カニを食べると静かになるよね
「らー!カニだああああああああ!!」
「客が一番うるさいんだけど!?」
いやカニはうれしいけども。
「まあまあ、ワイワイやる方が楽しいじゃないの。」
母さん、この人はものすごく騒ぐんですよ?
「初めまして~、美衣にも年上の友達ができたのね!」
「初めまして!娘さんとは仲良くさせていただいております。」
あんたはミー子の彼氏か何かか。
「よーし!!食べましょう!」
「うっし!カニ食べよう!」
春姉と冬姉がかなりテンション高いな。
『こういう時こそ私たちは静かにしてよう。』
「それがいいかもしれない。」
ミー子が珍しくまともな意見を言ってきた。
『おい、私はいつもまともだぞ。』
「怖いからな!?」
読まないでくれ!?
「みんな、飲み物は入れた?」
「「「「「はーい!」」」」」
みんなで一斉に腕を上げる。
コップにはそれぞれ飲み物が。
・・・俺とミー子以外見事に酒なんですけども。
「今年一年お疲れ様!!今日はぱっとやりましょう!」
那空さんが乾杯の音頭をとる。
「かんぱーい!!」
「「「「「かんぱーい!!」」」」」
「・・・(かんぱーい)。」
チン、と小気味良い音が鳴る。
「あ、そういえば今年は夏央とミーちゃんのお付き合い記念もあるのよね。かんぱーい!!」
「「「「「かんぱーい!!」」」」」
「ちょっと待ってそんなお祝いいいから。」
「・・・(わたわた)。」
予想だにしていなかった乾杯だ。
俺もミー子もあわてちゃうじゃないか。
「いやー、いつくっつくかなーとは思ってたけど、結構時間かかったわね。」
母さんそんなこと言わなくていいから。
「このまますごいことしてたしねー。」
那空さんそんなこと言わなくていいから!!
「なつくん・・・その、情熱的だったね。」
「やめて!!!」
そのネタいじらないで!!
「・・・(ぷすぷす)。」
ほら、ミー子がうつむいて赤くなっちゃったじゃないか。
「なになに!?なつおくん何かしちゃったの!?」
「聞かないで!?」
「実はこの前夏央と美衣ちゃんがさ・・・。」
「冬姉言わないで!?」
あれね、今となってはすっごい恥ずかしいんですよ。
「食べようか!!!」
「ぴゃっ!?」
いきなり大声を上げた俺に春姉がびっくりして変な声を出した。
「おおう!そうだそうだ!カニ食べよう!」
「おらー!カニみそはあたしと那空ちゃんのものだー!!」
母さんのテンションがおかしい。
よく見たらグラスのビールがすでになくなってやがる。
「そうよー!カニみそは秋穂と私のものよ!」
この人もかー・・・。
『私たちは静かに脚でも食べよう?』
「そうしようか・・・。」
脚をぱきっと折ると、中からたっぷり詰まった身が出てきた。
『ぷりぷりしてますよなっち。』
「まじだな・・・。」
『私はしばらく黙りますよ。』
「大丈夫、俺も黙る。」
しょうゆを少しつけ、身をほおばる。
肉厚な身の歯ごたえ。
そして濃厚なうま味。
「うまい!」
「うまーい!!」
紗由さんの声が聞こえた気がするけど知らない。
これは早い者勝ちだ。
どれだけ食えるか・・・戦争だ!」
「・・・(もぐもぐ)。」
ミー子の目に若干火がついてる気がする。
分かる、分かるよミー子。
カニなんてそうそう食えるもんじゃないからな。
さっきまであれほど騒いでいたのに、みんな一気に静かになった。
みんなカニを食べるのに集中しているんだろう。
身剥くのって結構めんどいもんな。
「なくなるの早いな!?」
7人で食ったらあほみたいになくなるのが早かった。
残るは甲羅のみ。
こうなると俺とミー子は手が出せない。
「見ろよミー子。みんなもう結構酒飲んでるぜ。カニみそってそんなに酒が飲めるのか。」
『飲めなきゃあんなに酒が進まないでしょうよ。』
「まあ、そうだよな。」
皆さん日本酒なんて飲めるんですね。
あ、春姉は梅酒だ。
「秋穂!あれやるわよ!」
「もっちろん!」
母さんと那空さんが甲羅を持った。
そして中に日本酒を入れる。
「やるみたいだぜ。」
『あれホントにおいしいのかな。』
「酒も飲めないしカニみそも食えない俺らからすると絶対においしくないと思う。」
『やっぱ損してるのかな。』
「味覚は人それぞれだし別にいいんじゃね?俺たちの味覚はまだまだ子供なんですよ。」
『大人になりたいぜ。味覚も心も身体も。』
「大人なんてやること多すぎてヤだわー・・・。身体は・・・まあ、うん・・・。」
『ぶっころですわ。』
掴みかかってきたミー子をいなしてみんなを眺める。
なんかすげー楽しそうだなー・・・。
酒が飲めるようになれば俺らもあん中に入れんのかな。
『大人が羨ましい?』
「・・・いやー、盛り上がってんじゃん?これ、この後皆めんどくさいんじゃないすか?」
『あり得る。』
よく見ると春姉が3杯目なんですねえ。
紗由さんも冬姉も春姉に酒をあんまり進めないでいただきたい。
『そういえばハルさんに告白されたらしいね。』
「・・・なんでミー子も知ってるんだよ。」
『冬華さんからお聞きしました。』
「まじか・・・。」
あんまり言わないでいただきたいんですけども。
そう、いろいろね。
『鞍替え?』
「するかあほ。俺にはミー子しかいねーよ。」
『やだー少し口が乱暴になるあたり照れ隠しー。』
「やめてくれ。」
意外と恥ずかしいんだからね?
素直に気持ち伝えるってのは結構恥ずかしいんだよ?
「・・・(ぱく)。」
ミー子がポケットから何かを取りだし、口にくわえた。
なんか、白い棒みたいなの。
「・・・って、ミー子。」
「・・・すぅ。」
その棒をくわえながら、息を吸い込むミー子。
「おいちょっと何してんだ。」
「・・・はー。」
吐き出した息からはぼうっと白い煙が―――出なかった。
『大人のマネ。』
「ああ確かにそうだな。」
ミー子が口にしていたのはココアシガレット。
まあそれでマネっぽいのはできるけれども・・・。
「ミー子それ好きだっけ?」
『あんまりおいしくない。』
「ダメじゃねーか。」
ミー子が口からシガレットを出した。
『ココアとハッカっていうのがなんかね。』
「食ってやるから寄こせ。」
ミー子から食べかけのシガレットを引ったくり口の中に入れる。
・・・あー、こんな味だったっけ。
なんか懐かしい気分。
『ずいぶんと大胆な間接キスでいやがりますね。』
「・・・全く気にしてなかった。」
そりゃそうだ。
これさっきまでミー子が舐めてたやつじゃねーか。
『ちなみにこれいつまで続くんだろ。』
「疲れて寝るまでじゃねーの。」
目の前ではまだまだ宴会が行われている。
ジュース勢は蚊帳の外なわけだ。
『カニ美味しかったね。』
「うまかったな。」
何気ない会話も途切れ、2人で宴会に注目する。
春姉は顔が赤くてさっきからずっと変わらない笑顔。
これはまずいんじゃないだろうか。
冬姉は楽しそうに紗由さんに絡んでいる。
あんたお酒何杯目ですか。
冬姉は酒強いから大丈夫だろうけど。
紗由さんは暑いのかよく知らんが脱いでる。
下にタンクトップ着てたんですね。
つか冬にタンクトップってあんた。
少しブラジャーが見えてますよ。
「・・・(げし)。」
いたい。
母さんと那空さんは甲羅酒をすすりながら話している。
なんというか静かになったな。
よく分からないけど大人っぽい感じがする。
「・・・(ころん)。」
左肩に重みを感じた。
ミー子が俺の肩に頭を預けてきていた。
寝てはいないみたいだけど。
『こちらとあちらのうるささの差はいったい。』
「飲めるか飲めないかじゃないかな。」
『私も混ざろうか。』
「やめてください。」
つか飲めんのかお前。
ちょいと興味が湧いた。
この人たちがいつまでこの騒ぎを続けているか見ていよう。
できれば早めに終わらせていただきたいけども。
「・・・ぐぅ。」
「すー・・・。」
「ねえねえ那空ちゃん、シャッターチャンスじゃない?」
「あらあら、いい絵ね。」
部屋に小さく、カメラの音が響いた。
Side 美衣
・・・あれ。
いつの間に朝になったんだろう。
昨日の夜何してたんだっけ。
確かなっちと2人で・・・ええと。
ん?たしか・・・宴会をするみんなの様子を見てたんだっけ。
途中で寝ちゃったのか。
「・・・!」
隣でなっちが寝ていることに気付いた。
多分私もなっちも寝ちゃってて大人たちが運んでくれたのかな。
・・・えっ。
「・・・(ささっ)。」
布団で慌てて身体を隠す。
何で私下着なの。
えっ待って。
私昨日何もしてないよね?
「・・・(きょろきょろ)。」
うん、なっちは起きてないよね。
「・・・すんすん。」
うん、特にやましい臭いはしてない。
お母さんたちがふざけて私を脱がせたな。
・・・もしかして。
「・・・(ちらっ)。」
やっぱり。
なっちも下着じゃないですか。
やだちょっと恥ずかしい。
これどうしようか。
さすがに寝てるし着させるのは難しいよなあ。
これは私がさっさと出て行って何食わぬ顔で家でゲームしてたほうがいいね。
多分なっちは起きて困惑するだろうけど。
さあて、走る準備でもしますか。
すってんころりんはしないように気を付けないと。
・・・あれ、なんでベッドの隣に私のジャージがあるんだ。
お母さんか。
Side夏央
起きてみたらなんだこれ。
何で俺パンツ一丁で寝てんの?
そもそも俺がベッドの端にいるということはもう一人一緒に寝ていたということだ。
俺と一緒に寝るなんてそんなの一人しかいない。
となると俺はあいつと下着で寝ていたということ・・・?
・・・!?
「いやまさかそんなことは。」
布団の中の臭いを嗅ぐ。
・・・うん、特にそういった臭いはしない。
というかそもそも、ミー子と一緒に寝たこと自体怪しい。
確かに俺はベッドの端で寝ていたけども、転がっていっただけかもしれない。
「ちょっと待った。」
改めてベッドの臭いを嗅ぐ。
そして部屋の臭いも。
ほんのりとした柑橘系の匂い。
そして、ベッドの脇に柑橘系のヘアミストが置いてあることに気付いた。
「完全に一緒に寝てるじゃないですかやだー・・・。」
というかヘアミスト置いていくなよ。
「おーい、忘れ物。」
「・・・(びく)。」
ミー子の部屋に入ると、まあいつも通りパラロスをやっておられた。
『だからいきなり入られると手元が狂って負けそうになるからやめてとあれほど。』
「ごめんごめん。ミー子、これ俺の部屋に忘れていっただろ。」
『それはすまぬ。』
ミー子にヘアミストを渡し、隣に座る。
「どう?勝ち続けてる?」
『私を誰だと思っておるのかね。』
「ゲーム超得意なミー子さまでございます。」
『さっき一回負けた。』
「負けたんかい。」
じゃあ誰だと思ってるとか言うんじゃねえ。
『実はヘアミスト忘れたのはさっき気づいたんだけど、置いたままにしてたらなっち持ってきてくれるかなーって思ってました。』
「俺を使いやがったな。」
『あとほら、なっちに会えるじゃん?』
「・・・・・・かわいいなお前。」
「あれ、紗由さん帰ったんだ。」
家に帰ると、紗由さんの靴がなくなってることに気付いた。
「ま、まあさすがに今日はね・・・。ほら、今日は夕飯、人数分しかないから・・・。」
春姉が眉を下げながら笑った。
確かに、今日の夕飯はシマアジの丼だからね。
さすがに紗由さんの分はないからね、仕方ないね。
「てことは家に一人なわけか。」
「まあ、紗由は友だち少ないからね・・・。」
それきっと自業自得だと思うんだけど、どうなんだろう。
「紗由、黙ってれば結構かわいいんだけどねー。」
「無理でしょ。あの人が黙ったら逆に心配になる。」
サイドテールの髪型って活動的だよね。
まあ紗由さんなわけだけども。
あの人のおかげ (せい)でサイドテールの人を見ると警戒してしまいそうだ。
「まあ、私みたいなのにも積極的に話しかけてくれたし、感謝してるんだけどね。」
「春姉がデレたって紗由さんに伝えとくね。」
「・・・紗由が調子に乗りそうだからやめておいて。」
うん俺もそんな気がしてた。
「なんなら今から紗由の家に行ってあげれば?喜ぶと思うよ。」
何がなんならなのか。
確かにあの人なら喜ぶかもしれない。
でもね、こんな年末に疲れたくないの俺。
面白いっていうか退屈しないのは確かなんだけども。
「それにほら、紗由って胸大きいからなつくんもムラムラっときちゃうでしょ?」
いきなり何言いだすんだこの姉は。
というかあんたがそういう話するの珍しいな。
「・・・さすがに無理があるかな。しかもムラッときちゃったら完全浮気ですし。」
「なつくんの精神力が試されるね!」
「試さない。試さないから。」
これでもし俺が紗由さんに欲情してしまえばミー子に合わせる顔がない。
ならそんなことが起こらないようにすればいい。
つまり、会わなければいい。
・・・いや、その、結構凶暴なんですよね、あのおっきいの。
「うっめぇ!!シマアジうめえ!!」
「・・・(もぐもぐ)。」
「あんた、私たちのために買ってくれたのよね・・・?」
母さんが首をかしげた。
・・・ああうん、そうだったね。
でもうまい、まじうまい。
「夏央もお姉ちゃんたちのためにこんなことしてくれるようになったのか・・・お姉ちゃん感涙モノだよ。」
「おいしいね!」
冬姉と春姉がにこにこしながら丼を食ってる。
「夏央くん、ありがとうね!」
「いえいえ、俺も食べたかったですし。」
「・・・(もぐもぐ)。」
やー、買ってきてよかったわー。
「・・・(もぐもぐ)。」
ミー子が隣でブリの刺し身を食べている。
「・・・(こくり)。」
ミー子が刺身を食べながらうなずいた。
おいしかった時の反応だ。
そうだな、自分で買ったんだもんな、うまいよな。
「お酒が進むわねえ。」
そう言いながら那空さんが酒を飲む。
・・・昨日あんなに飲んでたのに。
「わ、私も・・・。」
「あんたはダメ。」
春姉が母さんに飲むなと言われた。
まあ、さすがにね。
昨日は途中からもうおかしかったし。
「しっかたないなー、春女だけ飲まないってのもかわいそうだし、あたしも今日飲まないでおくよ。」
「冬華さん・・・!」
春姉が目を輝かせた。
冬姉が男だったら惚れてでもしたんだろうか。
「・・・(もぐもぐ)。」
相変わらずミー子は食べています。
かれいのえんがわおいしい。
「夏央、来年もお願いね!」
母さんが期待のまなざしでこっちを見てくる。
「・・・来年も金に余裕があったらな。」
「やだリッチ!」
「冬姉、俺は不死者じゃないぞ?」
「面白くないよ?」
「・・・ごめんなさい。」
「にしても夏央がかっこいいことしてくれちゃったし、あたしも来年何か買ってこようかな?」
冬姉が母さんの方を向いた。
「そうねえ、のどぐろとか、食べてみたいわねえ。」
「高級魚じゃねえか。」
冬姉が仏頂面になった。
なかなか聞かない口調だし。
「一匹いくらすると思ってんのさ・・・。」
「きつかったらクエとか・・・。」
「もっと高いじゃないか母さんよ!」
冬姉の口調がおかしい。
「あたしだってそーんな贅沢できるような稼ぎはないからね!?そういうのは春女に任せる!」
「え、えぇ!?私!?」
いきなり話題を振られた春姉が驚いて背筋を伸ばした。
あの、ほっぺたにご飯粒がついています。
「というか、高級魚なら自分たちで調理するより料亭とかのほうがよくない?」
「あら冬華、連れてってくれるの?」
「誰がそんなこと言った。」
またもや仏頂面になる冬姉。
うん、冬姉がこうなるのも珍しい。
いつもは紗由さんに次いでテンションが高かったりする人なのに。
「・・・(もぐもぐ)。」
そして相変わらず我関せずのスタイルを貫くミー子。
「ねえねえ秋穂、フグとかでもよくないかしら?」
「あらいいわねー!」
「・・・味ないじゃーん。」
「食感を楽しむものよ、冬ちゃん」
「だったらまだ味があるほうがいいよ!」
「楽しみにしてるわね?」
「・・・クエとかは本当に無理だからね?」
それを聞いて笑う母さんと那空さん。
「ねえ夏央?クエ一匹の値段って知ってる?」
「知りませんが。」
「聞いて驚け、天然物は250グラムで一万ほどなんだ。」
「・・・!?」
あんまりな値段に思わず絶句してしまった。
「・・・?」
そしてまったく話を聞いていなかったミー子は絶句する俺を見て首をかしげていた。




