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Please speak!  作者: 長野原春
58/113

久しぶりのお出かけです 2

『まあその前にかなり歩くんだけどね。大丈夫?』

「こっからどこまで歩くんだ?」

『鎌倉駅までかな?』

「おっふ。」

 結構戻る・・・って最初の場所じゃねえか。

『大丈夫?』

「まあ、大丈夫だ。さすがにそんなに体力ないわけじゃねえよ?」

『辛かったら言ってね。』

「そうだよなあ・・・いっつも走ってるから俺よりミー子の方が体力あるんだよなあ・・・。」

 少し体力つけた方がいいかな。

 退院してから筋トレしてないけど、またやり始めるか・・・。

『れっつらご。』

「それ死語って言ってだね。」

『ナウいヤングにバカウケだと思ったのに。』

「古い古い。」

『まあまあ、私と歩くことをトゥギャザーしようぜ、なっちの体力でも余裕のよっちゃんだろ?』

「よう昭和生まれ。」

『なんだとてめーこのやろう。これでも花の女子高生、17歳だっつうんだよ。』

「17歳はそんな言葉使わねえよ。」

『言葉じゃねえし文字だし。』

「しゃべってる扱いになってなかったんだなそれ・・・。」

 衝撃の事実だった。

『だってー、しゃべるっていうのはさー、ちゃんと言葉を口に出してするものだと思ってるからー。』

「つまりは・・・。」

『私はまだしゃべってないってことになるね。いずれしゃべるけどね。』


 本日2度目の江ノ電。

『またあの巨乳サイドテールのことを考えたりなんかしてないよなあ?』

「そりゃあれだ、借金取りがもう取る必要ねえのにまだ取りに来るようなもんだ。」

『わかりづらい。』

「・・・ミー子のことしか考えてねえよ。」

「・・・(ぼっ)。」

 ミー子の顔が赤くなった。

 恥ずかしそうに、両手で頬を押さえている。

 2回も言われるようなことはしないよ。

「ほら、江ノ電乗るぞ。」

「・・・(こくり)。」

 ミー子が手を差し出してきた。

 電車の中でも手をつなげってか。

「海沿いまで行くと景色めっちゃよくなるんだぜ。」

『だから立ってるの?』

 一応電車内はちらほら席は空いているんだけども・・・。

「・・・いやほら、2つ連続して空いてるとこないじゃん。」

『そういうことね。別にいいのに。』

「・・・ほら、どうせなら、2人並んで座りたいじゃん。」

『そ、そうね。』

 わざと打ってるんだろうけど、それがミー子の心情なんだろう。

『なっちって、本当に私のこと大好きだよね。』

「その言葉、そっくりそのままミー子にブーメランだよ。」

『刺さった。』

 ブーメランは刺さらないと思うんだけど・・・ド○クエのブーメランならまだしも。

 少しすると、景色が晴れ、海が目の前に現れた。

「おー、きれいなもんだな。」

『超キレイ。』

 ミー子が張り付くように見ている。

 今日は晴れてるし、本当に景色がいいな。

「さて、江ノ島行ってどこか見たいところとかあるかい?」

『もちろん、江ノ島も舞台になってるからね。』

「今日のデートは聖地巡りデートか。俺はアニメ見てないんだけど。」

『なっちも見ようぜ。』

「グロイのはダメ。」

 ほんとにダメ。


『江ノ島~、江ノ島です。』

「降りよう。」

「・・・(こくり)。」

 駅から出ると・・・うん、食事できるところがたくさん。

「そろそろ腹減ってこない?」

『お店がいっぱいあるからでしょ。』

「まあそうなんだけども。」

 もう3月の後半だけど何が食べられるか・・・。

「・・・(くいくい)。」

 袖が引っ張られる。

「どした?」

「・・・(あれ)。」

 ミー子が指さした方向を見ると・・・看板があった。

「えーと、生しらす解禁・・・ああ、そうか。」

 確か生しらすって1月から3月の後半までは禁漁期だから食べられなかったのか。

『せっかくだし食べてかない?』

「いいね。」

『生しらす丼のあるお店にしよう。』

 たくさんの店があるが、周りを見るとどうも取り扱っている店とそうでない店があるみたいだ。

『そこでいいかな。他と比べて安い。』

「値段気にするのな。」

『学生は金なくて当たり前なんだから。』

「母ちゃんみたいなこと言うね。」

『いつか母ちゃんになりますゆえ。』

 じゃあ俺はその時は父ちゃんかな、とは言えない。

 なんか恥ずかしい。

「いらっしゃい!」

 活きのいい・・・じゃなくて、元気なおばちゃんの声が響いた。

 なんか、いかにも仕事できそうな感じ。

「注文は?決まってるかい?」

「生しらす丼2つで。」

「はいよ、そこ座ってな。」

 店員とは思えないような口調だけど、まあ面白いからいいか。

「お冷でございます。」

 若い店員が、水を持ってきてくれた。

 この人は店員らしいしゃべり方だ。

 いや、この人が「ほら、水だよ。」とか言い出したらおかしいか。

『わくわく。』

「なんか文字に起こすとかわいいな、それ。」

『そう?』

「なんか、めっちゃ楽しみにしてる感じが伝わってくる。」

『超楽しみ。初めて食べるしね。』

「そういや俺も食べたことないな。」

 前に来た時は何食べたんだっけ・・・。

 あれ、思い出せねえ。

 これが年か・・・。

「ほれお待ち、生しらす丼2つだよ。」

 俺たちの前に丼が置かれた。

 文字通り、ドンと。

『丼がドンと置かれたよ。』

「つまんないこと言ってんじゃないよ。あんたたち、カップルかい?」

「あ・・・はい、そうです。」

 そうなんだけど、カップルかと聞かれるとなんか少し恥ずかしいな・・・。

「そうなんだね。ここは旅館もやってるから、泊っていくのもいいよ。」

「ダイレクトマーケティングですか?」

「ああ、そういうことだね。」

 はっきり言ったよこの人。

「魅力的ではあるんですが、学生なもんで。」

「金ができたらまた来るといいさ。」

「はい、では、その時に。」

「あんたたちの顔、覚えたよ。」

 やだこの人怖い。

 行かなかったら恨まれるパターンじゃないかなこれ。

『食べようか。』

「そうだな。」

「おう、しっかり食べな。」

 少ししょうゆを垂らし、一口いただく。

 ・・・!

「・・・(もぐもぐ)。」

 こりゃうまい。

 磯の香りと、生しらす特有のぷちぷちとした食感。

 そして噛むと感じる、ほのかな甘み。

 生姜としょうゆと、本当によく合う。

「ミー子、美味いなこれ!」

「・・・(こくり)。」

「そりゃうまいさ、なんたって生しらすだからね。」

 自信満々おばちゃん、ご満悦だ。

 生しらす丼は、あっという間になくなった。

「また江ノ島に来た時には、ここに寄るといい。泊りにも来てくれんなら、次はサービスしようじゃないか。」

「あ、ありがとうございます。」

『ごちそうさまでした。』

「あんた、口開かんのかい?」

『そういうもんなんです。』

「へえ。」

 不思議そうにはしていたが、怪しむことはなかった。

『さ、江ノ島を目指しましょうか。』

「あの橋を渡るんですね。」

『あの橋懐かしい・・・。』

「アニメの舞台か?」

『そうそう、あそこで爆発が起きてだね・・・。』

 あの橋が爆発したら取り残される人が大変そうだな。

『超感動シーンなんだからな。』

「そうかそうか。」

『それにあの江ノ島展望台のシーンなんか・・・。』

「まずは行こう?」

『そうね。』

 さすがに道の真ん中で長話するのはよくない。

 とはいえ橋がものすごく長い。

 確か弁天橋だっけ。

『いいねこの感じ。海を見ながら一緒に歩けるなんてね。』

「それだったら海岸沿いを歩けばいいんじゃないか?」

『海の上を歩けるなんてね。』

「そ、そうだな。」

 ただし海の上はまだ3月ということもあり、風が吹いていると少し寒い。

 思わず、手を強く握ってしまった。

『どしたの。』

「いや、風が強くて寒いなーと思って。」

『そうかね?』

「寒くない?」

『冬にお母さんと青森に行った時よりは・・・。』

「そんなのと比べられても困るわ。」

 確かにそれと比べられたら寒くないとは思うけどさあ・・・。

「ってか、ここ人多いのな。」

 橋を歩いている人は、平日だというのに意外と多かった。

 よく見ると、学生が多いような・・・考えることは同じということか。

『さて、ここに一歩踏み込めば江ノ島です。』

 橋の終わりのところでミー子が立ち止まった。

 そして、ジャンプで飛び越える。

『江ノ島にとうちゃーく!!』

 ピースをして笑顔を見せるミー子。

 ・・・かわいい。

 思わず写真を撮ってしまった。

『いきなり何するんだい!?』

「いや、かわいくてつい。」

『美衣ちゃんはかわいくて当然なんだよ。』

「そうそう、いつもより子供っぽくてかわいかった。」

『なんか恥ずかしいんだけど。』

「ミー子めっちゃかわいいわ。」

『もうやめてくれ。』

 ミー子が顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

 ・・・かわいい。

『ここをまっすぐ行って、まずは江島神社を目指すよ。』

「ほうほう、てか前来た時も思ったけどここお土産屋ばっかりだな。」

『ここは弁財天仲見世通り。お土産屋も旅館もあるのよ。』

「またミー子と泊まりで出かけたいなー。」

『卒業祝いとか、いいんじゃない。2人でも、もしくは最後の思い出に4人でも。』

「4人かー、確かに京介とか祈木を誘ってもいいかもな。」

『まあお祝いできるように目標の進路に到達しなきゃいけないんですけどね。』

「頑張らなきゃな・・・。」

 パティシエ方面に進む勉強もしっかりしていかないとな。

 進路の先生はどんな指導をしてくれるだろう。

 もし厳しいって言われたとしても行くけどね?

『ほう!ここが江島神社か!』

「ここもアニメで?」

『そうそう!おおお、アニメと同じだここ!』

「まあアニメがこれの真似してるようなもんだしな。」

『写真を撮ろう。なっち撮って。』

「オーケー。」

 岩穴の仏に近寄り、写真を撮った。

 なんか今日のミー子は楽しそうだな。

 いい表情してる。

『よし、じゃあ次はいろいろ寄り道しながら江ノ島展望台を目指そう。』

「いろいろ寄り道ってのは?」

『おいしいもんとかあるらしいよ。』

「例えばどんなの?」

『タコせん。』

 タコのせんべいか・・・?

 あれ、前にそんなもんあったっけか。

 いかんいかん、もう完全に忘れてる。

 やっぱり小さいころの記憶ってどうにもならねえな・・・。

『さあさあ行きましょう。展望台はあの名シーンの舞台なんだよ!』

「あの名シーンって言われても俺は分からないんだけどなあ。」

 江ノ島展望台までは結構遠い。

 なんか金払ってエスカレーターを使えば一気に上まで行けるらしいけど、つまらないので歩いていくことになった。

『ゆっくり行くのもいいよね。』

 もちろん、手をつないだ状態で。

「今日はここ最近で一番べたべたしてるな・・・。」

『いいのよ、久しぶりのデートなんだからさ。』

 そういって笑うミー子。

 今日はよく笑うなあ。

 とてもいいことだと思う。

『ちなみに、今日私はこんなものを持ってきています。』

 そういってミー子がバッグから取り出したのは、拳銃。

「なんてもの持ってきてんだ!?」

『まあまあ落ち着きなされ、モデルガンよ。』

 も、モデルガン?

 なんたってそんなもん持ってきて・・・。

『江ノ島展望台でのワンシーンを、一緒にポーズ撮ってほしい。』

「ど、どんな感じのやつで?」

『カメラのタイマーを起動して一気に離れたら、私が泣いてるポーズをとる。だからそれに合わせてなっちは私に拳銃を向けて。』

「何そのシーン!?」

 アニメでは江ノ島展望台の上で泣いてる女の子に拳銃を向けるのか!?

『あのアニメ、グロイのに最後は泣けるのよ。原作を買おうとしたらお母さんに止められたけど。』

「まあ娘がグロアニメの原作漫画を買おうとしてたら止めるよな・・・。」

『あのアニメはただのグロアニメじゃないんだからな!』

「お、おーけー。」

 かなり長い間歩いて、やっとたどり着いた。

「近くで見るとでっけーなあ。」

『こういう時は下から迫力のある写真を撮るもんだぜ。』

「そうだな、いい感じの撮ってやろう。」

『お、被写体は私?』

「そうそう、俺だいぶ低い位置からとるから。」

『スカートじゃなくてよかった。』

 完全に低位置から撮りたいなら寝転がるのが一番だけど、地面に背中をつけるのは嫌なんだよな。

 だいぶ無理する体勢だけど・・・。

『変質者だよその体勢。』

「うっせうっせ。・・・はーい笑ってー。」

「・・・(にこ)。」

 よっし撮影完了。

「どうよこの写真。」

 カメラを覗き込んで笑うミー子と、その背景を覆いつくす江ノ島展望台。

 なかなかいいんじゃないだろうか。

『いい写真だけど、自分の笑顔の写真ってなんか恥ずかしいね。』

「そうか?かわいいしいいんじゃない?」

『またそういうこと言って。』

 顔が赤くなってますよ、ミー子さん。


 まず、江ノ島展望台ではなく、横の広場に上がることになった。

『そう!ここ!ここなのよ!あの名シーンの場所は!』

「ここなのか。」

『人がいない!チャンス!なっちステンバーイ!!』

 テンション高いな。

 果たしてこれはデートなのか聖地巡りなのか・・・うーん。

 なんか少し想像と違ったような・・・でもまあ楽しいし、ミー子があんなにイキイキとしてるのも珍しいし、いいか。

『ほいこれ。』

 モデルガンを手渡された。

 というか、これ構え方がわからないんだけど・・・適当でいいのかな?

『トリガーには手をかけないのよ。』

「あっはい。」

 適当じゃダメでした。

『下の中指薬指小指は揃えて、隙間を空けないように持つんだ!』

「こうか?」

『そうそう!そのままね!』

 ミー子が動き回り、何かを確認している。

 写る位置とかかな?

『その展望台をバックにしたいから、ここらへんで!』

「この辺でいいのかな?」

「・・・(ぐっ)。」

 オーケーが出た。

『海側向いてね!』

「了解。」

 なんかすげえ楽しそうだな・・・アニメを好きになると聖地巡りとかでこんなにはしゃげるのか・・・。

 俺も見てみようかな?

 ああ、でもグロイのはダメ。

『そのままね!カメラのタイマー起動するから、シャッター音が鳴るまでそのままね!』

「分かった!」

 ミー子がカメラをセットすると、俺の正面の、少し離れたところまで走っていった。

 そして、膝をつき、泣いてるポーズをとる。

 パシャッ!

 ・・・いいのかな?

『確認するね!』

 ミー子が短く、手話でそう伝えた。

「・・・(むふ)。」

 あ、ちゃんと撮れたみたい。

『最高の写真が取れましたよ。』

 そういってミー子が見せてきたのは、俺が泣いているミー子に銃を向けている写真。

 これで本当にアニメのシーンが再現されているというのか・・・!?

『付き合ってくれてありがとう!展望台行く?』

 ミー子が笑顔でそう言った。

 ・・・うん、この笑顔が見れただけで、何でもいい気がした。

「行こうか!」


 展望台から見た眺めはすごかった。

「見ろ!弁天橋を歩く人がゴミの様だ!」

『ちびキャラたちが移動しておる・・・。』

 なんか違う気がする。

 ちびキャラって2頭身とかのことを言うんじゃ・・・?

『高いところの景色っていいよね。』

「一説によるバカは高いところを好むとかいう話が・・・。」

『おい何を言いたい。』

「冗談です。」

 ミー子がバカとかいうことは断じてない。

『今日一緒に来れてよかったよ。楽しかった。』

「俺も楽しかったよ。すっげー楽しそうなミー子を見れたもん。」

『あー・・・今日は私ばっかりでなんかゴメンね。今度出かけるときは、なっちの行きたいところ行こう。』

「そうなるとまた泊りがけで旅行になるかもな・・・。」

『喜んでついて行きましょう。』

「そっか。」

 そりゃうれしい話だ。

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