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Please speak!  作者: 長野原春
18/113

珍しく二人でお出かけです

「おーい。」

「・・・ん。」

「あ、起きた。」

 目を開けると、ものすごい近くに春姉がいた。

「うえぁわっ!?」

「何その驚き方、面白いね。」

 いや、こっちとしてはめちゃくちゃびっくりしたんだけど・・・。

 というか、俺、寝ちゃってたのか。

 さすがに、あんな朝早く起きたんじゃなあ・・・。

「ソファーで座って寝てたら腰痛くなるよ?」

 確かに、体が固まってる気分だ。

 こんな時こそ、アリ○ミン!

「よく座ったまま5時間近く寝れるね。」

「・・・5時間・・・5時間!?」

 時計を見ると、11時になっていた。

 結局、いつもの時間だ。

 あー、頭がぼーっとする。

「朝ご飯、食べる?」

「あー、もうちょっと待って。今は食欲ないわ。」

「ん?体調悪い?」

「いや、そうじゃなく。」

「あー、なつくん低血圧だもんね。」

 わかってくれて助かります。

 だんだん意識がはっきりしてきたところで、辺りを見回して気づいた。

「春姉、ミー子は?」

 そう、ミー子がいない。

 いつもならリビングにいたり俺の部屋で寝っころがってたりするんだが。

 もしかして自分の家に帰ったんだろうか。

「ああ、美衣ちゃんなら、友だちと遊びに行くって。」

「友達?」

「うん、祈木陽花です!って言ってたよ。元気な子だね。」

 ああ、祈木か。

 ならミー子がいないのも納得だな。

「なんか買い物に行くんだって。」

「へー。」

 一人で行ったならまだしも、祈木と一緒なら平気か。

「どっこいせ。」

 と、そんな声を上げて、春姉が俺の隣に座った。

「おばさんみたいだな。」

「うええ!?私、21でおばさん呼ばわり・・・。」

 春姉が分かりやすい感じに落ち込んだ。

「もう、なつくんったらひど・・・ん?」

「どうしたの?」

「んん~?」

 春姉が何かに気付いたようだ。

「なつくん、近くで見ると、お耳が汚れてます。」

 あ。

 そういえば、以前ミー子に耳掃除をしてもらってから1回しかやってない気がする。

 1か月以上やってなかった・・・。

 またミー子に汚いと言われてしまう。

「んー、人に見えるところくらい、ちゃんときれいにしなくちゃだめだよ?」

「ごもっともです・・・。」

 自分で掃除しましょうかね・・・。

 自分の耳かき棒を取り、ティッシュを用意する。

「えい。」

 と、ソファーに座った瞬間、春姉に頭をつかまれて引き倒された。

 そのまま、強制膝枕。

 ・・・なんだかこれ、既視感あるんですが。

「今日はお姉ちゃんがなつくんの耳をお掃除します。」

「じ、自分でできるよ。」

「いいのいいの、お姉ちゃんに甘えてくれていいんだよ~。」

 なんか春姉のテンションが高いな。

「どれどれ・・・。」

 と、春姉が俺の耳を覗き込んだ。

 多分汚い状態だから、そこまで見られると恥ずかしいんですがねえ。

「ほうほう。なかなか大量ですな。」

 ため込んじゃってた。

「やりがいはありそうだね。じゃあ、いくよ!」

 そんなに張り切らんでも。

 そんな春姉の高いテンションとは裏腹に、俺の耳に棒がやさしく入ってきた。

 春姉の気遣いがうかがえる、優しい手つき。

 ・・・すこしくすぐったい。

「あっ、こら、動かないの。」

「ごめん。」

 あやまったものの、くすぐったいものはくすぐったい。

 ・・・が、動くと耳が危険なのでなるべく耐えることにする。

 カッ、と、棒の先端が固いものに触れる感じがした。

「・・・ちょっと力入れるから、痛かったら言ってね。」

 カリッ、と音がした。

 ほんの少し、くっついていたものがはがれる感覚。

 その耳の壁と耳垢の間に、棒の先端が差し込まれる。

 ベリィッ!

「ういっ!?」

 大物がはがれる感じ。

 あのほんの少しの痛みと大きな快感が体を突き抜ける。

 そして、そのとれたものを落とさないように、棒がゆっくりと上がっていく。

「おお、大きいね。」

「どれどれ・・・うわ、ほんとだ。」

 1か月でこんなにもなるもんか。

 確かにこれはちゃんと掃除したほうが良いよな・・・。

「じゃ、続きやるね。」

 また、膝枕の状態に戻り、耳掃除が再開した。


「うんよしよし、キレイになったね。」

「すっきりした気がする。」

「ちゃんとこまめに掃除しないとダメだよ?」

「わかりました。」

 まあ、聞こえづらくなっても困るしな。

「ねえねえなつくん。」

 またも、春姉が近づいてきた。

 春姉、いちいちとっても近いです。

 家族とはいえ緊張しちゃうでしょーが。

「買い物、付き合ってくれない?」

「か、買い物?」

「そう買い物。どう?たまには私とさ。」

 たまには・・・。

 というより、春姉と二人で出かけたことって今までなかった気がする。

 うん、まあ、いいんじゃないかな。

「何を買うの?」

「新しいデジカメがほしくてね。一緒に買いに行こう!」

 デジカメか・・・。

 そういえば春姉は出先でよく写真を撮ってくる人だった。

 今春姉が使ってるやつは相当古いもののようだけど。

「前に友達に頼まれて電車を撮ってからね、なんだか楽しくなってきちゃって。」

「春姉そっち方面行くつもりなのか。」

 春姉がまさかの撮り鉄に・・・?

「そんなわけないよ~。写真の撮り方がいいって言われて、結構頼まれるようになっちゃったんだよね。・・・いい値段で売れるし。」

 一瞬春姉の笑顔が黒くなった気がした。




「デートだね。」

「違うよね?」

 俺たちはオジマ電気に来た。

 俺たちの住んでいる地域には電気屋がないため、わざわざ隣町までやってきた。

「あんまりごついやつじゃなくてもいいんだよねー。」

「てっきり一眼レフでも買うのかと。」

「いやそこまで本気じゃないよ。」

 というか一眼レフ買う金あんのか春姉。

 あたりを見回すと、いろいろな家電が置いてある。

 あー、食器洗い機ほしいかもなあ。

 あれがあれば、皿洗いの時間が他のことに当てられる。

 ・・・問題は、その家電を買うお金がないことだが。

 そういえば、母さんがそろそろ洗濯機を買い替えたいって言ってたな。

 今はドラム式洗濯機のほうが良いんだろうか。

 分からん。

「うーん、どうしよう。カメラどれにしようかな~。」

 実際カメラなんて俺はケータイでしか使わないし、あんまり判断基準が分からないんだが。

 ・・・この光学手ブレ補正っていうのがいいんだろうか。

「画素自体は1000万超えてればいいから・・・。」

 何の話か分からねえ。

「あー、ある程度拡大するとなるとカメラも大きくなっちゃうかー。」

「だめだ、俺にはさっぱりわからねえ・・・。」

「カメラとか、使わない?」

「ケータイでしか使わないかな。」

「あー、やっぱみんなそんなもんだよね。」

 春姉はすぐどっかいっちゃうからね、仕方ないね。

「うん、じゃあこのカメラでいいかな。」

 春姉が選んだのは、トーピッドのカメラ。

「春姉、緑色好きだね。」

「うん!」

 メタリックな深い緑色のカメラだった。

 渋いとか言われないのかなコレ。

 前に使ってたカメラは春姉が父さんからもらったやつで普通に銀色のカメラだったけど・・・。

 春姉の趣味でいくと深い緑色になるみたいだ。

「よーしけってーい!なつくん、他何か見る?」

「ああ、ちょっとパソコン見たいかな。」

「自分の部屋に一台置きたいわけね。」

「そういうこと。」

 家には共用のパソコンしかない。

 それも普段結構な確率で母さんが使っているため、なかなか使えない。

 別に据え置き型じゃなくてノーパソでいいからほしい。

 まあ、今度ミー子と旅行に行くからまた金を貯めないとだけど。


「結構いろいろあるんだなー・・・。」

「どれ選べばいいかわからないね。」

 京介いわく、パソコンは自作でナンボ。

 ただ俺にはそんなパソコンを作るような技術も知識もないので買う。

 別にそんな高くないやつでいいんだよな。

 10万くらいのやつ。

 俺の月給がだいたい5万くらいだから、生活費とかいろいろ抜いて3か月バイトすれば買えるな。

 よっし次の目標はパソコンだ。

 今まで見れなかったものも見れ・・・おっと。

 実際選ぶときになったら京介でも連れてくるか。

「あれー?はるさめじゃん。彼氏いたんだ?」

「えっ。」

 後ろから声をかけられて、ちょっとびっくりして振り向く。

 そこに立っていたのは・・・。

「誰ですか?」

「ああ、紗由。この子は弟だよー。」

 春姉の友達たぶんだった。


「へー、はるさめ、新しいカメラ買うんだー。」

「うん。もう前のはかなり古いからね・・・。」

「と、なると、また写真撮影をお願いしてもよろしいので?」

「うん、いいよ。」

「いいねいいねー。はるさめ、写真撮るの上手だからねー。」

 春姉と紗由と呼ばれた人が話す中、俺はどうしたらいいかわからず黙っていた。

 いきなりお友達に登場されてもねえ・・・。

 って、この人この前うちに写真受け取りに来た人か。

 そういえばそうだよな、はるさめって呼んでるし。

 いや、もしかしたらみんなから呼ばれているかもしれない。

 うーん・・・。

「んで、何で弟君は黙っているのかな?」

「うぇ、ああ。」

「おやおや、きょどってるー?緊張しちゃうくらい私美人かなー?」

「違うでしょ。」

「はるさめもひどいねー。」

 うん、なんというか、変わってる人だな。

 なんだろうこの微妙に力の抜ける喋り方は。

「あっ!!!」

「ファッ!?」

 友達さんがいきなり大声を上げた。

 とっても驚いた。

「申し遅れました私ははるさめの友達の那須野紗由(なすのさゆ)ですよろしく。」

「え、ああ、絢駒夏央です。」

「なつおくんねわかりました。私のことはなんとでも呼んでー。」

「わかりました那須野さん。」

「・・・むー。」

 なんとでも呼んで、といった割には納得いってない顔をしてるんですが。

「下の名前で呼んであげて?」

 春姉が俺に耳打ちしてきた。

 下の名前で呼んでほしいのなら最初からそう言ってくれよ・・・。

 よく分からんぞ、この人。

「よろしくお願いします、紗由さん。」

「うんよろしくー。」

 どうやらお気に召したようだ。

「ところで、紗由は何しにここへ?」

「ケータイ買い換えたからカバーを買いに。」

「あ、買い替えたんだ。」

「私もやっとガラケー脱却なのよー。」

 大学生でガラケー持ってる人初めて見た・・・。

 いや、大学生がどんなもんかなんて知らないが。

「どのXiPhoneカバーにしようかなー。ああ、フィルムも買わないと。頑丈なやつ、知らない?」

 頑丈なやつ・・・。

 そうだな、XiPhoneのフィルムなら・・・。

「ガラスフィルムとかいいんじゃないですか?」

「がらすふぃるむ?」

「はい、ちょっと値は張りますが、頑丈ですよ。」

「へー!じゃあそれにするー!」

 決めるの早っ!?

「ほうほう2,900円ねー。高くないじゃん。」

 高くないのか・・・。

 貧乏高校生にとっては手を出すのに一瞬ためらう品ですが・・・。

「あ、マットフィルムよりすべりはよくないですよ。」

「いーのいーの!私、よくケータイ落っことしちゃうからねー。液晶割れちゃやだし。」

「確かに、紗由はよくケータイ落っことすね。」

「ケータイが滑るのですよ。」

「それ紗由の不注意じゃ・・・。」

「うるさいよはるさめ。」

 紗由さんが半眼で春姉を見る。

 どうやら間違ってはいないらしい。

「よーしよし。じゃあケースはこのメタリックなブルーのやつで。」

「適当だなー。」

「なつおくん、何か問題でも?」

「いえまったくそのようなことはございません。」

 なんだろう、会ってまだ10分程度しか経ってないのに慣れたぞ。

 マイペースだけど、あんまりついて行かなきゃへーきだな。


「うーん、目的は達成されました。じゃあ、私帰るねー。」

「またね、紗由。」

「うんまた大学でねー。」

「さようなら。」

「おーうなつおくん、また会おうねえ。」

 紗由さんは俺たちに背を向け、駅のほうに歩いて行った。

「・・・歩くのおそっ!?」

「・・・大学ではこっちがペース合わせなくちゃいけないのが面倒なんだよねー・・・。」

 やっぱマイペースだなああの人。


「あれが春姉の友達か・・・。」

「どう?面白い子でしょ?」

「面白いって言うか・・・、変人って言葉がぴったり似合いそうな人だね。」

 いや失礼な話だけども。

「薬学科に変人なんていっぱいいるよ?」

「薬学科こええ・・・。」

 まじかよ。

 あんなのが何人もいるのかよ。

 いやあんなのなんて言ったら失礼なんだけども。

「んー、さて、私もカメラ買ったし、あとはなにしようかなー。」

「夕飯の買い物して帰る?」

「わーどっかに連れてってくれるとかないんだー。まあ、高校生なんてそんなもんだよね。買い物して帰ろうか。」

「ごめんねお金なくて。」

 旅行に行くお金しかないんだ、すまねえ。

 またお金貯めたらどこか・・・いけるかね。

 ・・・実際は、帰ってもやることないんだけどね。

 なんか、趣味に打ち込めるものとかないかな。

 パラロスは、ミー子と一緒にやるのが楽しいわけだし・・・。

 ケータイを見ると、ミー子からラインが入っていた。

『今どこにいるの。』

 今どこ、ということはミー子は家に帰ってきてるのか。

 祈木との用事は終わったのか。

『買い物に来てる。今から帰るよ。』

 既読はすぐにつき、そしてすぐに返信が帰ってきた。

『早くしないとなっちの部屋の聖典を捜索します。』

「なにやってんだあいつうううぅぅぅぅ!!!」

「え!?なに!?なつくん、どうした!?」

「い、いや、なんでもないよ。さあ、早く買い物して家に帰ろう。」

「え?う、うん。」

 まずい、まずいぞ。

 早く帰らないと俺の部屋を探される。

 いや、いつも一緒に寝てる部屋だから隠してはいるが・・・。

 クローゼットの中、俺が小学校の時に使っていたランドセルの中に聖典があるが・・・。

 さすがにばれないよね?

「でも、早く帰ろうって言っても結構時間かかっちゃわない?」

「大丈夫、ちょっとでも早く帰ることが大事だから。」

「???」

 春姉がわけも分からずに首をかしげる。

 春姉は分からないよな。

 今俺が、男子にとって危機的状況であることに。

「なつくん、今日の夜は何がいい?」

「うーん、いっぱい食べたいからホイコーローで!」

「あ、いいねホイコーロー。たくさん作っておかず一品でも大丈夫かな?」

「なんも問題ないよ。」

「よーしじゃあ夜ご飯はホイコーローに決定!」

 材料を買って、すぐにスーパーを出た。

「ねえ、なつくんどうしたの?」

「男の尊厳をかけて戦っているところなんだ。」

「意味が分からないよ!?」

 そりゃあ、なんというか、春姉にエロ本とかあんまり言いたくないんだよなあ。

 木通まではまだあるので、線路沿いを早歩きで進む。

「な、なつくん、こことか、興味あるの?」

 春姉がわずかに顔を赤らめて言う。

 何のことか最初分からなかったが、ここら辺がどういうところか見て察した。

 木通駅の隣、西海口。

 駅の近くには無数のビルのような建物が立っている。

 それらにはすべてネオンライトが付けてあり、夜は怪しい光を放つ。

 そう、ここは、彩玉県内で有名な―――

 ―――ラブホ街だった。

 春姉の後ろにでかでかと立っているのはHigh-X Hotelと書かれたホテルだ。

「い、行きたいの?」

 春姉が顔を赤くして、上目づかいでこちらを見てくる。

 夏央は、この上目づかいに弱かった。

 だが、

「いやいや入るのはいろいろまずいでしょ。」

 夏央が上目づかいに勝った瞬間だった。

 まあいろいろ倫理的な面も含めてね。

 ・・・それにほら、家族だし。

 義理という関係上やろうと思えば結婚もできるけど。

 ・・・さすがにそれはないわな。


『お帰り(はーと)。』

 家の玄関で待っていたのは、仁王立ちするミー子だった。

『遅かったね(はーと)。』

 怒ってるのだろうか。

 ミー子がこちらに近づいてくる。

 そしてそのまま―――

 ―――俺に、ハグをした。

「え、っと、ミー子さん?」

『一人でさびしかったぞばかやろー。』

「あ、ああ。そうだったな。ごめんな、ミー子。」

 そういってミー子の頭を撫でると、ミー子が目を細めた。

 お前は猫か。

『失敬な。』

「心読まれた!?」

『なっちだからね。』

 何で俺だけ限定なの怖いんですが。

 俺ってそんなにわかりやすい?

『私から見れば、なっちだから。ほかの人は、無理かもね。』

 若干顔を赤らめたミー子に、俺はかわいいという感想を抱いた。 

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