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Please speak!  作者: 長野原春
46/113

重要イベントです

「・・・なあミー子。」

「・・・?」

 現在バイト中。

 本当に珍しく、というより初めてミー子と一緒に仕事だ。

 仕事中ということで、ミー子はケータイを使っていない。

「なんか今日男性客多くね?」

「・・・(こくり)。」

「しかもさ、なんかフォンダンショコラばっかり売れてるような気がするんだけど。」

「・・・(こくり)。」

 まあつまりはそういうことだろう。

「今日はウエイトレスが女の人しかいないし。」

『察してやれよ。』

 短く、最低限の手話で話すミー子。

 そう、今日は2月14日だ。


「お待たせしました。フォンダンショコラとキリマンジャロです。」

 店長が商品を運んでいく。

 お客さんは、高校生くらいの男。

 一人だ。

 店長に持ってきてもらってなんだかすごく嬉しそうな顔をしている。

「世の高校生は期末テストが終わった直後のウキウキイベントだもんな。」

「・・・(こくり)。」

「店長、追加分できましたよ。」

「ありがとう!やっぱり2人いると早いね!特に君たちは!」

 店長が笑顔でトレイに運ぶ。

「今日は男の子たちに夢を与える仕事だからね!厳しいと思うけど、頑張ってね!」

 店長が厨房から去っていく。

 まあ、一人悲しくここへ来た人たちへのせめてもの感謝ってとこか。

 ついでに暖かいフォンダンショコラを食べて、コーヒーでひと息ってね。

 そしたらここの店がおいしかったって他の人にも触れ回ってね。

 今日の客、だいたい一見さんっぽいし。

「ねえねえ美衣ちゃん、お客さんから美衣ちゃんに持ってきてもらいたいって言われたんだけど。」

「・・・。」

 ミー子が固まっている。

 まあ、喋れないからウエイトレスやらないわけで。

 メニューの読み上げなんてできるわけないし。

「大丈夫かな?」

「・・・(こくり)。」

「おお!じゃあこれね!」

 トレイに乗っているのは、フォンダンショコラとカプチーノ。

 いや、本当に人気だなフォンダンショコラ。

 限定メニューにザッハトルテあたり加えてもいいと思う。

「・・・(さらさら)。」

 ミー子がメモに『フォンダンショコラとカプチーノでございます』と書いている。

 それ渡すつもりか。

『行ってくる。』

「お、おう。」

 とりあえずどうなるかわからないので見守る。

 ミー子がお客さんのもとへ移動していく。

 トレイを置き、お客さんを見つめる。

 何も言わないウエイトレスに困惑する客。

 そりゃそうだ。

「・・・!」

 ミー子が何かに気付いたようで、持っていた紙を客に渡した。

「えぇ・・・?」

 さすがに驚いたようで、気の抜けた変な声が聞こえた。

「あ、あの・・・?」

「・・・(しっ)。」

 ミー子は人差し指を立て、自分の口元に当てた。

 そしてそのまま戻ってきた。

「・・・(ふんす)。」

「いやいやいや。」

「・・・?」

 なぜだとでも言いたげな表情をするミー子。

 いや、胸張るようなことじゃねえ。

「お客さん困ってただろ。」

『私を指名する客が悪い。』

「さいですか。」

 いやあんまりだ。


「絢駒君美衣ちゃんお疲れ様!まさか閉店前までお客さんが来るとは思わなかったよ。」

「本当ですね。」

「・・・(こくり)。」

 いやあ、異様に男性一人の客が多かった。

 途中までは学生が多かったけど、夜中になってからそれ以外が増えてきた。

 多分寂しい人なんだろう。

「ウエイトレスに男を混ぜても面白かったかもね!」

「やめて、追い打ちしないであげて。」

「あはは、冗談だよ!」

 店長が子供っぽく笑った。

 まあ店長美人だし、持ってきてもらった客はうれしそうにしてたな。

 一人ミー子を指名したイレギュラーがいたけど。

「じゃあこれ、絢駒君へのプレゼントね。大事に食べてね?」

 店長からもらったのは、かわいくラッピングされたチョコレート。

 マジか。

「ありがとうございます!」

「期待してるよ?」

 え、お返し渡すんですか。

「これからも仕事がんばってね?」

 そっちの期待ですか?

 ちょっと怖いので来月作りますね。

「じゃあお疲れ様!またよろしくねー!」


『嬉しそうだななっち。』

「う。」

 家に帰ってきてまだにやにやしてる俺をミー子がジト目で見てきた。

「ま、まあ男として?こういう日にもらえるのはうれしいよね?」

『私というものがありながら。』

「そ、そう言うわけじゃないからね!?」

『私一人にもらえればそれでいいのよ。』

 ミー子に押し倒され、床に組み敷かれた。

「う、動けないぞミー子。」

『そう、なっちは私一人だけでいいの。だってなっちは、私のものなんだから。』

「ヤンデレか。」

 ミー子の頭を押さえてやる。

『ちょっと言ってみたかったのよ。安心して、2割は冗談だから。』

「残り8割は!?」

『うそだよ。』

 ミー子がにっこり笑った。

『どーせなっちはハルさんにも冬華さんにももらえるだろうしね。』

「春姉も冬姉もちょっと待っててくれって言われたよ。」

『お、私一番乗りだ。にしてもなっちはモテるね。』

 モテてもうれしくないんだけど?

 彼女いるしね?

 半分は身内だからね?

『というわけで今年のプレゼント。』

 ミー子がチョコレートをくれた。

 ミー子がくれたのはトリュフ。

 10個入りだ。

『まあなっちなら知ってるとは思うけど、トリュフって時間かかるのよね。』

「最低一日はかかるな。」

『よく分かっていらっしゃる。』

「なめんな。」

『なめてなんてないよ。あとね、なっちにちょっと伝えたいことがあるんだ。』

「おう、なんだ?」

 そういって、ミー子は口をぱくつかせた。

「ん?」

『分かりづらくてごめんね。でも口で伝えたくて。』

 つまり唇を読めってことか。

「じゃあ、ゆっくりお願い。」

「・・・(こくり)。」

 ミー子が口を開き、ゆっくりとしゃべり始めた。

 わ、た、し、の、き、も、ち、だ、よ。

 なっ、ち、だ、い、す、き。

「・・・。」

 やばい、ちょっとくらっと来た。

 しとすははっきり聞こえた。

 かわいすぎだろ、これ。

「あの、抱きしめていいですか。」

『キスしてください。』

 ミー子のお望み通り、抱きしめてキスをした。

 彼女にこんなことしてもらって、しかもこんなサプライズ付きで。

 嬉しくないはずないだろ。

 やっぱりまだ声は出ないけど、ミー子は頑張ってしゃべってくれた。

 そんなミー子がいとおしい。

「ありがとう、大切にするよ。」

『腐らせたら承知しねえ。』

「ちゃんと食べる、食べるから。」

『お返しはあれで、あの、左手の薬指につけるキラッとしたリング。』

「それは俗にいう給料3か月分というやつ?」

『希望する。』

「・・・就職するまで待ってね?」

『待ってるよ、いつまでもね。』

 気が早い約束をして、俺たちは笑いあった。


「おはよう!はいなつくん、チョコレートだよ!」

 朝一番に春姉からチョコをもらえました。

「ありがとう。大切に食べるよ。」

「酔っぱらわないと思うから!」

「ねえチョコに何いれたの!?」

 どうしよう、危険な香りがする。

 あの、俺まだ17歳なんですが。

「大丈夫!私はダメだったけど!」

「食べられないもん出すな!」

「大丈夫!味は美味しいよ!ほら、私が作ったものだから!」

 信じられないんだけど!?

 いや、料理できるのは知ってるけども!?

「なんなら口移しで・・・。」

「春姉はいつの間にそんなに大胆な人になった!?」

「ふふふ、嘘だよ。そういうのは美衣ちゃんの領分だもんね。」

「・・・。」

 ああうん、そうだね。

 確かに言わなくもないかもしれない。

「いやあ、なつくんてば、ちょっとエッチなくらいが好きかなと思ってね?」

「春姉は清楚っぽくいてください!」

「ん、なつくん、そっちの方が好き?」

「少なくとも春姉はね!俺の中のイメージってもんがね!?」

「あ、そうなんだね!勉強になったよ!」

「なんの勉強だよ・・・。」

 おかしいな。

 なぜか最近この人もツッコミが必要になってきた気がする。

 そうなるとツッコむの俺だけなんだけど。

 春姉、俺の味方だと思ったんだけどな。

「多分私はお酒を飲むのがよくないのかもしれない!」

「そうだね!」

 だってこの人飲ませちゃだめだもん。

 暴走するんだもん。

「なつくん、今度一緒に出掛けよう?」

「ずいぶんいきなりだな。いいけど。」

「やった!なつくんとデートだ!」

「俺とデートするのはミー子だけだから!春姉はお出かけ!」

「線引きされた!」

 するわそんなもん。


「行くか。」

「・・・(こくり)。」

 学校に行こうとしたら、ミー子がくっついてきた。

「どうした?」

『なんか、いい雰囲気。』

「いや意味わかりませんけども。」

 さすがにそんなにくっつかれると注目浴びるんでやめていただきたい。

『やー。』

「やーじゃありません。」

『じゃあ家帰ったら甘えていいというのかい。』

「・・・存分にどうぞ。」

『じゃあ今は我慢するよ。』

 ミー子が俺から離れてくれた。

 まあ距離は近いけども。

『ちなみにハルさんからはどんなチョコを?』

「酒入りのをもらったよ。」

『大丈夫なの?』

「・・・心配。」

 ミー子が困ったような顔をした。

『食べれなかったら私も一緒に食べるよ?』

「いや、それはダメだ。」

 ミー子が酔っぱらうとかどうなるかわからないし。

『やだ、私の心配してくれてるの?やっさしー。』

「もちろん、彼女だからな。」

『そんななっちが大好きよ。』

 なんだこれ、完全にバカップルのノリじゃないか。

『じゃ、お遊びはここまでにしていきますか。』

 お遊びだったんかーい。


『陽花にもらえなくて残念?』

「いやいや、そんなことはない。そりゃ祈木だって渡したい相手は決まってるんだからな。」

 京介にしか渡さないんじゃないかな。

 祈木はきっと純情なんだよ。


『誰にももらえなくて残念?』

「いやいや、よく考えたらミー子にもらえるだけで本当にうれしいよ。」

『私の愛は本物。』

 うん、量より質よね。

 学校ではだれからももらえなかったけど。

『まあ、昨日もらえなかったからって今日まで待ってももらえないでしょう。』

「いやほら、昨日は本命、今日は義理的な?」

『めんどくさいから全部まとめて昨日渡すわ。』

 はい、そうです。

 今日は2月15日なんですね。

 いや、ミー子にもらったのはすごい嬉しいんだけどもさ。

 クラスに一人はいるイケメンという人種はチョコレートを20個以上もらっているときたもんだ。

 なんというか、腹立たしい。

『まあまあ、格差社会って言葉があるでしょう?』

「フォローになってねえよ・・・。」

『フォローするつもりはない、現実。』

「そうね!」

 ああ、この世界は不公平だ!

 多分去年だったらもっとひどかった!

 ああ、彼女って大事!

「アヤ、結局もらえなかったんだね!」

「うるせーミー子にもらえただけでもいいんじゃ。」

「うちのなーみんはすごいよ?なんか5個ももらっちゃったらしいよ?」

「京介ぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 何でだ。

 何でこんなに差がついてしまうんだ!

 というか俺と京介の差ってなんだ!

 成績か!?

『いいこと教えてあげるよ。』

「なんですか。」

『人のこと見下してるうちは自分のカッコ悪さには気づけないんだぜ。あんた鈴波くんを自分と同等かそれ以下にしか見ていないだろう?』

「・・・。」

 涙出てきた。

『とまあそれは冗談として。』

 冗談かよ。

『なっちってホワイトデーには手作りで返すでしょう?』

「まあ、作るの楽しいしな。」

『もらった大半の子は自信なくすと思うよ。』

「・・・。」

 そういうことかー。

『私はまあ、なっちと同等くらいでありたいと思ってるからダメージは少ないけども。』

「え?俺が悪いの?俺に理由があるの?」

「・・・(こくり)?」

 ミー子が首をかしげながら頷いた。

 理由にはなるけど一概にそうとは言えないみたいな?

「あるいは単に夏央が他の女子の眼中にないから、とかな!」

「ぶっころですわ。」

 とりあえず目の前に現れたスカした野郎をひっぱたいた。

「ほ、本当のことかもしれないだルオオオオオ!?」

「だからってもらってるやつからんな事言われても腹立つだけなんですぅぅぅぅぅ!!」

 ダメだ!

 今ここでコイツをぶちのめさないと気が済まねえ!!

「しょおおおおおぶだ京介ええええぇぇぇぇぇ!!」

「すでに勝敗は見えているゥゥゥゥゥゥ!!」

「お前らうるさいぞー、ほら、帰りのHRはじめっからよ。」

 一気に戦闘意欲が削がれましたとさ。


『よし、久しぶりにあそこへ行かないかい。』

「あそことは。」

 そもそもあんまりどっかへ出かけたりしないもんだからあそこと言われてもな。

 どっかいったっけか。

『出雲。』

「本当に久しぶりだな!?」

 確か去年の4月だったか、行ったのは。

 もう10ヶ月経つのか。

 去年はいろいろあったせいで危うく忘れそうだったぜ。

『私も最近バイトとかで甘いものを食べに行ってないからね。そうと決まったら行こうか。』

「まだ行くとは言ってないけども!?」

『行かないの?』

「い、いや・・・。」

「・・・(じー)。」

「・・・行きます。」

 途端に上機嫌になったミー子について行った。


「いらっしゃいませー!」

 店員が出迎えてくれた。

 なんかこの子見覚えある気がするな。

 ・・・いや、この子っていうか、お姉さん?

 一応俺たちよりは年上な感じがする。

 うん、見覚えある。

 このウエイトレスさん、俺たちが4月に行ったときに出迎えてくれた人と同じ人だ。

 わ、こんなこと覚えてる俺の記憶力すごくね。

 すごくどうでもいい。

 そしてまた窓際の席に案内された。

 なんだろう、俺らこの店に何かあるのかな。

「ごゆっくりどうぞ!」

『さて何を頼もう。』

「メニュー広げるの早いよあんた・・・。」

 ミー子の目がキラキラしているように見えるのは気のせいかな?

 気のせいじゃないな。

『ほらほら、なっちも早く決めなよ。』

「メニューを独占してる人がいるんだよね?」

「・・・。」

 メニューの一つをすっと差し出すミー子。

 そうだね、独占していたのは君だね。

「・・・(むー)。」

 早く決めろって言ってた割に決まってないのかよ。

「よし、俺はこの抹茶ぜんざいだ。」

『久しぶりだから迷いますな。』

「いいぜ、待つよ。」

『キャーなっち優しい大好き!』

「おう、早くしろよ。」

「・・・。」

 ミー子がメニューに向き直った。

『じゃあ私抹茶あんみつで。』

「なんか似てるな。」

『あんみつとぜんざいは違うだルオオオオオオ!?』

「さっきの京介の叫びを文字にするとこんな感じなのかな。すいませーん。」

「はーいただいまー!」

『無視されたよ。まああんみつとぜんざいって似てるんだけどね。』

 ミー子が少し不服そうだった。

 あ、ツッコミがほしかった?

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