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Please speak!  作者: 長野原春
33/113

心の内を

 退屈な時間が始まって10日経った。

 もうヒマで頭がおかしくなりそうだ。

「もうあんまり痛くないんだけどな・・・。」

 このままだと体が鈍ってしまいそうだ。

 最近はだいぶ動けるようになったから病院内をうろついたりしているが。

「今日は誰か来てくれるんだろうか・・・。ちょっと待ってこなかったら病院内うろつこう。」

 と、思っていたら部屋の扉が開いた。

 扉の方を見ると、珍しい人が来た。

「え、こんにちは。」

「やあこんにちは。傷はもう大丈夫なのかい?」

「はい、もう大丈夫です!」

 部屋に入ってきた人は、ミー子の主治医、二五市(にこいち)先生だった。

「二五市先生、どうしてここに?」

「いやまあ美衣さんから聞いてね。夏央くんが事件に巻き込まれて入院していると。」

「あ、ありがとうございます。」

「それで、夏央くんに伝えたいこともあったし、ここに来たんだよ。」

「伝えたいこと?」

「ああ、実は・・・。」

 先生が真剣な顔つきになる。

 それを受け、俺も自然と真剣な顔をする。

「美衣さん、とてもいい状況だよ。笑顔もずいぶん自然になったし、最近、昔の友達に会いに行ったらしい。]

「え、昔の友達?」

「ああ、なんでも美衣さんから連絡を取って会いに行ったらしい。話し合って、その子だけは許せたと言っていたよ。」

「ほ、本当ですか!」

 おそらく、友達というのは時羽のことだろう。

 少しでも、昔のことと向き合おうというミー子の意思だろうか。

 それとも、いつかあれを忘れられる日が来るのだろうか。

 もし、それを乗り越えられたら・・・。

「少し早いけど、あと一歩なのかもしれないね。」

「ミー子・・・!」

「まあ、決めつけるのはまだ早いけどね。」

「あ、まあ、そうですね・・・。」

「あと、美衣さんから相談されたんだよ。」

「相談?ミー子に何かあったんですか?」

 何かあったのならそれはとても気になる。

 ミー子に嫌な思いはさせたくないからな。

「んー、相談というのは、夏央くん、キミのことなんだが・・・。」

「・・・えっ?」

「まあ、美衣さんに聞いたわけなんだよ。君たちが付き合いだしたと。おめでとう。」

「あ、ありがとうございます。」

「それで、美衣さんが、夏央くんがなんだか最近嫌なことでもあったのかな、と。」

「・・・うーん。」

 まあ、心当たりはある、ありすぎる。

「いきなり甘えてくるようになった、と。」

「あー・・・。」

 確かに、最近はミー子が近くにいてくれないと落ち着かない。

 目を離したくないんだ。

 特に夜は、嫌な妄想が頭をよぎる。

「もし何かあったのなら、私でよければ、力になるよ。」

「えっと、じゃあ、いいですか。」

「ああ、何でも言ってくれ。」

「実は・・・。」

 俺は二五市先生に、この前見た夢の内容、そしてそのあとについて、すべて話した。


「そうかそんなことが・・・。」

「それで、最近ミー子が近くにいないと不安で・・・。」

 先生は、下を向いて黙り込んでしまった。

 もしかして精神病とかの類だろうか。

「そうだね・・・、人は、持っている不安要素を夢にまで持ち込んでしまうことがある。それが、悪夢となって現れることがあるんだ。」

「そうなんですか・・・。」

「夏央くんの場合、倒れる直前に美衣さんに対して何らかの不安が心にあったんだろう。」

「不安・・・。」

 確かにあったかもしれない。

 あの時は・・・そうだ。

 もし俺が死んだらだとか、俺を倒した後にミー子に矛先が向かないかとか、心配な要素はあった。

 そのまま倒れてしまったから、だったのかもしれない。

「私から言えることは一つだ。美衣さんは生きているんだから、気にすることはないよ。」

「そう、ですよね・・・。でも、嫌な妄想が頭に浮かんできたりするんですよ・・・。」

「それなら、美衣さんに見た夢の内容を話してみるのはどうだい?」

「えっ?」

「夢の内容を話して、美衣さんがここにいると、美衣さんに証明してもらえれば、その症状は治るかもしれない。」

 ミー子に話すのか。

 でも・・・、ミー子だって、自分が死ぬなんてこと、聞きたくないんじゃないか。

 たとえば、言ってしまったが故に、それが本当のことになってしまったら。

 そうなったら、俺は本当に。

「夏央くん、震えているよ。嫌なことを考えるのはやめよう。やっぱり、美衣さんに話すといい。」

「わ、分かりました。明日、話してみます。」

「うん、お大事にね。私はこれで帰るよ。」

「はい、さようなら。」

「うん、さようなら。」

 先生は病室を出て行った。

 ・・・先生が言ってくれた通りにしよう。

 明日、ミー子にちゃんと言おう。


「おいおいさすがにもうすぐ退院とはいえ昼間に一人も来ないのは俺寂しいぜ?」

「だから私が呼ばれたんですか・・・?」

 看護師さんがこちらを見下ろす。

「いや、この時間他の人はご飯食べてますし、なんなら話し相手になってもらおうと思って。」

「仕事なんだと思ってんですか。」

「患者と話すのも看護師の仕事ですよね?」

「まあ、いいですよ。少しだけですからね。」

 看護師さんが話を聞いてくれるようだ。

「看護師さん、料理とかってします?」

「まあ、一応一人で暮らしているので、それなりには。」

「あ、一人暮らしなんですね。」

「田舎から出てきてますからね。あと1,2年したら帰る予定ですが。」

「帰るんですか。・・・失礼ですが、今いくつですか?」

 看護師さんの表情が曇った。

 聞かれたくないんだろうか。

「・・・私、歳聞かれるほど老けた顔してますかね・・・?」

「あ、いや、そういうわけじゃなく。なんか、若そうだなあって。」

「23ですよ。絢駒さんの6つ上ですかね?」

「そうみたいですね。てことは看護師2年目、まだまだ新人バリバリ!って感じですね!」

「まあ、そうですね、新人です。バリバリかと聞かれると・・・はぁ・・・。」

 看護師さんが深いため息をついた。

 なんか嫌なことがあったのかもしれない。

「何かあったんですか?話なら俺聞きますよ!愚痴でも可!」

「実はですねえ・・・。」

 このあと、看護師さんの30分愚痴を聞かされた。

 どうでもいいけど、仕事は大丈夫なのかな。


「看護師の先輩がうざったくて・・・、どうすればいいですかね?」

 で、まだ続いている。

 看護師が患者に相談してる図。

 なんだこれ。

「今ここで話しちゃって大丈夫なんですか?」

「いいんです、今日は先輩いませんから。」

「うーん、とりあえず、一回きっぱりと断ってみるのはどうですか?」

「でもそんなことしたら生意気なやつと思われそうで・・・。」

 看護師さんがさらにしゅんとする。

 先輩に理不尽に仕事を押し付けられるらしい。

「律儀に全部引き受けちゃうから、『あいつは俺の言うこと聞く』って思いあがっちゃうんですって。」

「うーん・・・。」

「一度、言ってみるのはありだと思いますよ。」

「はい、ありがとうございます・・・。」

 テンションの低い看護師さんが、自分の頬を叩く。

 一気に仕事モードの顔になった。

「絢駒さん、ありがとうございます。私、頑張ってみますね!」

「いい方向へ進むように祈ってますね。」

「はい!」

 看護師さんが部屋を出て行った。

 なんだか、いい気分。


「夏央、元気?」

「あ、冬姉、なんか久しぶりだな。」

「ごめんね、仕事が忙しくてさあ。でも夏央が寝てる間に一回来てるよ?」

「そうだったのか。」

「そうだよー。もう、心配させやがって。」

 冬姉が泣きそうな顔で俺に近づいてきた。

 そのまま俺に抱きついてくる。

「ちょ、冬姉。」

「・・・夏央が刺されたって聞いた時、お姉ちゃんすっごく心配したんだからね?夏央が死んじゃったりしないかって。危険な状態だって聞いて、病院に言ったら、夏央が白いベッドで寝ててさ。怖かったんだから。本当に、夏央がいなくなっちゃうんじゃないかって。」

 そのまま、冬姉が俺の胸に顔をうずめる。

 今、自分の姉が目の前で泣いている。

 どうすればいいのかわからず、ただ頭をなでた。

「夏央はあたしの世界一大切なかわいい弟なんだから、私が死ぬまで死んじゃダメ。もし夏央が先に死んだら、あたしは追いかけていくからね。」

「ご、ごめん・・・。」

「美衣ちゃんを逃がしたのはいい判断。でも夏央がこんなになることはないんだから。お姉ちゃんを心配させた罰として、退院したらあたしとデートしてもらうからね。」

「わ、分かった。それでいいなら約束する。」

「絶対だぞー?」

「分かった、絶対。」

 約束を取り付け、ようやく冬姉が離れた。

「そうそう、前に夏央と一緒にキャラクターを考えたゲームね、うちの会社の中では上位の売れ行きだってさ。」

「へえ、良かったじゃんか。」

「キャラクター人気投票もあってね、1位はこのメインキャラクター、玉藻の狐だったよ。」

「狐娘は人気が高いんだっけ?」

「まあ、そうなるね。ちなみにあたしと夏央で考えた水葉ちゃんは4位。」

「なんつーか微妙な・・・。」

 4位。

 3位の一個下というだけで、だいぶランクが下がった気がする。

 なぜか。

 3位までは大々的に発表されたりする。

 1位は金、2位は銀、3位は銅。

 じゃあ4位は?

 ・・・なにもない。

「まあメインキャラクターの中でも大人しいから目立ちにくいのよね、ほら。」

「ホントだ4位だ。・・・ん?」

 なんだかキャラクターの立ち絵に違和感を覚えた。

 あの時冬姉が見せてくれた絵と違う。

 あの時できたのはイメージカラーが青の、ミー子のパーツを少しいじったような子だった。

 でも、公式サイトにいるキャラクターは、髪の色が青灰色に変更されていて、パーツも修正前に戻っている。

 つまり、ミー子に似ている。

「冬姉話を聞かせてもらおうか。」

「あ、あーそうだった・・・。えっと、まあ、担当の人に修正前の絵も見られてね?修正前の方が全然いい!って話になって、こうなっちゃったのよ・・・。前ファンブック渡したよね?見てなかった?」

「見てなかった・・・。」

 何で見ておかなかったんだ俺・・・。

「つまり美衣ちゃんが全国の男どもに攻略されていると。」

「ちょっと全国の男ども殺してくる。」

「そっから飛び降りると男ども殺す前に夏央が死ぬよ!?」

「何物騒なこと言ってるんですか・・・。」

 冬姉が騒いだせいか、それとも近くにいたのか、看護師さんが入ってきた。

「まあ彼女がちょっと。」

「え、絢駒さん彼女いたんですね。NTRですか?それなら相手より自分の魅力が足りなかったと、早々に諦めた方が身のためです。」

「誰がそんなことあったと言った。」

「ちょっとこの看護師さんひどくない?」

「ネタです、ネタ。お姉さん、ネタですから。」

 ネタじゃない勢いで近づいてきた冬姉に看護師が驚く。

 その人ブラコンなんで迂闊な発言しないでください。


『あら、冬華さんがいる。』

 午後4時、病室にミー子が来た。

 そっか、この時間にはみんな下校してるもんな。

「あ、美衣ちゃんだ。ほらほら夏央、彼女が来たよ。」

「言われなくてもわかっとるわ。」

「んまー姉に対して何たる態度!」

「いや扉開いてんだからだれか入ってきたら分かるよね!?それとも俺ってそんなに目悪かったっけ!?」

「あんたいくつだっけ?」

「確か両目1.2くらい。」

「んじゃ十分だ。大丈夫大丈夫。」

「いや自分でもわかるわそんなこと!」

『また看護師さんに怒られるぞー。』

「おっと・・・。」

 一気に静かになる二人。

 おそらく看護師さんも俺の事うるさいと思っていてすぐにでも退院してほしいはずだ。

 大丈夫看護師さん、明後日には帰るよ。

 というか俺ももう大丈夫そうだし帰りたいんですよね。

 しばらく激しい運動とかしなければ傷が開くこともないだろうし。

「さ、美衣ちゃん来たし、邪魔者は帰ろうかな。んじゃまたね。」

「うん、また。次はいつ家に帰ってくるんだ?」

「疲れたら。」

「おおざっぱですなあ・・・。」

『冬華さん、またね。』

「うん、美衣ちゃんもバイバイ。」

 冬姉が病室を出て行った。

「そういえばミー子、髪伸びた?」

『言われてみれば。』

 前までは肩に少しかかる程度のショートカットだったはずだが、今は鎖骨より下あたりまで来ている。

『切ろうかなあ・・・。なっちは長いのと短いのはどっちが好き?』

「んー、好きなのは短いのだけど・・・。でも、俺今のミー子の髪の長さ好きかもしれん。」

『ならしばらくこれでいいや。これより長くなったら今の長さに戻そう。』

「決めるの早いな。」

 そういうと、ミー子が少し笑った。

『いやあ、ほら、私はなっちの彼女だからね。なっちの好きな見た目でいたいじゃん?』

「いや、じゃん?って聞かれてもな。」

 まあわからなくもないんだけど。

 例えばミー子が『好きな髪型は坊主』とか言い出したら、俺はこの髪とおさらばするだろう。

 ・・・あ、いや、ちょっと待って考えさせて。

 ごめん、頭丸めるのは嫌かも。

『今日は元気だね、なっち。』

「ん?」

『いやほら、いつも元気を取り繕った顔してるからさ。』

「どんな顔してたんだ俺・・・。」

『なんか妙に悲しそうな感じ?悩み事が晴れたのかな?』

 ・・・鋭いな。

 まあ、悩み事が晴れたわけじゃないんだけど。

『おや、暗い顔に戻ってるよ。大丈夫?』

 そうだそうだ、俺はミー子にちゃんと何があったか話してやるって決めたんだもんな。

 ・・・ちょっと、言うのきついんだけどさ。

「・・・えーと、ちょっと聞いてくれるか。」

『いいよ、何でも話して。』

「あ、ごめん、ちょっと心の準備を。」

『いいよ、なっちのペースでさ。』

 すーはーと、深呼吸をする。

 うん、肺の酸素と二酸化炭素は入れ替わったぞ。

 だからなんだっていうんだ。

 やっぱり俺、緊張してる。

「実はさ。刺された後、俺ずっと寝てただろ?その時さ、夢を見てたんだ。」

『へえ、夢ね。』

「その夢だとさ、ミー子が喋ってたんだよ。」

「・・・?」

 ミー子が首をかしげた。

 自分の喋る姿が想像できないんだろう。

「んでさ、悲しそうな顔をして何度も俺に謝るんだよ。」

『それが最近落ち込んでた理由?』

「・・・それだけじゃないんだ。」

『違うの?』

「・・・ミー子がさ。こんな役に立たない自分なんかいらないって言って、俺の目の前で自分の首を切ったんだよ。」

「・・・!?」

 ミー子が驚いた顔をする。

 そりゃあ、夢の中で自分が自殺したなんて言われたらそんな反応してもおかしくない。

「普段夢なんかすぐ忘れるくせにさ。頭から離れなくて。んでミー子がすげえ心配なんだよ。なんか事故に巻き込まれたりしないかとか。それで、ミー子がそばにいてくれないと落ち着かなくてさ。最近、まあ、そういうことなんだ。」

「・・・。」

 ミー子が微妙な表情を浮かべている。

『私迷惑かけちゃった?』

「いや、そんなことは絶対ない!俺がこんな夢見ちゃったのがいけないんだしさ。」

『ん~・・・。』

 微妙な顔をしたまま、ミー子が病室をうろうろ歩き回る。

『じゃあ、あれだ。早く退院して、私のそばにいてよ。私も、夜なっちと一緒にゲームができなくてさびしいんだよね。』

「ミー子・・・。」

『たぶんその死んじゃった私はここの人じゃないんだよ。現に私喋れないし。幻覚だって思えばいいし。ちなみに、甘えたいのなら私はいつでもオーケーなのよ。』

 ミー子が無表情で手でハートマークを作った。

 多分、俺を励ますためにふざけてくれてるんだろう。

『夢に出てきただけの私なんかに気に病まないで。私はここにいるよ。』

 そういって、俺はミー子に抱きとめられた。

 暖かい。

 なんだか涙が出てきた。

『おっとこっのこー。でも、今回は見逃してあげますん。』

「・・・どっちなんだよこのやろー。」

 頭をなでられながら、少し泣いてしまった。


「やっと退院か・・・。いや、本当に長かったわ。」

 2週間、俺はずっと病院にいた。

 もう体が鈍って仕方ないぜ。

「ふっ・・・ん。」

 腰をひねると、バキバキと音が鳴った。

「というか・・・、誰も迎えに来てくれないのね。いやまあいいさ。一人で帰ってやるよ。」

 入院していた海口医療センターから歩いて30分以上はかかる。

 普段ならバスを使いたいところだけど、歩いたほうが体によさそうだ。

「おおやあ?なつおくんではありませんか~?」

 突然、後ろから声を掛けられた。

 振り返ると、そこにいたのは俺のお姉さん。

 いや違う。

「紗由さん、なんでここに?」

「さっきまで荒井庵(あらいあん)にいてね。お出かけの帰りですよ。」

「はあ、荒井庵に何しに?」

「なつおくんよ、私の友達は何もはるさめだけじゃないのだよ。なつおくんはきょう退院かな?おめ!」

 笑顔で両手を振り上げる。

 この無邪気なかわいさ、嫌いじゃない。

 ・・・あ、いや、浮気とかじゃなくて。

「ありがとうございます。」

「というか退院ってのに一人なんだね・・・。よし!お姉さんがなつおくんを家まで送ってあげよう!ちょうどはるさめにも用事があったし!」

「あ、じゃあお願いします。」

「いくら出す?」

 紗由さんがキラキラと目を輝かせている。

 金取る気かこの人。

「んじゃあ自販機のココアで。」

「きめ!あれね!パックのばんほーてんのやつ!」

「つまり100円でいいというわけですね。」

「私はあれが好きなのだよ。お姉ちゃんの好きな飲み物くらい覚えておかなきゃダメよ?」

「はいはいココアね。」

 ちょうど近くに自販機があったので買う。

「はいどーぞ。」

「やった!ココアだ!うわあああぁぁぁぁい!!」

 うるせえ。

 この人うるせえ。

「んーっ♪やっぱりココアは美味しいね!あ、そうそうこれ見てよ。」

 紗由さんから写真を見せられた。

 写っているのは、まあ予想通り電車。

 黒を基調とし、横側が金色で彩られている。

「なんかかっこいいですね。乗ってきたんですか?」

「・・・これ九州の列車よ。」

 紗由さんがしゅんとした。

 ゆふいんの森のように、乗りたかった列車なんだな。

「九州に旅行に行った友達がこれ乗ってきたらしいんだよね。さっきこの写真もらったんだよ。・・・私も乗りたいなあ。なつおくん、連れてってよ。」

「彼女がいるんで他の人に頼んでください。」

「なつおくんがつれないよー!!」

 そのまま頭を抱えて上を向いた。

「うわああぁぁぁぁん!!」

「泣くほどぉ!?」

「いやまあ嘘だけどね。」

「うんそんなことだろうと思ってました。」

 なんか慣れた。この人。

「ちなみにこの列車、A列車で行こうっていう名前なんだ。」

「なんか変な名前ですね。」

「何言っているんだねなつおくん!デザインを手がけた水戸岡鋭治は鉄道ファンからしたら神様だよっ!?」

「へえ。」

「返事がつめたああぁぁぁい!!!」

「めんどくせえこの人!!」

 俺の悲痛な叫びが響き渡った、と思う。

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