美衣ちゃんの1日
う、眠い。
でも着替えないと。日課のランニングだ。
今日は・・・おおお、結構寒いな。
春休み入ったとはいえ、まだ3月だからなー。
「・・・(ばしゃばしゃ)。」
顔を洗って、発声練習。
「・・・!・・・!」
出ないなあ。
・・・あ、お母さん、もう用意してる。
『おはよう。今日は早いんだね。』
「あら美衣おはよう。そうなのよ~今日早くて・・・朝ご飯作れてないんだ、ごめんね。」
『ん、いいよ。私自分で作るし。』
「ごめんね。じゃあ、行ってきます!」
『お仕事頑張って。』
「うん!」
早いなあ。
うん、こんな朝早く仕事に出るのは嫌かな。
「・・・ふー。」
さて、走りに行きますか。
「お!美衣ちゃんおはよう!」
「・・・(ぺこり)。」
犬を連れて歩いてるおばさんに声をかけられた。
朝5時から散歩なんて、元気ですね。
ちょっと寒いけど、逆に目が覚めていい。
どうせなら、なっちと一緒に走りたいけど。
今日宿題を終わらせて、明日はなっちとお出かけ。
久しぶりだなあお出かけ。
なっちの言う通り、私たちは普段ゲームとかしてばっかりだから、たまにはこういうのもいい。
普段から出かけないから、なっちが誰かと出かけると嫉妬っぽいものしちゃうんだけどね。
お出かけかあ・・・楽しみだな。
「おう美衣ちゃん、おはよう!朝から元気だねえ!頑張れよ!」
スーツを着たおっちゃんに声をかけられた。
通勤途中だね、お仕事頑張ってください。
「・・・(ぺこり)。」
「お、美衣ちゃんが笑顔だなんて珍しいな。何かいいことでもあった?」
「・・・(ぴく)。」
うぇ、顔に出てた。
「ははは、赤くなってるよ!おっと、話してる場合じゃなかった!」
走って駅の方へ向かうおっちゃん。
スーツで走るのってきつそうね。
さーて、町内一周頑張るぞー!
「・・・ふー。」
いい汗かいた後のシャワーは気持ちいい。
前はシャワー浴びる前になっちが起きてきて驚いちゃったこともあったけど。
髪を乾かす前に、お気に入りのヘアミスト。
これで、少しは女の子っぽさが出るといいけど。
実際のところはどうなんだろ。
まあいいや髪を乾かしましょう。
やっぱり、髪が短いと乾かすのが楽でいい。
陽花とかは髪が長いから大変そう。
さて、じゃあ朝ご飯でも作りましょうかね。
・・・お母さんいないのか。
そしたら自分で作らずともなっちの家に行けば・・・よし。
「あら美衣ちゃんおはよう。ランニング終わったの?」
台所で、秋穂さんが朝ご飯を作っていた。
『おはようございます。終わりましたよ。お母さんが朝から仕事でいないので1人で食べるのもなあと思い。』
「あらあら、那空ちゃんも大変ねえ。朝ご飯、家で食べてって!」
『ありがとうございます。』
やった、秋穂さん優しいぜ。
できればなっちと一緒に食べたいところだけども・・・さすがにこの時間じゃ寝てるか。
・・・あ、でも今日は午前中一緒に宿題を進めるって言ってるし、起こしてもいいよね。
『なっち起こしてきます。』
「お願いね。」
えへへ、朝からなっちの部屋に突撃だ。
ノックもせずに扉を開ける。
え?遠慮?そんなものいりませんよ。
この時間になっちが起きてるってことはほとんどないし。
「・・・ぐう。」
ほらやっぱり起きてない。
さて、どう起こそうか。
・・・その前に寝顔の写真でもいただこう。
よし、じゃあ起こそうかな。
「・・・(つんつん)。」
「うーん・・・。」
起きるはずもなく。
どうしよっかな。
飛びついてやろっかな。
いっつも軽いって言われるけど、飛び乗ったらさすがに重いだろう。
よーしやろ・・・あっ。
・・・うん、やめとこ。
仕方ないね、朝だもんね。
普通に起こしてあげよう、それが一番だ。
「・・・(ゆさゆさ)。」
「・・・んー?」
「・・・(ぽんぽん)。」
「・・・おおう、ミー子か。おはよう。」
『おはよう。朝ご飯できてるよ。』
「・・・ん?ミー子が作ったのか?」
『いや秋穂さんだけども。』
「てか、朝早くねえ?どうしてここにいんの?」
『朝からお母さんがいないから朝ご飯もらいに来た。あと、宿題終わらせる約束したでしょ。』
「あ、そっか・・・。そういやそうだ。」
『早く終わらせて、明日出かけようよ。』
「うん、そうだよな。起きよっと。」
『あ、大丈夫?起きれる?』
なっち低血圧だから、そんなにすぐには動けないかな・・・。
「・・・あー、肩貸してくれ。」
『了解。』
低血圧のなっちを支えるのは、とっても重かったです。
『よっしゃ今日で終わらせたるでー!』
「この量ならミー子のバイトの時間までには間に合いそうだな。」
『ちゃちゃっと終わらせちゃいましょ。』
「そうだな。」
このくらいの量位へっちゃらです!
なんたって、これを終わらせないと明日なっちとお出かけできませんからね!
なっちのとなりでやろ。
「近くない?」
おや、さっそく文句が来てしまいました。
『なっちの近くで勉強したいなという私の心の現れ。』
「それはかわいいんだけど、勉強しづらいから、もう少し離れよう?な?」
『仕方ないか。』
少し離れてやる。少しな。
・・・いや、迷惑になるのも避けたいし、反対側に移動しましょうか。
「・・・。」
「・・・。」
集中しているので、結構静かだ。
『わー!?待って待って!内容消えちゃった!?』
隣から、ものすごく焦った様子のハルさんの声が聞こえてきた。
内容消えた、ってことはパソコンでレポートでも書いてたのかな。
い、いいや、集中集中。
「・・・喉渇いたな。ミー子、飲み物持ってくるけど麦茶でいいか?」
「・・・(こくり)。」
私への気遣いも忘れないなっち、優しい。
そうだ、私、昨日寝ちゃったからなっちより遅れてるんだっけ。
今のうちに少しでも進めないと。
漢字なんてどうせ書くだけだ。
おらおらおらおらおらおら。
・・・ふう。
右手が疲れるなあ。
「ミー子、麦茶持ってきたぞーって、手押えてどうした?」
『早書きしてたら右手が疲れた。』
「どれどれ。」
なっちが私の右手を取った。
手首と手のひらと、ぐいぐいもんでくれる。
・・・気持ちいい。
「少しは楽になったか?」
『気持ちよかった。』
「そりゃよかった。続きやるか。」
「・・・(こくり)。」
なんか右手が暖かい。
なんかやる気出てきた。
これ終わったら少しなっちに甘えよう。
ちょっと耳がかゆいし、耳掃除でもしてもらおうかな。
よし、早く終わらせよう。
集中集中・・・。
「よっし!俺は終わり!ミー子は?」
『あと10ページくらい。』
「よし、じゃあちょっと手伝うよ。」
『あら、いいの?』
「まあ、春休みの宿題って別に成績に入るかどうかも怪しいし、まあ大丈夫だろ。」
『じゃあ、少しだけ頼もっかな。』
英語の問題だけ、頼んじゃおう。
「・・・あの、苦手なところ俺に押し付けてません?」
『なんのことだろう。』
ふふ、私は先に進めちゃうよ。
大丈夫、英語さえなければ大丈夫。
テスト前にはちゃんと陽花に教えてもらおう。
「お、ミー子それで最後か。」
『うん、なっちも、それだけお願い。』
「お、おう。たぶんできるぜ。」
なっちなら大丈夫なはず。
いけるいける。
にしても、なんで春休みの宿題なんてあるんだろ。
別にめちゃくちゃ短いんだしさ、いいじゃないのさ、なくても。
・・・まあ、なっちと一緒にいれる時間が増えるのは、いいことだけどさ。
いや、別に宿題とかなくても、一緒にいるけど。
「えーと確かここの文法は・・・。」
なっちが私のために頑張って英語の問題を解いてくれてるよ。
私感激。
っと、いけないいけない、私は自分のやつに集中しないと。
・・・早めに終わらせるのはいいんだけど、これ春休み終わるころまで覚えてるのかな。
絶対覚えてないと思うんだけど。
「よし、これで終わりかな。ミー子はどう?」
『もうちょっとだけ。』
「お、頑張れ。」
もうすぐ、宿題の悪夢から解放される・・・!
というか、まだ春休み2日目ですが。
よーしあと1問。
ってかこれめっちゃ簡単じゃん。
・・・よし。
『終わった!』
「お疲れさん!これでやることは終わったな!」
『よっしゃ!』
「うおっ!?」
なっちに飛びついた。
「ど、どうしたいきなり。」
『甘えさせろー。』
「直球ですな。」
『そうそう、なんだか耳がかゆいのよ。耳掃除してよ。』
「唐突だな!?いいけど。」
『やったー。』
1人でできるんだけどさ、見えないからどうも取り残しがあったりするんだよね。
「ちょっと用意するから待っててくれ。」
「・・・(こくり)。」
用意も何も耳かき棒とティッシュだけでもいいんじゃ。
ちょっとしてから、なっちが戻ってきた。
その手にはタオルが握られている。
なるほど、それを用意してたのね。
さっそく、なっちの膝に頭をのせる。
「人にやるのはあまりねーからなー。痛かったら言ってくれよ。」
「・・・(こくり)。」
「あ、動かないでくれな。」
難儀じゃのう。
「まず周りから拭くか。」
耳に温かいタオルが乗せられた。
おおう、気持ちいい。
適度な力加減で耳を拭いてくれる。
「よし、反対。」
『こっちの耳掃除が終わった後でもいいんじゃないの?』
「タオル冷めちゃう。」
『なるほど。』
素直に従った方がよさそう。
左耳も、温かいタオルで拭いてくれる。
ぬーん、温かいと眠くなりますな。
でも寝てしまったら貴重ななっちの膝枕が堪能できないし。
少し硬い気もするけど、いい感じ。
「よーし、じゃあやっていきますか。ほんと、痛かったら早めに言えよ。」
「・・・(ぐっ)。」
動くなと言われてしまうので、右手でサムズアップ。
棒の先端が、耳の中に入ってくる。
自分でやるのとは違う感覚に、少しぞわっとする。
「・・・うーん、すげえ汚ねえってわけでもないな。」
まあ、自分でもやってるしね。
「あー、でもあるかも。奥に入れるのは怖いから見える所だけでやっていくぞ」
「・・・(おっけい)。」
動くことは許されないので、視線で返事をする。
伝わったかどうかは、分からないけど。
耳の中から、カリッという音が聞こえる。
くっついてたのかな。
「取れた・・・けど、あんまり大きくないな。まあたぶんこんな感じのばっかりだろうけど。」
とれたものをティッシュに落とすなっち。
・・・そういえば、今私はなっちに汚いところを見せているわけですね。
なんだか恥ずかしいかも。
いやいや、私は何度かなっちの耳掃除したことあるし、お互いさまよね。
なるべく、なっちと一緒にいるときはきれいでいたいけどね。
にしても、人にしてもらうのって気持ちいい。
ちゃんと見えてるから、的確に取ってくれるし。
なっちも手際がいいから、見えているところはだいぶきれいになっているはず。
しばらくは耳掃除しなくていいかもしれない。
「んー、よし、こっちはいいかな。逆向いて。」
逆を向くと・・・なっちのお腹が目の前に。
これは・・・いやいや、何でもないです。
「ふー・・・。」
「やめてね!?」
すまない、つい出来心だったんだ。
「ん、こっちは割ときれいだな。すぐ終わりそうだ」
あらそう。
それだとなっちの膝枕を堪能する時間が減っちゃうなあ。
って、バイトにもいかないといけないんだった。
んー、時間的にあんまり堪能することはできなさそうだ・・・残念。
『じゃあ、バイト行ってくるね。』
「おう、行ってら。頑張ってな。」
「・・・(こくり)。」
階段を下りると、秋穂さんがいた。
「あら、美衣ちゃん帰るの?」
『これからバイトなんです。お邪魔しました。』
「いえいえ、また来てね!」
「・・・(こくり)。」
はあ、返事をちゃんと言葉で返せたらいいのに。
「また来ます」とか、「行ってくるね」とか、ちゃんと伝えたいのに。
こればっかしは、仕方ないのかなあ。
ううん、きっといつかは出る・・・はず。
っと、早く行かなきゃ。
「お、鏡崎か。」
店に入ると、先輩がいた。
いつも通りのウエイトレス姿だ。
『おはようございます。』
「おっす、今日は閉めまでか?」
「・・・(こくり)。」
「ほーん、そっか。ま、俺はもう上がりだけどな。」
外を見ると、もう1人バイトの人が来るのが分かった。
あの人は、ウエイトレスなはず。
私は厨房だから、ほとんど顔は合わせないんだよね。
とりあえず着替えましょう。
「お、美衣ちゃん、おはよう!」
店長が出てきた。
『おはようございます。休憩終わりですか?』
「違う違う。事務だよー・・・私事務はあんまり得意じゃなくてねー。事務のバイト雇おうかな?」
『余計な出費が出るんじゃないですか?』
「そこなんだよねー。私が事務をやるかちょっとお金を出してバイトにやってもらうか・・・うーん。」
『まず着替えてきますね。』
「あ、うんそうだね。今日もよろしくね。」
「・・・(こくり)。」
ケータイはいったんロッカーに置きましょう。
さて、こっからは職人タイム、しゃべらないよ。
・・・正確にはしゃべれない、か。
大丈夫、料理も、お菓子作りも得意。
なんたって、なっちに料理を教えたのは、私ですから。
さて、何が足りなくなりそうかな。
うん、ここの店の人気商品のモンブランかな。
なっちはモンブラン作るのすごい早かったっけ。
たぶんここでバイトを続けてるせいだろうな。
「・・・ふー。」
さあ、作っていきましょうか。
作るの難しいっていう人も多いけど、お菓子作りは結局は慣れですよ。
作り続けていれば自然と慣れて、普通に作れるようになる。
飽きちゃうとよくないけどね。
さてさて、人気商品の看板を守るためにも、おいしく作らないとね。
あと見た目もきれいに。
・・・パティシエって、見た目も味も、高いクオリティが要求されるのよね。
私にできるのかな。
おいしいものを作る自信はある。
でも、実際私の作るものが、そういう業界で通用するのかなーとか考えると、少し心配になっちゃう。
・・・いやいや、なっちと一緒なら、多分大丈夫ですよ。
2人で力を合わせれば、なんだってできそうな気がする。
「・・・ふー。」
あとは焼いてクリームを絞って完成かな。
見た目はきれいに、でも手早くね。
見た目を気にすると少し難しくなるけど、そこは売り物。
見栄えがあってなんぼだし、見てくれが悪ければ食べる気も半減ってもん、手を抜くわけにもいきません。
私はきれいにできますよ、なんたってお菓子作るのは慣れてるし、ここにきてもうすぐ半年くらい経ちそう。
ここのバイトで、一番作ってるのはモンブランだからね。
さあ焼けました、やっていきますよ。
集中集中・・・。
うん、いい感じ。
これをあと30個繰り返すよ。
・・・。
「おっ!美衣ちゃんありがとう!並べてくるね!」
「・・・(こくり)。」
モンブランがなくなりかけのショーケースに、新しいモンブランが追加された。
ふふ、私の判断は正しかったのだ・・・。
まあ、季節もの以外だと一番なくなるのが早いのがモンブランだしね。
客を見る限り、リピーターが多いみたいだし。
さて次は・・・。
「美衣ちゃん、今日は上がっていいよ。お疲れさま」
「・・・(ぺこり)。」
さすがに立ちっぱなしだと疲れるなあ。
でも、パティシエもおそらくこういうもんよね。
弱音なんか吐いてらんない。
さて、帰りましょう。
なんたって明日は、久しぶりになっちとお出かけだ。




