クリスマスの夜です
「いつになったら大人たちは帰ってくるんだ。」
『知らぬ。』
時刻はすでに午前1時。
サンタさんも仕事を終えて夢の国に帰ってる頃かな。
母さんたちはいまだに帰ってきていない。
「・・・そういえば。」
『どうかした?』
「あ、いや、なんでもない。」
「・・・?」
ミー子が首をかしげた。
この前の京介との会話を思い出した。
昨日はあれが1年で一番売れる日らしい。
それをわざわざ俺に教えたということは、まさか京介は今頃・・・いやいやいや。
あいつに限ってそんなことはないだろう。
・・・ないよね?
『なっち、外見てよ。』
ミー子が突然そんなことを言った。
「・・・おお。」
外を見ると、雪が降っていた。
「母さんたち帰ってこれるかコレ。」
『一番先にそれですか。』
あ、こんな日に雪だなんて、ロマンチックですね。
ミー子がそばにすり寄ってくる。
俺の肩に頭を乗せ、外を見ている。
俺もそれに連られて、外を見る。
お互いに何も話さず、静かに時間が流れる。
雪の勢いが少し増し、地面が白くなっていくのが分かった。
明日は雪かきかな。
・・・そういえば例年に比べて雪降るの早いな。
「・・・ん。」
肩に乗っていたミー子の頭が離れた。
『特に何もしてないけど、こういうのもいいよね。』
「確かにな。」
『ちょっと照れくさいけどね。』
「それもあるな。」
ちょっとドキドキしたかもしれない。
ミー子の頬が少し赤い。
『普段照れくさくて言えないけど、今なら言える気がする。』
「おうなんだ。」
『なっち、大好きです。』
そう書かれたケータイの画面を見せてすぐ、ミー子が抱きついてきた。
俺の胸に顔をうずめている。
照れ隠しかな?
「俺も大好きだぜ。」
ミー子の頭に手を乗せ、撫でてやった。
『おうおうあんちゃん。さてはてめえ、今ちょっとカッコつけたな?』
「いいじゃないですかこんな時くらい男にかっこつかせてくれよ。」
2人して笑う。
こんな雰囲気が、俺はたまらなく好きだ。
『せっかくいい雰囲気だし、キスしよっか。』
「大胆だねえ。」
『まあまあ、こういう時くらい、いいじゃないの。』
ミー子の顔が近づく。
それこそ、息が感じられるくらいに。
「・・・んっ。」
「・・・っ。」
唇が重なり合い、音が止まる。
まるで、時間の流れが遅くなったかのような感覚。
しかしすぐに離れ、ミー子が照れたように笑う。
『この前とは違ってかなり恥ずかしいぞこれ。』
顔がさっきに増して赤い。
「ミー子、俺はとても幸せです。」
『私もだバカ。』
赤い顔を逸らし、カルピスを飲むミー子。
『もう遅いしさ、そろそろ寝ない?』
「お、おうそうだな。」
時計が午前2時を回ろうとしていた。
「じゃあそろそろ寝るかな。」
『一緒に寝てもいいですか。』
口元をケータイで隠し、俺を見つめる。
・・・それ、反則だろ。
「じゃあ、寝ようか。」
「・・・(こくり)。」
ミー子を連れ、部屋に入った。
『やはり2人だと暖かいですね。』
「うん、でも暗い部屋だとケータイの光がまぶしいわ。」
『もう寝ようか。』
「そうだな。母さんたちの期待は裏切るけどな。」
『いいのよ。私たちのペースというものがあるでしょ?それとも今から致す?』
「もう眠いから致さない。」
『そうだね。おやすみ。』
「ああ、おやすみ。」
同じ布団で寝る。
もう慣れたけど、あのころと比べると別の意味の緊張が。
隣でミー子が寝てるんだよなあ、と。
彼女が隣で寝ているなあ、と。
ミー子の方を見てみると、ミー子が目を開いてこっちをガン見していた。
「怖いわ!」
「・・・(にこ)。」
俺の反応を見て楽しんでいるらしい。
あんまり長く続けても明日が辛いから寝よう。
Side 美衣
寝た。
なっちが寝た。
顔をつんつんしても起きないぞ。
何してやろうか。
まだお母さんたち帰ってこないし。
「・・・。・・・!・・・!」
うぅ、やっぱり声でない。
声を出して、なっちをびっくりさせたい。
「・・・!・・・。・・・!」
・・・くっ。
だめだ、出ねえ。
いつになれば出るかなー、声。
・・・いつまでたっても出ないとかないよね?
ない、はず。
「・・・。」
出ないなあ。
・・・そういえば、私声が出たとしてどういう声なんだろう。
もう6年以上出てないからなあ。
もしかして声あの時から変わってなかったりするのかな。
そしたら結構恥ずかしいな!?
小5ボイスのままということかい!?
「・・・げほ。」
咳払いしても声っぽい音は出ないのです。
やっぱりダメか。
もう寝ようか。
いつか絶対声出すからな。
待っててなっち。
とりあえずなっちにしがみついておこう。
「・・・う、んー、ふあぁ。」
時計を確認すると、朝7時。
いつもより早いな。
寝るの遅かったはずなんだけど。
「おはよー。」
リビングに入ると、ミー子がいた。
上半身裸で。
「な、何やってんだ!?寒いだろ!?」
『おはよう。』
「こっち向くな!とりあえずなんか着ろ!」
そういうと、ミー子はとりあえず下着だけつけ、こっちを向いた。
「服も着てほしいんだけどね?」
『ちょうどいいタイミングで起きてきた。』
「話聞いてます?」
「・・・(すっ)。」
ミー子が俺の目の前に何かを出してきた。
「いや近い近い。なんだこれ?」
ちょっと離れてみると、よく痛いところに貼るアレだった。
「シップか。どうしたんだ?」
『外走ってたらすってんころりん。』
「え、大丈夫なのか?」
『心配してくれてありがとう。腰を打っただけよ。』
そういって、腰を押さえるジェスチャーをする。
『結構痛いからシップ貼ってくれない?』
「まじかよ。どのあたり?」
「・・・(ぴっ)。」
後ろを向き、痛いところを指さす。
「ここか。んー、ちょっとだけズボン降ろすぞ。」
「・・・(こくり)。」
貼るためには仕方ないからね。
やましいことはなんもないもんね。
「貼るぞー、ちょっと冷たいぞ。」
「・・・(こくり)。」
「ほれ。」
「・・・(びくっ)。」
あらかじめ言っておいてもこれは仕方ないよな。
「ソファでもいいから動くなよー。朝飯今から作るから待ってろ。」
『え、私作れるよ。大丈夫だよ。』
「悪化したらどうすんだよ。別に俺が料理できないわけじゃないんだから大人しくしてろって。」
『いや、ほら泊めてもらっちゃったし。』
「いまさらそんなこと気にしねーよ。それに、痛いって言ってる彼女に飯作れって言う彼氏とか、神経疑うわ。」
ミー子は何か言いたげだったが、無視した。
いやね、役に立とうとするのはいいんだけども。
ミー子だけの身体じゃないんだよと。
言わないけど。
『ごめんねなっち。』
「気にすんな。転んじゃったのは仕方ないさ。」
さて、何作ろうか。
冷蔵庫の中は・・・何もねえじゃねえか。
「すまんミー子。昨日の夕飯は手抜きだったから、冷蔵庫に何もねーや。お茶漬けでいいか?」
「・・・(こくり)。」
お湯沸かすか。
卵かなんか買っておけばよかった。
「・・・(ぷるぷる)。」
「あ、寒いか?暖房の温度上げようか?」
「・・・(ふるふる)。」
「いいのか・・・?」
『シップが冷たいだけ。部屋の温度自体は大丈夫よ。』
確かにシップ貼ってると結構冷たいんだよな。
『鯛茶漬けっておいしそうよね。食べてみたい。』
「ああ、テレビとかでたまに見るアレな。確かにうまそうだよな。」
『そういえば年末だね。魚買いにに行かないと。』
「朝早く起きて買いに行くか?」
『それでもいいけど、なっち起きれる?』
自信はない。
『近くの生鮮市場は自転車じゃないといくの厳しいよ。』
「そんなの毎年行ってるから分かってる・・・。」
年末の生鮮市場の混み具合は異常。
コミケかっていうくらいにな。
もちろん築地には敵わないけど。
ミー子がケータイをいじり始めた。
店の情報か、はたまた長文か。
多分触ってるのキーパッドの辺りだから長文だろうな。
『今年は混雑を予想して朝5時半から店を開くみたいだよ。だから朝早く起きていかないといろいろ買えなくなっちゃうかも。なっち大丈夫かな?』
店の情報を調べてくれてたのね。
「その時間だと起きるのは5時より前になりそうだな・・・。」
『12月29日の朝5時に起きるんだね。』
「きっつ・・・。」
『まあまあ、そしたら前日に私がなっちの部屋に泊まって次の日起こしてあげるよ。5時に起きるのは慣れてるし。』
「じゃあ頼もうかな。」
『任された。』
ミー子が胸を張り、腰が痛かったのか猫背になった。
「ほいお茶漬け。あ、梅干しとかいる?」
「・・・(こくり)。」
「オッケー持ってくる。」
『わざわざすまないねえじいさんや。』
「年食った覚えはねえ。」
まだ17だっての。
・・・あ。
「そういえばそろそろミー子の誕生日だったな。」
『本当にそういえばだね。だからといってなんだって話だけども。』
「まあ、俺も今年誕生日祝ってないしな。」
ちょうど入院中だったからな。
痛かったし何より忘れてたわ。
『今年は特に祝わなくてもいいんじゃないかな。なっちのも祝ってないし。』
「確かに誕生日ってその人が生まれたってだけの日だしな・・・。」
『まあ、お母さんたち次第かな。』
「それもそうだな。ほい梅干し。」
「・・・(すっ)。」
ミー子が右手を挙げた。
ありがとうのサインだ。
「じゃ、食おうか。いただきます。」
「・・・(いただきます)。」
うーん、やっぱお茶漬けって食うの楽だなあ。
腹持ちよくないけど。
母さんたち何時に起きてくるだろう。
結局俺たちが寝たあと何時かわからないけど帰ってきてそのまま寝たみたいだし。
酒をかなり飲んだだろうから当分起きてこないか。
特に春姉。
「えええ!?あんた何もしてないの!?」
起きてきた母さんが大きな声を出した。
ミー子と那空さんは昼ごろに帰った。
母さんが一番最初に起きてきて、冬姉と春姉はまだ起きてきていない。
「いやいやいや!なんか乗せられてるみたいでやる気も起きないからな!?」
「せっかく2人にしてあげたのにー!」
「俺らにもペースってもんがありましてだね。」
「そんなん言ってると時期逃すわよ!?あんたヘタレなんだから!」
「・・・ぐう。」
刺さる。
いつも誘ってくるのはミー子からだからな・・・。
一度だけ胸を触ったけど、あれは誘うとかそういうものじゃないし。
「てかそれより春姉は大丈夫!?家でる前から酔ってたような気がするけど!」
「・・・あー、春女はあの後ねえ・・・。確か5杯くらい飲んで・・・倒れたわ。」
「そんなに飲んだのかよ!?」
「梅酒を・・・ロックでね・・・。」
高い高い。
アルコールの度数が高いよ。
「大丈夫なの?」
「まあ、大丈夫なんじゃない?二日酔いになるだろうけど。」
「うぅ~・・・、おはよう・・・。」
「マジか。」
噂をすれば何とやら。
春姉が起きてきた。
「おはよう春姉、大丈夫?」
「気持ち悪い・・・。」
「お茶でも出そうか。」
「ありがとう・・・。やっぱりなつくんは優しいねぇ・・・。」
「その状態見てて優しくならない人がいたら見てみたいわ。とりあえず座って休んでて・・・。」
春姉がふらふらとソファに倒れ込む。
「他に二日酔いに効くものは・・・、調べるか。」
ケータイで見てみよう。
・・・お、梅干しと大根おろしか。
混ぜられそうだな。
冷蔵庫に大根だけならあったはずだし。
まあ、大根おろしでご飯食べれる人もいるけど、さすがにミー子はしないだろうからね、出すのは控えたけど。
ってか、客人に出すもんでもねーし。
まあ、多分あの状態じゃあまり量食えないだろうし、大根おろしにちぎった梅干しを混ぜてしょうゆをかけよう。
「母さん、これ春姉に渡してあげて。」
「私の分のお茶も入れて?」
「あーはいはい。」
先言ってくださいませんかね。
さて、大根おろしでも作りますか。
大根おろしはまず大根をいちょう切りにして、繊維に沿って縦にすると辛くなくなるんだよな。
もしくは輪切りにした面から円を描くようにゆっくりするとかね。
あんまり力込めて早くすると辛くなっちゃうんだよな。
「母さんはどうする?」
「あー、私あんまり食べる気しないのよねえ、どうしようかしら。」
「他にお茶漬けしかないけど。」
「まあ、私は二日酔いとかじゃないし、別にお茶漬けでいいわ。お湯も沸いてるでしょ?」
母さんが勝手にお湯を使う。
冬姉のお茶の分無くなるけど。
「しょうゆはどのくらいの量がいいかな・・・いや、春姉に任せるか。」
しょうゆのビンも持っていこう。
「ご飯食べれる?」
「あ、うん、ちょっとだけなら・・・。」
「じゃあこれ、少しでもいいから食べちゃってくれ。」
「うん、ありがとね・・・。」
やっぱり体調悪そうだ。
テンションが低い。
「今夜はシジミの味噌汁だな。」
「なつくん、ありがとうねえ、私のために・・・。」
春姉の笑いに力がない。
とりあえず今日はちゃんと休んでもらおう。
「そう言えば冬姉は年末どうするんだ?」
「あたし?うーん、まだ仕事あるけど、このままこっちにいようかな。ここからでも仕事先には行けるし。」
そう言って冬姉が近づいてきた。
「それにー、ここにいれば夏央と一緒にいられるしーっ!」
ヘッドロック。
やめていただきたい。
「そう言えば夏央は年末バイトはあるの?」
「ああ、26、27、28とバイトに出てそこから休みだよ。個人経営の店だから年末は休み。」
「おーそうかそうか!」
冬姉が俺の頭を撫でてくる。
いや、いいんですけどね?
とりあえずヘッドロック解除してね?
「冬華、あんた着替えはどうするの?」
「ないから一回家帰って持ってくるよ。んじゃ今から行ってくる。」
「気を付けるのよ?」
「だーいじょうぶだって、もうあたし24だよ?」
「そう言うのフラグっていうんだからね!気を付けなさいよね!」
「分かったよお母さん。」
冬姉のヘッドロックが解かれた。
「ん、すぅ・・・。」
春姉がソファで寝ている。
「母さん、毛布ある?」
「私の部屋にあるわよ。」
「んじゃそれでいいか。」
さすがに何もなしでソファに寝るのは体が冷えちゃう。
毛布でもなんでもいいから掛けてあげないと。
「あんた、ほんとに春女に優しいわよね。」
「ん、そう?」
「そうよー。春女が来た頃なんて、あんた『俺の姉は冬姉だけだ!』って近づかなかったくせに。」
「んまー、そのころは子どもだったんだよ、俺が。」
「あ、夏央はその時14か。孤高の厨二病真っ盛りね!」
「うっせーやい!」
厨二病・・・いや、そんなことはない!
・・・と思う。
「春女から聞いたわよ。あんた、春女に好きだって言われたんだって?」
「なんで話すかな春姉は・・・」
「いいじゃないのよ。血が繋がってないんだし問題ないわ。まあ、冬華だったらさすがに問題あるけど。」
冬姉はダメだね?
血縁上問題があるね?
「まあ、春女はいろいろあった子だから、優しくしてあげなさい。」
「そりゃあ、家族だし。」
「その返答で安心したわ。家族だから、ね。ミーちゃんの方が大切だもんね?」
「あ、当たり前だろ!」




