夜は寂しいです
病院の先生には退院まで2週間はかかると言われた。
「2週間かあ・・・文化祭、出れねえな。」
「まあ仕方ねえよな。授業中、美衣ちゃんがものすごくつまんなそうにしてるぜ。」
「そうか・・・。あいつのためにも、早く退院しないとな。」
「よっ、かっこいいね彼氏。」
「うっせ。」
ミー子を泣かせてしまった次の日、京介が見舞いに来た。
昨日、ミー子を怒らせちゃったからなあ・・・。
「にしても、夏央も災難だよなあ。」
「ホントだよ・・・。刺される理由がひどすぎた。」
「まあ世の中何が起きるかわからねえし最近物騒だし。」
本当物騒な世の中だ。
バタフライナイフなんてどこで手に入れたんだよ。
「傷はどうなのよ?」
「まだクッソいてーっつーの。」
「つんつん。」
「ギャアアアアアアアアアアア!」
激痛!!
痛い!!
「京介ェ・・・やっていいことと悪いことってもんが・・・。」
「おおすまんすまん。そんなにいてえとは。」
「お前が触ったところはいちばん傷が深いところだよ・・・。」
運よく臓器は傷ついていなかったようだが。
「病院で寝ててなんか思ったこととかあるか?」
「白くていやだわこれ。あと・・・ミー子と一緒にいたい。」
「かーノロケかな?んじゃ美衣ちゃんに伝えとくわ。じゃあ俺帰るわ。明日英語の確認テストがあるからよ。」
「おう、頑張れ。」
「夏央くんはやらないなんてずるいなー。」
「ケガ人に優しいね。」
京介が帰った後、すぐにもう一人見舞いに来てくれた。
「絢駒くーん?大丈夫かい?」
店長だ。
「店長、来てくれたんですね。」
「うん、昨日連絡するって言ってできなかったからね。」
「そういえば、店長の私服初めて見ました。可愛いですね。」
「もう、絢駒君ったら、彼女がいるのにこんなおばさんを口説く気?」
おばさん・・・?
冬姉より一つ上なだけだろう。
「おばさんではないと思いますけど・・・。なんか落ち着いた感じでいいと思います。」
「も、もー、何でお見舞いに来てるのに私が口説かれてるのよー。」
店長が困った風に笑う。
もともと美人なのもあり、笑顔もきれいだ。
「そうそう、給料なんだけど、絢駒君考案のメニューもあるし、売り上げから少し入れておくね!」
「え、いいんですか!」
「うん!今回のは以前よりは売り上げは緩やかだけど、安定して売り上げがあるからね!」
「あ、ありがとうございます!」
休んでても給料だと・・・。
これが日ごろの行い(メニュー考案)の力か!
「ちなみに、このままずっと売り上げが安定するようなら、期間限定じゃなくてそのままメニュー入りしようかなって考えてるよ。」
「え!本当ですか!いっ・・・っつう・・・。」
「あーほらほら、そんなに興奮しないの。」
「すいません・・・。」
でも、期間限定がそのまま定番入りするということは、かなり人気なんだろう。
これはかなり嬉しい知らせだ。
「そういえばねー、絢駒君がいない間、厨房限定で絢駒君の彼女に手伝ってもらうことにしたんだ!」
「・・・えっ!?」
ミー子がGrace dropsの厨房で・・・?
「絢駒君がしばらく休んじゃうからって、鏡崎ちゃんが言ってきたんだよ。すごいねあの子。絢駒君が作るものと同じ味で出してくれるんだもん。」
「あー、まあ、けっこう一緒に作ったりしますし・・・。」
というか考案メニューは全部ミー子に手伝ってもらってるし。
「おー、仲がいいんだねー。まあ、作るスピードは絢駒君の方が早いんだけどさ、しばらくは鏡崎ちゃんにお願いするね。」
「まあ、何もしゃべらないですけど使ってくれるならありがたいです。」
「独特の会話テンポだよね。」
「まずはそこに慣れるところからなんです。」
「あー大丈夫大丈夫。私は気にしてないし。」
「あっそうですか・・・。」
そんな人も珍しい。
大体はミー子がケータイを打っている間にイライラしてきたりする。
気にしてないよ風に見せるやつもいるが、顔とか態度に出てるんだな、これが。
「じゃあ私は店に戻ろうかな。早くよくなって、仕事に復帰してね!このまま退院した後バイトこなくなってそのまま辞めるとか許さないからね?」
「分かってますよ。それに、俺にとってGrace dropsはかなり居心地のいい場所なんで。」
「ふふ、そっか。じゃあ、待ってるね!」
「はい!」
店長、いい人だなあ。
・・・にしても、一人になると本当にやることないな。
ちょっと寝ようかな。
・・・寝る、と考えると、この前の夢を思い出してしまう。
何であんな夢を見たんだろう。
あんなミー子は絶対見たくない。
夢の中とはいえ、なんでミー子があんな目に合わなきゃいけないんだ。
・・・あんなことにはならないように、今の俺がいるんだろう。
とりあえず、ミー子に会いたい。
「ミー・・・子・・・。」
・・・つんつん。
・・・つんつん。
・・・つんつん。
誰かが俺を執拗につついてくる。
でもなんだか今起きれる気がしない。
見舞いに来てくれたのはうれしいけど、もうちょっと寝かせてもらおう。
・・・つんつん。
「いってえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
一気に意識が覚醒した。
傷の近くをつつかれた!!
誰だこんなことをしたのは!
悪魔の所業だ!!
『おはよう。』
「悪魔ァ!!」
『なんだいきなり。』
目の前のミー子が仏頂面になった。
いやいつも仏頂面みたいな感じだけど。
「ってかミー子か。」
『ほらほら、彼女がお見舞いに来たよ。』
そういって、両手を頭の後ろに回し、謎のうさぎポーズをとる。
「・・・ちょっと、こっち来て。」
「・・・?」
ミー子は首をかしげたが、素直に近づいてきた。
かなり近くまで来たところで、俺はミー子を抱きしめた。
「・・・!?」
突然のことにびくっとするミー子。
ミー子の体の柔らかい感触と、体温。
そして、ミー子から香るシトラス。
・・・ん?
「ミー子、香水変えた?」
『ちょっと待ってその前にいきなりどうしたの。』
「え、あー、まあ、抱きしめたくなった!んで、香水変えた?」
「・・・(ふるふる)。」
「えっ。」
変えてない?
でもいつもより匂いが強い気がする。
「・・・あ、いつも嗅いでる匂いだから、鼻が慣れてたのか。」
『病院は独特の匂いだからね。ちょっとの量でも匂いが強く感じたんじゃないの?』
「そういうことか。」
『というかいつまで私を抱きしめてるのさ。』
さっきから抱き合った体勢のまま会話をしていた。
俺の目の前にケータイの画面を持ってくるのもミー子の肩関節的に微妙に辛いだろう。
「おお、すまんすまん。」
ミー子を離すと、抱きしめる前よりも少し顔が赤くなっていた。
『そりゃあいきなり抱きしめられたらびっくりするでしょうよ。』
「驚かせて悪かったな。」
『絶対なんか理由があるでしょ。』
「いやいや、彼女が見舞いに来てくれたと思うと嬉しくてな。」
本当は違う。
俺は今ものすごくミー子にそばにいてほしいんだ。
あの夢を見てから、なんだか現実になりそうで気が気でない。
実際はそんなこと起こらないんだろうけど、とても心配になってしまう。
心が弱っているんだろうか。
『退院したらいくらでも抱かせてやるから。』
「その言い方わざとだよね?抱きしめると抱くは違うからね?」
『いくらでも床入りさせてやるから。』
「言い変えんでいいわ!!ってかそっちかよ!!」
『私はいつでもいいんだからね?』
「俺は後先考える人なんです。」
『だから童貞なんだよこの奥手。』
「ちょっと言い方ひどすぎやしませんかね。」
あんまりだ。
いや間違ってないんだけど。
『早く学校に戻ってきてよ。なっちがいないと寂しいんだからさ。』
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえの。」
こりゃあいっちょ彼女のために・・・と思っていたら、ミー子がきゅっと抱きついてきた。
そのまま俺の胸に顔をうずめ、ケータイの画面だけを見せてくる。
『本当に寂しいんだから。』
・・・かわいい。
赤面して目を逸らしながら見せてくれたら俺の理性が危うかったかもしれない。
何が後先考えるだ考えてねえじゃねえか。
とりあえずミー子の頭をやさしくなでる。
「2週間の辛抱だ。それまで楽しみに待っててくれよ。」
『楽しみじゃないし。ただひたすら寂しいし。』
「すまん、なるべく早く治すから、それまで待っててくれ。」
『・・・早くしてよね。』
そのままミー子は立ち上がり、病室を出て行った。
彼女が寂しがっているなら早く戻ってあげないとな!
・・・と思ったら、ミー子が戻ってきた。
『まだ面会時間あるからいることにしたよ。邪魔かな?』
そういって首をかしげるミー子。
「いやいや、ミー子が邪魔になるわけないだろ?そばにいてくれ。」
「・・・(こくり)。」
ミー子がベッドの端に腰かける。
俺も腰かけようと体を起こそうとしたけど、腹の傷が痛んだ。
『無理しないで。近くにいてあげるから。』
「ああ、ありがとう。」
ミー子が俺の手を握ってくる。
やわらかい女の子の手だなぁ・・・。
しかもあったかい。
『ちょ、なっち顔がキモい。』
「俺泣いていいかな?いいよね?」
『まあまあ、涙拭けよ。』
「涙流させたのはお前だよっ!!」
いくらなんでもあんまりだ。
・・・うーん、なんだか眠くなってきた。
ずっと横になっているからだろうか?
でも起き上がるのはまだ無理だし・・・。
『眠いのかな?』
ミー子に気付かれた。
相変わらず鋭いなあ。
「まあ、眠くなってきちゃったかな。」
「・・・(ぽん、ぽん)。」
ミー子が俺の胸をやさしくたたき始めた。
『ねーむれーねーむれー、はーはーのーむーねー、でー。』
ケータイには歌詞が打たれている。
いや、メロディーが聞こえてこないんですが・・・。
『ごめん、胸無いや。』
「お前俺の事寝かせる気ないだろ。」
「・・・(ぽん、ぽん)。」
俺の事を無視して胸を叩き続ける。
ミー子の手があったかいので本格的に眠くなってきた。
「ごめん、俺寝るわ。明日も来るのか?」
『うん、明日も来るよ。なんたってなっちの彼女だからね。』
「うん、待ってるよ。」
『じゃあ、また明日。』
「また明日な。」
そういって、ミー子は今度こそ病室を出て行った。
ああ、なんかすぐ眠れそうだ・・・。
夜はすごくヒマだ。
やることもないし、一人というこの空間が辛い。
「・・・あ、今日は満月か。」
外を見ると、まあるい月が昇っている。
表面にはウサギのようなものが見える。
小さい頃にはよく母さんから『月面ではウサギが餅つきをしている』とか言われたものだ。
「ま、宇宙空間に生き物がいるはずないよな。」
今日は月がきれいだ。
・・・月がきれいですね、だっけ。
確か夏目漱石が生徒に言った言葉。
生徒がI LOVE YOUを『我君を愛す』と訳したところ、夏目漱石が
「日本人はそんな直球には言わねえ。ロマンチックに月がきれいですねとでも言っておけ。それでなんとかなる。」
とかなんとか言ったらしい。
そういえば前にツイッターでそんな感じの違う言葉を見たな。
確か・・・『雨、やみませんね』なら、もうちょっと一緒にいてもいいですかになるんじゃね?ってやつ。
俺には分かる。たぶんそういう言葉を考えた人はブサイクなんだろう。
だって・・・
「だって、イケメンだったらそんなこと言わなくても女の子が近づいてきてくれるからな!!」
「絢駒さん、夜なのでお静かに・・・。」
「あっすいません・・・。」
看護師の人に注意されてしまった。
「あっいてて・・・。」
しかも大きな声を出したことによって傷が痛む。
何してんだ俺。
「まだ痛みますか?」
「ああ、はい。」
「さっきみたいに大声出したり、いきなり動いたりしちゃだめですからね?」
「はーい・・・。」
「メールやラインくらいなら、携帯電話も使用可能ですから。」
「えっ、使ってよかったんですか!?」
「ええ、去年から。」
病室ではケータイは使っちゃいけないものだと思ってた。
よかった、他の人と話せる!
「あんまり遅くまで起きてちゃだめですからね。」
「分かってますって。」
早速ケータイを起動する。
こんなにもケータイを使えることがうれしい日が来るとは。
買ってもらった時以来かな?
「・・・充電忘れてた。」
起動したときにいっしょに、電池残り残量がというメッセージ。
のこり3%。
こんなのあんまりだ。
しかもケータイが使えるとも思ってなかったもんで、充電器も持ってきていない。
「・・・明日、母さんかミー子に持ってきてもらおう。」
悔しくてふて寝した。
「うん、やっぱり病院のご飯は美味しくないな。」
「退院したら好きなもの食べられますって。」
看護師さんが苦笑いをする。
だっておいしくないんだもん。
「絢駒さん、傷の調子はいかがですか?」
「まあまだ4日しか経ってないですからね・・・痛いですよ。」
「傷の縫合は終わってますし、傷口が閉じてくれれば痛みはすぐなくなると思いますよ。傷が開いてはいけませんから、当分激しい運動はできませんけどね。」
「激しい運動・・・普段からしてないんで大丈夫です。おかし作ったりするのは平気ですよね?」
「おかし?」
「ええ、バイト先で作ってて。」
「へえ!すごいじゃないですか!お菓子作りならきっと平気です。」
「それならよかった。」
とりあえずは一安心だ。
俺はミー子みたいにいつも走ってるわけじゃないし。
「私はそろそろ行きますね。あんまり動いちゃだめですからね。あと大声も。」
「あっはい気を付けます。」
さ、これから誰か来るまで、退屈な時間の始まりだ。
「やあ少年よ。君の大好きな紗由お姉ちゃんだよー。」
「大・・・好き・・・?」
「ちょっと首かしげないで!?そういうことにしておいてよ!」
はいはい俺の大好きな紗由お姉さん。
いつからお姉さんになったんだ。
いやまあ年上だけれども。
「大学はどうしたんですか?」
「今日は1限終わりなのだよ。やることないから帰ってきた。んで、かわいい弟に会いに来たって感じ?」
「俺はいつからあんたの弟になったんだ。」
俺の姉さんは冬姉と春姉だけです。
「私の中ではもうなつおくんは弟だね!ほら弟よよーしよしよし。」
ヘッドロックを掛けられた。
よしよしされるのは構わないんだけど、顔に当たってるんですよねえ・・・。
ミー子にはできない芸当だけれども。
「にしても、なつおくんは運がよかったねえ。その怪我だけですんで私は安心だよ。」
「まあ、血はもらいましたが。」
「彼女がくれたんでしょ?いい彼女だよね。大切にするんだぞ?お姉さんとの約束だー!」
「言われなくてもしますって。」
「約束だー!」
「はいはい。」
「はいは一回ィィィィ!!」
「この人めんどくせえっ!!」
「あの、2人とも、お静かに・・・。」
「「あ。すいません・・・。」」
またもや看護師さんに注意されてしまった。
「もー、なつおくんが刺されたって聞いてお姉さんは気が気じゃなかったよ。」
「心配かけてすみません・・・。」
「ま、元気みたいでよかったけどさ。なつおくんは私の弟兼男友達だからね!」
友達認識されていたらしい。
「ま、私が初めて家にあげた男性ですからね!」
「ああ、そういえばそんなことありましたね。すぐ追い出されましたけど。」
眠いとか言う理由で。
「眠いところに来たなつおくんが悪い。でも、来たくなったいつでも来ていいよ?」
「多分行かないと思います。」
「ひどいわこの子!私は君をそんな弟に育てた覚えはないよ!?」
「そもそも弟じゃねえ。ってか、彼女置いて一人女の家に行くとか俺はしませんよ。」
「おお、かっこいいね、ヒュー彼氏ィ!ますますうちに来い!」
「なぜ!?」
紗由さんの考えが分からないぞ!?
何をしろっていうんだ!
「いやいや、そんなラブラブなところを突然知らないお姉さんがNTRしたらさ・・・。」
「最低だアンタ!?」
「はっはー嘘だよなつおくんよ。じゃああれだ、次写真とかお土産持ってくるときは言ってね。夕飯でもご馳走するからさ。」
「分かりました。友達として行きますね。」
「いや弟だ。」
「えええっ。」
「私もはるさめのように紗由姉とか呼んでくれていいのよ?」
「俺の中で境界線的なものがあるんでお断りさせていただきます。」
「えーっ。」
ぶうぶう言いながら紗由さんは帰っていった。
まあ、あだ名としてなら別にいいんだけどさ。
『やっほー。』
部屋の扉から、ミー子の頭がひょこっと飛び出した。
「よっ、今日も来たなミー子。」
『嬉しいだろぉ?』
「ああめっちゃ嬉しいぜ。ちょっとこっちきてくれ。」
『また私を抱きしめる気かい?寂しがり屋だなあなっちは。』
「ああミー子がいないとめっちゃさびしい。」
そのまま近づいてきたミー子を抱きしめる。
あったかい。
やわらかい。
「・・・(ぐいー)。」
ミー子が抵抗してきた。
もう終わりか。
『なっち、ちょっと変わったよね。』
ミー子がいきなりそんなことを言い出した。
「俺が?」
「・・・(こくり)。」
そうだろうか。
俺のどこが変わったっていうんだ。
『なんか、こんなに甘えてきたっけ?』
「えっ、ああ、それは・・・。」
確かに最近、すごくミー子にべったりな気がする。
それは、あんな夢を見たからで。
ミー子がそばにいてくれないと、心配なわけで。
例えば、今ミー子は俺が働いていた喫茶店でバイトしている。
閉めまで手伝って、夜遅い帰り道、事件とかに巻き込まれたらどうしよう。
そんなことはないと信じたいが、あんな夢を見てしまうと、どうしても嫌な方へ想像してしまう。
昨日も同じことを考えた。
だから夜暇な時、テンションを上げていかないと嫌なことを考えてしまう。
看護師さんに注意されてしまうのだが。
『なんか嫌なことがあったら言ってよね?相談に乗るからさ。』
「あ、ああ、ありがとう。」
言えるわけない。
目の前でミー子が自殺する夢を見たなんて。
・・・医者に相談してみるのもいいかな。
『そういえば、そろそろ文化祭。』
「ああ、そういえばそうだな。進み具合はどうだ?」
『実行委員が入院してるから、実行委員の友達として鈴波くんが実行委員になりました。』
「京介・・・俺のためにそこまで。」
『いや茎野先生が勝手に決めたんだけどね。』
「さすがだな恐るべし茎野紅也。」
勝手に決めることに関しては他の追随を許さないぜ。
『さあ、私は今日はヒマでないのだよ。』
「お?なんだなんだ?」
『どっかの厨房担当が入院してるからね。バイトですよバイト。』
「あ、ああそうだったな。なんかすまん。」
『いいのいいの。なっちのためだし。ただ。』
そこで、ミー子が下を向いた。
「ただ、どうした?」
『仕事でおかし作るって大変だわ。』
「まあ、量作るからな。」
『なっちすげえって思ったわ。』
「だろ?俺すげえだろ?」
『調子乗んじゃねえぞボケナス。』
あんまりだ。
『じゃ、また明日来るね。』
「おう、頑張ってな。あと、バイトある日は無理してこなくてもいいんだぞ?」
「・・・(ぽちぽち)。」
しまおうとしていたケータイを取り出し、メモに打ち込む。
『毎日来るよ。彼女だからね。』
そういって、こちらを見ずにミー子は行ってしまった。
・・・多分顔が赤くなっているんだろう。
さあ、寂しい夜の始まりだ。
Side 美衣
わあああ。
何なっちにカッコつけてんの私。
何が彼女だからね(キリッだよ!
やばい、今私絶対顔赤い。
さっさと逃げてきてよかった。




