこっちを見てくる。
頭ぽんぽんか。
それくらいならまあいいでしょう。
「ほれ。」
頭をぽんぽんして、なでなでする。
「・・・(にこ)。」
ミー子が嬉しそうに笑った。
『うん、なんかただのバカップルみたい。』
「そうだなぁ。」
『うれしいけど、なんか少し恥ずかしいね。』
「俺は楽しいかも。ミー子の笑顔、かわいいし。」
『あ、ちょっと待って恥ずかしい。』
笑顔が消え、ミー子の顔が赤くなった。
うん、かわいい。
「なあなあミー子、一緒にさ、しゃべる練習してみようぜ。」
『しゃべる練習ですか。』
「そうそう、ミー子の笑顔は練習の賜物だしさ、しゃべる練習してみればもしかしたら?」
『私家で結構してるんだけどね。』
「俺と一緒にだよ。」
『それは考えてなかった。』
「はいじゃあ練習。こんばんわ。」
ミー子が口パクでこんばんわと言った。
声は出ない。
『いろいろ調べてみたんだけどさ、失声症って普段はこんなに長く続かないらしいんだよね。なんでだろ。』
ミー子が首をかしげる。
ミー子が失声症になったのが小学5年生の時だから・・・もう7年目になるのか。
確かになんでだろ?
「本当はもう声が出る準備できてたり?」
『出る気配ないんですがねえ。』
確かに、咳しても声っぽい音しないし。
よくわからねえな。
「じゃあ、あいうえおで。」
また、ミー子があいうえおと口パクで言った。
なんなんだろ。
なんか、変な光景だ。
『早くしゃべれるようになりたいな。』
「そうだなあ、もしかしたらなんでしゃべれないかとか、病院行けば分かるかもよ?」
『聞いてみるのもいいかもなあ。』
ミー子がつまらなそうな顔をした。
「そういえば前にも言った気がするけど、声が戻ったら、どんな声してるんだろうな」
『どんな声、かあ・・・。』
首をかしげるミー子。
記憶の中にあるミー子の声は、元気で明るい、高い声だ。
「昔のままの声だったりするのかな?」
『それはそれで恥ずかしいんだけど!小学5年生の時だぞ!』
「ある意味かわいいかもしれないぞ?」
『なんかやだよ!』
面白そうじゃないか。
その声なら、今の明るい性格だって合うだろう。
「まったく聞いたことのないような低い声になっていたらどうしよう。」
『まさかのおっさんボイス。』
「超嫌なんだけど。」
『やばい、もしおっさんボイスならなっちに嫌われちゃう。』
「いや、ミー子を嫌いはしないけど。」
『じゃあ、こんな声だったら・・・聞いてください。』
ミー子がスマホで音楽を流した。
「・・・なにこれ。」
『鈴波くんが最近音ゲーで気に入ってる曲らしい。』
曲のジャンルはUKハードコアというらしい。
おっさんのサンプリングボイスが響く。
え、ミー子がこんな声だったら?
・・・面白い冗談だ。
「音ゲーってのはこんなやかましい曲を使ってるのか・・・。」
『一部でしょ。』
「そうだろうけど。」
なんにせよまったく聞いたことのないジャンルだ。
『もし変わってなかったらロリ声声優としていけるのではないか。』
「最近はステージに立たされるらしいぞ。」
『声優の道は閉ざされたようだ。』
人前に出たくないらしい。
『なっちとお話もできたし、今日は帰るとしよう。』
「お、帰っちゃうのか。」
『ぬ、もっと私と一緒にいたい?』
「ああいや、帰るのかーと思ってな。」
『なにそれ。』
ミー子が笑った。
帰られると困るとか、そういうわけではないんだけどな。
まあ、普段からずっと一緒にいるし。
『まあいいや。1学期しょっぱなから個人面談あるし、なっち頑張ってね。』
「個人面談か・・・。」
そういえば進路関係の個人面談があったな。
進路はパティシエ目指しますときっぱり言ってやるけども。
『先生にしっかりと意志を示しておいた方がいいかもね。』
「そうだな。」
『同じとこ、目指そうね。』
「もちろんだ。」
ミー子と一緒に店開くっていうのも楽しそうだ。
そこまで至るには、たっくさん努力をしないとだけどな。
なった後も大変だって聞くけどな。
『私さ、パティシエについて少し調べたんだよね。』
「そうなのか。」
『うん、とっても大変で、辞める人も多いんだってさ。』
「そうか・・・。」
実際、長い間厳しい修行を続けてやっと一人前になれるような仕事だと聞く。
生半可な覚悟ではできないだろう。
『それに、かなりの一流でないと稼ぐのもきついらしい。』
「それは・・・前にテレビで聞いたことがあるような。」
一人前になれても、サラリーマンより給料が低いことだってあるらしい。
生活していくには、だれにも認められるようなパティシエにならなければ。
ミー子が下を向いてケータイをタップする。
長文かな?
『でもさ、ちょっと想像してみてほしいんだ。私たちの店をもって、私たちが作ったお菓子をお客さんが買いに来て、この店のお菓子はおいしいって言ってもらえたら・・・ほんの少しくらい稼ぎが少なくても、楽しそうじゃない?』
楽しそう、か・・・。
楽しいだけでは仕事にならないと、どこかで聞いた気がする。
でも・・・ミー子と一緒に店を持つ、か。
それ、すごくいい。
「ああ、楽しそうだ。一緒の店とか、わくわくする。」
『でしょ?一緒に、頑張ろうね。』
「ああ、一緒に、な。」
「なっち!」
ミー子が満面の笑みで近づいてきた。
以前、夢の中で聞いた声とは違う、明るい声・・・。
「って、ミー子!?」
「なっち!声が出たんだよ!やっと・・・やっと!」
ミー子が抱き着いてきた。
小学生の頃の声とは違う、少しだけ大人びた声。
ただ、ミー子の見た目にはぴったりな声だ。
「もうケータイで話さなくてもいいんだよ!」
「そ、そうだな。すげえテンポがいい。」
返答がすぐに帰ってくる。
これが、本来の会話のペースだ。
「すごい!声が出せるってこんなにうれしいんだね!」
声を出すのは、当たり前の事。
でも、ミー子にとってはその当たり前が当たり前じゃなかったんだ。
だから、その当たり前が、こんなにもうれしい。
「ねえなっち!」
「おう。」
「私、これからやりたいこといっぱいあるよ!」
「そうか、なんだってついてくぞ。」
声が出たといううれしさで、普段よりも積極的なミー子。
さて、何をするんだろうな?
「まずは、みんなにありがとうを言いに行かなきゃ!」
ありがとう、か。
確かに、ミー子はたくさんの人に支えられてきたもんな。
・・・いや、ミー子だけじゃない。
俺も、いろんな人に支えられてきたんだよな・・・。
一緒に、ありがとうを言いに行かないとな。
「じゃあ、なっち。」
「おう。」
ミー子が、深々とお辞儀をした。
「今まで、本当にありがとう。これからも、よろしくね。」
「こちらこそ、ミー子のおかげで、俺も頑張れたからな。これからもよろしく。」
「えへへ。」
ミー子が笑う。
「あともう一つ!なっちに伝えないといけないことがあるよ!」
「伝えないといけないこと?」
「うん!聞いて、くれる?」
ミー子があらたまった。
「もちろん、ミー子の話ならなんだって聞くよ。」
「うん、ありがとう。じゃあ、言うね。」
「・・・っは。」
勢いよく体を起こすと、部屋が明るかった。
電気を消さずに、いつのまにか寝てしまっていたようだ。
「今何時だ・・・?」
時計を見ると、深夜2時。
完全に寝落ちだった。
「風呂もまだ入ってないし・・・みんな寝てるだろうけど、風呂入るか・・・」
寝起きでまだ頭がぼーっとするが、着替えをもって風呂場に行く。
風呂の温度を確かめると、まだ温かかった。
「ふーっ・・・よかった、まだ温かい。」
風呂でゆっくりしていると、先ほどのことを思い出した。
「早速ミー子がしゃべる夢を見るとか、俺影響されやすすぎだろ。」
そういえば前にミー子じゃなくて大きくなった風羽ちゃんが夢に出てきたこともあったなあ。
風羽ちゃん、生きていたらかわいい子になってただろうなあ・・・。
「夢に出てきたミー子の声は俺の想像だろうけど・・・あの声、すげえかわいかったよな。」
深夜、静まり返った風呂場だと、自分の声が反響してよく聞こえる。
「・・・俺、結構声低くなってたんだなあ。」
普段は自分の声の変化になんて気づけないけど、こういう時なら分かる。
ほんと、いつの間にか声が低くなってたんだな。
最近、なんか少しだけ力も強くなった気がするし。
身長も、多分ちょっとだけ伸びてる。
身体って気づかないうちに成長してるもんだなあ・・・。
ちょっとスケベな考えだけど、いつかはミー子の胸も・・・いかん、夜のテンションだ。
・・・そういえば、子供ができると育てるために女性の胸って発達するんだっけ。
それなら多少は希望が・・・って、俺はミー子と結婚して子供作る前提まで行ってるじゃないか。
その気はあるけど、さすがにまだ気が早いよな。
「早く、ミー子の声が聞きたいな。」
「やあやあおはよう絢駒くん、鏡崎ちゃん。」
教室に入ると、俺たちよりも先に秋島が来ていた。
こちらを振り向くと同時に、秋島の胸が揺れる。
どうやら、ぽやぽやした性格と同様、胸もぽやぽや・・・。
「・・・(ぎりっ)。」
「いたっ!!」
ミー子に背中をつねられた。
「どうしたのさ鏡崎ちゃん、変な顔をして。」
『身体的コンプレックスに対してひどい仕打ちを受けた。』
「身体的・・・ああ、鏡崎ちゃん、女の価値はおっぱいじゃないよ。」
『それはでかい人が言えるんだよ!!』
ミー子が机に突っ伏した。
ただ・・・うん、そうですね。
女の価値はおっぱいじゃないですよね。
でもなんか俺の周りって案外・・・うん、割と大きい人が、うん。
祈木とか、冬姉とか、紗由さんとか、白奈先輩も割と・・・そして秋島。
・・・って、俺の周りってホントに女しかいねえな。
そんでもってミー子と春姉・・・。
「お、絢駒くんおはようー。・・・ん、どしたのー?なんかあたしのこと凝視してる?」
・・・と、五十嵐は小さい、と。
「あ、開耶おはよー。いや今ね、鏡崎ちゃんとおっぱいの話になってね?」
「ああそういう・・・うん、花乃子はいいサイズよねー。っておい、絢駒くんや。」
さっと前を向く。
背中に強烈な視線を感じるが、無視。
「なあー、絢駒くんやー。」
肩に手を置かれる。
怒っていらっしゃる!?
「いいかい、絢駒くん。おっぱいの大きさは人それぞれ・・・ということは分かるな?」
「はい、千差万別の極みでございます。」
「そうだよなー。花乃子は大きい、あたしと鏡崎ちゃんは大きくないな?」
答えづらいんですけど。
「というか、あたしはぶっちぎりで小さい。鏡崎ちゃんよりも小さい。そんでもって身長は鏡崎ちゃんより大きい。」
ミー子が起き上がり、五十嵐の胸を見つめた。
少しだけ、表情が和らいだ。
「でも、適材適所という言葉もあるんだよねー。」
「な、何をおっしゃって・・・?」
「・・・陸上部のあたしにはこれくらいがちょうどいい、むしろ走ったり跳んだりする時の邪魔にならなくていいんだよ。」
「そ、そうですか。」
「だから、あたしは現状おっぱいの大きさなんてまーったく気にしてません。むしろおっぱいの大きいことか見てて眼福。」
「お前は何を言っているんだ。」
てっきり怒られるのかと思った。
『少しでも勝ったとか思った私が恥ずかしい。』
ミー子が両手で顔を隠していた。
というか、なんで俺は朝っぱらからおっぱいトークに・・・俺のせいでした。




