戦争です
「いいかミー子、これはゲームだ。」
『ほう。』
「目当てのものを買えればミッション達成。買えなければゲームオーバー。」
『ふむふむ。』
「あと、自分の欲しいものを買うのはエクストラミッションだ。やれるか?」
『もち。』
「よっしゃ、行くぜミー子、戦場へ!」
「・・・(おー)。」
12月29日、朝5時25分。
戦争が今まさに始まろうとしている。
扉の前には俺らを含めすでに大勢の人々が並んでいる。
「ミー子、店の中が見えるか?」
「・・・(こくり)。」
「あの奥に見える今搬入されてるやつ。あれが今日の最優先事項だ。」
「・・・(こくり)。」
「まずはあそこを目指そう。ミー子、買う時のテンプレのメッセージは用意してあるな?」
「・・・(こくり)。」
「おそらく周りのやつらも一番最初にあれを狙うだろう。ミー子にはきつい戦いになるかもしれないが、あそこの頑張りにかかってるんだ。頼むぞ。」
「・・・(こくり)。」
戦争開始まであと1分。
周りの人たちも一斉に準備をし始めた。
戦場では走ることは許されていない。
いかに走らずに早く到着するかがカギだ。
『皆様お待たせしました!新鮮!産地直送!生鮮市場銀の鱗、開店です!』
さあ、俺たちの戦争の時間だ。
「お兄さんこれ!これくれ!」
「はい、松葉ガニ、2杯で16000円です!」
「はいよ!」
「毎度ありがとうございます!」
「よっしゃミッションコンプリート!」
目的の松葉ガニゲット。
「ミー子はどうなった?」
「・・・(つんつん)。」
後ろからつつかれた。
「うおぉ、ミー子か、どうだった?」
「・・・(ぴーす)。」
ミー子も無事、カニを2杯買うことができたようだ。
よしよし。
「んじゃ次は刺身だ!」
「・・・(こくり)。」
どんどん買ってやるぜ。
「よしよし、まぐろとかれいはゲットだな。他に何か買うか?」
『もちろんブリ。』
「ああそうだな、まだ買ってなかった。よさそうなの無くなる前に行こう。」
「・・・(こくり)。」
うーん、これは分厚すぎる。
これは薄すぎ。尾っぽの辺りか。
お、少し高いけどこれがちょうどいいな。
ちょうど腹の辺りかな?これがよさそうだ。
「ほれ、これでいいか?」
『いいね。』
そしてここにおわすは高級魚。
シマアジか・・・。
「ミー子、シマアジは高い。だが、このシマアジの丼は絶品だと聞く。」
『しかし、こちらの高級魚も捨てがたし。』
ミー子が指差した方向に、石鯛がいた。
確かにこちらも旬の魚。
どちらも高級魚だ。
もしどちらかを買えばどちらかが買えなくなる。
『石鯛があまり売れてないのは毒にビビッてる人たちが多いと見た。』
「まあ確かにな。」
そりゃあ毒は怖いだろうよ。
シマアジ・・・家族にうまいもん食わしてやりてえ。
特に今年はいろいろお世話になったからな・・・旅行とか入院とか。
恩返しの時間だ、金は惜しまねえ。
「ミー子、今年はシマアジを買わせてもらう。俺が、みんなにうまいもん食わせてやるんだ!」
『きゃーなっちかっこいい。』
だろ。
うおおやっぱりシマアジ高ぇ・・・。
さすが高級魚だぜ。
「大丈夫、俺には高校生らしからぬボーナスのおかげで金はある!」
このくらい、買えるんだぜ!!
『財布のダメージはいかがなもん?』
「くぅーん・・・。」
『きもい。』
「直球はやめてくれ・・・。」
いやまあね?
財布への被害は、そうだね、甚大だよ。
でもほら、親孝行の一環みてえなもんだし。
「高校生が手出すもんじゃねえってことはよく分かったかな。」
『それでも買うあたり金持ちだね。』
「ラッキーが重なっただけだよ。」
おもに店長のおかげでね。
本当に感謝してます店長。
あなたのおかげで、親や姉たちにいいことできそうです。
『そういえば店員さんに突っかかってる客がいたね。』
「へえ、どんな?」
『なんで生ガニがもう売り切れてんの?来ると予想される客の量見誤ったんじゃないの?って言ってる人が』
「めんどくさそうだな・・・。」
まあそういう客はどこにでもいるもんだ。
俺のバイト先だって言われたことあったはずだし。
確か・・・『ここのモンブラン楽しみにしてたのになんでないの?もっと作っておきなさいよ!』って。
まあ楽しみにしてくれるのはとてもうれしいんだけどもね。
なくならないようにはしてるけど、たまにね、モンブランだけ注文が集中することもあるんだよね。
「刺身捌くのは母さんたちに任せよう。」
『まあ、お刺身は買って来てって頼まれたわけですし。』
ブリだけはミー子の金だけど。
「さ、悪くならないうちに早く帰るか。」
『そうね。』
家に帰ろう。
早く寝たい。
「ただいまー・・・。」
まだ反応はない。
みんな寝てるのか。
「とりあえず冷蔵庫の中に買った物入れたら俺は寝る。」
『私はどうしようかな。さっきの戦争で充分運動にはなったし。』
ついでにミー子も家に入れる。
12月後半はだいたい那空さんもミー子もうちにいるし、だったら冷蔵庫もうちのものを使えばいいや、って感じだ。
『でもあれね、1時間早く起きて朝からハードなことするとけっこう疲れるね。』
「そらそうだ。あんなところにいて疲れないほうがおかしいってもんだ。」
俺たちは戦争に勝利したんだ。
それぞれが自分たちの欲しいものを狙う小さな国。
そんな中頼まれたものと自分たちの欲しいものを全て変えた俺たちは戦争に勝利したと言っていいだろう。
・・・いいよね?
「あ、書置きでもしておくか。」
『なして?』
「唐突な方言ありがとう。母さんにシマアジで丼でも作ってもらおうと思ってな。」
せっかくいいの買ってきたんだし、美味いもん食いたい。
【母さん、シマアジを買ってきたので漬け丼お願いします。】
「よし、これでいいか。」
『ここまで来てやっとミッションコンプリートよ。』
「確かにそうだな。んじゃ俺は寝る。」
『じゃあ私も寝ようかな。』
「それはつまり一緒に寝ると?」
『お?なっち、もしかして誘ってる?』
「いや俺眠いからね?」
結局ミー子は部屋までついてきやがった。
仕方ないから一緒に寝た。
「あんたシマアジなんて買ったの!?」
起きてリビングに降りると、母さんが詰め寄ってきた。
なんすか。
「買ったよ。うまいの頼む。」
「いや、さすがにこれは美味しいの作らなきゃだけど!?高くなかった!?」
「むっちゃ高かってん。」
「どこの言葉よ。ってかそんな金よくあったわね!?」
「ははは、俺にはなぜかボーナスってもんがあったんでね。」
「バイトよね!?」
母さん、うるさい。
俺寝起きだから。
頭に響くから。
「夏央、親孝行には早いわよ。あんたが就職してからでよかったのに・・・。」
「ん、まあ、今年はいろいろお世話になったからな。たまには俺のかっこいいところ見させてくれ」
「もう・・・。」
母さんが呆れ顔になった。
だが母さん、目尻に薄く涙が浮かんでるの、俺は見逃さないぜ?
「母さん母さん、これはあれだね?酒の用意だね?」
「冬華、買ってきておいてもらえる?息子がなんか買って来ちゃったから漬けの仕込みしないといけないし。」
「おい今なんかって言ったか。」
なんかってなんだ。
さっきちょっと泣いてたくせに。
嬉しかったくせに!!
「冬華、行ってまいります!」
「魚は明日だけどね。今日はカニよ!」
「なおさら酒買わないとでしょ!母さん、日本酒は?」
「飲むに決まってるじゃない。那空ちゃんの分もよ!」
「了解!春女!行くよー!」
「私も行くの!?」
春姉が冬姉に連れてかれた。
そういえば前酒買うって言って紗由さんにも連れてかれてたな。
よく連れて行かれる姉だ。
「日本酒って言うと、よく言う甲羅酒ってやつ?」
「そうそう!たまらないわよね!」
「母さん、カニみそが好きだもんなあ・・・。」
「よく言うでしょ?カニみそは母ちゃんのものって。」
「どっかで聞いたことあるな・・・。」
どこで聞いたんだっけか。
・・・はて。
分からないな。
「俺は食べれないし、母さんにあげるよ。」
「本当、カニみそが食べられないなんて人生の10分の9は後悔してるわよね。」
「比率高くねえ!?」
そんなに後悔するのならカニみそが食えない人全員後悔しまくりだろ。
未練たらたらで死ぬことになるんじゃねえ?
「ただいまー。」
「お酒買ってきたよー。」
「おっじゃまっしまぁぁぁぁぁぁすっ!!!」
待ってなんか聞こえた。
ちょっと待って春姉が変なの連れてきたんじゃ。
リビングに何か近づいてきてるぞ。
ダッシュしてないかコレ。
俺の嫌な予感警報が大音量で鳴ってる。
というかコレ確実に―――
「よぉなつおくん!!元気にしてたか!」
「うるさいの来たぁ!?」
「うるさいとはなんだ!お姉ちゃんが来たんだぞー!!」
会って早々ヘッドロック。
紗由さん、やめてください。
あなたは俺の姉ではありません。
今日はうちにブラコンの姉もいるんです。
あと頭におっきなのが当たってましてね?
「こらー紗由ちゃん?夏央はあたしの弟だぞ?」
冬姉もきやがった。
「私はなつおくんにお姉ちゃんの資格をもらいました!」
あげてねえ。
「わ、私だってなつくんのお姉ちゃんだよ!」
俺には姉が3人いるらしい。
そのうち2人は本物なんだけど。
「夏央を他の人には渡せん!とりゃあ!」
冬姉がヘッドロックをされている俺の背中に抱きついた。
あのですね、だからね?
背中にも当たってるんですよ。
というかヘッドロックされて背中に抱きつかれてなんだこの状況。
体勢がきついんですけど。
「な、私だってなつくんはゆずれないよ!」
今度は春姉が俺の右腕に自分の腕を絡めてきた。
やっぱり当たるんですよ。
春姉は気にしてたけど、ちゃんと当たってるからね!
みんな俺に胸当たってるからね!?
「ちょっ!動けないから!当たってるから!」
「「「あててんのよ。」」」
「古いからっ!!」
ちょっとどうするんだよこの状況!!
誰か助けてくれよ!!
何で母さんいないんだよどこ行ったんだよ!!
とその時。
「・・・(どーん)。」
「げふぅ!?」
冬姉が変な声を上げた。
背中に重みが増し、身体が下に行く。
その流れで、ヘッドロックから解放された。
そして背中の重みが消え、俺の目の前に何かがやってきた。
そいつはみんなの前にケータイを突き付け一言。
『私の彼氏に何やってんだ!』
ミー子だった。
「お、太郎ちゃん!」
「違うからね?」
「えっ?美衣ちゃん本当の名前は太郎だったの?」
「冬姉?」
「しょ、衝撃の事実だよ?」
「春姉!?」
乗らなくていいからな!?
太郎じゃないからな!?
「確か、来年で9歳だよね?」
「えっ!?美衣ちゃんまだ8歳だったの!?」
「おかしいだろ?」
「美衣ちゃん・・・いやなつくん・・・。」
「だれか!この状況にツッコミを!!」
おかしい!
春姉はツッコミじゃないのか!?
というか何で紗由さんは偽情報を覚えてるんだ!?
「・・・(こくり)。」
何でお前は否定しないんだよおおおおお!?
『ところで紗由さんはなぜここに?』
あ、そうそれ。
俺が最も聞きたかったこと。
なんとミー子が聞いてくれました。
「俺の事分かってくれるなんて、さすが俺の彼女!」
『は?』
「あっごめんなさい素で返すの止めてください。」
ほら、ちょっと、傷ついちゃうから、ね?
「一人でさびしく年末を・・・と思ったら見かけた人と見かけない人がいるじゃないか!」
見かけない人ってなんだよ。
冬姉のことなんだろうけど。
「なんと!見かけない人ははるさめのお姉さんでした!そしてなんと!夕飯に誘ってくれたではないか!」
えっ、この人夜までいるつもりなの。
「すでにはるさめのお母さんと太郎ちゃんのお母さんには許可をもらいました!」
「だから俺の彼女は太郎じゃないからね!?」
「彼女彼女うっさいなあもう!!そんなに彼女強調して何したいんだ!!」
紗由さんが急に大きな声を出した。
いやもともと声でかいけど。
「あたしなんか・・・一度も彼氏もいたことないんだぞ!!!」
びしっ!!
俺に向かって指を指してきた。
彼氏いないのか。
そりゃあんたの性格だ。
「まあまあ紗由、カニあるから。一緒に食べよ?」
「わーいカニだあああああああああ!!」
紗由さんのテンションがいきなり上がった。
「ちなみに紗由さん正月とかは帰らないの?」
「帰らん!!」
「何で!?」
紗由さんが自信満々な感じで言い切った。
「私は家から飛び出してきたからね!就職して金もらわないと家帰らないよ!!」
「飛び出してきたのに金もらったら帰るんだ?」
「金稼いでくるー!っていって飛び出してきたからね!」
その飛び出した理由はなんだ。
金稼いでくるって言ってまず大学行ってるのか。
なにかがおかしい。
「紗由、実家は北海道だもんね」
「遠いな!?」
そんな遠いところから来てたんだな!?
「カニ!早く私にカニを!」
「・・・夏央。」
ちょちょいっと冬姉に呼ばれ、ついて行く。
「どしたん?」
「春女にピッタリの子だね。おもしろい!」
「面と向かって言ってやれ!?」
「それは楽しくない!」
「何が!?」
冬姉的に譲れない何かがあるの!?
『分かる。面白い人。』
「ミー子も!言ってやれよ!」
『そんなこと言ったらあの人のことだから大変なことになるのは目に見えてる。』
いやまあ確かにね。
『紗由!?さすがにまだ飲まないよ!?』
『いっぱいあるよ!?』
『夜みんな飲むから!それに私今から飲んだらあとでまずいから!』
リビングから春姉たちの声が。
春姉、酒癖が悪いのを自覚してたのか。
「おーい、紗由ちゃん?さすがにまだ飲まないでね?」
リビングに戻り、冬姉が釘を刺す。
うんそうそう。
お願いだから春姉を巻き込んで飲まないでね?
あんたが酔いつぶれるのは静かになるしそれはそれで悪くないんだけど。
「なんか今なつおくんからよこしまな視線を感じたよ!」
『なっちはよこしまな感情なんて持ってないですよ!』
「いや!分からないよ!なんだか今なつおくんが私を酔わせようとしてるような気がした!」
エスパーかよ。
『なっち!酔わせて何をする気!?そういうのは私にしなさい!』
「お前何言ってんだ!?ミー子は未成年!」
「太郎ちゃんはまだ8歳だよ!なつおくん、子どもを酔わせて・・・なつおくんの鬼畜ぅ!」
「変な方向に持ってかないで!?」
「夏央・・・幼女趣味は・・・二次元だけにしておきな?ね?」
「冬姉も真に受けないで!?」
「な、なつくん、それは犯罪って言うんだよ!」
「そんなん知っとるわ!!みんな俺をどうしたいんだ!?」
4人の女性に責められる俺。
違う。何かが違う。
てかやっぱり紗由さんは寝ててください。
「あんたたち本当に元気ね。」
ずっと黙ってアジの仕込みをしていた母さんが口を開いた。
よくあの中ツッコまずに黙っていられましたね。
「俺はもう元気じゃないけどな・・・。」
「あんたが一番先にばててどうすんのよ。」
「ねえ俺の状況聞いてたよね!?」
ひどい親だ。
俺の疲れを知ってくれ。
いや、マジで頼むから。
ツッコミ不在の女性4人ってとんでもないんですよ?
「夏央、あんた今日飲むの?」
「飲まないからね!?」
「今日くらいいいんじゃないの?」
「いいの、俺はミー子と仲良くジュースを飲むの。」
『私たちジュース組。』
小さい頃に舐めたビールの味が衝撃的だったの。




