先輩登場です
「・・・(ゆさゆさ)。」
・・・おう、もう起きる時間か。
そういえばミー子が泊まってるんだったな。
いや泊まってなくても起こしに来るけど。
「おう、おはよう。」
『おはよう。』
俺の上にまたがり、挨拶をするミー子。
・・・なぜまたがる必要があった。
『なっちのなっちがアタックフォルムの可能性もあるので隠してあげようと。』
「そんな気遣いいらねえよ!?」
むしろそう気遣ってくれるのならまたがってくれないほうがいい。
つかそんなこと言われたら意識しちゃうだろうが。
『昨日はお騒がせしました。もう大丈夫よ。』
昨日のこと・・・。
大丈夫って言われても、あんな状態を見ちゃ大丈夫なんて言ってられない。
「あんなの何度も続いたら辛いだろ。ちゃんと病院行こうな。」
『それは、まあ、行くよ。』
「俺だって、あんな状態のミー子は見たくないんだからな。」
『やだなっち優しい惚れる。』
「もうすでに惚れてんだろうが。」
『じゃなきゃ彼女やってないよ。』
ミー子がにへらと笑って見せた。
少し無理が入ってるような気もしなくもないが、そこはスルーしてあげよう。
「ちなみに病院はいつ行けるんだ?」
『予約取らないといけないから・・・、明日はバイトだし、明後日は大丈夫かな?』
「明後日・・・おう、大丈夫そうだ。先生に話聞きに行こうな。」
「・・・(こくり)。」
学校の準備をしよう。
ミー子が部屋を出ていってくれない、着替えたい。
結局ミー子の目の前で着替えさせられるハメになった。
なぜ見られなきゃいけないんだ。
「おいっす夏央。眠そうだな。」
俺の顔を見た京介が、一番最初にそんなことを言ってきた。
俺疲れてるかな?
まあミー子が泣き止むまで1時間はかかったし、結局寝たのは3時だが・・・。
「そんな眠そうにしてたら、授業中寝ちまって大事なノートが取れなくなるぜ?」
「・・・あ。」
カバンの中。
ノートが、ない。
教科書はある。
・・・やっちまったみたいだ。
「ノート忘れた・・・!」
「・・・ほんと、寝不足には気を付けた方がいいぜ?何をしてたのかは聞かないけどよ。」
それ半分くらい聞いてるし決めつけてるようなもんじゃねえか。
「なんかあったわけじゃないんだけどな・・・。」
ミー子の内側の問題なもんで京介には伏せておく。
「大丈夫大丈夫、仕方ないことだから。ほれ、ルーズリーフやるよ。」
「マジありがとう京介。・・・ん?」
・・・京介の野郎勘違いしてるじゃねえか!!
「まあまあまあまあ、そんなカッカしなさんな。じゃあ聞くけど、何かあったのか?」
・・・言っていい話なんだろうか。
まあ京介だし、それなりに信頼はしてる。
ミー子とも、中学の頃からの友達だし。
・・・相談ではないけど、一応言っておくか。
「その、なんだ、ミー子が最近夢見が悪いらしくてな。それを結構気にしてるっぽくて・・・。」
「夏央がそこまで言うってことは相当か。大丈夫なのか?」
「・・・分からない。だから明後日病院に行くことにしたんだ。それで解決できればいいんだけどな。」
「まああまり重く考えないほうがいいと思うぜ。解決できないよりは解決できるって考えたほうが気が楽だろ。」
「まあ、そうなんだけど。」
「美衣ちゃんなら大丈夫だろ。何だかんだ強い子だと思うぜ。」
強いと言われれば強いし、弱いと言われれば弱いような気もする。
「原因はわかるのか?」
「一応ミー子は過去のことが夢に出るって言ってるんだけど・・・。」
「・・・えーと、小学校のころとか、吉田、とか?」
「その夢が出てくることに関してはあんまり気にしてないらしいんだけどな。」
「美衣ちゃんにとってそれ以上に嫌な夢って・・・。」
「なんか、俺が死ぬらしいんだよね。」
他人の夢とはいえ、その中で自分が死ぬというのはあまりゾッとしない。
「まあ悪く言えば美衣ちゃんにとって夏央は依存対象みたいなもんだからな・・・美衣ちゃんからしたらかなりきついものがあるのかもな・・・。」
ミー子の中で、俺が死ぬ。
・・・そういえば、俺が死にそうだった時、目の前でミー子が自殺する夢を・・・。
ってことは、あんな思いをミー子は何度もしているということか・・・?
「ってか、それだったらしばらく夏央は美衣ちゃんのそばにいてあげたほうがいいんじゃないか?」
「なるべくそうしてる。昨日も、一緒に寝てたんだよ。」
「ああ、それで美衣ちゃんが夜中に起きちゃったと。」
「・・・鋭いな。」
「当ったり前だ。夏央の数少ない男友達だからな!」
「うるせー。」
「・・・美衣ちゃんを抱いて夏央を刻み付けてやるってのも一つの手だと思うんだよね。」
「っ、それはやらん!」
「大丈夫、そんなに短絡的な奴じゃないこともわかってるからさ。」
この野郎。
「・・・お、ミー子だ。」
教室を出たら、廊下の端っこにミー子を発見した。
祈木と・・・ほかの女子も一緒みたいだ。
珍しい。
「ここに俺が首を突っ込むのは野暮ってもんだな。さーてどうしよ。」
「何を独り言言ってんだ夏央は。」
「どうわ。」
京介が俺の右側から生えてきた。
ついてきてたのかよ。
「あれー?もしかして絢駒夏央くんかな?」
後ろから声を掛けられた。
「む!何奴じゃ!?」
とりあえずふざけて思いっきり後ろを向く。
そこにいたのは・・・
「わわっ!?私だよ私!金ヶ森白奈だよ!」
喫茶店『出雲』の店員、白奈さんでした。
「へえぇ、私の一個下だったんだね!」
「そうみたいですね・・・てっきりもっと上かと思ってました、金ヶ森先輩。」
「え!いやいや!そんなによそよそしくしなくていいよ!下の名前で呼んで!」
「・・・白奈先輩?」
「うーん、呼び捨てでもいいけどー、いっか!じゃあそれで!」
笑顔の白奈先輩。
学校でも元気な人だなー・・・てか、この学校だったんだ。
「夏央くんもこの学校だったんだね!ってことは美衣ちゃんもかな?」
「ええ、そうです。」
「ちょっとちょっと、俺を置いていかないでくれよ。」
「ぴゃっ!?」
黙っていた京介が俺の脇腹をつついた。
「てめえ何のつもりだ。」
「だって夏央こっち向かねえんだもん。で、誰よこの笑顔が美しいお姉さんは。」
「わ、それって私のことかな?もーやだはずかしー!」
顔に手を当てて「きゃー」とかいう白奈先輩。
これはあれだ、紗由さんに似たうるささがあるぞ。
「誰と言われても・・・俺もまだあんまり知らないんだよな・・・。」
「なんだそれ。」
「いや、知り合ったの昨日だし。」
「まじか、フレンドリーでいい人じゃん。俺鈴波京介っていいます!よろしくお願いします!」
「おー!私は金ヶ森白奈だよ!よろしくね京介くん!」
「とても親近感を感じる!」
京介が騒いでいる。うるさい。
「というか、白奈先輩は何で学校に?今は自宅研修期間ですよね?」
3年生なら、もう進路が決まって学校に来なくていいはずだ。
バイトしているところを見るに、進路は決まったと思っていいだろうし。
「あー、大学には合格したんだけどね!書類とかまだ書いてなくてさ、学校に提出しに来たんだよ!今終わったとこ!」
「あ、ならもう帰るんですか。」
「そう!帰ったら教習所!車の免許取らないとね!」
「ドライブ連れてってください。」
「私の素人運転でよければ・・・命の補償はしないけど。というか、夏央くんは彼女いるんじゃないの?」
「冗談ですよ。」
「あーっ!先輩をたぶらかすもんじゃないぞー!」
「人聞き悪い!」
そんなつもりはねえ。
「じゃあ、彼女がいるのにほかの女を口説くっつーのはどういうこたぁ!」
「口説いたつもりもねえ!」
「夏央まじかよ!?」
「お前は黙ってろ!」
『なっちが浮気をしたと聞いて。』
「うおわぁっ!?」
いつの間にかミー子が近くに来てやがった。
「びっくりした・・・女子と一緒だったんじゃないのか?」
『一緒、というか陽花と一緒にいたらみんなに巻き込まれただけよ。』
「ああそう。」
『こちらの方は・・・出雲の?』
「そうそう。」
「あのー・・・。」
俺たちの会話を聞いて、白奈先輩がおずおずと手を挙げた。
「美衣ちゃんだよね?手話?」
首をかしげる白奈先輩。
ああそうか、ケータイが使えないからミー子は基本手話だし京介も手話に理解があるから忘れてた。
誰でも手話がわかるわけじゃないんだった。
『私は声を出すことができません。』
「み、美衣ちゃん?これは何を言ってるのかな?」
『やーいバーカバーカ。』
「こら。」
ミー子の後頭部にチョップしてやった。
「手話は私わからないけど、なんだか今バカにされた気がする!」
『大正解。』
ミー子が両手で大きく丸を作った。
「美衣ちゃんこらーっ!」
「・・・(じたばた)。」
ミー子が白奈先輩に抱きすくめられた。
「えっと、ミー子は事情あって声を出すことができないもんで・・・。」
「えっ!そうなんだ!」
『ケータイが使えれば・・・不便だ。』
「今のはケータイがあれば、と言ってるんです。」
「あっ、へー!そうなんだね!」
「・・・(ぺこり)。」
よろしくお願いしますとでも言いたかったんだろうか。
ミー子が白奈先輩にお辞儀をした。
「ん?んんん?よ、よろしく!・・・ね?」
微妙な空気だが、ミー子と白奈先輩が握手をした。
「俺、こんな噛み合わない握手初めて見た。」
奇遇だな京介、俺も今初めて見たところだ。
俺の部屋にミー子を招き(いつものことだけど)、漫画を読んでいると、ミー子が急に顔を上げた。
『白奈先輩、からかいがいのある人かね。』
思い出したかのようにそんなことを言うミー子。
「いやからかうなよ。」
『面白いじゃない?紗由さんに通じる何かがあるけど、扱いやすい分いい。』
「・・・紗由さんは?」
『世間一般ではあれを暴れ馬と言う。嫌いじゃない、むしろ好きだけどね。』
ミー子がはにかんだ。
そうか、ミー子は紗由さん好きなのか。
「でもな、ミー子と紗由さんが一緒にいるとな・・・。」
『疲れるだろ。』
「分かってんじゃねーか。」
『だってハルさんからのツッコミもフォローもないじゃない。』
「うんまあそうなんだよ。」
ツッコミ不在の紗由さんの恐ろしいこと恐ろしいこと。
『夏央!ご飯できたわよ!降りてきなさい!』
母さんの声が響いた。
『美衣ちゃんも食べていきなさーい!』
『あら、私もいいのね。』
「まあ、母さんもミー子のこと大好きだからな、まあ食ってけって。」
『もちろんありがたく。』
ミー子と一緒にリビングへ降りる。
「よーし、じゃあ食べちゃいましょう!いただきます!」
「・・・(いただきます)。」
春姉も含めた夕飯が始まろうとしていたその時。
家の鍵が開く音がした。
「・・・!」
母さんと春姉の顔がこわばる。
今日冬姉が家に来るとは聞いていない。
つまりこれは・・・。
『ただいまーっ!!お父様の凱旋だーっ!!』
玄関から元気のいい声が聞こえてきた・・・って。
「まじか!?」
「あらあら!?」
「お父さん!?」
「・・・!?」
みな一様に驚いている。
「ただいまーっ!」
玄関にバーンと入ってきたその人は・・・!
「父さん!」
「清松さん!」
「お父さん!」
「・・・(ぺこり)。」
絢駒清松、その人だった。
「おう!みんな勢揃いだな!・・・や、冬華はいないのか。」
「そっか!今年から日本でしばらく研究することになったんだよね!お父さんお帰り!」
「おう、春女、元気にしてたようで何よりだ!」
「帰ってくるのならひとこと言ってくれればよかったのに、もう清松さんったら。」
「ハッハッハ!俺はサプライズ人間だからな!」
父さんが夜だというのに大きな声で笑った。
「父さん、仕事お疲れさま、そしてお帰り。」
『お久しぶりです清松さん、お帰りなさい。』
「おう夏央!美衣ちゃん!ただいま!」
いい笑顔で笑う父さん。
きっと家族に会いたくて仕方なかったんだろう。
「ちなみに父さんの分の飯はあるか?父さん腹減っちゃったんだ。」
「今用意するわ!」
急いで用意する母さん。
母さんも、父さんが帰ってきて嬉しそうだ。
夕食は、久しぶりに・・・本当に久しぶりに、父さんを交えての食事になった。
ずっと父さんの外国での話だったけど、文句を言う人はいなかった。
みんな、父さんの話を聞きたかったんだろう。
「春女、お前髪伸びたなあ。なんかこう、グッと大人な感じが増したな!」
「大人な感じってのはよく分からないけど・・・褒めてくれてるんだよね、ありがとう。」
「落ち着いてるなあ。春女も・・・もう大人なんだな・・・。」
「ちょっやめて!なんかしみじみ言わないで!」
「大人といえば・・・春女は酒にかなり弱かったよな。あんまり飲んで迷惑かけてないか?」
「・・・。」
春姉が笑顔のまますっと目を逸らした。
そして俺と目が合う。
瞬間、春姉の顔が真っ赤になり、今度はミー子の方を向いた。
「・・・なんだ?春女、何かあったのか?父さん心配だぞ?」
「だっ!!大丈夫だから!何にもなかったから!!」
「・・・何で夏央も顔が赤いんだ?」
「なんっにもないから!なん、なんもないから!!」
「・・・美衣ちゃん、何かあったか知ってるか?」
『何があったかなんて私の口からはとてもとても。』
「ちょっと待てお前ら本当になにしたんだ。」
仏頂面になる父さん。
「で、秋穂は何でにやにやしてるんだ?」
「ふふふ、べっつにー。」
「おい待てみんな怪しいぞなんだこの空間。」
赤面2名、はぐらかし2名。
真実を知らないのは父さんだけ。
しかしこの真実を言うのはやめておいたほうがいい気がする。
・・・うん、そうだな、いろいろあれだし、やめとこ。
「俺は部屋に戻るとするよ。春姉も母さんも、父さんと積もる話もあるだろうし。」
「夏央逃げる気か!?」
「俺は明日とかでもいいからさ。ミー子行くぞ。」
「・・・(こくり)。」
「美衣ちゃん!?こんな夜遅くに夏央の部屋行くの!?・・・ってあれ、夏央さっき春女のこと春姉って・・・あれ?」
父さんの頭が疑問であふれていく。
混乱してる今の内だ、行こう。
『なっちって年上に好まれるよね。』
部屋に入ったミー子がいきなりそんなことを言い出した。
「好まれてるか・・・?」
『好まれてるでしょうよ。ハルさんに冬華さん、紗由さんに店長に白奈先輩。ほらね。』
「春姉はともかく冬姉は家族だろ。」
『ブラコンだろあの人。』
「まあ、確かにね?」
否定できないね。
『にしても清松さん久しぶりに見たな。』
「そりゃそうだ、俺だって久しぶりだもん。」
『よかったねパパ帰ってきて。』
「パパって・・・まあ、よかったよ。」
面白い人だから、俺も好きだけど。
『にしてもさっきのハルさん面白かった。笑顔のまま顔逸らしたの本当に面白かった。』
「面白がってやるなよ・・・。」
『まあ、なっちにも被害あったしね。』
そりゃあ、あの話題は今でも気恥ずかしい部分はあるし。
酒に酔った勢いとはいえ・・・。
『なっち、顔赤くなってるよ。』
「まじか。」
『まじまじ。私の手で冷やしてあげよう。』
ミー子が俺の頬をぺたぺた触ってくる。
ああ、手冷たいから気持ちいい。
『やだ私が顔赤くなっちゃいそう。』
「そんなこと言うなよ、俺も意識しちゃうだろ?」
『別にいいのよ。』
そういいながら、ミー子が俺の隣に座り、体を寄せてきた。
「どした?」
ミー子がちらっと俺の顔を見て、何かを考えるように下を向いた。
そしてケータイに文字を打ち・・・。
『やっぱ夜になると、少し怖いもんだね。』
「・・・大丈夫、辛いならいつでもそばにいるぞ。」
『やだなっちったらかっこいい。』
「ふざけなくても、怖いなら頼ってくれていいんだからな。」
ミー子はうつむいた。
そして俺のほうを見る。
ミー子の目には、少し、不安が渦巻いている。
『迷惑じゃない?』
「何言ってんだ当たり前だろ。まーだ俺にそんなこと考えてんの?遠慮なんていらない、怒っちゃうぞ?」
「・・・(ふるふる)。」
ミー子が首を振った。
『すっごく感謝してるけど、私、なっちにもらってばっかりだからさ。重い物背負ってるみたいだなって。』
「アホだなあ。手のかかる彼女ほど、俺が役に立ってる実感がわくんだぜ。」
「・・・(すっ)。」
ミー子が遠慮がちに、そっと抱き着いてきた。
「大丈夫、いつでも頼っていいんだからな。そうだ、怖いなら今日オールしてみる?」




