サプライズ練習中
「そういえばそろそろなっちの誕生日ね。」
「ああ、そういえばそんな時期だな。」
すでに暦の上では10月に突入している。
「でもあれだよね、なっちって誕生日祝われるのそんなに好きじゃないよね。」
「それはミー子もだろ?」
「そうなのよね。」
祝われること自体はいいんだけど、年取ったんだなって感じがなあ。
「でも!!」
「うわあびっくりしたあ!!」
後ろから来た京介がいきなり大きな声を出した。
「俺も陽花も進路決まってるわけだし、誕生日込みでみんなでお祝いしようぜ?」
「そうだな・・・それもよさそうだな。」
祝うにはいい理由だ。
「じゃああれだな!夏央と美衣ちゃんのケーキを期待しないとな!」
「あれ、俺の誕生日も込みで祝ってくれるんじゃなかったっけ?」
「これから時代を担っていくパティシエになるんだろ?練習練習!」
「釈然としねえなあ・・・というかハードル上がりすぎでは?」
「私たちが時代を担っていく・・・?」
え、なに?
世界一にでもなるの?
「というわけで楽しみにしてるぜ!」
ぐっと拳を握る京介。
「京介くん、何か思惑があるね?」
「いや、あいつ甘いもの好きじゃん?夏央と美衣ちゃんが作ったケーキとか出てきたらすげえ喜ぶだろうなあって。」
「なるほど、彼女を喜ばせたいがためのケーキということですね?」
「まあ、そういう感じ?」
「それは鈴波さんから私たちに対する依頼ということでよろしいですね?」
「ん?」
京介の眉が上がる。
ミー子さん、機転を利かせてきたね。
「え、どうしたの急にかしこまって。」
「私たちは大切な人へプレゼントするための特別なケーキ製作も承っております。」
「なんか美衣ちゃんが悪い顔してるぞ!?」
これはあれだな、報酬を要求するパターンだな。
「可能な限り京介くんの希望には寄り添うよ?報酬はいただくけどね。」
「くっ・・・。」
「ヘッヘッヘ・・・さあどうするんだ?京介さん。」
「ま、まあ俺だけ楽しようなんておかしいもんな?その要求・・・飲もうじゃないか。」
「イエーイ!」
ミー子が普段は出さないような太く低い声を出す。
「よし頑張るぞなっち。」
「ますます俺の誕生日感なくなったな?」
祈木のためのケーキじゃねえか。
「なっちの誕生日プレゼントは別に用意するから、期待してていいよ!」
「おう今言うのかそれ。」
「サプライズにするべきだった!」
いいけどね、嬉しいし。
「さてさてぇ?京介くんはどんなケーキを陽花にお見舞いしたいのかなあ。」
「お見舞いって言うとパイ投げか何かに使われそうだな。」
「こっちから依頼すんのにそんな使い方するわけねえだろ!!」
そりゃそうだ?
ミー子さんの言い方が悪いわ。
「どんなケーキがいいのよ。」
「そうだなあ・・・陽花の好きなものか。」
「祈木ってお菓子ならなんでも喜ぶような気がするんだけど。」
「陽花はどっちかって言うと洋菓子の方が好きだな。」
和菓子を作れるかと聞かれると怪しい。
まあこれから練習していくってことで・・・。
「俺、よく考えたら陽花がどういうのが好きなのかあんまりよくわからないんだよな・・・。」
「彼女の好みくらい把握しておくんだよ京介くん。私はなっちの好きなものも心得ております。」
「キミら付き合い長いじゃない。俺と陽花ってまだ出会って2年ちょいなんだぜ?」
それもそうか。
好きなものくらい把握しててもいい気がするけど。
「私の経験上陽花はチョコレート系が好きなはず。」
「確かにそうかも。じゃあチョコレート系でお願いしようかな。」
「チョコレート系のケーキとなると・・・ガトーショコラは前に作ったな。」
「別のチョコレートケーキとなると・・・ブッシュドノエルとか?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね・・・。」
京介よ、知らぬのか。
「それだとクリスマス感満載じゃないか?」
粉砂糖なんかかけた日には季節を錯覚してしまいそうだ。
「なんかあれだ、お店でしか見たことないやつにしてほしい。」
「ざっくりした希望だあ・・・。」
ガトーショコラ以外のチョコレートケーキで店で売ってそうなやつ・・・。
考えていたら、肩に手が置かれた。
ミー子だ。
「いいこと思い付いたぞ。」
「そうなの?」
「うん。多分陽花も京介くんも満足するはず。」
「おーけー。」
「何作るんだ?」
「せっかくだから京介くんにも秘密。」
「予算が分からないから不安なんだけど・・・。」
「あ、そっか。じゃあ教えるよ。」
秘密の決壊は早かった。
「これなんだけど、どう?」
ミー子が見せてきたのは、長方形のチョコレートケーキ。
スポンジとクリームが層を成し、一番上はチョコレートでコーティング。
オペラだ。
「それ、ビターテイストじゃないか?」
「ああ、陽花が期待するような甘さではないかも・・・。」
ミー子がケータイを下げる。
「陽花はガトーショコラとかでも好きだし大丈夫じゃないかな?スイーツ全般好きだと思う。」
「それなら大丈夫かも?」
オペラはコーヒーの香りとラム酒が効いたケーキだ。
今回は高校生相手なわけだし、ラム酒は使わない方がいいかもしれないけど。
「素人目からすると難しそうだけど大丈夫なのか?」
「何言ってんのさ京介くん。私たちは進学したらこれが目じゃないくらい難しいのに取り掛かるかもしれないんだよ?」
「確かにそうか・・・。」
実際に難しいものに取り組むかどうかは分からないけど、可能性はもちろんある。
そもそもマカロン作りとか結構難しいし・・・。
オペラはまあ作ったことないけど、まずは練習あるのみだ。
「材料代は作ってから京介くんに請求するね。」
「りょーかい。いいもん頼むぜ?」
「もちろん、私たちはプロを目指してるわけですからね。」
「帰ったら練習開始だな。」
「うん。なっちの家でいい?」
「おう、帰りに買い物していこうぜ。」
初めて取り掛かるお菓子っていうのは楽しみがある。
味見は・・・春姉にしてもらおうかな?
父さんと母さんも帰ってきていたら味見してもらおう。
「練習だから金箔とかなくていいよね?」
「いいと思うよ。」
練習だからそんな装飾まで完璧にしなくてもいいだろう、きっと。
いや、本当は本番で十全の力を出せるように練習だって完璧にした方がいいんだけどさ。
金箔ってまあ高いわけではないけど安いわけでもない。
お金のやりくりは大切なことだからね・・・。
「夏央、期待してるぜ?」
「ミー子と一緒にやるんだからミー子にも言え。」
「美衣ちゃんお願いします!」
「俺だけにプレッシャーかけようとしてるな?」
「どう作ろうか?」
「クリームとかガナッシュとかシロップとか段階踏んで作らないといけないから、手分けしようよ。幸いにも今ここにいるのは私となっちの2人だよ。」
「確かにそうだな。」
生地を作るか、それともシロップやクリーム類を作るか。
「じゃあ今日はなっちが生地作ろ。2回目練習するときは私が作るから、どっちが上手いか勝負だ。」
「お、なるほどね?俺負けねえよ。ミー子はクリームの類いを頼む。」
「了解ナリ。」
コロ助かお前は。
「選択肢が3つもあるわけだけど、私は何から手を付ければいいのかな。」
「んー、生地に塗るわけだし、コーヒーシロップから作ればいいんじゃないか?」
「じゃあそれであってみよう、早さも重要よ。」
生地の作り方・・・は普段とあまり変わらない気がする。
ボウルに卵とアーモンドプードル、粉砂糖を入れる。
ハンドミキサーで混ぜたら薄力粉を入れながら混ぜる。
それじゃ次はメレンゲを作って・・・。
Side ミー子
「これ、結局生地を焼くのに時間かかるから何か手伝うよ。」
なっちが私の進捗状況を見て言う。
そうだなあ。
「じゃあコーヒーシロップをお願い、ガナッシュももうできそうだし、あとはクリーム作るだけよ。」
「おう、分かった。」
とっても気が利きますね、やっぱりなっちは優しい。
コーヒーシロップはすぐできちゃうけど。
案外時間かからないかも?
ガナッシュもできたし。
じゃああとはバタークリームを作るだけだ。
やっぱり手分け作業すると早いねえ。
「じゃあ熱した砂糖水と卵黄を混ぜて、ハンドミキサーで混ぜていきます。この時、熱が取れて白くなるまで泡立てましょうね。」
「料理番組かな?」
「素敵なツッコミありがとう。」
もちろん話している間も手は止めません。
「あ、グラサージュ作ろうか。」
「お、忘れてた。なっちお願いします。」
そうだ、最後の段階を忘れていたね。
大丈夫、本番で失敗しなければ大丈夫。
チーン!
「お、なっちさん、生地が焼けたようですよ。」
「オッケー。じゃあ生地冷まして、グラサージュができたら組み立てだ。」
「組み立てってなんかおもちゃみたいだね。」
「いやあ、7層とか作るわけだし組み立てと呼んでもいいのでは?」
確かに。
「さあ準備はできた、これよりオペラの組み立て作業に入るよ。」
「よっしゃやるぜなっち。」
まずなっちが生地を三等分に切る。
「えーと、次は・・・?」
「まずは生地に溶かしたチョコレートを塗ります。」
「あ、はい。」
なっちが生地にチョコレートを塗っていく。
「塗ったらチョコの上にOPPシートを貼るよ。」
「よしきた。」
OPPシートを貼り、生地をひっくり返す。
これでチョコレートが下になった。
「今度は私の番だ!」
生地の上にコーヒーシロップを塗っていく。
そしてシロップを塗った生地の上にバタークリームを塗っていく。
バタークリームもコーヒーが入れてある大人のクリームだ。
「じゃあこの上に生地を乗せればいいんだな?」
「そうそう。」
クリームの上に2枚目の生地を乗せる。
そしたら先ほどと同じように生地にシロップを塗る。
次は生地の上にガナッシュを塗る。
「なっち、ちゃんと平らにするんだぜ。」
「もちろん、平らにしないと見栄えが悪いもんな?」
「見栄えが悪いオペラなんて・・・そんなのオペラじゃないわ!」
かっこ悪すぎてとてもじゃないが人前に出せるものじゃない。
結構神経使うけど、そういうのが求められるのがお菓子作りだ。
ガナッシュを塗ったらまた生地を乗せ、シロップを塗り、上にクリームを塗る。
平らになったら、冷蔵庫で冷まして固まるまで待つ。
「よし、じゃあちょっと待とうか。」
「おっけーい。」
Side夏央
「誰に食べてもらおう。4分の1くらい家に持って帰っていい?」
「もちろん。あとは父さん母さんと春姉、俺とミー子も試食するとして・・・。」
「そしたら六等分でいいんじゃない?次練習するときは他の人に渡そう、紗由さんとか。」
大騒ぎしそう。
「でもあれじゃね、六等分した時に限って冬姉帰ってくるんじゃね?」
「まあそれは次の機会に。」
「冬姉キレそう。」
そんなの見たら絶対笑っちゃうけど。
「どんな感じでできるだろうね。」
「レシピ通りに作ったからよく見るステレオタイプのオペラになると思うよ。」
「おいしくできるだろうか。」
「自信ない?」
「そういうわけではないんだけどね。」
何かのマンガだかアニメだかで見たことがあるけど、作ったものに対して自信がある人はわざわざおいしいか聞かないって言うのがあったな。
どちらかというと評価が気になっちゃうから聞いちゃうことはあるけどな。
・・・いや、評価が気になってる時点で自信があるってわけではなくなるのかな?
「まあでも、おいしいって言ってもらえると嬉しいよね。」
「それは間違いない。言われてうれしくない人なんていないよ。」
春姉とか紗由さんはもうニコニコしながら食べてくれるからわかりやすくていいんだけどな。
そういう意味では評価を下すまで表情が全然変わらない店長とかは若干緊張する。
「多分一番わかりやすいのは紗由さんだよね。というか、なっちの周りはわかりやすい人多いね。」
「確かにな。まあ那空さんの評価が甘くないからね?」
「私にスパルタで料理を教えたのはお母さんだからね。あの時は厳しかった……。」
ミー子が遠い目をする。
ああ、そういえば中学生くらいの時にミー子から教わった時、後ろで仁王立ちしていた那空さんがやたら厳しかった気がする。
逆に言えば俺の母さんは評価が甘めだ。
おいしきゃ絶賛しようとするからな。
もし那空さんがいなかったら成長が止まっていたかもしれない。
「相沢さんとか案外厳しかったりして。」
「食ってる途中に表情変わらなそうだな。」
「淡々と評価を下してきそう。」
「そう考えると俺らが専門学校に進学した後の店長とか相当厳しいんじゃないか。」
「確かに・・・。」
同系職には厳しそうだ。
「ん、誰か帰ってきたのかな。」
ミー子が外を見る。
え、何も気づかなかったけど・・・。
「ハルさんだね。」
なんでわかるんだよ。
「いいかい、この家に入ってくる人の中で一番足音が軽いのがハルさんさ。」
「なるほど・・・てかそもそも帰ってきた音すら聞こえなかったんだけど。」
「それは耳が悪いのかもしれないね。」
「辛辣ゥ!」
でも確かに家の扉が開く音が聞こえなかったってやばい気がする。
『なつくん、美衣ちゃんただいまぁ。』
廊下の方から春姉の声が聞こえる。
「お帰りー。」
「おかえりなさーい。」
もうミー子が俺の家にいるのが当たり前みたいになってるな。
普段の光景だけど。
『入るよー。』
そういって春姉が俺の部屋に入ってきた。
「なんかいい匂いするけど、何か作ったの?」
「秘密。」
「です。」
「教えてくれてもいいじゃん~!」
「チョコレートとコーヒーの匂いから連想すればいいんじゃないかな。」
「分からないからね!?」
まだまだだね。
ピロン♪
なんだ、誰からだ。
ケータイを見ると、冬姉からの連絡だった。
『今日仕事終わったら家に行くからねー。』
「おう、やっぱこういう時に限って来るんだな。」
「冬華さん?」
「そう。仕事終わったら寄るってさ。」
「どうしようか?」
「考えとこう。」
「なになに?どうしたの?」
「秘密。」
「だよ。」
「なんでよー!」




