プレゼントしました
「ただいまー。」
『ぬ、おかえりー。』
家に帰ると、ミー子がいた。
こっちにいたのか。
『鈴波くんと出かけてたんだね?』
「そうそう、祈木がそろそろ誕生日らしくてね。」
『ああ、誕生日プレゼント買いに行ってたのね。』
「そういうこと。」
ミー子は俺のベッドに寝転がったまま、漫画を読んでいる。
『ちなみにどんなもん買ってきたのよ。』
「服買ってたよ。」
『陽花喜びそうね。』
「ちょっと手伝ってもらったけどね。」
『店員さんに見てもらったのか。』
「いや、買い物中に白奈先輩にばったり出くわしてね。」
名前を出した瞬間、ミー子がぴくっと反応した。
『白奈先輩と買い物してたの?』
「まあ、祈木にプレゼントする服を見てもらってただけだよ。」
『ほー。』
・・・そんでもって、ここにも。
結局あの後、選んだんだよね。
別に、誕生日でも何でもないけども。
『まーたなっちは女の子と出かけてー。』
「白奈先輩のことは何とも思ってねーよ。今日のはついてきてくれただけだし。」
『ふーん。』
ミー子がそっぽを向いた。
俺がほかの女の人と出かけてるの、ちょっと気にしてるんだよな・・・。
「まあまあ、ミー子にプレゼントも買ってきたし、機嫌直してくれよ。」
『なんと珍しいことだ。』
ミー子が起き上がった。
『袋の大きさから察するに、もしかして服?』
「ちょっと違うかな。」
袋を開けて、ミー子に見せる。
『おおお、私こういうの持ってないな。』
買ったものは、ネイビーのスキニージーンズ。
結局、ミー子の体系から考えて、買ってみた。
あってなければ残念だけども。
「まあ、ミー子に似合うかなと思って。」
『タイツ履かなくてもよさそうね。』
「似合うと思う。」
『その言い方だと今ここで着替えてくれって言われてるような気がするんだけども。』
「あ、いや、そうじゃない。」
さすがに目の前で着替えろって程じゃない。
『うーん、ちょっと待っててよ。』
ミー子が買ってきたものを持って部屋を出て行った。
「もしかして着替えてくれるのか。」
ちょっと待ってみよう。
「・・・そういえば、今日はミー子何してたんだろう。」
今日は朝からミー子には京介と出かけるとしか言ってなかったし、その間何をしていたのかは知らない。
もしかして、ずっと俺の部屋で漫画を読んでいたんだろうか。
『扉に対して背を向けていてください。』
ミー子からラインが飛んできた。
着替えてくれたってことか。
『私がいいよってラインしたら振り返ってね。』
『了解。』
ガチャッと音を立てて、部屋の扉が開いた。
後ろには今ミー子がいるのか。
「美衣ちゃんじゃないよ?」
「春姉!?」
びっくりして振り向くと、春姉が立っていた。
「えっへへ、ごめんね?美衣ちゃんに先に行ってだましてって言われてさ。」
「あのヤロウ。」
「ふふ、今の夏央くん、ちょっと面白かったよ。」
「へいへいありがとうございます。」
「じゃあ、レポート書いてる途中だから部屋に戻るね。」
レポート書いてる人の邪魔するなよ。
『ふふふ、見事に騙されおって。』
『してやられたぜ。』
後ろを向こうとした瞬間、開いた扉からミー子が顔をひょっこり出した。
「お、準備できたか?」
「・・・(こくり)。」
「見せてくれるのか?」
「・・・(こくり)。」
うなずいて、ミー子が部屋に入った。
俺がさっきプレゼントしたスキニージーンズを履き、上は黒いセーターを着ている。
全体的に黒いが、ミー子には似合っている。
「いいじゃんいいじゃん。似合ってんじゃん。」
『そうかい?』
「ああ、前は薄手の青いサマーセーターだったけど、これも似合ってるよ。買ってきたの?」
『実は今日、私は陽花と出かけていました。』
「そうだったのか!」
『うん、そんで、一着だけだけど、新しいの買ってきたの。』
それが春物の黒いセーターだったってことか。
『明るい色にはどうしても手が伸びなくてね。』
「確かに、ミー子の服は暗い色のイメージがあるな。」
『喪女っぽいかね?』
「そもそも喪女じゃないよね。」
『そうだけどもさ、なっちから見てどうよ?私、もうちょっと明るい系の服とか着た方がいいのかな?』
「うーん、俺は普通に似合ってると思うし、そういう色でも全く問題ないんだけどね?」
『なっちがそう思うんならいいんだけどさ。』
ちょっと微妙な顔をしたまま、ミー子が隣に座った。
「セーターって、なんか柔らかい感じがしていいよな。」
『なあにそれ、またなっちの変態ちっくな話?』
「あの、俺をそういうタイプの変態にするのやめて?」
スキニー見てたら変態扱いされるし、セーターっていいよなって言ったら変態って言われるし。
「セーター着てるとその人に雰囲気も柔らかく見えるって話。」
『そんなもんかね?』
「俺にはそういう風に見える。」
『私も?』
「あー・・・、そうだな。ミー子、ちょっと笑ってみ?」
「・・・?」
ミー子が不思議そうな顔をする。
「いいからいいから。」
「・・・(にこ)?」
首をかしげたまま、ミー子が笑った。
角度はおかしいが、うん、だいぶ雰囲気が柔らかい感じだ。
「かわいいぞ、ミー子。」
「・・・(かーっ)。」
ミー子の顔が赤くなった。
『なんというか、面と向かって言われると恥ずかしいね。』
「照れる姿もかわいいな。」
『やめろォ!』
ミー子が勢いよくそっぽを向いた。
「まあなんだ、セーター着てる女の子ってなんか好きなんだよ。」
『もうちょっとセーター買ってこようかな。』
「お、いいな。サマーセーターも、秋物も冬物もそろえればいいんじゃないか?」
『バイトするしか・・・。』
「金に無理のない範囲でな!」
破滅されても困る。
『そうだ、面白い服装をしてこようじゃないか。』
「なんだそれ。」
『ちょっと待ってておくれよ。』
ミー子がまた部屋を出て行った。
『お待たせ。』
今度は帰ってくるのが早かった。
『あー、ごめん。ここで着替えるから後ろ向いてて。』
「ここで着替えるの?」
『いやほらね?家で着替えてその姿で外に出たくないからさ。』
「なんじゃそりゃ。」
『まあ、なっちの前だけでできる姿ってことで。』
・・・下着姿だったら困るんだけども。
『大丈夫、下着一枚じゃないから。』
心読まれてた。
「面白い服装ってこと?」
『いや、そうじゃないよ。』
どういう感じなんだろう。
『ほれ、いいよ。』
後ろを振り返った。
冬物の長めのセーターに、黒タイツ―――
「刺激的!?」
『ね、これで外には出られないでしょ?』
「うんまあ確かに。」
『でも、部屋の中だったらこの服装でも大丈夫じゃない?』
「確かに、家の中ならな。」
うん、外には出てほしくないな。
『なっちの大好きな黒タイツもよく見えるし、こういうのもいいでしょ。』
「ちょっと俺には刺激が強いですね・・・。」
『チラチラ見ちゃう?』
「見ちゃう。」
絶対見ちゃう。
『今日はこの格好で近くにいてあげましょうか?』
「俺にとって刺激が強いのでヤメテ。」
ちょっとね、興奮するというか・・・うん、興奮する。
『仕方ない、なっちが私にアタックフォルムになっちゃう前に着替えるか。』
「そうして。」
ミー子が俺から離れ、セーターを脱ぎだした。
・・・俺の前で。
「なんでそこで着替える!?」
『外だと寒いじゃない。』
「そういう問題じゃなく!?」
「・・・?」
そこで首傾げるのか!?
「さっきみたいに後ろ向いててとか言わないでいきなり着替えるからびっくりしたよ!?」
『どうせ一緒にお風呂入ってるんだし、肌くらい見られたってねえ。』
「そ・・・そうか。」
まあ確かに・・・うん、風呂入ったときにいろいろ見たような気はするけど・・・・。
「えっとじゃあ、そうだね、とりあえず、こっち向いて着替えないで?」
『なっちが背を向ければいいのでは。』
「そうだね!」
なるべく身体を見ないように後ろを向いた。
俺だから大丈夫っていうのは、嬉しいのやら嫌なのやら分からん。
俺のことを信頼してくれているということだろうか?
それとももう慣れたから平気だろうということか・・・。
『あんまり簡単に肌を見せるのはいただけない?』
いつの間にか着替えたミー子が、ずいっと近づいてきた。
「いただけないというか・・・無防備じゃない?」
『まあ、なっちの前だけよ。安心してるというか、私はほら、なっちなら何見られてもいいしさ。』
「信頼の証拠?」
『ま、そーゆーもん。』
「そーゆーもんか。」
「・・・(こくり)。」
『プレゼント、ありがとね。大切にするよ。』
「出かけるときは履いてくれると嬉しいかも。」
『なっちにエロい目で見られそうだけど、まあいいか。じゃあ、今日は帰るね。』
「おう、また明日な。」
「・・・(こくり)。」
ミー子が帰っていった。
いやー、今日もミー子はかわいかったでござる。
「・・・ぬ。」
人が交差点を曲がってこっちに来た。
くせ毛で外に広がった長い髪。
女性にしては高めの身長。
そんでもって、スーツの上からも分かる大きな胸。
「おーう!夏央、お姉ちゃんのお帰りだぞー!」
手を振って、冬姉が近づいてきた。
「帰ってくるの久しぶりだな!?」
「そうそう!最近ちょっと仕事が忙しくてさ!」
冬姉が少し疲れた顔を見せた。
「スーツってことは今日は会社だったのか。」
「そーそー、開発部のオッチャンたちにエッチな目で見られてきましたよーっと。」
冬姉も苦労しているらしい。
「お義父さんが帰って来たんでしょ?姉ちゃんも顔出しとかないとねー。」
「あ、そういえば父さんが帰ってきてから冬姉家に来てなかったな。」
「酒も買ってきたぞー。」
「飲みたかっただけかい。」
「いいかい夏央、お姉ちゃんから教えてあげるよ。・・・一人で飲むのって、寂しいんだよ。」
「そ、そうですかい・・・。」
じゃあ一人暮らしの紗由さんも普段は寂しく飲んでいるのだろうか。
「というわけで・・・ただいまー!」
冬姉の声が家に響いた。
「いやあ、冬ちゃんに会うのも久しぶりだなあ!」
父さんが酒を飲みながら冬姉の肩を叩く。
「あたしもお義父さんが帰ってきたと聞いて顔出したいと思ってたんだけどねえ、仕事が忙しくてね!」
「いいんだいいんだ!仕事は頑張ってナンボだから!今の仕事を精一杯頑張りな!ハッハッハ!」
父さん、酒あまり飲まないでね?
春姉が酒弱いのは、父さんの遺伝だからね?
「冬華、あんた無理してない?ちょっと痩せたでしょ。」
母さんが冬姉を見て心配そうに言った。
確かに・・・よく見れば痩せてるような気がする。
「まあ今は大事な時だからね、仕方ない。でも大丈夫!ヤマ越えたらいっぱい食べて復活するから!」
「冬華さん、本当に無理しちゃだめだよ?」
「大丈夫だって春女!もう、2人とも心配性だなあ!」
まあ、ちょっと痩せたくらいでこの姉は死なないだろ。
もう2年近く同じ仕事してるんだし、慣れたところもあるんじゃないかな?
「乗り越えたらあたしの家に夏央を呼んでおいしいご飯たくさん作ってもらうから!」
「・・・俺!?」
なんで急に指名入りました!?
「やさしーい夏央くんが、かわいいお姉ちゃんのために、おいしーい料理を作ってくれるんだもんね?」
「えー・・・。」
「ねっ?」
冬姉からすさまじいプレッシャーが飛んでくる。
「ああ・・・はい、まあ、うん。作ります。」
「それでこそあたしの弟!大好き!」
いやん愛の告白されちゃったー(棒)
残念ながら俺にはもう彼女いますし。
ってか、実の姉ですし。
「無理してるっていうんなら、ずーっと日本離れて仕事してたお義父さんの方が無理してたんじゃないのー?」
「俺は大丈夫!父さんは強いんだぞー!」
マッチョポーズをとる父さん。
こりゃあ完全に酔っぱらってますな。
「今はみんなが作るごはんをたくさん食べてるしな!秋穂も春女も、夏央が作るごはんもうまいんだぞー!」
そういってくれると嬉しい。
「そういえば冬華は料理のスキルは上達した?」
「今は忙しいから、軽いもんで済ませちゃうんだけどねえ。ヤマ越えたらまた練習しようかなー。」
ということは上達してないらしい。
まあ一人暮らしできるくらいには料理できるけどねこの人。
「そういえば、夏央は進路決めたの?来年受験生じゃん?」
「あっ、私も聞き忘れていたわ。夏央、去年は決めてなかったけど、決めたの?」
「なつくん、どうなの?」
女性陣から一斉に顔を向けられる。
そういえば言ってなかったな・・・。
「夏央、お前が目指すのがどんなものでも、父さんは応援するぞー!」
父さんが赤い顔で胸をどんと叩いた。
決まってないとはぐらかすことはできない状況だ。
まあ、言い忘れていただけで、言おうとは思ってたんだけどね。
「俺は・・・なんか、言うの恥ずかしいな。」
「夏央、もったいぶるんじゃないよー!」
「そ、そうだよなつくん!」
もったいぶったつもりねえんだけど・・・。
「その・・・ですね。パティシエを目指してみようかなと思いまして。」
なんで敬語なんだ、俺。
「あー、パティシエかー!夏央ならお菓子作るのも上手だしできそうだね!頑張れ!」
冬姉は素直に応援してくれた。
「お仕事大変そうだよね・・・でもなつくんならうまくやれるんじゃないかな!私、応援するね!」
春姉も、応援してくれた。
「お~う!夏央がそれ目指すってんだったらとことんやってみろ!父さんは~、夏央の味方だぞ~!」
赤い顔で父さんが手を上げた。
この酔っ払い、明日には聞いたこと忘れてるんじゃないだろうか。
「パティシエね・・・たぶん、すっごく大変なお仕事だと思うけど・・・夏央、やれるの?」
母さんも応援・・・とはいかなかった。
「やるよ。一緒にパティシエやるって約束しちまったからな。」
「約束ねえ・・・。でも、やりたいってだけで続けていけるお仕事でもないかもしれないわよ?」
確かに、大変な仕事だってのはいろいろ調べてみたし知ってる。
でも・・・。
「ミー子と一緒にパティシエになってお菓子作るって決めたんだ。俺はそっちの道に進みたい。」
「そっか・・・そうね、やれるだけやってみなさい。私も応援するわ。」
「ありがとう。」
「もちろん、美衣ちゃんも一緒に連れて行くのよ。」
「当たりまえだ。一緒にお菓子作るんだからな。」
さあ、言った。
これで、もう後はない。
俺はパティシエの道を目指す。
ミー子と一緒にだ。
「おお、夏央、ちょっとかっこいいじゃん。」
「ちょっとかよ。」
「うへへへ。」
冬姉がいたずらっぽく笑った。
「美衣ちゃんと一緒に・・・うん、いいじゃん!なつくん、ファイト!」
「ありがとう。俺頑張るよ!」




