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Please speak!  作者: 長野原春
52/113

撮影会です

「というわけでやってきました!ここで待機だよなつおくん!」

「うへえ。」

 2月後半でまだまだ寒いっていうのに、わざわざ沿線で待たされるという苦痛がこれから始まる。

「ってかなんで沿線なんですか。駅いきゃいいでしょ駅。」

 不服そうに言うと、紗由さんもまた、不服そうな顔をした。

「なつおくん、わかってないなぁー!駅で止まってる姿もいいけど、走ってる姿を沿線で撮るのがいいんだよ!」

 何が違うのかが全く分からねえ。

「それにね!今日撮るのは、今日デビューの新型観光列車!それを沿線で走る姿をかっこよく撮れたら、最高だよね?」

「ね?って聞かれても俺にはわからんのですよ。」

「とにかく!なつおくんには手伝ってもらうよ!ばっちり期待してるからね!」

「期待されても困る・・・俺そんなに上手に撮れないかもしれないですよ?」

「大丈夫!撮れたらお姉ちゃんがいいことしてやろう!」

「そういうのはミー子から禁止されてるんで。それが紗由さんと出かける条件なんで。」

「何か変なこと考えてるね!?夕飯おごるよって話だよ!」

 紗由さんから珍しくジト目を向けられた。

 おっと、早とちりしてしまったぜ。

 でも、お姉ちゃんがいいこととか言ってきたら、勘違いしちゃうのも仕方ないよね。

 ・・・ね!?

「なんでここを選んだかというとね、この景色を見てくれ、こいつをどう思う?」

「すっげえキレイ」

 眼下には広大な海が広がり、まさに絶景といえる光景だ。

「でしょ。ここのポイントで電車が徐行するんだよ。それでシャッターチャンスってわけなんだな!」

「ほー。」

「今日は撮影チャンスは2回だからね!逃さないようにね!」

「そんだけしかないの!?」

 3時間近くかけてきたんだけど!?

「そんなもんだっての!13時46分ごろと、15時39分ごろ!」

「そんなに時間あくの!?」

「そんなもんなんだって!」

 これはひどい。

 というか、撮り鉄なめてました。

 忍耐力が必要そうですね・・・。

「紗由さん、腹減りませんか?」

「まあ減ったけど・・・、撮影ポイントを譲るくらいなら、私はお昼ご飯は食べないよ!」

「すごい情熱だな!?」

「あたりまえだよ!まだ人がいない絶好の撮影ポイント・・・、私たちが離れたら誰かが来ちゃうかもしれないからね!」

 そういって、カメラの準備をする紗由さん。

「弁当作ってきたって話だったんですけど。」

「わーいもらうー。」


「っ!そろそろだよなつおくん!準備準備!」

「俺、スマホ撮影でいいんですかね?」

「ハンディの方は固定で動画撮影してるからいいとして、私は一眼レフだから、なつおくんはスマホ撮影よろしく!いい感じに撮れることを期待してるよ!」

 紗由さんが右手の親指を上げる。

「ちなみに、春姉ってどんくらいきれいに撮れるんですか?」

「結構上手だよ!じゃあ、はるさめくらい上手に撮ってね!」

「俺も結構上手に撮れってか!?」

 あんまり自信ないんだけど!?

「にしても、人来ませんでしたね。」

「みんな駅で撮ってるんでしょ。止まってる方が撮りやすいもんね。だからこそ私は走ってる姿をいい感じに撮るんだよ!」

 こだわりか。なるほど、わからん。

 止まってる姿でいいんじゃないでしょうか・・・。

「最新の観光列車と、広大な海と岩のコントラスト!何も電車を撮るだけじゃないんだよ!風景と合わせることで、その写真は芸術になる!」

 紗由さんが右手を握りしめ力説する。

 そ、そうか、そういうことなのか。

「ちなみに撮った写真はツイッターとかブログとかで公開するからよろしくね!」

「ブログやってんの!?」

「あと、合同企画で観光列車の写真集を出すらしくてね。有志で持ち込みを募集してるから、撮った写真は持ってくからね!」

「荷が重いんだけど!?」

「気楽に気楽に!チャンスは2回あるからね!あっ!来たよ!動画撮るから、静かにね!」

 紗由さんカメラを構えた方向を向く。

 そこに現れたのは、どっかで見たことあるような形をした特急。

 でも、青いライン―――唐草模様のようなラインが入っていて、冷たいながらも、優雅な雰囲気を感じさせる。

「・・・。」

「・・・。」

 ちょっと衝撃。

 あの紗由さんがじっとカメラを構えている。

 正直、「見て見てなつおくん!来たよ!あれを撮るんだよ!!」みたいな感じで超うるさいかと思ってたんだけど。

 カシャッ!

 こういう音は、入ってしまってもいいんだろうか。

 ・・・い、いいんだよね?

 動画回しながら、紗由さんめっちゃ撮ってるし。

 よし、俺も撮ろう。

 幸い、列車は徐行運転をしてくれている。

 よし、いけるいける。

 ちょっとだけズームして・・・今か!?

「・・・おお。」

 あっ、声が漏れてしまった。

 でも、今撮れた写真なかなか良かったかもしれない!

 徐行している今、もっと撮ろう!

 きれいな写真が撮れると気持ちいいな。

 楽しいところはこういうところかな?

「よし、っと!」

 紗由さんがハンディカメラのスイッチを切る。

「どう、いい感じに撮れたかい!?」

 ずずいっと近づいてくる紗由さん。

「括目せよッ!」

 俺は、自信満々で紗由さんに見せてやった。

「―――おおっ!?これはっ!!」

 紗由さんがケータイの画面を食い入るように見る。

 そして、俺の撮った写真を何度も確認する。

「・・・。」

 紗由さんが下を向いたまま、右をぐっと握りしめ、親指を上げた。

 あれっ、大きな声は出さないの?

 ・・・と、合格点なのかな?

「今日夜、ご飯おごったげる。」

 あ、良かったみたいだ。


「で、こっから次に来るまで待つってことですか。」

「そうだよ!」

「結局ここに俺たち以外来なかったし別に離れてもいいんじゃ。」

 そういうと、紗由さんに両手で頭をがっしりとつかまれた。

 そして、ぐいっと首を右に向けられる。

「よく見ろー!」

「いたいいたいいたい。」

 少し遠くに、俺たちと同じようにカメラを構え、列車が来るのを待っている人がいた。

 でも、場所がよくない。

 あれでは、木々の間からしか列車が姿を見せず、中途半端になってしまうだろう。

「私たちが!今!離れたら!どうなると!思う!?」

「声でかいっす・・・。えーと、あの人に場所を取られるかも?」

「そういうこと!というわけで離れないよ!」

「はーい・・・。」

 ちゃんと、理由はあるらしい。

「時間つぶすにはどうするんですか。」

「んー、なつおくん、美衣ちゃんとはうまくいってる?」

 紗由さんが、突然そんなことを聞いてきた。

「ミー子ですか?うまくっていうか・・・ずっと変わりませんけどね。」

「さすが幼なじみだね。あー、彼氏いるってどんな感じなのかなー!」

「う、うーん、それは俺にはよくわからないっすね。作ってみればいいんじゃないですかね。」

「できないから聞いてんだろー!」

 紗由さんにヘッドロックを決められる。

 ああ、また顔の右半分に当たってます。

「というか、私、気になる男の子とかいなくて困ってるんだよね。なつおくんはともかく。」

「俺はともかくってどういうことですか。」

「なつおくんはほら、弟というかなんというか・・・でも!もしフリーだったら狙ってみちゃおっかなー・・・とか思っちゃったり?」

「・・・えっ。」

「・・・あっ、な、なんてね!?」

 紗由さんが顔を赤くしてごまかす。

 ・・・ち、違うよね?

 そういうことじゃないよね?

「な、なつおくんは、弟みたいな感じで、かわいくて好き!今日もこんな感じで付き合ってくれるしね!ありがとね!」

「は、はあ・・・。」

 な、なんだ、いきなりどうしたんだ紗由さん。

 顔が赤いなんて、珍しい。

「な、なつおくんは、私の中でも珍しく仲のいい男の子だから、また私の家に来てくれると嬉しいな!私はいつでも歓迎するよ!」

「それはさすがにミー子が許すとも・・・。」

「じゃあ一緒に来ればいいよ!いつでも遊びに来て!・・・あっ、レポートとかたまってるときは勘弁!」

「はあ、分かりました。」

「それに私料理とかあんまり得意じゃないし、なんなら夕飯とか作ってくれてもいいよ!」

「それが目的か。」

「・・・えへへ。」

 紗由さんが照れ笑いをする。

 なんだ、こういうところはかわいいじゃないか。

「そういえばなつおくん、はるさめにも告白されたんだっけ。」

「なっ!?なんですかいきなり。」

「いやー、ほら、なつおくんは愛されてるよなあって。一度しか会ってないけど、お姉さんとも仲いいもんね。そんで彼女がいてはるさめがいて、それにここにもう一人姉がいて、なつおくん、しあわせもんだよね。」

「・・・やべえ、俺すげえ状況。」

 俺いつの間にこんなにいい状況になってたんだろ。

 ミー子がいて春姉がいて冬姉もいて紗由さん・・・それに、祈木や京介も・・・。

「ずいぶん、身に余る状況だ。」

「いいじゃない!うらやましいとお姉ちゃんは思うぞ!存分に幸せを噛みしめて生きるんだ!」

「そうですね、そうしておきます。」

「うんうん、そうしろそうしろー!さー、電車が来るまで待たないとだねー。なつおくんこっちにこい!」

「なんすか。」

「でい!」

「うおっ!?」

 紗由さんが俺を座らせて、俺の上に飛び乗った。

 そして、膝の間に割り込んでくる。

「外は寒いからね。」

「いやいや、こういうのはいかんでしょ。」

「い、今は彼女もいないしいいの!なつおくんも、美少女とくっついてるって事実だけを認識して、心の中にしまっておくといいよ!」

 そういわれましても。

 紗由さんのお尻が太ももに当たりますし。

 紗由さんがつかんでいる俺の右腕がおっぱいに当たってますし。

 俺も男ですよ?

 ミー子がいるから俺は鋼の意思で乗り切るけどね。

「あっ、もし興奮しちゃったら腰は引いてね。恥ずかしいから。」

「しねーよ!?」


「よーし!そろそろ来るよ!なつおくん準備!」

「オケイ!」

 カメラを構えると、遠くからさっきと同じ列車が見えてきた。

「こっちの方がアングルよさそうですね」

「うん、いい感じだね!いい写真を期待してるよ!」

「オケイ!」

 列車が減速するのが分かる。

 よし、シャッターチャンスは逃さないようにしよう。

「動画撮るから、こっからしーっ!」

「オケイ!」

 さて、どうしようか。

 どう撮るのがキレイなものか。

 海と、列車と、岸壁と、木々。

 列車がいい感じに画面に入るまで、もうちょっと。

 もう少し・・・。

 カシャッ!

 紗由さんのシャッター音が聞こえる。

 よし、今だ!

 ・・・。

「・・・ふう。」

 うん、一枚だけだけど、いい感じに、いやかなりいい感じに撮ることができた。

 紗由さんの方を見ると、まだ写真を撮っている。

 普段は見ないような、まじめな表情だ。

 ・・・やっぱりこの人普通にしてた方が可愛かったりすると思うんですけど。

「・・・ん、どう?なつおくん、いい感じに撮れた?」

「めっちゃいい感じです。一枚だけなんですけど。」

「ほーう?どれどれー?」

 紗由さんがケータイの画面をのぞき込む。

「おおー!いいねー!私のはどうかな!?」

 紗由さんのカメラには、素晴らしい写真が入っていた。

 きれいさと、風景のバランスが俺の写真より段違いにいい。

 いい感じに撮れたけども、俺のより数段上手だな・・・さすがは普段から趣味で撮影してるだけある。

「すげえ。」

「でしょでしょ!これは写真集に載せてもらえる気がする!」

「いけますよこれ。」

「でしょっ!・・・あ、そうだ、なつおくんにお願いがあるんだけど、いいかな?」

「なんでしょう?」

「も、もし写真が雑誌に載ったらさ・・・、なつおくん、お菓子つくって!」

 お菓子か、そういえば最近プライベートで作ってないような気がする。

「いいっすよ、作りましょう。」

「やた!待ってる!」

 紗由さんが満面の笑顔でそう言った。


「さあさあ食べるがいいよなつおくん!」

「わーい!」

 海鮮丼の店にやってきた。

 紗由さんがここで食べよう!というのでついてきたのだが。

「・・・ねえ紗由さん、今日家に帰るのかなり遅くなりそうですね。」

「そうだねえ、10時以降にはなりそうだねえ。食欲満たして新しい欲に向かっちゃだめだよ?」

「いやいやしないしない。ミー子を裏切ることになるからね。」

「そんなことより食べるよなつおくん!どれにする?」

「普通に海鮮丼で。」

「じゃああたしも!おっちゃん海鮮丼2つ!」

「お、おう!はいよ!」

 いきなり注文が飛び、驚く店員。

「約束通り今日はおごりね!なつおくんお疲れさま!とってもいい働きだったよ!」

 紗由さんが親指を立てた右手を向けてくる。

「へい、お疲れ様です。」

 俺も、右手を返した。

「でも、紗由さんの写真めっちゃすごかったですよ。俺のなんか比べ物になんねえ。」

「伊達に撮り鉄続けてないからね!初日から攻めに行ってよかった!」

「持ち込みはいつするんですか?」

「明後日大学が終わったらだよ!なつおくんも来る?」

「月曜はバイトあるんで、すんません。」

「あらっ!そうなんだー・・・。ちぇー。」

 紗由さんのテンションがあからさまに下がる。

 そ、そんなに俺と一緒に行きたかったんだろうか。

「大丈夫ですよ、載ったらお菓子作るって約束してますし。」

「お、おおっ!そうだったね!楽しみだなあ、なつおくんの作るお菓子!」

「おっ、載るの決定ですか。自信満々ですね。」

「もっちろん!渾身の一枚だからね!」

 紗由さんが胸を張る。

 確かに、あれはよく雑誌とかで見るようなかっこいい写真だったしな。

 材料の用意とかしておくか。

「ちなみに何が食べたいんですか?」

「う、うーん、そうだ!チーズケーキ!」

「ほう。」

「ラズベリーのソースもつけて!」

「了解!」

 酸味があるのが好きなのかな。

 ラズベリーソースか・・・買うか作るか、どっちにしよっかな。


「まあ、今日はそんな感じだった。」

『なんか私より恋人してねえか。』

 えっ。

『まあ私は幼なじみだし、新鮮みっていうのはもうないかなとは思ってるんだけどね。』

「し、新鮮みか・・・。」

『普段割とゲームとかばっかだし、たまにはまた出かける?』

「あ、ああ・・・それもいいけど、ミー子はどっか行きたいところとかあるのか?」

『特にこれと言ってあるわけじゃないけども。』

「ないんかい。」

 ミー子が考え込むように顎に手を置く。

 そのまま首を傾げた。

『どうしようね?なっち、行きたいところとかあったら言ってよ。ついていくよ。』

 ミー子がそんなことを言う。

「・・・なあ、ちょっと思ってしまったんだが。」

『ふむ、なんだね?』

「俺たちに新鮮みとかがない理由ってこういうところなんじゃ・・・出不精とまではいかないけど、あんま外でないし、そもそも行きたいところがあまりないっていう・・・。」

『定期的にどこか出かけるようにしようか(提案)。』

 ミー子の表情が一瞬焦りに変わったように見えた。


 Side 美衣

 いいよとは言ってみたものの・・・。

 実際私以外の女の人と出かけてるって考えると、どうしても不安になっちゃう。

 愛されていない自信がないわけじゃないけど、どうも・・・なっち、優しいし。

 本当は行ってほしくなんてない。

 でも、なっちの友達関係まで縛りたくはない。

 こういうの、どうしたらいいんだろう。

 でも、なっちにはそばにいてほしい。

 でも、なっちの迷惑にはなりたくない。 

 難しいんだな、恋人って。

 それなら、幼なじみのまんまのほうがずっと楽―――って、やだ、そんなこと、考えたくないのに。

 ・・・我慢するのも女の役目かな。

 そ、そうだ、私はなっちと恋人っていうアドバンテージがある。

 それなら、焦る必要なんてないよ。

 お、大人のよゆー?ってやつ?

 ・・・本当に、どうすればいいんだろ、考えるだけ無駄かな。



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