体調が悪いのは誰のせい
「たっだいまー!」
上機嫌で家に帰ってきた俺を出迎えてくれたのは静寂だった。
・・・あれ、ミー子はいないのか。
もしかして自分の家でゲームでもやってるんだろうか。
あいつ、最近一人でもちゃんと行動できるようになってきたし。
・・・いや、玄関にはミー子の靴がある。
となると、寝てるんだろうか。
この暑い中、よく寝れるなあ。
多分エアコンとかはつけてないだろうし。
「とりあえず、麦茶でも飲みてえ。」
冷蔵庫に入ってるはずだ。
帰ってきた直後の一杯、最高だね。
リビングに入ると、
「・・・(ぼーっ)。」
ソファーに腰かけたまま動かないミー子がいた。
部屋は冷房が効いていて涼しいから熱中症とかないはずだけど・・・。
「・・・(ぼーっ)。」
目の前まで来ても反応を示さない。
目を開けたまま寝ているんだろうか。
・・・なんだろう、この、目は開いているのに起きていない感じ。
ちょうど、夢遊状態のような感じ。
ただもしそれだとしたら動いたりするはずなんだけど・・・。
「おーい。」
「・・・へっくし。」
「きたねえ。」
ミー子の顔を覗き込んだ瞬間、くしゃみをされた。
「・・・(びくっ)!?」
(おそらく)目が覚めたミー子は、目の前の状況を理解しようと辺りを見渡し・・・。
「・・・(ふきふき)。」
俺の顔をティッシュで拭いた。
『おかえら』
「ただいま。」
まだ寝ぼけていたのか、文面がミスっている。
やっぱり寝てたのか。
『座ってて。麦茶よあういするな。』
またもやミスのある文面を俺に見せ、ミー子が立ち上がった。
「・・・(よたよた)。」
「・・・大丈夫か?」
なんだかフラフラしている。
「・・・(がたがた)。」
「ホント大丈夫か?なんか震えてね?」
「・・・(ふるふる)。」
大丈夫だ、とでもいうかのようにそのまま歩き出した。
が。
「・・・(どさっ)。」
「ミー子おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
目の前でミー子は倒れた。
「すまん、ちょっと失礼するぞー・・・。」
「すー・・・。すー・・・。」
俺のベッドにミー子を寝かせ、体温を測るために服をたくし上げる。
のだが・・・。
「ミー子・・・。せめてブラジャーくらいつけてくれ・・・。」
最悪なことに、ミー子は下着をつけていなかった。
ノイから帰ってきたときに着替えたから、そこで外したのか・・・。
とりあえず、いったん服を下ろす。
ちなみに俺の名誉のために言うが、断じて見てはいない。
というか、胸のあたりまで服を上げてはいない。
「って、誰に弁明してんだ俺・・・。」
「・・・(むくり)。」
「あ、起きた。」
ミー子が起きてくれたので体温計を渡し、体温を測らせた。
部屋まで連れて行くためにミー子を担ぎ上げた時、なんだかやたら冷たかった気がした。
冷房の効いた部屋で寝てたから体が冷えたんじゃ・・・。
『35.5』
「思いっきり体冷やしてんじゃねえか。」
『私の平熱は36.8だよ。』
「だから言ってんだよ。とりあえず、今は大人しくあったかくして寝とけ。」
「・・・(こくり)。」
「んじゃ、俺は夕飯の支度を・・・。」
「・・・(くいくい)。」
「夕飯の支度を・・・。」
「・・・(ぎゅ)。」
「・・・寝るまでそばにいてやるから、早く寝とけ。」
「・・・(こくり)。」
さっきまで寝ていたせいか、ミー子が寝るまでやたら時間がかかった。
「冷房効いた部屋で何もかけずにソファで寝てたからだよな・・・。」
しかも微妙に腹出てたし。
腹冷やしてるっぽいし、今日の夕飯はあったかいうどんにするか。
冷麦はまた今度ということで。
「ただいま~。」
「あ、お帰り春姉。」
「うん、ただいま。あれ、美衣ちゃんは?」
「体調崩して寝てるよ。」
「えっ、そうなの?大丈夫かな?」
「んー、まあ、腹冷やしただけみたいだし、大丈夫でしょ。」
「だといいんだけど・・・。」
なおも春姉は心配そうだ。
腹冷やしてるくらいならあったかくして寝てればすぐ治るだろ、きっと。
「ただいまー!」
家の扉が開いて、大きな声が響いた。
うちの母さんだ。
仕事帰りだってのに、元気そうだよなあ。
「いやー、今日もいい記事が書けた。」
「おかえり、母さん。」
「お帰りなさい、お母さん。」
「うんただいま。あれ?ミーちゃんは?」
「ちょっと体調崩して寝てるよ。」
「あらあら。あんた、ミーちゃんの何を見てたのよ。」
「いや俺が出かけてる間に体調崩したんだよ。」
あんなの未然にどう防げって言うんだ。
家に監視カメラでも付けさせる気か。
「まあ、ミー子さっき寝たばかりだし、先に飯食っちゃおう。」
「そうだね。今日の夜は・・・うどん?」
「ああ、ミー子が腹壊してもいけないし。」
俺と春姉と母さんは冷たいたぬきうどんでもいいけど。
「あったかいのと冷たいの、どっちにする?」
「あたしはアレだ。冷たいのでいいわ。外あっつかったしね~。」
「じゃあ、たぬきうどんでいい?」
「あーいいわね。あ、わかめは多めでね!」
「はいはい。春姉は?」
「私あったかいきつねうどんがいい!油揚げあるし!」
春姉のテンションが上がっている。
春姉、きつねうどんそんなに好きだったのか・・・。
今日暑いのに、よく食べれるな。
「汁は私が作るよ!なつくんはどうするの?」
「俺はたぬきうどんでいいや。あ、きつねうどんの汁、2人分お願いしていい?」
「あ、うん。分かった!」
春姉がきつねうどんにしてくれたおかげで、ミー子の分の汁を作る手間が省けた。
まあ、出汁入れればいいだけだし、手間も何もないんだけど。
母さんの皿にわかめをたっぷり入れて、持っていく。
「まだ足りないわね。」
「これで足りないの!?結構入れたぞ!?」
「あんたの多めとあたしの多めはだいぶ違うみたいね。」
おっかしーなー。
皿の半分はわかめなんだけどなー。
「なつくん、きつねうどんの汁、小鍋に入れてあるからね。」
「ああ、ありがとう春姉。」
「さ、早く食べよ!私は2人前だよ!」
「春姉いつもより食う量多くねえ!?」
普段あんま量食わないぞこの人!?
どんだけ好きなんだよきつねうどん。
「・・・(よたよた)。」
なんか匂いにつられて起きてきやがった。
「寝てからあんま時間立ってないけど、大丈夫なのか?」
『大丈夫だ、問題ない。』
そういうミー子の手を握ってみると、まだ冷たかった。
「無理してないか?手が冷たいぞ。」
『心が温かい証拠。』
微妙に無理してやがるなこいつ。
「ミー子、ほんとはまだ寒いんだろ。」
『うどんが食べたいのよ。』
「腹減ったの?」
「・・・(こくこく)。」
体調は良くないけど空腹には勝てないみたいだ。
まあ、よく食べて寝るのが一番いいか。
「用意するからちょっと待っててくれな。」
「・・・(こくり)。」
ぐぅ~。
と、ミー子の腹が鳴った。
どうやら、あまり待てないようだ。
『ごちそうさま。』
「よく二人前食えるな・・・。」
『空腹は耐えちゃいけない。』
「うん、まあ、そうだけど。」
体調悪い時ってそんなに食べられるっけ。
でもよく考えたらミー子は小食じゃないし。
というか結構食べるほうだし。
のわりに、細い体型を維持している。
何してるのかは知らないが。
もしかして、太ったりしない体質なんだろうか。
・・・そういえば、朝俺が寝てる間って、ミー子が何してるか知らないんだよな。
まあ、起こされなければ俺は11時ごろまで寝てるし、7時より前は分からない。
・・・明日早起きしてみようかな。
でも早起きするの大変なんだよなー。
いや、これはミー子のことを知るためだからな。
・・・というかそろそろ、一緒に寝なくても大丈夫だよな。
このままだとおそらく何も言わなければずっと一緒に寝ることになるだろう。
まあ、その、万が一が起こるかもしれないし。
「あ、そういえばいうの忘れてた。」
「・・・?」
「新しいメニュー、採用されたぜ。」
「・・・(ばんざーい)。」
「あらあら、よかったじゃない。」
「やったぜ。」
『おめでとう。』
「ああ、ありがとう。」
ミー子も母さんも祝ってくれた。
春姉はというと・・・、風呂です。
『私、なっちの役に立った?』
「ああ、ミー子のおかげで早く完成したよ。」
『ふふ、もっと私をほめるがよい。』
「ありがとうな。」
そういって、ミー子の頭をなでつけた。
すると、
「・・・(ぷるぷる)。」
ミー子が顔を赤くして震え始めた。
「ほめろっつったからほめたのに。」
『うるせえ。』
「ひどくね?」
『ひどくねえ。』
「美衣ちゃん、お風呂空いたよー。」
「・・・(ささっ)。」
春姉の声が聞こえた瞬間、ミー子が神速ともいえる速さでリビングから消えた。
・・・だからなんであいつは頭を撫でると照れるんだよ。
Side 美衣
「・・・(ばしゃばしゃ)。」
うああああ。
なんでだろう。
なっちは、私をやさしく撫でてくれる。
撫でられると気持ちいいし、こころがふわふわして、頬が緩みそうになる。
・・・のと同時に、照れくさくなってしまう。
ほんとは、なっちに笑いかけたい。
そのまま、できるものなら、抱きつきたい。
でも、なぜかそれができない。
好きかと聞かれたら、迷わずに好きだと答えられるのに。
なっちが私を求めてくれるなら、私はそれを喜んで受け入れるのに。
「・・・(ぶくぶくぶく)。」
なぜだろう、今は、なっちの直球の好意が、恥ずかしい。
早く声が出るようになって、なっちに、好きだって伝えたいよ。
私の言葉で―――
「ひゅぅ・・・。」
Side 夏央
あいつ、風呂長いな。
いつもなら15分くらいで上がってくるのに。
あんまり風呂は長くないタイプなはずなんだが・・・。
もう40分経ってるぞ。
ちょっと心配だ。
「おーい、ミー子?」
脱衣所まできたが、風呂の明かりがついている。
まだ入っているのかな?
呼びかけても返事はない。
いつもなら呼べば風呂の扉を叩くなりして返事してくれるはずなんだが・・・。
すりガラスの向こう側に、風呂に入っているミー子が見える。
が、なぜだろう、頭が見えない。
・・・潜ってる?
いやいや、そんなこと子どもじゃないんだからしないだろう。
となると―――
ガチャッ
浴槽には素っ裸のミー子が・・・浮かんでいた。
「何してんだミー子おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
とりあえず緊急事態なので浴槽からミー子を持ち上げた。
倫理規定?ああ!?知らねえよ!
緊急事態にそんなこと言ってられっか!
・・・ともいえないので、ミー子を脱衣所で降ろし、あとは母さんに任せた。
「完全にのぼせてたね。」
「ミー子が?」
「うん。」
あいつ、今日災難だな。
寝冷えして体調悪くしたのにそのあとすぐのぼせて。
「とりあえず今涼しくして寝かせてるからね。夏央の部屋で。」
「それでも俺の部屋なのか・・・。」
「近くにいてやりなさいよ。」
「まあ・・・そうだな。」
おそらく部屋で一人でぼーっとしてるだろうし。
「じゃあ、俺部屋に行くわ。おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
「正しい対処法だからといって何でこの格好で放置してあるんだ母さん・・・!」
部屋で寝ていたミー子はバスタオル一枚だった。
首と脇の下と足はタオルで冷やしてある。
これも正しい対処法だけど・・・。
「何も俺の部屋でこれやったまま放置しなくても。」
俺が困るだろ。
「・・・?」
「あ、起きた。大丈夫か?」
「・・・(ふるふる)。」
大丈夫じゃないようだ。
「ミー子今日災難だな。」
ミー子がケータイを探して起き上った。
『ほんとだよ。』
「ちょっと待てその格好で動かないでくれ。」
「・・・?」
言われて初めて、ミー子が自分の格好に気付いたようだ。
「・・・(すっ)。」
「見せようとせんでいい。」
まったくこいつは・・・。
俺がアタックフォルムになっちゃうだろ。
「・・・ふああああ。」
ちょっと無理をして今日は5時半に起きてみた。
5時半でももう空が明るいんだな・・・。
隣を確認すると、ミー子はいなかった。
あいつ、いつも何時に起きてるんだろう。
リビングでアニメでも見てんのかな。
「・・・いない。」
リビングに来て、辺りを見回してもミー子はいなかった。
そのかわり、
「あら、夏央今日は早いじゃない。」
「・・・ああ、母さん。おはよう。」
「フラフラじゃないの。また寝てきたら?」
「・・・いや、大丈夫。」
実際は眠いし頭も痛いしぼーっとするが。
「ミー子は?」
「ああミーちゃん?外を見ればわかるんじゃない?」
「外?」
なんのことだろう。
1階からでは外が見えないので、自分の部屋から見ることにした。
「・・・まぶしい。」
カーテンを開けると、入ってきた陽の光に目がくらんだ。
「・・・何もわかりませんが。」
家の前には誰もいなかった。
ふと隣の家を見ると、那空さんが仕事の準備をしていた。
今日は朝から商談だろうか。
「・・・あれ。」
ミー子の家の方向から、何かが来る。
なにか、緑色の・・・
「ミー子だ。」
ミー子が走っている。
淡い緑色のジャージを着たミー子が外を走っていた。
「・・・ああ、だからあいつ足早いのか。」
いつだったか逃げたミー子を追いかけた時、足が早くて追いつけなかった。
これで納得した。
ミー子が体力があって足早い理由も、細い体系を維持している理由も。
毎朝走ってるのか・・・。
「俺には無理だな。そもそも朝起きるの辛いし。」
多分俺ミー子より体力ないんじゃないか。
「ミーちゃん、頑張ってた?」
「ああ、知らなかったよ。」
「夏央も一緒に走ったら?」
「毎日この時間に起きるのは自殺行為です。」
というか起き抜けに走ったら倒れる。
「いっつも5時から6時までは走ってるからねあの子。」
1時間走るとか正気かよ・・・。
俺なら20分で息切れするわ。
6時になって、ミー子が家に戻ってきた。
「よ、おはよう。」
「・・・。」
ミー子は俺を見て、固まった。
「ん?どうした?」
「・・・(わたわた)。」
気になって近づいてみると、今度はあわてだした。
そして、ミー子は風呂場に走っていった。
「・・・逃げられた。」
「あっはは、ミーちゃんもやっぱり女の子だねえ。」
「え、どういう意味?」
そういうと、母さんが目を丸くした。
「分からないの?」
「いや全然。」
「はぁ~~~~・・・。」
いきなり母さんが残念そうにため息をついた。
「あんた、女心ってもんが分かってないねえ。」
「???」
・・・何のことなんだろう。
Side 美衣
まさかなっちがあの時間に起きてるなんて。
大丈夫かな。汗臭くなかったかな。
今日は朝から暑くて、いつもより汗かいちゃったし・・・。
あああ、何でこんな日になっちが起きてるの。
今日みたいな休みの日にはいっつも11時くらいに起きてくるのに。
早くこの汗を流したい。
汗かいた私なんかより、シャワー浴びてきれいになった私を見てもらいたい。
ちょっと、いつもより念入りに体を洗おう。
「・・・ふー。」
ちょっと冷たい水で体を流したらすっきりした。
うん、これならいいよね。
お風呂から上がって、髪を乾かして、ヘアミストをかける。
私愛用の、ちょっと柑橘系の香りのやつ。
そういえば、これいつもつけてるけど、なっちはどう思ってるのかな。
・・・どうとも思ってないかな。
そういえばこの前、私のベッドは柑橘系の匂いがして眠れないって言ってた気がする。
もしかして嫌なんだろうか。
ちょっと、今日一日なっちに近づいて反応をうかがってみよう。
いやそうにしてたら、やめようかな。
・・・でも、これもう5年以上使ってるんだよなあ。
あ、5年以上使ってて何も言われないってことは特に嫌ってわけじゃないのかな。
よし、リビングに行こう。
大丈夫、ちゃんと汗は流した。
もう汗の匂いはしない・・・、はず。
「くー・・・。すー・・・。」
何でだよ!
ちょっと念入りに体洗った意味ないじゃん!
もうちょっと頑張って起きててよ!
もうもうもう!
「・・・(どっすどっす)。」
思わずその場で地団駄を踏んでしまった。
でも、なっちは起きない。
そりゃ起きないよ・・・。いつもならこの時間には絶対に起きてないんだから。
「・・・(ぽすっ)。」
寝ているなっちの隣に座った。
なっち、寝顔可愛い。
思わず頬に触れる。
でも反応はない。
・・・今ならチャンスかな。
今からやろうとしていることは、撫でられるよりももっと恥ずかしい行為。
もしなっちと向き合っていたら、こんなこと絶対にできない。
意気地なしでごめんね、なっち。
いつか、面と向かって、できるといいな。
「・・・ちゅっ。」
そのあと、寝ているなっちの肩に頭を預けて、私も寝た。
「あらあら、二人とも仲がいいわねえ。」
「家のリビングでこれやるとはなかなか大胆だね二人とも。」
「春女、カメラ用意して。」
「えっ?カメラ?」
「そうカメラ。この状況、写真に残しておくのもいいと思わない?」
「うん、あとで見せるのも楽しいかもね。」
ぱしゃっ




