2年生最後の日です
「あい、みなさん、今日でお別れかもしれないしそうじゃないかもしれません。」
茎野先生が緩い挨拶をする。
「えーとな、休み期間の注意事項なんだが・・・もうみんなわかってるよな?もうこれ休み期間毎に言ってるからもういいよな?先生この説明めんどいのよ。」
いやめんどくても説明しろよ、先生だろ。
「お前らの返事がないからもう説明しないかんな。てか、はい、今日でもう3学期も終わりです。お前らお待ちかねの通知表もここにあったりします。ほしいだろ?ほしいだろ?」
「いらないです!」
クラスの誰かが声を上げた。
「よし分かった。じゃあお前には直せず渡さずに親に送り付けることにする。」
「その通知表、俺に下さい。」
たぶん彼の成績はよくなかったんだろう。
破り捨てて川に流さないか心配だ。
「まあお前らも知っての通り、3年の1学期までの成績が進路にかかわるんだからな。だから、1年の成績が足を引っ張ってる絢駒とか鏡崎みたいなやつは次でラストチャンスだ。」
「なんでそこで俺の名前が出るんですか!!!」
「・・・(ばんっ)!!」
俺とミー子が同時に机をたたいて立ち上がった。
「いやお前ら2年の2学期辺りから成績伸びてるもんだから、もったいねーなーと。」
『公開処刑、許すまじ。』
「よし、そんなお前たちにいい言葉を教えてやろう。」
「「?」」
いい言葉?
「下には、下がいるんだよ。」
「最低だこの人!?」
教室がざわついた。
「まあそんなわけで、3年の担任も俺が持つことになってる。んで、俺のクラスになるかそうでないかは知らないけど、今日で俺とはおさらばなやつもいるわけだ。んまあ3年になったら進路やなんやでいっぱいいっぱいになると思う。無理しない程度に頑張るんだぞ。でもな、大学受験とか就職とかってのは、人生の中で何回かある無理のしどころだ。まあ体に鞭打って無理しながら頑張れや。」
「無理しないでって言いませんでした?」
矛盾してるぞお?
「まあ、頑張って無理してみろ。したらその先にゃ何かしら得るものもあるだろうよ。」
なんかいいこと言ってるっぽいんだけどこの人だからなあ・・・。
「行き詰ったら教師に相談するなりなんなりしろ。俺でも誰でもいい。進路のためだっつうんだったら先生たちも力になってくれるはずだからな。力にならない教師がいたら俺に報告しろ。俺が校長にチクってやるからな。」
「え、先生がとっちめるとかそういうかっこいい感じじゃないんですか?」
祈木が先生に聞く。
確かになんかかっこいくない。
「何言ってんだ、俺がほかの先生をとっちめたら俺が悪者扱いされんだろが。そんなんやだね。」
「なんかかっこよくなーい。」
「うっせいやい。先生だって仕事を手放したくないんだよ。」
先生が仏頂面になった。
「と、いうわけで終了式の校長の言葉でほとんど寝てたお前らにこれから通知表を渡しまーす。」
「絶対最初の方言わなくてよかったよね。」
『絶対言わなくてよかったね。』
いや大多数の人が寝てたんだけどさあ。
成績上がってるかなあ。
「じゃあいくぞー。はい、1番絢駒・・・ではなく、42番山郷から。」
・・・うおいっ!?
「1番最後とか超嫌なんだけど!?」
「うるせえ。1番っていうのは1番最初に渡されても1番最後に渡されても嫌がるんだよ。諦めやがれ。」
「苗字が・・・!この苗字が・・・ッ!」
「はいはい、恨むんなら父親を恨むんだな。」
前は苗字が敷島だったからミー子よりも後だったんだけどな。
なんたってこんな苗字・・・あんまり見ないし。
去年は3番だったのに・・・。
『なっちがそわそわしてるw』
「やめろ笑うな。」
『かくいう私も渡すんなら早く渡してほしいものなんだけれども。』
「ミー子も鏡崎だから前の方だもんな。」
「あ、あたしも早く渡してほしいな!?」
祈木がやけに大きな声を出した。
先生からのトラップによるダメージが大きかったらしい。
「俺たち出席番号早いからな。京介は平然としてるけど。」
「いやほら、なーみんの成績は、ね?」
「まあどうせ緊張するほどでもないんだろうけどな。」
『鈴波くんは頭いいからね。消えて無くなれ、脳が。』
「美衣ちゃんさり気怖いこと言わないで!?」
京介がびくっと反応した。
「お前らうるさい。」
「あっはいスイマセン。」
そういえばこういう場で先生に何度も注意されてる気がする。
これも今日で終わりってことですね。
「ほれ、鈴波。お前の成績表だ。その調子で3年でもがんばれよ。」
「はいっ!俺頑張っちゃいます!」
「えー、ちなみに言いますと、鈴波はこのクラスで通年で成績優秀者でしたー。」
おいマジかよこいつ。
1年の時からそうらしいし、これは3年間成績優秀者とかいうもしやがあるよ。
「さっすがあたしの彼氏ぃー。」
「祈木はテスト前に京介に教えてもらったりしたの?」
「んにゃ一人で勉強してたよ。」
「なんでまた。」
京介の方が成績いいんだから教えてもらえばいいのに。
「足引っ張っちゃうんじゃ、と思ってね?」
こいつもそういうタイプだったかー・・・。
やっぱり男と女の間では価値観の差というものがあるよね。
女は化粧していい感じで見せたい。
でも実のところ男は化粧してない姿の方が好きだったり。
今回もそう。
なるべく男の人の迷惑にはなりたくないと。
でも、男からしたら頼ってくれて大いに結構なんですよね。
逆もしかり。
男は女の人に弱みを見せたくないだとか。
でも女の人からしたらできれば一緒に話して励ましになってあげられれば、だとか。
俗にいう男の変なプライドってやつだよね。
こんな風に、考えの違いってのはなかなかにめんどくさい。
案外、素直に言ってみてもいいと思うんだけどねえ。
「鏡崎、少し成績上がったな。3年でもがんばれ。」
「・・・(やったぜ)。」
ミー子が両手を上げた。
その姿はまるでコロンビア。
さて、そろそろ俺の番ですか。
やだ、ちょっと緊張しちゃいますねえ。
なんたって先生焦らしてくれやがっちゃってこのクソ野郎。
「祈木はまあ、現状維持ってとこか。下げないように頑張れよ。」
「わー、上がってないかー・・・。」
「大丈夫、1学期の時よりはちゃんと上がってるからよ。」
「わかりました!」
よし、さて、俺の番だ。
「よしじゃあこれで通知表は返し終わったな。」
「ちょっと待てえええええええええ!!」
勢いよく立ち上がってしまった。
てかいやいや、これは俺悪くない、悪くないぞー。
「なんだ絢駒。みんなびっくりしてお前の方向いてるぞ?」
「いや俺が一番びっくりだわ!!」
「なんだよ、軽いジョークだっての。面白かっただろ?」
「ドキドキしてたんだよ心の準備してたんだよ!!」
「あーはいはい、ほら絢駒、お前の通知表だ。」
「納得いかねえ!」
「じゃあこの通知表はお前には見せずに家に送り付けてやる。」
「ちょっと待てそれよこせ。」
いや多分極端に悪い成績じゃないと思うけど。
そうだと信じたいけど。
「はーい、んじゃ絢駒はなんか頑張るように。これで通知表の返却を終わりにしまーす。」
「ずいぶん適当だなオイ!?」
「おいおい、絢駒、お前さっきから先生に対する口悪いぞ?内申下げちゃうぞー?」
「軽い雰囲気で脅さないでくれます!?」
内心下げられたら推薦とか取りづらくなるでしょ!?
あ、俺が悪いのか。
基本的に前回と成績はあまり変わって・・・ん、国語が10になってる。
あ、数学が5だ。
やった!ほんの少しだけ上がったよ!
「はーい、じゃああとはもう俺から言うことはありませーん。お前らはこれから3年生になるよな。遊んでる暇はほとんどないと思うが・・・ま、早めに大学に合格するなり就職決めるなりすれば後は遊び放題だけどよ。まあ頑張れ、3年で俺のクラスになったらそん時はまたよろしく。じゃーな。」
そういって先生が先に教室を出て行った。
適当だったなーあの先生。
「明日から春休みかー、かがみんヒマあったりする?」
『バイトない日ならオーケーよ。』
「わかった!んじゃバイトない日教えて!」
『シフト表送っとくね。』
「おけー!」
祈木とミー子がなんかキャッキャしてる。
「なあ夏央、あいつら2人で出かけるみたいだぜ?」
「俺たちも男同士でどっか出かけるか?」
・・・。
「な、夏央くんどこに出かけるう?あたし、どこでもいいよん♪」
「吐く。」
「冗談だから!二文字で片づけないで!」
さすがに今のは引いた。
もし仮に京介が女だったとしてもこれはない。
これはないぞ・・・!
『なっち春休みどこ出かける?私はどこでもいいよ?』
何気ないお誘いだけどかわいい。
「そうだなーどこ出かけようか。」
「俺との扱いの差は!?」
「こいつは彼女、お前は親友。越えられない壁ってもんがあるんだよ。」
主に彼女>越えられない壁>>>>>>>>>>>>>>親友くらいの。
「ああ、でも親友扱いしてくれる夏央ほんと好き・・・!」
「祈木お前の彼氏どうなってんだよ、処分しといてくれ。」
「あいあいさー!」
「待ってくれよこれは俺の親友への純粋な行為だぜ!?」
「仮に京介が女だったとしても絶対に無理。」
「無理ってなんだゴルルルアアアアアァァァァ!!」
「正直に言って何が悪いんだテメエエエエェェェェ!」
すぐに始まるドッグファイト。
『落ち着けえ!』
「ぐほ。」
「ぐは。」
ミー子のパンチで終了。
「美衣ちゃん、春休み俺とどっか出かけないかい?」
やたらいい声で言う京介。
立ち直りはえーな。
「俺が絶対に許さん。」
「なーみん、もしかして浮気?」
『彼女がいて私を誘うとは・・・何が目的!?』
「いや冗談ですごめんなさい。」
安定の京介の扱い、これでいいと思います。
「ただいまー。」
・・・誰もいねえ。
春姉も大学から帰ってきてないのか。
確か明日から春休みのはずだけど。
『男の家には誰もいない・・・そんでもって彼女と2人きり!』
「なんもしねえよ。」
『あら、いつぞやの素直になったなっちはどこへ。』
「う、うるせえ。」
ダメです、あれは。
うん、ダメです。
『学校終わった開放感ってのもあると思うんだけど、むしょーに眠たい。』
「自分の部屋でどうぞ。」
『何のためにここ来たと思ってんの?』
「俺の部屋で寝る気かよ!」
「・・・?」
そこで首傾げんな。
不思議そうにするな。
「おう、結局こうなるのか。」
『ふっふっふ。』
俺たちは今、ベッドで横になりながら向かい合っています。
「ね、寝るだけだかんな。」
『わかってるわかってる。』
「ほ、ほんとだぞ。」
『わっふるわっふる。』
「おい。」
その返しはいけない。
って、これって期待を裏切るようなことをするのが通例なんだっけ。
「よしおやすみなさい。」
「・・・(ばしっ)。」
叩かれた!
「なんですか。」
『だいすき。』
すごい、話に全くつながりがない。
脈絡もクソもない。
「いきなりなんですか。」
『ピロートーク。』
「うんそれ絶対違うと思う。」
それもえろい流れなんじゃないですかね。
『いやさ、こういうのあこがれるじゃん?』
「そう聞かれてもね。」
『ちょいとくっつくよ。』
そういって、ミー子がグイッと近づいてきた。
『ドキドキしちゃう?』
「さすがにそこまで近いとねえ。」
もう顔がくっつきそうなくらいの至近距離だ。
「・・・(ぎゅっ)。」
手を握られた。
ミー子の手、熱い。
ミー子も緊張してんのかな?
「・・・。」
なんか、ものほしそうな視線でこちらを見てくる。
な、何かを期待されている・・・って、右手が動いてますよミー子さん。
よく何も見ずにケータイを打ち込めますね。
『いつか、こういうことをするのが当たり前になる時が来るかもしれないよね。』
「ま、まあな。」
ずっと一緒にいたいと思ってる以上、それも避けられない道ではあるだろう。
『まあ今はそういうんじゃないけど、なんというか、甘えたくなりまして。ほら、今ってチャンスじゃない?』
「す、素直にそういわれるとなんか恥ずかしいな。」
『かわいいでしょ?』
「かわいい。」
素直大事。
『本当はこのまま、と言いたいところではあるけど、今はいいや。こうしてるだけで幸せかも。でもいつかそうなったら。』
「な、なったら?」
『これ以上ないってくらい、私のこと幸せにして?』
「・・・ッ!」
手に力が入るのがわかった。
今すぐにでも起き上がって―――
『ストップ!』
ミー子に抑えられた。
『まったくそんな直情的でどうすんのよ。とりあえず今は、一緒に寝よ?』
Side 美衣
うおおおおおお何大胆なこと言ってんだ私イイイイイ!
私のこと幸せにして?って!
二次元の中の会話じゃないんだから!
うっわ恥ずかしい!
ドキドキしちゃう?って聞いてたけどドキドキしてたの私だからね!!
もしあの時なっちが私の左胸に手を置いて来たりしたらやばかった。
聞かれてたらやばかった!
でもなっちとくっついちゃった!
一緒にいるとあったかいなぁ・・・なんて。
いや、なんだかほんとに心がぽかぽかする。
これが大好きな人と一緒にいるってことかな。
ずっと一緒にいたいような、そんな感じ。
どうせなら、春休み中は何か特別なことがない限りずっと一緒にいようかな。
春休みの宿題も、お風呂も、寝るときも。
・・・あれ、お風呂とか寝るときとか、もう何度も経験してる気がするな。
なっちの背中、流してあげようかな。
なっちに、添い寝してあげようかな。
なんか、やりたいことがいっぱいあるな。
他にも、なっちにご飯作ってあげようかな。割といつものことだけど。
なっちがおいしそうに食べているのを見ると、作ってよかったって思える。
あとは、なっちと一緒にまたお菓子を作りたい。
一緒に何かをしているときは、すごく楽しい。
そう、なっちと、何でも一緒にやりたい。
精一杯、いちゃいちゃしたい。
できるんなら、そのまま一緒に・・・ああいやいや。
春休み、どうしようかな。




