義姉も気になります
「なあミー子。」
『どしたの。』
「夜中、起きたよな?」
「・・・?」
ミー子は首をかしげた。
覚えてないんだろうか・・・?
「最近、そういうことないか?」
『ちゃんと寝てると思うけど。』
「このまえ、外に出たよな?」
「・・・???」
ミー子の首の角度がさらに深くなった。
最近、ミー子の様子が少しおかしい。
寝ている時にいきなり起きて、どこかに行ってしまう。
少しすれば戻ってくるのだが、おとといはいきなり家を出た。
俺もあわてて外に出ると、ミー子は靴も履かないまま外でフラフラしていた。
呼びかけても反応しないし、目は焦点があっていなかったし、心配だ。
連れ帰って寝かせても、次の日眠いという。
最近なぜか寝不足気味、だそうだ。
『私ちゃんと寝てたよね?』
「起きてた・・・、ような気がする。」
『なにそれ。』
だんだん自信が持てなくなってきた。
俺の悪い夢かもしれないし・・・。
「今日、ちょっと学校帰りに病院行こう。」
『よくわからないけど、なっちがそういうなら。』
病院の先生に聞けば分かる・・・よな。
「んで、どうですかね、二五市先生。」
「んー、それは・・・、心因性の夢遊病だね。」
ミー子の主治医である二五市要先生は、そういった。
ミー子が夢遊病?
「嫌なことや、辛いことがあってストレスがたまって・・・、かな。」
「辛いこと・・・。」
「・・・。」
そんなの、一つしか思い浮かばない。
吉田のせいだ。
「心当たりがあるみたいだね。」
『なっち、私が説明する。』
「大丈夫か?」
「・・・(こくり)。」
「聞いても大丈夫なことかい?」
「・・・(こくり)。」
「席、外した方がいいか?」
「・・・(ふるふる)。」
首を振ると、ミー子は俺に近づいてきた。
そばにいてくれ、ということなのか。
『先日、私は学校の先生に襲われました。』
「それは・・・。」
『とっても、怖かったです。』
『腕をつかまれて、服を脱がされました。』
『胸も揉まれました。』
『でもその時、なっちが助けに来てくれね。』
『助かったと思ったや、顔を殴ららましあ。』
「・・・ぐすっ。」
最後の方は、文章もまともに書けてなかった。
ミー子は、泣き出してしまった。
この前のことを思い出してしまったんだろう。
「大丈夫だから・・・。もうあの先生はいないから・・・。」
そういうと、ミー子は俺をきつく抱きしめた。
もう大丈夫かと思っていたけど、全然そんなことはなかった。
「そうか・・・。そんなことが・・・。」
二五市先生は難しい顔をする。
「しばらくは、きっとこれが続くと思う。」
「そうですか・・・。」
しばらく続くのか・・・。
このままいくと、ミー子が寝不足で倒れてしまうかもしれない。
寝不足だろうが関係なくゲームをやるようなやつだから。
近くで、見てあげるしかないかなあ。
「これは、治るものなんですか?」
「そうだね。美衣さんにとっての不安要素を取り除いてあげることで元の生活が戻るかもしれない。美衣さんが、声を取り戻そうとするのと同じ感じだ。」
「そうですか・・・。」
つまり、今回のストレスでミー子はまた頑張ることが増えてしまったっということだ。
・・・俺のせいだ。
あのとき、ミー子を一人にしたから。
俺があの時トイレに行かずに帰れば、あんなことにはならなかった。
だったら、ミー子の夢遊病が治るまで、声が戻るまで。
俺がちゃんとそばで、見てあげるべきだ。
『私、病気だったんだ。』
帰り道、ミー子は少し落ち込んでいた。
まあ無理もないよな。
自分では覚えてないのにいきなり病気って言われるのはショックだろう。
『また、なっちに迷惑かけちゃうね。』
ミー子が少し申し訳なさそうにこちらを見てくる。
上目遣いだった。
「まあ、いまさら気にすることもねーよ。大丈夫、俺が見ててやるからさ。」
そういってミー子の頭に手を置くと、ミー子は目を細めた。
『あのさ。』
「ん?どした?」
『もしさ、寝てる間に何かあってもいけないしさ、しばらく、一緒に寝てもいい?』
ミー子はそう聞いてくるが、正直一緒に寝てって言われて断るやつはいないと思う。
その相手がよほど嫌いじゃない限り。
「ああ、いいよ。俺もミー子に何かあったらいやだし。」
『ご迷惑おかけします。』
「いいっていいって。」
はたして何日連続で、俺はミー子と一緒に寝るんだろう。
「えええ、美衣が夢遊病?」
「はい、そうみたいんなんです・・・。」
「そうなの・・・。」
ミー子の家に行くと、那空さんがいたのでさっき言われたことを話した。
「んー・・・、まあ、あんなことあれば仕方ない・・・かなー。」
「本当にすいません。俺がミー子から目を離したばっかりに。」
「いやいや、夏央くんは謝らなくていいわ。むしろ、よく美衣を守ってくれたわ。」
そういわれると、後悔がこみ上げてくる。
確かに、俺はあの時ミー子を守った。
ただ、あの時俺がトイレに行かなかったら、そもそもこんなことにはならなかった。
起きたことに対してもう何もすることはできないけど、それでも後悔は消えてくれない。
あれは、俺のせいなんだ。
「夏央くんが美衣のそばにいてくれたら、私はそれでいいわ。」
「那空さん・・・。」
「だってね、あの子夏央くんといるときは楽しそうなんだもの。声が出なくても、表情が変わらなくても、分かるわ。」
那空さんは優しい顔をして言う。
だけど、俺にはそこまでわからない。
本当に、ミー子はあれで楽しいのか。
しゃべれなくて、不便な思いをずっとして。
それで本当に楽しいんだろうか。
楽しいなら、それなりのものが見たい。
ミー子の笑顔が見たい。
それならやっぱり、ミー子の声が戻るまで、俺がそばにいてあげなきゃ。
「俺、自分で決めたんです。ミー子の声が戻るまで、そばにいてあげるって。」
「ふふっ、そっか。じゃあ、美衣を頼むわね。」
「はい!」
那空さんに言われて、俺はさらに気を引き締めた。
「今日はもう寝ようかな。」
『早いね。眠いの?』
「いや、明日は朝からバイトなんだ。あんまり遅く寝ると明日に支障が出る。」
『そういうことか。』
部屋の電気を消してベッドに入ると、ミー子もベッドに入ってきた。
「・・・。」
こうして寝るのも、もう慣れた気がする。
あんまり慣れるようなものでもないと思うけど。
「ん・・・。」
俺の左手が、温かいものに包まれた。
ミー子の手だ。
「んー・・・。」
微妙に意識してしまって、眠くなれない。
手汗かきそう。
「すー・・・。すー・・・。」
俺の横から、静かに寝息が聞こえる。
もう寝たのか、早いな。
俺も、早く寝ないと・・・。
「んん・・・?」
手が、引っ張られる感覚がした。
かなり頭がぼーっとするが、意識を集中させるとどういう状況か分かってきた。
ミー子が起きて、どこかへ行こうとしている。
俺の手を握りながら。
手に力を込め、俺はミー子を止めた。
体を起こし、ミー子を俺の方に向ける。
「・・・っ。」
ミー子と目があった。
いや、ミー子はおそらくこっちを見ていない。
それどころか、何かを見ているのかさえ怪しい。
ミー子をもう一度ベッドに寝かせ、様子を見た。
ミー子は、焦点の合わない目でこっちを見ている。
なんだか、ミー子とは別のものに見られている気がして、背中が少し寒くなった。
ミー子の頬をぺしぺし叩くと、
「・・・(びくっ)。」
大きな反応とともに、ミー子は起きた。
「・・・(きょろきょろ)。」
あたりを見回し、自分が今おかれている状況を理解しようとしている。
『もしかして、起きてた?』
やっと状況が飲み込めたのか、ミー子はケータイを起動し、俺に聞いてきた。
「まあ、起きてたな。大丈夫か?」
『体の方は何ともないよ。』
「そっか、それならいいんだ。寝れそうか?」
「・・・(こくり)。」
「そっか、じゃあ、おやすみ。」
『おやすみ。』
そのあとは、すぐに眠れた。
「おはようございます。」
開店前の喫茶店は、とても静かだった。
客いないんだから当たり前だけど。
「おー!絢駒君、なんだか久しぶりだね。」
一人で開店用意をしている店長が、俺に近づいてきた。
「すいません、バイト出れなくて。」
「ほんとだよー!停学なんて何やらかしたのよ?」
「まぁ・・・、ちょっと。」
「ちょっと?」
ああ、これ言わないといつまでも追及されるやつだ。
「教師を殴りました。」
実際は殴ったどころの話じゃないけど。
おそらく半殺しにした。
「えっ、絢駒君が!?」
「はい・・・。」
店長が信じられない、といった顔をしている。
「うーん・・・、何があったかは聞かないけどさ、右手も左手も、絢駒君にとっては商売道具なんだからね?」
「確かにそうですね。」
そうだ、右手とか怪我したらお菓子作れないじゃん。
次から気を付けよう。
まあ、もう人を殴るなんてことはないだろうけど。
「さ、絢駒君は厨房へ!・・・あれ?名札は?」
そういわれて、自分の胸ポケットの中に名札がないことに気付いた。
「い、家に忘れてきました・・・。」
「もー!何やってるのさ!・・・まあ、替えはあるからいいけど。」
店長が俺の替えの名札を取ってきてくれた。
「ありがとうございます・・・。次は気を付けます。」
「久しぶりだからって、いろいろ忘れちゃだめだよ?」
「肝に銘じておきます。」
名札を付けて厨房に入ろうとして、俺はあることに気付いた。
店長の名札は銀色のはずだ。
ここの喫茶店は店員一人一人名札の色が違う。
俺は青色の名札だったはず。
なぜ、店長が青色の名札をしているんだろう。
名前を見ると、店長のつけている名札には「絢駒夏央」と書かれていた。
そして、俺についている名札は銀色。
名前は「高塔小夜里」と書かれていた。
「店長!名札間違ってます!」
「え?あれえ!?なんで絢駒君が私の名札してんの!?返して!」
「店長が俺に渡したんでしょ!?」
もうすぐ開店時間。
二人ともなぜか大慌てで名札を交換した。
「マロンモンブラン足りなくなるよ!」
「何で今日はモンブランが異常に売れるんですか。」
モンブランだけやたらなくなる。
作っては売れ、作っては売れの追いかけっこ状態。
作らないと売り切れる・・・!
ものすごい時間との勝負だった。
「いやー、ヤマ越えたかな?」
「午前中やばかったっすね・・・。」
ずっとモンブランを作っていた。
交代制で厨房をほかの人に任せ、俺は店長と一緒に昼食をとっていた。
「よくぞあきらめなかった、絢駒君。」
「いや、諦めたら何のためにバイトしてんのかわからないですよ。」
「そうねー、諦めたら減給だね。」
「こええ。」
「普通じゃない?」
まあ、そうだよな。
働かない人に金なんか与えられないもんな。
「絢駒君、今お金貯めてるんでしょ?」
「ええ、まあ。」
ミー子と旅行に行くために。
まあそれだけじゃないけど。
「だったら、バンバン働かないとね!」
「そうっすね・・・。」
テスト以前に、バイトで金をためないと旅行に行けない。
世の中金だもんなあ・・・。
「あ、そういえば、夏のメニュー考えてなかったよ。」
「限定メニューですか?」
「そうそう。前のキウイタルトで成功したから、また限定メニュー出してくれーってお客さんがね。」
「そうなんですか・・・。」
限定メニューか。
そうだな・・・、また夏のフルーツでも使って何か作ってみようかな。
その時はミー子にも手伝ってもらおう。
「今回は従業員全員に呼びかけるよ!アイデアを一つでも多くね!」
「集まりますかね?」
基本、新メニューの考案は店長と厨房担当だ。
ウエイターに呼びかけても、新しい案なんて来るかな?
「まー、出ればいいかなって感じかな。」
「そうですか。」
あんまり、期待はしてないようだ。
昼を過ぎて休憩から戻ると、店内はがらんとしていた。
特に厨房でやることもないので、ホールで店長と話していた。
「やっぱ昼過ぎると人かなり減りますね。」
「でもあそこに人が。」
店の一番端、陽の当たる場所に、一人のお客さんがいた。
なにやら原稿用紙に熱心に書いている。
コーヒーは飲みかけケーキも食べかけだ。
物書きさんかな?
「静かな店にピッタリな感じだね、ああいうの。」
確かに、アニメとかで見るかもしれない。
「あ、絢駒君の彼女だ。」
「はい?」
店の入り口の方を見ると、ミー子が入ってきたのが分かった。
「いや、だから彼女じゃないですって。」
「またまたー。」
店長がにやにやしている。
絶対信じてくれてないな。
「私が注文取ってくるよ!」
店長がいたずらっ子のような目でミー子に向かっていく。
何するつもりなんだ。
何かするのかと思ったが、以外にも店長は普通に注文を取ってきた。
「いやー、あの子の注文取ったのは初めてだけど、ほんとに何もしゃべらないね。」
「しゃべれないっすからね。」
「あ、そうなんだ。」
知らなかったのか。
ああ、先輩にしか言ってなかった気がする。
「んじゃ、モンブランとコーヒー、絢駒君が持って行ってあげてね。」
「わかりました。」
モンブランとコーヒーを持って、ミー子の席の方に向かう。
「お、お待たせしました。モンブランと、ブルーマウンテンになります。」
『ぎこちないね。』
「うっせ。ウエイターやったことねーんだよ。」
『お客さんに対して何たる口のきき方!』
「こいつめんどくせえ!」
いや、ただ面白がっているだけだと思うが。
『このタルトもなっちが作ったの?』
「いや、それは店長。俺はモンブランだぜ。」
「・・・(もぐもぐ)。」
スルーされた。
ああそうだよ宣伝だよ!
また今度来てモンブラン食ってけよ!
店長に認められた腕前だぞ!
『ここのスイーツは美味しいね。』
「そうか、それならよかった。」
『ほかの人にも紹介しとくね。』
「祈木だけは内緒な。」
「・・・?」
ミー子が何でとでも言わんばかりに首をかしげた。
「あいつ、俺が働いてる店を探してるみたいだから、答えを教えないでやってくれ。」
「・・・(こくり)。」
分かってくれたようだ。
祈木にはまだ見つかっていない。
というか、俺たちの家から最寄駅の木通駅からはだいぶ離れているのでおそらく見つからない。
あいつ鳶ヶ谷に住んでるし。
『あれだね、また今度一緒に作りたいね。』
ミー子がそんなことを言った。
俺にとってはうれしい言葉だ。
「それなんだけどさ、夏の新メニューを作ることになったから、またミー子に手伝ってもらっていいか?」
『もちろん。』
ミー子が右手の親指を立てた。
二人でやればアイデアも増えるし、作るのも早くなる。
夏の新メニューなら、今月中に考えちゃったほうがいい。
来月はもう7月だからなあ、あ、テストだ。
とりあえず、まだテストまでの時間はある。
そしたら、今日あたりからもう考えた方がいいかな。
「じゃあ、なるべく早く頼むよ。」
『今日の夜からやろう。』
「やる気が感じられる。」
『メニュー考案とか好き。』
ここの従業員じゃないんだけどな。
「じゃあ、よろしく。俺厨房に戻るわ。」
『頑張って。』
「おう。またあとでなー。」
「・・・(ひらひら)。」
厨房に戻ると、ミー子と話していた分、仕事が増えていた。
長話しすぎた・・・。
「あ、絢駒君のお姉さんだ。」
「え!?」
お姉さん!?
もしかして、冬姉か!?
先輩、残念ですね。
「あの茶髪の人、絢駒君のお姉さんだよね?」
店長が指した方向に、俺の姉がいた。
いや、義姉か。
「そういえば、冬ちゃんは最近来ないねえ。」
「仕事、忙しいそうで。」
「あ、そうなんだ。じゃあ、いつでもおいでって言っておいてね。」
「わかりました。」
この喫茶店は、高校時代冬姉が通っていたところだ。
冬姉はいつもマロンモンブランを頼んでいた。
「最近あの人もよく来るよ。」
「そうだったんですか。」
春女さん、よくここに来てるのか。
俺がバイト中に会わないのは、大学の帰りに来てるか、来ても俺が気付いてないかだろう。
ちょうど今はヒマだし、俺が注文の品を持っていこう。
「お待たせしました。いちごのタルトと、キリマンジャロになります。」
「あ、夏央くん!ありがとう!」
俺に気付いた春女さんが笑顔でタルトとコーヒーを受け取った。
キウイタルトの好評を受けて、この喫茶店にはタルトのメニューが増えた。
まだいちごのタルトとブルーベリーのタルトだけだが。
「はむっ・・・。うん、初めて食べたけど、酸味がちゃんときいてておいしいね。」
「店長に言っておくよ。」
「店長って、あのショートカットの女の人?」
「そうそう。」
「キレイな人だね。」
「んー、まあ、そうだね。」
別にそれ目当てでバイト始めたわけではないが。
「夏央くん、また新しいメニューとか考えるの?」
「うん。夏限定のメニューを考えるよ。」
「期待してるね!」
春女さんが目を輝かせて俺の手を握った。
そ、そんなに期待されても・・・。
採用されるかわかんないし。
「夏央くん、普段から家でも―――」
「あれー?ティアラちゃん?」
突然、店内にそんな声が響いた。
春女さんの席の前まで来たのは、いかにも私たちギャルです、というような2人組。
しかもにやにやしていて非常に気持ち悪い女たちだった。
その顔を春女さんが確認した瞬間、
「ひっ・・・!」
春女さんの顔が引きつった。
それより、ティアラちゃんってなんのことだろう。
「あれー?ティアラちゃん私たちのこと忘れちゃった?」
ギャルの背の高い方が春女さんに近づく。
どうやら、ティアラちゃんというのは春女さんを指しているらしい。
「し、知りません。人違いじゃないですか?」
「えー?なにいってんのー?絢駒輝冠ちゃんでしょー?」
「・・・!」
ギャルの身長が低くてケバイ方も春女さんに近づいていく。
絢駒、ティアラ・・・?
そんな名前、聞いたことないぞ・・・?
「わ、私は絢駒春女です!」
「えー、でも、絢駒なんて珍しい苗字、ティアラちゃんぐらいっしょ。」
春女さんの顔が青ざめていく。
「あれ?ティアラちゃん、彼氏いたの?」
俺の方を見たブスのギャルがにやにやしながら言う。
とんでもない、俺は春女さんの彼氏なんかじゃありませんよ。
「俺は弟ですが。」
「え、ティアラちゃん弟いたんだ!?わーマジウケルわー。」
ウケると言いながらまったく笑っていない。
なんだこいつら。
「あの、俺もティアラちゃんという方は存じませんね。多分人違いかと思います。」
「えー、でも、なんかすっごいティアラちゃんに似てると思うんだよねー。」
「いや知らないですって。」
「ふーん、まあいいや。いこ。」
「そーね。またね、ティアラちゃん。」
ギャル2人組はきゃいきゃい言いながら別の席に座った。
お前らうるせーよ。
きゃいきゃいきゃいきゃいサルかよ。
喫茶店なんだから静かにしてろよ。
少なからずいたお客さんも眉をひそめている。
あーいうのが社会不適合者って言うんだな。
「じゃあ、私、帰るね。」
「え?」
見ると、さっきまであったタルトはなくなり、春女さんは帰る準備をしていた。
「また、来るね。」
そういって、金を払った春女さんは青ざめた顔のまま、駆け足で帰っていった。
ティアラちゃんとはなんのことだろう。
俺は気になって、仕事に手がつかなくなっていた。




