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Please speak!  作者: 長野原春
47/113

なんだか不穏です

「抹茶ぜんざいと抹茶あんみつですね!かしこまりー!」

「おい大丈夫かあの店員。」

『元気があっていいと思うけど。』

 いやそういう事ではなく。

 ってか色々ダメだろ。

『さて、まあここに来たのも久しぶりなわけですが。』

「おお、そうだな。」

『どうだろね私たち。』

「何が?」

 うーんと、何が言いたい。

『私たち、なんか変わったかね。』

「・・・あー。」

 変わった、か。

 そう聞かれると、この10ヶ月かなり色々あったし変わったと言われれば変わったんだろう。

 ・・・うん、確実に変わってるはず。

「少なくとも、前に来たときは俺たちはまだ付き合ってなかったぜ。」

『そうだったね。』

 それが今はどうだ。

 ・・・自分で言うのもなんだけど、結構べったりなカップルだと思う。

 去年はリア充爆発しろとか言ってたのが嘘みたいだ。

「つーかいきなりどしたの。」

『んー。』

 んーと言われましても。

 それだけだと俺エスパーじゃないからわからない。

『あんまりひどく気にしてるわけじゃないんだけどさ。』

「おう。」

『最近夢に見るのよね。』

「夢?」

 なんか悪い夢でも・・・。

『まあなんつーか、嫌な記憶っつーか。』

「・・・っ!」

『ああいや、そんなに気にしてるわけじゃないからね?うなされるほどじゃない。』

「それでも。」

 さすがにそれは心配だ。

 嫌な記憶っていうのがどれを指すかはわからないけど、とにかくよくないのは分かる。

『なんというか最近だとああまたか、ってなるんだけどさ。』

「俺としては心配なんだけども。」

『ありがとなっち。その心遣い、私は大好き。』

「お、おう。」 

 まさかの不意撃ち。

 ちょっとドキッとした。

 でも状況が状況だ。

 ちょっと冷静になろう。

「これ以上夢に出てこられても困るしな・・・。二五市(にこいち)先生のところ行く?」

『そうねー、これ以上夢見が悪くなったらで。』

「・・・それは。」

『なんというか、前に(かなで)と話せたおかげであの時のことを夢に見てもまあ大分ましにはなったんですが。』

「が?」

『たまにね?たまになんだけどね?』

 そこでミー子が俺をチラチラ見る。

 まるで口ごもっているかのように。

「たまに、何か見るのか。」

『その、吉田が夢に降臨しやがりまして。』

「っ!」

 その名前を聞いた瞬間、俺は立ち上がってしまった。

 即座に冷静になり、席に戻る。

 吉田。

 かつての社会科担当の教師であり。

 ミー子をひどく痛めつけたクズ野郎。

 あいつだけは絶対に許さないと、俺は心に誓っている。

『お、おちけつおちけつ。今の私はなっちのおかげで少し強くなったからね。とはいえ、あいつに夢にそう何度も降臨されてもね。』

 いつまでミー子を苦しめるんだ、あの男は。

『まあ、あの男の降臨回数が増えたら病院行こうかな。』

「そうだな、それがいいよ。」

『あ、でも。』

 そういって、またミー子はケータイをいじりだした。

 そこで切られると気になってしまうんですが。

「・・・(ちら)。」

「ん?」

「・・・(かちかち)。」

 なんだ、やたら長いな。

『そんな熱視線向けてどうしたのよ。何も出ないゾ☆』

「明らかに新規で打ち直したよね。」

「・・・(こくり)。」

 んな事せんでいい。

『まああれだ、それよりもいやーな夢があるのよね。』

「あいつ以上にか?」

『せやで。その夢見ちゃうと怖くなって起きちゃう。』

「・・・聞いても?」

『大丈夫。』

「ど、どんな夢だ?」

『なっちが入院したまま目を覚まさない夢。』

「・・・えーと。」

 俺のせいでミー子が・・・ってことか?

『なっち自身は悪くないよ。ただ、なんというか、あの光景が強く残ってるっていうか。』

「き、気にしなくていいと思うぜ。現に俺はいまぴんぴんしてるしな!」

『分かってる。』

「お待たせしましたー!抹茶ぜんざいと、抹茶あんみつでーす!」

 今までの雰囲気を吹き飛ばすような、明るい声が割って入ってきた。

「抹茶はウチの得意分野ですからね!どうぞごゆっくり!Grace dropsのお二人さん!」

「・・・おうえ!?」

「・・・(びく)。」

 いきなりそんなことを言われ、びっくりするミー子。

 いや、俺も相当びっくりしたけどもさ。

「私、よく行くんですよ!2人とも厨房の人ですよね!」

「あ、うん、そうです。」

「・・・(こくり)。」

「あそこのモンブラン、おいしいんですよね!冬限定のフォンダンショコラも、おいしかったですよ!」

 笑顔で言う店員さん。

「そ、そりゃどうも。」

「また行きますから、声かけたりしてくれちゃってもいいですよ?」

「お、おう。」

 せ、積極的な人だな。

「良ければお名前なんか聞いてもいいです?」

「あ、絢駒夏央(あやこまなつお)です。」

鏡崎美衣(かがみさきみい)です。』

「私は金ヶ森白奈(かねがもりしろな)です!」

「よろしく、金ヶ森さん。」

『よろしくね。』

「はい!よろしくお願いします!」

 ぴんぽーん。

 注文のベルが鳴った。

「はーいただいまー!・・・あ!」

 お客さんのもとへ行こうとして、白奈が振り返った。

「どうしました?」

「限定メニュー、負けませんよ!」

「・・・おう。」

 なんだかいらん闘志を燃やされてしまった。

 この店がライバルかあ。

 ・・・そういえばさくら最中もうまかったし、ここの限定メニュー、結構レベル高いんじゃ。


『やっぱりあそこ美味しいね。』

「ああ。・・・なんかライバル認定されたけど。」

『いいことじゃない。』

 こんなの初めてだ。

『金ヶ森さんだっけ。かわいい人だったね。』

「・・・ん、そうか?」

『元気でかわいい人じゃない。』

「ああ、そういうことか。」

『浮気だ。』

「誘導だ!」

 ひどいぞこれ!

『にしてもあんみつ美味しかったなあ。私も作ろうかな。』

 あんみつを作るのか。

「まああんみつなら作るの難しくないし、いいんじゃないか?」

『ならって、まあ和菓子って難しいけど。』

「・・・そうなんだよ、和菓子って、難しいんだよ。」

 俺は遠い目をして言った。

 そう、作ったものがなぜかおいしくなかったり・・・。

 ぐずぐずのものが出来上がったり・・・。

 うまく形作れなかったり・・・。

『実体験があるな?』

 ミー子が俺の前に回り込んで、顔を覗き込んでくる。

「・・・そうだよ。」

『なっちがそういうの珍しい。』

「洋菓子ならあまり失敗しないんだけどな。」

『コンフィズリー的な?』

「・・・あれはプロが作るもんだ。」

 ・・・あれ、俺意外と作れないの多いな。

 練習しないとな。

 別にそっちの道に進もうとかは考えてるわけじゃないんだけど。

『なっちが得意なのは焼き菓子とかチョコレート系だもんね。』

「実はそれしか作れないかもと考え始めた。」

『大丈夫、その焼き菓子がお店で出るレベルの味だから。』

「・・・ありがとう。」

 ちょっとへこんだけど、お店で出るレベルと言われて、ちょっと持ち直した。

 まあバイトでは作ったものがお店で出てるわけですし。

『そういえば前に作ろうとして断念したやつあったよね。』

「・・・ああ、あれは作り方まったく分からなかったからな。」

 どっかで見た、鉱物の実とかいうお菓子。

 京都で買えるお菓子らしい。

 まあ多分ネットで見たんだろう。

 あんな宝石のようなお菓子見たことなかった。

 だから作ってみたくなった。

 まあ、作り方もまったく分かんなかったし断念したんだけども。


「え、今日泊まってくのか?」

『うん。』

 唐突に決まった、ミー子の泊まり。

 知らされてなかったんだけど。

『なっちにお願いがあるのよ。』

「お願い?」

 まさか。

『もしいやーな夢を見てしまって起きちゃったらそばにいてほしい。』

 ・・・疑った俺がバカだった。

 そうだよ。

 金ヶ森さんのせいで忘れてたけど、ミー子は今ちょっと悩み中だったんだ。

 しかも、俺の夢を見てしまうという・・・。

『というわけで頼りにしてるんでよろしく。』

「おう、任された。」

『何もないのが一番いいんだけどね。』

「大丈夫、何もなかったことなんてない。」

『それはそれで判断しづらいな。』

 そう言いながらミー子は笑った。


『髪乾かして。』

「はいはい。」

 ドライヤーと櫛を使い、ミー子の髪を乾かす。

 うーん、さらさらしてる。

 短いから乾かしやすくていいし。

「そういえばミー子の髪、ここどうなってんだ?」

「・・・?」

「いや、ここ。」

「・・・(さら)。」

 ミー子が右側の前髪の横に触れた。

 いわゆる触覚とか呼ばれるところ・・・かな?

 ミー子の髪はなぜかここだけいつも外側にハネている。

 水で濡らしても何をしても外側に向く。

 なんか強力な力が働いているみたい。

 これを抑えるためにはワックスで固めるしかない。

 といってもミー子はワックスなんて使わないけども。

 左側は特にハネてるとかないのに。

「左はいつもヘアピンで留めてるからか?」

『分からぬ。』

 左の触角はいつも3本のヘアピンがついている。

 上から緑、白、赤と続くので俺はイタリアと呼んでいるが。

 ちなみに左耳の後ろもオレンジのピンで留めている。

「そういえばずいぶんヘアピンが偏ってるな。」

『今さらっすか。高校入ってからずっとだけども。』

「見慣れてたからな。」

『そういうことね。いやほら、アシメって流行ってるらしいじゃん?』

「まあそう聞くけど・・・。」

 確かにミー子は左耳だけ出してるけども。

『料理中とかはもっと増えるよ。』

「それは知ってる。」

 料理中は右側も留めるので合計6つになる。

 多すぎだろ。

『まあまあそんなことはいいじゃないのよ。お風呂あがったんだし、あったかいうちにベッドに入りたい。』

「それは同感。」

 まだ2月で大分寒いからな。

『なんか久しぶりだなコレ。』

「クリスマスにしただろ。」

『いやそうじゃなくて。』

 ミー子の言いたいことは分かる。

 多分あのころを思い出しているんだろう。

 あんまりいい思い出ではないけど。

『怖くなったら起こす。』

「できれば何もなくで頼む。」

『それは私の夢見次第だな。』

「夢見さん、たのんます。」

『夢見さん人間説。』

 ふざけたやり取りを続ける。

 ミー子と話してると、ついふざけちゃうんだよな。

 それが楽しいんだけども。

「くー・・・。」

「早っ!?」


 Side 美衣

『ピッ、ピッ、ピッ』

 ・・・ああ、また夢か。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 なっち、起きて。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 なっちに向けて伸ばそうとした手が、動かなかった。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 なっちの顔には汗が浮かび、辛そうな表情をしている。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 そんな苦しそうな顔しないで。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 今私が汗を拭いて、手を握っててあげるからね。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 ―――あれ、動けない。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 何で動かないの、なっちの近くに行けないじゃん。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 なっち、苦しそうにしてる、私が行ってあげないといけないのに。

『ピッ、ピッ、ピッ』

 なんで、なんで手が動かないの。

『ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・』

 ねえ、お願い、動いて。

『ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・』

 なっちが胸を押さえて暴れてる。

『ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・』

 何で病室に誰もいないの。

『ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・』

 こんな時に看護師は何してるんだよ。

『ピ・・・ピ・・・』

 待って、やだ、なっち、行かないで。

『ピ・・・ピ・・・』

 やだ、私、なっちがいないとどうしていいかわからないよ。

『ピ・・・ピ・・・』

 ねえなっち、お願い、目を覚ましてよ。

『ピ・・・ピ・・・』

 なっち・・・逝かないでよ・・・。

『ピ―――――――――――――――――――――――』


「・・・(ばさっ)!?」

 や、やだ、なっち、いなくならないで。

「はー・・・はー・・・。」

 ・・・暗い。

 ここは―――なっちの部屋か。

 ・・・最初は夢だってわかってたのに。

 あの夢見ちゃうと、どうしても・・・。

「・・・(ゆさゆさ)。」

 なっち、起きて。

 お願い、起きて。

 ・・・あれ?

「・・・(ゆさゆさ)。」

 ・・・起きない。

「・・・!!」

 や、やだ起きて。

 なっち、なっち。

 ゆ、夢の通りになんて、なってないよね?

 早く起きて、私を安心させて。

 お願い、起きて・・・!

「・・・ん、うぅ・・・ミー子?どうした・・・?」

「・・・!」

 

 揺らされたので起きたらミー子が抱きついてきた。

 ・・・えーっと。

「だ、大丈夫か・・・?」

 寝起きで頭が回らないけど、どうやら泣いているみたいなので頭を撫でてあげる。

「・・・(ふるふる)。」

 首を振る・・・大丈夫じゃないという事か。

「ど、どうしたんだ?」

「・・・!」

 ミー子は何も答えてくれない。

 困ったな・・・。

 えーと、思い出せ、寝る前の会話を。

 そもそもなんでミー子は今日泊まりに来ているのか。

 ・・・そうだ、怖い夢を見るんだっけか。

「ミー子?怖い夢を見たんだな?大丈夫か?」

 そういうと、ミー子が涙にぬれた顔を上げた。

 ・・・おいおい、あんまり気にしてないんじゃなかったのか。

 これ、重症じゃないか?

「ミー子、とりあえず落ち着いてくれ。」

 いまだにびくびくしているミー子をやさしく抱きしめる。

 背中に手を回し、しっかりと。

 背中をさすってやると、震えが少しおさまったような気がした。

「その、何があったかは、言えるか?」

「・・・(こくり)。」

 不安の表情のまま、ミー子が頷いた。

『怖い夢を見て、なっちがいなくなっちゃって。死んじゃった。』

「・・・ちょっと待ってくれ説明不足。」

 ミー子の夢の中で俺が死んだということ・・・か?

『苦しそうにしてて、なのに何もできなくて。それで、目の前でなっちが死んじゃった。』

「何もできなかった、っていうのは?」

『金縛りか何かのよう。動けないまま、なっちが目の前で。』

 ・・・それは、きついな。

 もし立ち位置が逆だったら・・・俺にも相当こたえていたはず。

『で、起きたらなっちが隣にいて、でも起こそうとしてもなかなか起きなくて。』

「ほんとごめん。」

 ミー子が泣いてたのはそれが理由か。

 つまり俺が死んだ夢を見て、隣にいた俺がなかなか起きなかったからもしや、と思ったという事か。

『すっごく怖かった。もしなっちがいなくなったらって思ったら、もうだめで。』

 ミー子の目からまた涙がこぼれる。

 ・・・さすがにこの状況は、このミー子は、見てられないな。

 こんなのが続くと思うと・・・。

「ミー子、一度病院に行こうか。」

「・・・(こくり)。」

 素直に頷いてくれた。

『今ちょっと辛いから、そばにいてほしい。』

「大丈夫、いつでもいてやるからさ。」

『迷惑かけてごめん。』

「迷惑なんかじゃない。むしろ辛い思いをさせてごめんな。俺でよければ、そばにいてやる。」

『よければ、じゃなくて、なっちがいいよ。』

 ミー子が(はな)をすすり、隣に寄り添う。

 頭を撫でてやるようなことぐらいしかできないけど、これでいいなら、いくらだってする。

 この子が少しでも楽になれるのなら。

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