お帰りです
帰る前にタコせんを食べて帰ろうとミー子が言い出した。
せっかくなので、タコせんを売っているところに寄った。
『これが名物のタコせんなのね。』
「そうみたいだな。あの、タコせん2つください。」
「分かりました!少々お待ちください!」
お姉さんが元気良く反応した。
さっき並んでいる人の後ろから見ていたんだけど、タコせんの作り方を見て、なかなかに衝撃を受けた。
どうやらタコをそのままプレスして焼くみたいだ。
プレスする瞬間に聞こえるキュルキュルという音に悪意を感じる。
『楽しみですな。』
「衝撃を受けなかったのかミー子は。」
『いやそんなに。』
強いですね・・・。
タコがプレス機の上に乗せられる。
全く動かないということは生きていない・・・んだよな?
冷凍タコを解凍したとかそういうことだよな?
『お、おい、俺をそんなところに置くなよ、熱いだろ?』
プレス機がだんだんタコに近づいていく。
『おいおい、俺に何をするつもりだよ?そんな物騒なもん、俺に向けるべきじゃねえぜ?』
『ちょ、ちょっと待ってくれよ、お前、本気か?そのまま近づいたら俺に・・・』
そして、タコがプレスされた。
『ギャアアアアアアアアアア!!』
「やめろミー子食えなくなる。」
さっきからなんつーナレーションしてくるんだこいつは。
『なっちは動物に感情移入できるタイプなんですね。』
「だからやめろっつったんだ。」
『お、怒った?』
ミー子がちょっと不安げにこっちを見てきた。
いやいや、別に怒っちゃいねえよ。
「そんくらいで怒るんなら、普段俺何で怒るかわからねえよ。」
『確かになっちが怒るのってあまりない・・・吉田の時くらい?』
「いや、あれで怒らなかったら彼氏・・・イヤあの時はまだ彼氏じゃねえか・・・幼なじみとしておかしいだろ?」
『まあそうかもね。あの時のなっちはヒーローでした。』
「過去形か・・・。」
『いっつもヒーローだったらなっち疲れちゃうもん。』
優しいんだかなんというか・・・。
「お待たせしました!熱いのでお気を付けください!」
タコせんが手渡される。
おお・・・マーブル模様がリアルだな・・・。
「てかあっつっ!!」
『熱いと言われていたじゃないですか。』
焼き立てめっちゃ熱っ!!
「で、そろそろ帰るのか?」
『そうね。普段ここまで歩かないから少し疲れちゃったよ。』
普段朝走ってるくせに。
走ってない俺なんかな・・・明日筋肉痛かも。
「まあいい時間だし、帰りますか。」
「・・・(こくり)。」
帰る時も、ミー子は手をつないできた。
今日はずっと手をつないでたな。
左手があったけえや。
『出かけるのはすごく楽しいけど、普段あまり外に出ないから疲れちゃうね。』
「まあ確かに・・・泊まりならともかく。」
『こういうお出かけは、たまにでいいかもね。まあ、今回出かけた理由って微妙な危機感だったし。』
「危機感・・・。」
確かに、俺がミー子よりほかの人と出かけていたことが原因だ。
付き合いが長すぎるのも理由だったんだけども。
『それか、次からは泊まりとかね。』
「金がかかりそうだ・・・。」
『いいじゃないの。楽しいよ、きっと。』
「ミー子といろんな所な・・・確かに、楽しそうだ。」
『なっちと一緒ならどこでも楽しいですよ。ヘッヘッヘ。』
ミー子が笑顔になる。
最後のところは、照れ隠しだろうか。
なんというか、ミー子らしい。
ちょっと、揺さぶりをかけてみよう。
「楽しいって、ラブホとかでもか?」
「・・・(びく)。」
一瞬、ミー子の肩が揺れた。
『なっちからそんな言葉が出てくるとはびっくりだよ。私は、なっちが行きたいならついていくよ。今から行く?』
「うえっ、い、今?」
予想していなかった返しに、俺が驚かされる羽目になってしまった。
ミー子がそんなことを言うので、行った後のことを想像してしまった。
『なっち、赤くなってるよ。』
「・・・くぅー!」
俺が揺さぶりをかけられてしまった。
と、唇に柔らかな感覚。
何かと思ったら、ミー子の人差し指だった。
『あれから少し変わった?』
あれから・・・いや、俺にはまだ無理だ・・・。
『そんな暗い顔しないで。私は大丈夫だからさ?』
「ご、ごめん。」
『もー自分から振っといてなっちったらー。』
そうでした・・・自分から振っておいてなに自爆してんだ俺・・・。
『あんまり無理したり、思いつめたりしなくてもいいからね。』
「お、おう。」
帰りの江ノ電の中では、お互い無言だった。
『なっちと微妙な雰囲気になってしまった。そんなわけで今日はなっちと一緒に寝るよ!』
「なんで!?」
『彼女に、慰めてもらいたくないかい?』
「自業自得だから慰めは・・・。」
『いいのー。今日はなっちとデートなんだから、最後まで一緒にいるのー。いいでしょ?』
人が少ない電車の中で、ミー子がずいっと近寄ってきた。
『ちなみに、家に帰ったらすごいこと教えてあげるよ。』
「すごいこと?」
最近そんなことあったかな。
『本当に驚いちゃうよ。』
「そ、そうか・・・。」
そういわれると、少し気になるな。
『なっち、歩き疲れたでしょ。』
「え・・・あ、いや、そんなことないぞ?」
彼女差し置いて彼氏が疲れたって言うのはちょっと恥ずかしい。
まあ、強がってるだけだけど。
『本当のことを言いなさいよ。表情が疲れてるよ。』
「・・・はい、歩き疲れました。」
電車に揺られてて、だいぶ眠い。
『寝てていいよ。私が起こしてあげるから。』
「申し訳ないんだけど、それいわゆるフラグってやつじゃないんですかね。」
「・・・?」
ミー子が首を傾げた。
おや、意味を分かっていらっしゃらない?
「いやほら、途中で両方寝ちゃって結局寝過ごすっていう・・・。」
『私がそんなに信じられない?』
「あ、いえ、そういうことじゃないです。」
『大丈夫大丈夫。ケータイのバイブ機能で目覚ましかけとくから。』
「あれ、それってミー子さんも寝る気満々・・・。」
『んなこたない。ほらほら、疲れてるんでしょ?なんなら私の肩に頭乗っけちゃってもいいからさ。』
「そこまで言うなら・・・。」
お言葉に甘えて、少し休みましょう。
Side 美衣
寝るの早いなー。
さすがなっちだね。
寝るの早いし、起きるのは遅いもんね。
にしても、今日は楽しかったなあ。
いろんなところに行けちゃったよ。
・・・ちょっと、独りよがりだったかも。
なっちはああ言ってくれるけど、それはなっちが優しいからだもんね。
普通なら、自分が見たこともないアニメの聖地巡りに付き合わされるっていうのはお付き合いしててもよろしいことじゃないと思うし・・・。
というか、久しぶりのデートだって言ってたのに、今日本当にこれでよかったのかな。
なんか、失敗しちゃったかも。
デートって、どんな風にするのが正解なんだろ。
・・・なっちのことは大好きだけど、付き合うのって、難しいんだなあ。
だからといって別れるとかそういうのはないけどね。
ずっと、一緒にいたいもん。
それに、もし別れたりなんかしたら、なっちはすぐ他の女の子にとられちゃう。
なんだかんだ、なっちは人気だもん。
ハルさんは危ないし、紗由さんも正直怪しい。
なっちは渡さないぞー。
・・・たぶん、これからもなっちはいろんな人と仲良くなれる。
男の人とも、女の人とも。
束縛とか、そういうのはしたくないけども。
せめて、私を一番そばに感じてほしい。
ずっと、一緒にいたい。
・・・なんだろ、なんだか眠くなってきた。
「・・・ん。」
だいぶ良く寝たような気が・・・。
あれ、電車のドアが開きっぱなしだ。
あれ?
・・・うおい、ミー子さん寝てるじゃないですか。
起こしてくれるんじゃなかったのぉー!?
ドア空きっぱなしってことは終点かな!?
まじか寝過ごした!
・・・まあ、俺たちが住んでるところまでは折り返して15分くらいで着くからいいけど。
あれ、でもなんかここ知らない駅だな。
・・・品河?
「・・・あれえ?」
乗ったところからそんなに進んでないな。
あんまり時間たってないのかな?
「・・・2時間進んでる!?」
時計を見ると、なぜかもう6時だった。
あれ、ここまで30分くらいしかかからないんじゃ・・・!?
30分しかかからないはずの駅にいてなぜか2時間たっている・・・まさか、タイムスリップ!?
なんか超常現象に遭遇しちゃった!?
「お、おいミー子起きろ!なんか変なことになってんぞ!」
「・・・(びく)。」
ミー子が目を覚ました。
よかった、ミー子が起こしてちゃんと起きるタイプで。
『どうしたの?』
「それが、ここって30分くらいで着くはずの駅なんだが起きたらなぜか2時間たってて・・・。」
『お知らせいたします。ただいま青羽駅で発生しました人身事故の影響で、現在も運転を見合わせております。』
・・・あっ。
そういうことかー。
止まってたのかー。
まじかびっくりしたー。
『いったん落ち着いて周りのことを確認しましょうね?』
「・・・はい。」
なんつーこった。
『となると家帰れるまでまだ時間かかりそうね。』
「まあ、待つしかないよな。」
早く運転再開してくれないかな?
結局あれから1時間電車が動いてくれなかった。
ミー子は途中でトイレに行きたくなったらしく、電車を降りて行った。
そんで戻ってくる余裕があるくらいには電車が止まってた。
『あきらめてタクシーで帰ってる人もいたよ。』
「まじか。そりゃリッチだな。」
『大人の人しかいなかったけどね。』
「さすが大人。リッチだ。」
『リッチーだね。』
「そりゃゲームで出てきたら苦戦するやつだね。」
『強いよあれ。j・d・ウォルスの上位互換だからね。』
「ごめん、何言ってるかわからない。」
ミー子のことだから何かのゲームなんだろうけど、何のゲームかすらわからない。
『知らないのかなっち。神ゲーと称されるゲームだぞ!』
「どういう意味の神ゲー?」
『ストーリーも面白いしバトルシステムも分かりやすい、何より北欧神話をモチーフにしてて、最後の方まで行くと神が文字通り神の一撃でこっちのプレイヤーをオーバーキルしてくる神ゲーだ!』
「最後の方それ神ゲーって言わなくね?」
一撃でオーバーキルってクソゲーの領域じゃないですかね。
『大丈夫大丈夫。いくらだってクリアの方法はあるからね。まあそれなりにゲーム自体の難易度は高いんだけどね。』
「俺にはできなさそうだな。」
『だってなっちはRPGより無双系とかFPSの方が得意でしょ?』
「そっちの方が分かりやすいからな。」
『つまり単細胞。』
「その言い方はひどすぎる。」
まさかそんなこと言われるとは思わなかった。
『うそうそ。なっち大好き。』
ミー子がくっついてくる、が・・・。
「ミー子さん、ここね、電車内なんですよ。」
『おっとすまねえ、忘れるところだったぜ。』
忘れるところどころか忘れていた気がするんですがそれは・・・。
「やっと帰ってこれたな・・・。」
『駅からまた歩かないといけないなんて・・・。』
「もう少しの辛抱だ。」
『治郎さん?』
「そんなこといってねえ。」
その人は前に朝のニュースに出てた人だ。
『お土産とか買わなかったね。』
「そういえば買ってないな。まあ、いいんじゃね。」
『そのいいんじゃねが周りからの信頼を・・・。』
「お土産一つで信頼関係崩れる!?」
それはまずい!
いやそんなことないだろ。
『冬華さんあたりお土産ねだってきそうだけどね。』
「冬姉か・・・そういや最近帰ってこないな。彼氏でもできたか。」
『冬華さんには申し訳ないけど、ないと思う。』
「ごめん、俺もそれ思った。」
あの人に彼氏ができて結婚とかするようになるのはいつになるんだろう・・・。
今年25歳ですよね。
・・・まだ焦る時間じゃない?
「まあいいや、今日はかなり歩いて疲れたしな。帰ろう。」
「・・・(こくり)。」
「・・・おや。」
『彼女はもしや。』
家に着く直前、俺の家から誰かが出てきた。
巨乳でサイドテールの人。
まだ気づかれてないみたいだし、隠れようかな?
「むむっ!この臭い!さては我が弟と太郎ちゃん!」
「!?」
「・・・(びく)。」
臭い!?
そんなもんで気づくか!?
俺たちそんなに臭ってるのか!?
仕方ない、気づかれた以上隠れるわけにもいかないし・・・。
「こ、こんばんわ。」
「おいっす!撮影会以来だね~!太郎ちゃんも久しぶり!」
完全に気づいていたんだろう、姿を見せる前から俺らの方向を向いていた紗由さんが大きく手を振る。
手を上げるだけで胸が強調されるってすごいですね・・・。
ミー子の眉間にしわが寄ってますよ。
『お久しぶりです。』
「あ、はるさめから聞いたよ!今日デートだったんだよね!どこ行ってきたの?」
『江ノ島です。』
「江ノ島!」
それを聞いた途端、紗由さんが俺にずずいっと近づいてきた。
「なつおくんや?江の島行ったということはもちろん・・・。」
「・・・あー、はい、ありますよ。写真。」
「ナイッスだね~なつおくん!!あとで私のラインに送っておいてね!」
「あ、はい。」
「今日はもうレポート作るから帰るね!じゃあなつおくん!太郎ちゃん!ばいばーい!」
「ああ、また。」
『ばいばいです。』
紗由さんは自転車を爆走させながら帰っていった。
・・・元気な人だ。
『気象に例えると、台風。』
「気持ちは分かる。」
「ただいま。」
「あ、なつくんおかえり。」
家に入ると、いるのは春姉だけだった。
「母さんたちは?」
「秋穂さんはもうちょっとしたら帰ってくるってさ。お父さんは・・・研究室から出てきたら帰ってくるんじゃないかな。」
「それはしばらく出てこねえな。」
あの父さんは研究者体質だ。
一度研究に没頭してしまうとその日のうちに帰ってくる保証はない。
『お邪魔します。』
「あ、美衣ちゃんいらっしゃい。」
ミー子がリビングに入るなりあたりを見回した。
『ハルさんだけなんですね。』
そして俺とほぼ同じことを言う。
「うん、秋穂さんはもうちょっとしたら帰ってくるみたい。」
『あー、そうなんですね。』
もう一人のほうは、なんとなく察したようだ。
「んで、どうだったの?江の島デートはさ!」
『楽しかったですよ。ずっと手をつないで歩いてました。』
「え、いいとこそこ?」
思わず聞いてしまった。
ほかにもいろいろ楽しくなかったですか?
『もちろんたくさん楽しいことあったよ。でもほら、なっちがそばにいてくれないとダメでしょ?』
「こらこら、お姉ちゃんの前でリア充オーラを振りまくんじゃないよ。」
春姉、ミー子の話を聞いて一瞬「いいなあ」って顔したの、俺は見逃さなかったぞ。
いや、まあ春姉の気持ちは知ってるんだけども。
『ちなみに今日は泊まっていきます。』
「えっ。」
春姉が固まった。
「い、一緒に寝るのかな?」
『いつものことですよ。』
「一緒に寝るのがいつものことになってる高校生のカップルなかなかいないよ!?」
『ハルさん、顔に「私だってなつくんと一緒に寝たいのに」って書いてありますよ。』
「えっ!?い、いやいや!そんなことは!」
『顔真っ赤。とってもかわいいです。』
「・・・お姉ちゃんをからかうなー!」
春姉が顔を真っ赤にして両手を振り上げた。
『なっち、たいさーん。』
「俺あの春姉のこともうちょっと見ていたいんだけど。」
『黙ってろソフトS。』
「・・・Sってミー子じゃねえ!?」




