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Please speak!  作者: 長野原春
31/113

あまりにも

「結局あの後すぐいなくなったけど・・・、学校とか大丈夫なのか。」

『学校行ってないんじゃない?』

「それならまじで何で俺恨まれてんだよ・・・。」

 もう意味が分からない。

 昼間に遭遇したことで、いつどこで見られているかが全く分からなくなった。

 本当にほんの少し一人になっただけで危ないかもしれない。

 後ろから声かけられたら振り返れない気がする。

 怖い、怖いぞ。

「夏央?俺を頼ってくれてもいいんだからな?」

「あ、ああ・・・ありがとう、京介。」

「あたしも何かできることがあれば手伝うよ!」

「祈木も、ありがとうな。」

 二人も、俺の力になってくれると言った。

 いい友達だ・・・。

「ストーカーって何するかわからねえからな。まじで警戒したほうがいいぜ。」

「そうだよな・・・。何もないといいんだが。」

「おそらくここまで来たら何もないってことはないだろうから、110の用意もしておいたほうがいいぞ。あとは護身用に何か持つとか。」

「んなもんないな・・・。」

 護身用と言われてもな・・・。

 帰りに探してみようか・・・。

『私も一緒に探すよ。』

「お、おう・・・ってエスパーか。」

『ふっふっふ。』

 心を読まれるというのはあまり気持ちいことではないけど・・・。

 ビビるし。

「まあ、アヤなら大丈夫だよ!いざというときはアヤのバカ力が見れるはず!」

「俺にそんな力はねえ。」

 握力は35しかないんだぜ。

「そういえば夏央って俺に腕相撲で勝った経験ないよな。」

「ああ京介が無駄に握力60とかあるからな。」

 前に一度俺の内なる力を開放したことがあるような気もするが。

 でもきっともうあれほどのことは起きないだろう。

「あたしは前に一度見ました。アヤが手に血をべったりつけてほかの先生に取り押さえられていたのを。」

「あの時ってもうみんな帰ってなかったっけ?」

「忘れ物をして戻ってきてみたら準備室の方からアヤの怒号が聞こえまして。」

「俺あの時そんな状態だったのか・・・。」

 よく覚えてないや。

 どうやってあの先生をぼこぼこにしたのかも覚えてないし、そのあともあんま覚えてない。

 多分頭の回路がいかれていたんだろう。

『ちょっとグロかったけどあの時のなっちはかっこよかった。痛かったけど。』

「せめて俺が気付くのがもうちょっと早ければ・・・。」

『大丈夫、私、散らされてないので。』

 今回はなるべくなら穏便に済ませたいところ・・・。


「帰り道、気をつけろよな。」

「おう、じゃあ、また明日な。」

『なっちは私が守るよ。』

「それ、普通逆なんじゃ?」

 お互い、別々の方向へ向かう。

 そうだ、護身用のなんちゃらとか言ってたな。

 返ったらパソコンで探してみようか。

『なっち、後ろ、いる。』

 ミー子がそっとケータイを見せてきた。

 後ろを見ると、確かにいる。

 やっぱ身近に危険があると分かると怖いな。

『右曲がろう。』

「そうだな。」

 もしかしたら撒けるかもしれないと思い、いつもとは違う道を進む。

 ただ、そんな撒けるかもしれないという考えが甘かった。

 女の子は、俺たちの目の前に現れた。

「フーッ、フーッ。」

 ちょ、怖い。

 何これ野獣?

 というか早すぎるだろう。

 ドラマとか、恐怖特番とか、そういうのって3年とかストーカーされるじゃん?

 まだストーカー始まって1週間だよ?

 さすがにこの子アグレッシブ過ぎない?

 我慢ということを知らないのかな?

 いやここで穏便に済めばいいんだけれど。

「えっ・・・と、誰かな?」

 とりあえず名前を聞こう。

 現状誰だか分からない。

「お前のせいだ、お前の・・・。」

 あっだめだ話聞いてない。

 顔には見覚えない。

 ・・・本当に見覚えないだろうか。

 あんまり小学校のころの女子って覚えてないんだよな。

「・・・っ!!!」

 ミー子が何かに気付いたのか、急に俺の後ろに隠れだした。

 その体はがたがたと震えている。

「ど、どうしたんだよ?」

「・・・!・・・っ!!」

 ミー子が震える。

 そういうのは大体いじめられていたことを思い出したりする時だ。

「な、なあ分かったのか?あれは誰だ?」

『太田さん』

 太田さん。

 太田さんは、小学校の時、ミー子をいじめていた主犯格の女だ。

 確かいじめが原因で違う町に出て行ったはず。

 何で戻ってきたんだ。

「ミー子、あっち行ってろ。ちょっとこいつと話すから。」

『ごめん』

 ミー子は走ってどっかへ行ってしまった。

 きっと帰ったら謝り倒されるんだろう。

 でもこればっかしは仕方ないよな。

 たぶんこいつは俺と話があるんだろうし。

「さ、なんでこんなことを?」

「敷島・・・!」

「おっと、今は再婚して名字変わってんだ。」

「そんなことどうでもいい!!お前のせいだ!お前が鏡崎さんと幼なじみだから・・・私の人生壊された!!」

 なんて言いがかりだ。

 というか文脈がね?

「ってかどう壊されたんだよ?俺なんもしてないぞ?」

「あんたのことが好きだったのに・・・いつも鏡崎さんが近くにいて・・・!邪魔だったから!排除したら!なんでいじめっ子って言われなきゃいけないのよ!!」

「いやミー子をいじめたのお前だろ。」

「私はただ邪魔者を取り除いただけ!!あんたが鏡崎さんと幼なじみじゃなければ!あの子が邪魔になることもなかったのに!!」

 悪気はなかったってことか。

 怖い怖い。

「あんたが鏡崎さんの幼なじみじゃなければ・・・、鏡崎さんがいじめられることもなく、今こんなことにならずに済んだのにね!」

「なんだと。」

 ・・・確かにミー子が俺の幼なじみじゃなかったら、声を失うこともなかっただろう。

 でもな。

 もしミー子が幼なじみじゃなくて、俺と特に関わりがなかったら。

「俺とあいつが幼なじみじゃなきゃ、俺たちは今彼氏彼女やってねえんだよッ!!」

 あいつ微妙に人見知りなところあるんだから!!

「そんなことはどうでもいい!!」

 デスヨネー。

「とにかく今はあんたが憎くて仕方がない!私の人生壊して、生活も壊して!周りから『いじめで飛ばされてきた問題児』として見られるようになって!そんなことになった元凶のあんたを!私は許さない!」

 太田さんは右のポケットに手を突っ込み、何かを引き抜いた。

 震える両手でしっかりと握りしめているものは、バタフライナイフ。

 おいおい、手が震えてるぜ?殺すつもりならもっと迷いなく来いよ。

 とカッコつけて言いたかったが、言葉が出ない。

 もし、もしだ。

 あれで俺の首を掻っ切られたらどうなる?

 そのまま出血多量でお陀仏だ。

 そしたらどうなる?

 ミー子のそばにいてやれない。

 そうなったら誰がミー子を守る?

 そばにいてやれるのは俺しかいないんだぜ。

「おいおい、そ、それでどうするつもりだよ?ムショにでも入るのか?」

「堕ちるところまで堕ちるんだよ!!」

 太田さんがこちらに駆け寄ってくる。

 避けなきゃ刺さる。

 避けようとして右に―――いけなかった。

 足が、動かなかった。

 これが蛇ににらまれたカエルっていうんだろうか。

 ちょ待って太田さん近い。

 ―――とん、と、予想していたよりも軽い衝撃。

 そのあとすぐ、腹に異物感。

「・・・ぐうっ!?」

 直後、腹に燃え盛るような痛みが走った。

 下を見ると、腹にナイフが刺さっている。

 ナイフっていうのは人を刺すためにあるものではなくて本来食材とか果物とかを切ったりするのに使う道具なはずだって普段バイトで使ったりするしそもそも人の身体は刃物が刺さるようにできてないからそりゃ刺されば当然異物感もあるし痛みだってあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!!

「ぐああぁぁあぁぁぁぁっ!?」

 2度、3度と俺の体にナイフが突き刺さる。

 自分の身体からは大量の血が流れ出しているし何より自分の身体が傷つくところなんて見たくもない。

 ・・・このままでは殺される!!

「わああぁぁっ!!」

「ぐっ!?」

 刺された痛みで思考回路が鈍り、自分を守るために、太田さんの顔をを思いっきり殴りつけた。

 そのまま後ろに吹っ飛んでいく太田さん。

 ああ、俺こんなに力あったんだ。

「ぐっ、ううぅ・・・うえっ、ウヴォッ!オロエェェェ!!!」

 殴られた衝撃か、それとも人を刺すリアルな感触に耐え切れなくなったか、太田さんが目の前で吐く。

 おいおい汚ねえもん見せんじゃねえ。

「ぐ、う、ぐあああああぁぁぁぁ!!」

 痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 さっきまで気づかなかったが、雨が降っている。

 しかも結構強い雨。

 その水が刺し傷にしみてものすごく痛い。

 おかしいよ。

 だって、もう10月後半で、最近寒くなってきたはずなのに。

 何で俺の体はこんなにも熱いんだろう。

 腹に手を置くと、すぐに真っ赤に染まった。

 立っていることもできず、俺はそのまま倒れた。

「う、ぐっ!!あああああああああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあ!!!!」

 倒れた時の衝撃でさらに深くナイフが刺さる。

 何で引き抜いておかなかったんだ!

 なんか俺も吐きそ―――

「がはっ!」

 目の前が赤く染まる。

 ああ、血を吐いたのか。

 ここから助かるにはどうすればいいんだ。

『プルルルル』

 無機質な音がケータイから響く。

 早く出てくれ・・・。

 早く・・・。

 あれ・・・。

『火事ですか?救急ですか?』

 何でだろう。

 さっきまで体が熱かったはずなのに。

 今度は何で冷たく・・・。

 このまま死ぬんだろうか・・・。

「きゅう、きゅう・・・鳶ヶ谷・・・公園・・・。」

 ごめん、ミー子・・・。


 ここはどこだろう。

 何で周りが白くて、何にもないんだろう。

 上も、下も、右も左も、今自分が地に足をつけているのかもわからない。

 いつの間にか腹の傷も治っている。

 俺、死んだんだろうか。

 後ろを振り向くと、ミー子が悲しそうな顔をして立っていた。

「ミー子!」

 悲しそうなミー子はこちらを向いて、口を開いた。

「ごめんねなっち。」

「いやいいんだよ、今でも怖いもんは仕方・・・あれ?何でしゃべってんだ?」

「私が守るっていったのに・・・どうすることもできなくて、それで、なっちが傷ついて・・・。」

「おーいミー子?」

「普段から迷惑かけっぱなしで、肝心な時に役に立てなくて、私、いないほうがいいよね。」

「いや何言ってんだよミー子、お前がいなきゃ俺は・・・って、これ夢か?」

 ミー子に触れると、しっかりと体温を感じられた。

 ということは。

「もうなっちに迷惑かけたくないよ。私が辛い。だから、もうなっちは私のこと忘れてね?」

 ミー子はいつの間にか手にしていた包丁を握りしめ、自身の首に当てた。

「お、おいちょっと待て、ミー子やめろ。」

「役立たずの私なんか―――死ねばいい。」

 そういって、その包丁を、思い切り横に引いた。

 白一色の世界に、突如現れた赤い色。

 ミー子は倒れ、生気のない虚ろな目でこちらを見ている。

「ごめん、ね・・・。」

 徐々に角膜が混濁し、ゆっくりと目を閉じていく。

 ミー子に近づこうとして、血で足を滑らせてしまった。

 そのまま受け身も取れず、ミー子にのしかかる。

 嫌な感触とともに、ミー子からさらに血が出る。

 目はすでに閉じられており、身体はさっきと違って冷たい。

「なんで・・・、なんで、こんなことに。」

 ミー子の肩をつかむ。

「なあ、目を開けてくれよミー子。こんなの、ドッキリでしたって笑ってくれよ!」

 肩を揺さぶる。

「なあ、謝るくらいならあんなことするなよ!!死ぬ理由なんてないだろうが!!俺がずっとそばにいてやるって言ったじゃんかよ!!なあミー子!!!」

 もう、何も聞こえていないようだ。

 もう、終わってしまったんだ、すべて。

 もう、一緒にいることも、一緒にゲームをすることも、一緒にお菓子を作ることも、一緒に勉強することも、一緒に寝ることもできない。

 もう、なにもかも、終わりなんだ。

「頼むよ・・・、俺を、置いて行かないでくれよ・・・。なあミー子、ミー子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「ミー子っ!!!ぐっ、うああぁぁっ!!」

 腹が痛む。

 病院服を脱ぐと、傷が処理されていた。

 ・・・病院?

「な、なんで・・・え?」

 ふと、右手が開かないことに気付く。

 右手を見ると・・・、寝ているミー子に、しっかりと握られていた。

 さっき死んだはずの。

 背中が規則正しく上下している。

「み、ミー子っ!!」

 痛む腹など知らず、ベッドから乗り出してミー子に抱きついた。

 ミー子が生きている。

 やっぱりあれは夢だったんだ!

 ミー子が温かかったのは、手を握っていたからか。

「・・・(びくっ)。」

 ミー子が目を覚まして、こちらを確認する。

 俺が目を覚ましたと分かると、目いっぱいに涙を溜め、抱きついていた。

「ひぐっ・・・っ、・・・ぐすっ・・・、ふうぅ・・・。」

 ミー子が俺の胸で泣いている、が、声らしい声は聞こえない。

 そうだ、ミー子が喋るはずないんだよ。

 そして、ミー子は生きてる。

 今抱きしめていることが、その証だ。

 さっきの夢を思い出すと、視界がぼやけてくる。

 そのまま、俺とミー子は抱き合ったまましばらく泣いていた。


 あの後起こったことをミー子から聞いた。

 どうやら救急車はちゃんと来てくれたらしく、俺は海口医療センターに運び込まれた。

 出血量が多く、危険な状態だったらしいが、何とか輸血をして血が足りたらしい。

 提供してくれた血の中には、ミー子のものもあるらしい。

「そういえば俺もミー子もA型だもんな。」

「・・・(こくり)。」

 ただ、A型とはいえ血液が完全に合っているとは言いづらいため、拒絶反応が起きるかも、とのこと。

「じゃあ今俺の体温が38度あるのもそのせいか。」

『たぶん。』

 確かA型にもAO型とAA型があるからな。

 俺は母さんから聞いたことがあってAAというのは分かってるけど、ミー子はそうとも限らないしな。

 そして太田さんは殺人未遂ということで逮捕された。

 今母さんは損害賠償の示談を立てているらしい。

『冬華さんも行ったらしいよ。』

「ああ、冬姉はそういう事話すの得意そうだしなあ・・・。絶対勝ってくるよ。」

 先生には母さんが事情を説明してくれたらしく、校長の許可を得て、しばらく休学になるそうだ。

 ミー子はバイト先の店長に事情を説明しに行ったらしい。

 仕事の合間に連絡をすると言ってくれたみたいだ。

『今回の事件でみんな「なんで夏央がこんなことに」みたいな感じで怒ってた。一番怒ってたのは冬華さん。』

「まあ、あの姉は自称ブラコンだからな・・・。」

『なっち。』

 ミー子が改まってこちらに向き直る。

 大体言われることは分かる。

『許してほしいとは言わないけど、本当にごめんなさい。私が守るっていったのに、すぐに逃げ出しちゃって。』

「・・・。」

『本当は、このごめんなさいも声に出して言いたい。本当に、弱くてごめんなさい。』

 そういって、ミー子は頭を下げた。

 でも、夏央は逆のことを考えていた。

「俺からしたら、あの時ミー子が逃げてくれてよかったと思ってるよ。」

『何で?私、やっぱりいらない子だった?』

「んなわけあるかよ。もしあの時一緒にいたら、ミー子も傷ついてたかもしれないだろ?そんなことになったら、今度こそ俺は自分が許せなくなる。」

『でも・・・。』

「ま、実際俺は生きてたからな!死ぬことはなかったし、ミー子にも何もないし、結果オーライだな!」

 わざと明るくして言う。

 今のミー子にこの暗いままの雰囲気は悪影響だ。

 しかし、ミー子の顔が次第に曇っていく。

 そして、悲しそうな顔をしたミー子に、頬を叩かれた。

「いっ、み、ミー子?」

『何でそういう事言うの!もしなっちが死んじゃってたら、私これからどうしていいかわからなくなるところだったのに!それなのに、自分はどうでもいいみたいなこと言って!もっと自分を大切にしてよ。』

 ミー子が泣きそうな顔をする。

『よく「自分だけの身体じゃない」っていうじゃん!なっちが死んじゃったら、どれだけに人が悲しむと思ってんの!?』

 自分だけの身体じゃない、か。

 確かにミー子の言うとおりだ。

 ミー子を守るためならどうなってもいい、とか思ったりするが、それで死んでしまったらもうミー子を守るものがない。

 そう、ミー子を守るために、自分だってどうでもよくないんだ。

「ごめん、ごめんミー子・・・。」

『本当、バカ。』

 ミー子はまた泣いた。

 こんなバカな俺のためにこの子は泣いてくれているんだ。

 もう、泣かせちゃいけないだろう。

 でも今は、今だけは。

 自分の戒めのために、この子の泣き顔をしっかりと目に焼き付けておこう。

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