先生登場です
「おはようございます!」
教室の扉が開くと同時に、元気な声がした。
「・・・あれ、返事がないですね。おはようございまーす!」
「お、おはようございます。」
「あ、返事がありました。キミは・・・出席番号3番の、絢駒夏央くんですね。」
「はい、俺です。」
「さて、この3年1組を担当することになりました、担任の谷岡光です!みなさん、1年間よろしくね!」
先生が黒板に名前を書いて自己紹介をする。
簡単な名前ですね、書きやすくて楽です。
「去年は1年生を担当してたんですが、なんと今年は3年生の担当をすることになりました!」
あら、それは残念だ。
2年生の修学旅行についていけないなんて。
「担当教科は古文、好きなものは梅干しです!」
梅干しが好きだなんて・・・渋い先生だな。
「というわけで、私はまだみんなのことを出席番号と名前しか把握してません!というわけで、顔と名前を一致させたいので出席番号1番から立って私に自己紹介をお願いします!」
「今日の連絡とかないんですかね!?」
どこかから声が上がった。
うん、俺もそれ思った。
「今日ですか?今日は始業式だけなんで連絡事項はないですね!始業式が10時からなのでその前に自己紹介をお願いします!というわけで相沢さんから!」
「出席番号1番が憎い・・・!」
相沢と呼ばれた女子が嫌そうな顔をした。
分かる、分かるぞその気持ち。
「えっと、出席番号1番の相沢則子です。うーん、得意科目は英語、です。よろしくお願いします。」
あ、人と話すのがあまり得意じゃないタイプかな?
「英語が得意な相沢さんね!よろしくね!」
「はーい、出席番号2番の秋島花乃子ですー。」
先生から指名される前に話し始める秋島。
たぶんこいつかなりマイペースだろ。
俺の後ろのやつもだけど。
「得意科目は・・・うん、ないです。よろしくお願いしますー。」
「な、ないのかな?」
「はい、私の成績は・・・私の口からはとてもとても・・・。」
「い、言えないの!?自分の成績だよ!もっと自信もって!」
やっぱこいつ面白いな。
「えーと、気を取り直して・・・絢駒くん!は、さっき覚えたからもういいかな?」
「俺だけ自己紹介なしですかね!?」
それはそれでなんか嫌なんだけど!?
「冗談ですよ!」
「・・・えーと、出席番号3番の絢駒夏央です。得意科目は国語、趣味はお菓子作りです。よろしくお願いします。」
「お菓子!乙メン!よろしくお願いします!」
乙メン・・・。
「「今度私 (あたし)に作ってくれてもいいよ?」」
席に着いた途端、前後からステレオで言われた。
こいつら・・・。
お、次はミー子の番か。
どういう自己紹介するんだろ・・・。
『まず、筆談しかできないことをどうかご理解ください。』
いや先に名乗らないのかよ。
「え?あれ、筆談?」
『あれ、ここの担任になるにあたって、他の先生から私の話を聞いてないですか?』
先生の言葉に、筆談で返すミー子。
正直めちゃくちゃテンポが悪い。
「えっと、鏡崎さんだよね?」
『はいそうです。出席番号9番の鏡崎美衣です。得意科目は化学、趣味はゲームです。』
えっ、そこで自己紹介するの?
「特に話は聞いてないけれど・・・。」
『あの適当先生め、私のこと話さなかったんだな。』
「う、うん?」
先生が首をかしげる。
『いえ、こちらの話です。私、失声症で声を出すことができないんです。まだ療養中なので、ご理解をお願いします。』
教室がざわついた。
珍しそうなものを見るような視線を、きっと感じているだろう。
・・・まったく、そんなに失声症が珍しいか。
お前らから見たミー子は、そんな変なものに見えるか。
『まあ、ぶっちゃけ言っちゃうと今のところ障がい者になってしまうのかな。まあそういうことなので、どうかよろしくお願いします。』
「え、ああ!はい!わかりました!わ、私にできるようなことあればサポートしますね!」
・・・うん、とりあえずミー子のことを理解してくれるようだ。
悪い先生では、なさそうだ。
『というわけで私の自己紹介は終わりです。1年間、よろしくお願いします。』
ミー子がお辞儀をした。
「あ、あの、出席番号10番の、鎌谷録助です。得意科目は化学で、趣味は小説を読むことです、ふ、あ、あの、1年間、よろしくお願いします。」
たどたどしく、鎌谷が先生に自己紹介をした。
やっぱりなんか変だなコイツ・・・。
京介は去年と全く同じ挨拶をして周りの女子たちが苦笑いをしていた。
うん、だから初対面で人のことあだ名で呼ぶようなやつ、祈木以外にはなかなかいないから。
あと、もしいたとして、他の女の子からきょーちゃんなんて呼ばれてるところを祈木に見られたら、祈木だってきっと嫉妬しちゃうぞ。
「はーい、始業式始まるんで皆さん並んでくださいねー!男子と女子で1列ずつですからねー!」
言われなくても分かります、中学生ですか。
後ろを向くと、こっちを見ていた京介と目が合った。
『俺始業式寝ますわ。』
口パクでたぶんそんなことを言ってやがる。
『先生にバレて叩かれろ。』
京介が悲しそうな顔をしたので前を向く。
京介と口パクでコミュニケーションを取ってる間、鎌谷がこちらを凝視してきているのが非常に気になった。
そして、名前の順で並ぶとやっぱり俺が一番前。
小学校の時はそんなことなかったんだけどなあ。
ちらっとミー子の方を見る。
視線に気づいたようで、小さく手を振ってくれた。
・・・ミー子はいいぜ、一番前じゃないからな。
『結局一番前ですな。どんまい。』
俺の考えていることを読んだらしいミー子がそんな手話を送ってきやがった。
こんにゃろ。
「じゃあ行きますよー。先生についてきてくださいね!」
体育館って3年生の階からだとまっすぐ行くだけで着くんですが。
そういえば、3年生になったから毎朝階段を一階分上がらなくてよくなったのか。
うむ、結構結構。
「君が絢駒くんだよね。」
隣からいきなり話しかけられた。
「お、おうはい、俺が絢駒夏央です。」
「なんか面白い反応だね。私は相沢則子だよ。よろしくね。」
「あ、ああ、よろしく。」
そっか、こういう始業式とかの行事だと毎回出席順だし、相沢と隣になることも増えるのか。
「私、Grace dropに行くんだよ。絢駒くんのこと、何回か見たことあるよ。」
お、まじですかい。
「そりゃどうも。俺のほかに、あそこはミー子も働いてるぞ。」
「ミー子?」
「・・・ああ、ごめんごめん、鏡崎だ。」
「ああ、鏡崎美衣ちゃんね!あだ名呼びとは・・・仲がよろしくて?」
「まあね。」
にしてもあそこに来てくれているお客さんだとは。
「好きだよー、あそこのマロンモンブラン。特に金曜日、キミが作ってるやつねー。」
「おお、まじか。」
「まじまじ。あとね、鏡崎ちゃんが作ってるモンブランは絢駒くんのモンブランの味を再現しようとしてるなってのが分かるね。」
「なかなかの舌をお持ちで。」
「へっへっへ。」
相沢が笑った。
『1年生は入学おめでとう、2年生はこれからが頑張る時、そして、3年生は最後の見せ場、この1年間を、精一杯走り抜けてほしいと、校長は願っています。就職、進学と、道はいろいろあるでしょう。迷って、悩んで、自分のやれることを精一杯、やってください。』
校長が力を込めて言う。
・・・そうだよなあ、俺ももう3年生なんだよなあ。
もう、来年の4月には、ここにはいないんだよなあ。
そういえば、部活とか参加しなかったせいで後輩とかできなかったな。
まあそれはいいんだけど。
「絢駒くんは進路決めてる?」
隣の相沢が話しかけてきた。
「まだ先生には言ってないけど、もう決めてるよ。」
目立たないように、小声で話す。
「ほー、やっぱりお菓子系?」
「まあ、そんな感じ。ミー子もな。」
「あ、なんじゃいお2人はお付き合いをしている感じか。」
「そんな感じ。」
対して驚かない相沢。
誰と誰が付き合っているって話、大体みんなは驚かないのかな。
京介が祈木と付き合ってるって話を聞いた時は心底驚いたんだけどな。
「何度か見たことあるけど一緒にいるだけであんまり付き合ってるって感じはしなかったんだけどなあ。」
「なんですと・・・!?」
付き合ってるようには見えないということか・・・!
「私、去年は絢駒くんたちと隣のクラスだからね。見たことあったんだけどね。」
「お、俺たち付き合ってるように見えない!?」
「あ、焦んないでよ。仲良さそうだなと思ったけど付き合ってるとはねって思っただけ。言われて見れば納得よ。」
お、おう・・・よかった。
「幼なじみってのもある?」
「あ、幼なじみなんだね。それもあると思うよ。お互い気心知れてるだろうし。」
そ、そういうのもあるんですね。
「じゃああれだ、鏡崎ちゃんは家に帰るとべったりするようなかわいい子だったり・・・。」
「そこは秘密だ。」
「お、てことは図星だね?いいねえ!学校では大人しいけど家に帰ればデレデレな子!ギャップってやつだねえ!」
相沢のテンションが上がる。
もしや、女の子に萌えられる子か・・・?
「絢駒くん、相沢さん、ちょっと静かにね!」
谷岡先生が近づいてきていたことに気付かなかった。
またうるさくしてしまいましたか・・・。
『なっちがすでにいろいろな女の子に手を出している件について。』
「あの俺を女たらしみたいにするのやめてくださいませんかね。」
『チャラ男。』
「違うからね!」
話すだけ!話すだけだから!
『浮気されるのも時間の問題。』
「しないっつの!」
教室に戻ると、いきなりミー子が詰め寄ってきた。
いろいろな女の子ってのは相沢と秋島と五十嵐の事だろう。
浮気する気なんてさらさらないのだが。
「あれ、鏡崎ちゃん妬いてるー?」
「ほんとだ鏡崎ちゃん妬いてるー。」
ミー子の様子に秋島と五十嵐が反応した。
『妬いてないよ。なっちは気が多いなあって思っただけで。』
「それ妬いてるっていうんじゃ・・・。」
『だってなっちったら他にも仲良い女の子が多くてね!』
「完全に妬いてますやーん。」
秋島がツッコミを入れた。
『だってなっちってば女のことはよくしゃべるくせに男の友達は鈴波くんしかいないんだよ!』
「・・・絢駒くん、あんまり鏡崎ちゃんを悲しませちゃだめだと思うなー。」
後ろからつんつんつついてくる五十嵐。
俺が悪いんだろうか。
・・・というか、確かに俺って男の友達は京介しかいねえな。
鎌谷はなんか嫌だし。
『私だけを見て。あなたがほかの女に手を出すというのなら・・・殺すわ。』
「ヤンデレか。」
冗談なんだろうが、私を見てってところはきっと本心だろう。
ちょっと、悩んでるみたいだったしなあ。
「まあ安心してよ鏡崎ちゃん。私も開耶も、鏡崎ちゃんから彼氏を奪うようなことはしないからさ。」
『もしなっちの気がそっちに傾きそうになったらどうする。』
「安心してよ鏡崎ちゃん。その時はあたしが全力で絢駒くんをビンタする。」
痛そう。
『信じていいのかい?』
「もちろんさぁ。」
秋島が某ハンバーガーの妖精を真似して言った。
一瞬、静かになった。
「はい、今日は始業式だけなのでこれで終わりです!明後日から授業開始になるので、皆さん休まず来てくださいね!」
『じゃあ明日は来なくても。』
「来てくださいね!」
「・・・。」
え、ミー子明日休むつもりだったの。
「1学期の成績が進路に影響する最後の期間ですので、頑張っていきましょう!」
最後・・・最後か。
『なっち、どうかした?』
帰り道、ミー子が俺の前に回り込んで聞いてきた。
ちょっと、びっくりした。
「どうかしたって、何が?俺なんもないぞ?」
『なんもないの?ちょっと寂しそうな顔してるよ?』
「そ、そうか?」
「・・・(こくり)。」
寂しそうな顔か・・・。
「たぶん、3年生になったからかな。」
「・・・?」
ミー子が首を傾げた。
「いやほら、最後のって聞いてさ。これからの行事、全部最後ってつくと思うと・・・な。」
『そういうことね。確かに、ちょっと寂しくなるかもね。』
「ああ、あと1年だもんなあ・・・。」
京介とか、祈木とか、進路はどうするんだろうなあ。
『まあまあ、悩んでも仕方ないじゃない。時間は過ぎてっちゃうものよ。それなら、悩む前に思い出作っちゃえばいいと思う。』
「思い出か・・・。」
京介とかと、遊びに行くか。
旅行とか?
でもそんな金はないな・・・。
『それより、今日はなっちバイトじゃないの?』
「そうだった!」
「絢駒くん、今日はお菓子じゃなくて料理の方をお願いできるかな?」
バイトに入るなり、店長にそんなことを言われた。
できるけども、俺はお菓子を作る方が好きなんだけど・・・。
「今日はウエイターが3人もいるからねー。お菓子は私が作るからさ。」
「分かりました。」
「金曜日は絢駒くんに任せるから!」
ああ、モンブランがやたら売れる日か。
うーん、料理の方はお菓子より種類が多いから少しめんどくさい。
まあ、働いてる以上文句は言えないんだけど。
といってもうちはオーダーが入ってから作るし注文が入らないと暇なんだよな・・・。
ウエイター3人も暇そうにしているし。
お菓子は作ってウインドウの中に入れておけばいいけど、こっちはそういうわけにもいかないし。
「たぶんあと2時間くらいしたら忙しくなってくるかな。」
5時になれば、仕事を終えたサラリーマンたちが増える。
普段なら、学校から帰ってきた学生も来たりする。
もしかしたら今日はヒマかもなあ。
・・・お菓子作りたいな。
まあでも勝手に作るわけにもいかないし。
「オーダー入らねえかなー。」
「残念ながらしばらく入らなそうだな。」
「先輩。」
先輩が厨房に入ってきた。
「さぼりですか?」
「アホ、客がいねえんだよ。」
「なんでウエイター3人もいるんですかね?」
「俺の知った話じゃねえな。」
先輩がケータイを取り出した。
「彼女ですか?」
「いねえっつんだよ。なんだお前、俺への当てつけか。」
「いやいや、そんなことないですよ。」
「最近鏡崎も俺がケータイいじってると彼女ですかって聞いてくるんだが。」
「そりゃ俺は知りませんな。」
ミー子がバイト中に何をしてるかとかは聞いてないし、ミー子が何してようがそれは知りません。
「もしかしてあれか、お前たち聞くこと似てたりするのか。」
「そんなことはないと思います。ミー子が俺の真似をすることはありますが。」
「お前のせいじゃねえか!」
先輩がおっきな声を出した。
「・・・客がいないとはいえ仕事中だぞー。」
店長がジト目でこっちを見てくる。
「すいません、絢駒が俺のことをバカにしてくるのでつい。」
「俺のせいっすか!?」
そりゃ理不尽ってもんだ。
店長、天罰をお願いします。
「もしかして・・・キミも彼女できたのかな?」
「だー!!」
店長、ナイス天罰。
「というか、絢駒くんは鏡崎ちゃんとうまくいっているのかな?」
お菓子を作り終えて、ヒマになった店長が俺に話を向けてくる。
「そりゃあ、幼なじみですし、いつでも一緒にいますよ。」
「いつでもかー、いいねえ、そんなにイチャイチャできるような彼氏がいたら楽しいだろうなあ。」
「あ、店長って彼氏いないんでしたっけ。」
「いないよ。ついでに言うと今まで彼氏もいたことないし、25歳の処女です。」
「何言ってるんですか!?」
衝撃のカミングアウト。
そんなの知らなかった。
美人だし、彼氏とかいそうだなって思ってたんだけどなあ。
「だからねえ、カップルを見るとなんだか微笑ましくてね!」
「おばあちゃんの考えですよ、それ。」
「おばあちゃん!?」
ショックを受ける店長。
「ってか、店長俺の事言えないじゃないっすか。」
先輩が店長に文句を言う。
「私はあんま気にしてないもん。キミは結構気にしてるみたいだけどね?」
「そりゃ気にしますよ!俺だって彼女くらいほしいですからね!」
先輩、彼女欲しいのか。
「そういえば先輩、年上が好きじゃありませんでした?」
「え、そうなの?」
店長が先輩の方を向く。
先輩が目をそらした。
「前、俺の姉さんがどうとか言ってましたよね?」
「い、いや、それはまだお前の姉がここの常連だった時の話だっつの。今は大学に気になる人がいるんだよ。」
「え、キミ冬ちゃんのこと気になってたの!?」
店長が驚く。
どうやら知らなかったようだ。
「つかもういいだろこの話!俺と店長がみじめになるだけだっつの!ほら客来ましたよ!」
先輩が厨房から出て行った。
「ナポリタンお願いします!」




