逃避行デート 2
「おお、なかなか寒いな。」
「・・・薄手の長袖は失敗だったかな。」
洞窟内の気温の低さに思わず腕をさする。
「まあ、耐えられないわけではないし、俺は大丈夫かな。ミー子は?」
「私も一応大丈夫だよ。」
「そうか、どうする?」
「行こう。せっかくのデートだしね。」
ミー子とともに洞窟内を進んでいく。
「ミー子見てみろよアレ。めっちゃ古い井戸があるぞ。」
「ああいうのいいよね。水をくみ上げてみたい。」
ここではできないみたいだが、俺もああいう古い井戸は好きだ。
確かポンプ式の井戸って言うんだっけ。
「こう、めっちゃ激しく水をくみ上げたいよね。」
「いたずら的な思考はやめようか。」
水は大事だからね、遊んでいたら怒られてしまう。
「ここ、しゃがんで歩かないといけないのか。」
「腰痛めないようにね。」
「さすがにこの年でなったら悲しいぞ・・・。」
まあでも中腰は危険なのでちゃんとしゃがんで歩く。
「うーん、割と寒い。」
「ミー子、大丈夫か?」
「なっちが長袖のコートを着てたらドキドキイベント突入だね。」
「そんなことが言えるなら平気だな。」
あれか、彼氏が彼女に上着を貸してあげるやつか。
「まあでも、冬にジョギングするときはもっと寒いし、平気だね。」
「走ってればだんだんあったかくなってきそうだけどな。」
「そうね。まあでもこの程度平気よ。」
割と寒いって言ってたのに。
「なっちこそ大丈夫?」
「寒いっちゃ寒いけど全然平気だよ。」
天井の低いトンネルを抜けると、下へ向かう階段が現れた。
「なっち、滑りやすいから気を付けてね。」
「それ、立場が逆じゃないか?」
「ふっふっふ。」
俺がミー子に言ってあげればよかった。
「私はイケメン。」
「何言ってんだ、俺から見れば可愛い女の子だよ。」
「・・・ま、周りに人いるんだからやめてよ。」
ミー子の顔が赤くなった。
やったぜ。
「見てなっち。地獄穴だって。」
ミー子が指さした方を見ると、どこまで続いているのかも分からないような深い穴があった。
「江の島までつながってるんだって。」
「いやさすがに・・・。」
確かに看板にはそう書いてあるけども、ここから江の島って、距離ありすぎでは?
「飛び込んでみる?」
「自殺する気?」
「冗談ですよ。」
どこまで続いてるかは気になるけど、さすがに自分が飛び込まなくてもいいんじゃないかな。
「「・・・おおお。」」
さらに進むと、俺たちの前に氷の壁が現れた。
「こりゃすごいね。」
「すげえな。」
「ここなら、いろいろ保存できそうだね。」
「ああ、生ものでも安心だな。」
「いやさすがに生ものはダメでは?」
「魚の冷凍保存くらいは大丈夫だろ。」
「うーん・・・?」
天然の冷凍庫で生ものの冷凍が可能かどうかは不明だけど。
「なっち、うしろ。」
「うん?」
言われた通り後ろを見ると、すごい光景が広がっていた。
何だこの氷の柱は・・・。
「魔法か何かかな。」
「ミー子の目が輝いてやがる。」
「これはあれだね、パラロスでいうラファエルの能力だね。」
「普段使わないから分からねえな。」
メタトロンは火を使うし。
「やっぱりここで手を広げたら氷属性の魔法を使ってるように見えるよ。」
「見えるな。そこに立って。」
「うん?」
ミー子を氷の柱がたくさん立っているところの近くに誘導する。
「手広げて。」
「はっ!」
その瞬間、シャッターを切る。
「ほらね。」
「手が早いね。私も乗っちゃったよ。」
手を広げたミー子の写真は、やっぱり氷属性の魔法使いみたいだった。
「ほら、私がやったんだから次はなっちの番だよ。」
「お、俺は別にいいぞ?」
「だめ。」
「はい。」
ミー子にぐいぐい引っ張られ、氷の前まで連れて行かれる。
「そこでキメ顔をして右手だけ広げる。」
「なんか細かくない?」
「ボスキャラっぽさ出していこう。」
「ちょっと何言ってるか分からないですね。」
「そこで左手で顔を押さえる。」
「はい。」
ミー子が乗っているし、さっき俺も撮っちゃったので逆らえない。
「はい、そこで悪い顔!」
「ヘッ。」
カシャ。
どんな写真になったんだろう。
ちょっと不安だ。
「タイトルは『キミたちはここで終わりだよ。』で。」
「なるほど。」
まあそんな感じがしなくもない。
これでイケメンならいい感じの写真になってたかもしれない。
あとセリフのわりに服が軽装すぎるのではないでしょうか。
「二次元には敵わないな。」
「一緒にしちゃだめよ。」
「そうだな。」
「よし、満足した。行こう。」
「もう帰る?」
「うん、もう結構寒くてね。」
「先に言えよ。大丈夫か?」
「大丈夫。戻ろう。」
「次来るときがあったら寒さ対策して行こうな。」
「そうね。」
氷穴を出てバスに乗り、河口湖駅へ戻る。
「なっち、最後に行きたいところがあるよ。」
「おう、どこでもいいぜ。」
「まずは駅から移動します。」
「オーケー、どの駅まで行くんだ?」
「富士山駅です。」
「登るのか!?」
「さすがにこの時間からはね・・・。」
違うらしい。
「バスで大きな神社まで行くよ。」
「神社ね、行こうじゃないの。」
「行きましょう。」
「富士山駅到着ね。」
「割と近いんだな。」
「このままバスで浅間神社まで行くよ。」
「よしきた。」
神社は本当に近かった。
「雰囲気あるな。」
「・・・ここ、恋愛の女神がいるらしい。」
「へえ、恋愛ね。まさか?」
「え、浮気じゃないよ?」
そんな心配はしてなかったけど。
「見てなっち、手水舎。」
「龍の口から水が出てやがる。」
「富士山の雪解け水らしいよ。」
「なんかパワーありそうだな。」
「なっち訪問販売とか引っかからないようにね?」
「え、いま俺にそんな要素あった?」
パワーがありそうってとこ?
別に変な宝石のブレスレットとかにパワー感じたりしないよ?
「さてなっち、手水の作法は知ってるね?」
「知ってるけど教えて?」
「えー?仕方ないなー。」
なんか嬉しそうなミー子がかわいい。
「じゃあはい、まず右手で杓をもって、手水を掬ってください。」
「はい。」
「まず左手を清めて、同じ所作で逆の手も清めてください。」
「はい。」
水超冷てえ。
まだ若干暑い季節だけど、瞬間的に体表の温度が下がった気がする。
「・・・(びく)。」
ミー子も冷たかったようだ。
いや、ほんとに冷たい、ほんとに。
「じゃ、じゃあ、杓を右手に持ち替えて、左手に手水を溜めて口に含むよ。」
「はい。」
口の中が冷たい!!
知覚過敏の人これダメそう。
えっと、音を立てないで口を漱いで、静かに吐き出すと。
「はい、じゃあさっきと同じ所作で左手を清めてください。」
「はい。」
「最後に、椀の部分が上になるようにして、柄の方に水を垂らさせて洗います。」
「はい。」
「杓を静かに元の位置に戻して終わりです。」
「はい。」
「知ってるんだよね?」
「うん。」
「私やる必要あった?」
「あったあった。」
「あった・・・?」
「なっち、これ夫婦ヒノキって言うらしいよ。」
「へえ。」
「仲良しに見えない?」
「ん~・・・。」
途中で幹が2つに分かれてまたつながっている。
一回別れてまたよりを戻したのかな?
「これあれだね、くっついてるところを縦に切りたいね。」
「なんということでしょう。」
こいつ、暴力的だ。
歩いて神社の本宮へ向かう。
「今日はあれだね、すでに結構歩いたね。」
「疲れたか?」
「今は平気。多分家に帰ったらどっと来るタイプだと思う。」
明日ベッドで突っ伏してそう。
「お、見えて来たね。」
「雰囲気あるな。」
「恋愛の神さまがいる神社だけど、何をお祈りする?」
恋愛・・・。
え、俺ミー子と一緒にいるならそれでいいんだけど。
「新しい彼女を作りたい?」
「まさか。」
「私もなっち以外の彼氏はいらないかなあ。」
「でもあれじゃね?こういうこと言ってる奴らに限って別れてお互い別の相手を作って幸せに生活するんでしょ?」
「悲恋物のドラマかな?」
「多分お互い好きなまま別れるんだろうな。」
「そんな感じの歌なかったっけ。」
「どれだろう、声を枯らして叫ぶ感じの曲しか分からないや。」
「それお互い好きなまま別れるやつだっけ?」
違かった気がするけど。
「んー、私たち別れられるかなあ。」
「というと?」
「いや、なんだろうな。お互い一緒にいた時間がすごく長いじゃない?」
「そうだな。」
多分世間一般でいう幼なじみよりも長く一緒にいるんじゃないだろうか。
「隣になっちがいるっていうのが自然すぎて、新しいパートナーができたとしてもしっくりこないのではないだろうか。」
「なるほど。」
一理あるね。
「だからあれだね、お祈りは私たちが離れないようにってことを祈ろう。」
「そうだな。」
「今日は楽しかったね。」
「そうだな。」
浅間神社から出た俺たちは、富士山駅へ戻った。
もういい時間だし、そろそろ帰ろうということになった。
「多分進学したら遊ぶ時間減るだろうし、今のうちに遊んでおこうね。」
「確かにそうだ。」
パティシエを目指すとあれば、遊んでいる暇なんてほとんどないだろう。
今はある意味とても大切な時間だ。
「あれ、なっちいつの間に特急券取ったの。」
「ミー子が休んでる間にな。これで新宿まで一発だぜ。」
「かっこいい。」
河口湖から来た特急が駅に停車する。
「さて、帰ろうか。」
「うん。」
「ダメだなっち、せっかくの特急だけどねんむい。」
「いいんじゃないか。そういうのができるのが特急だよ。」
「すまんのうなっちさんや。」
「眠いなら寝ときなさいやばあさんや。」
「誰がばあさんだ。まだ17だぞ。」
ミー子が目をキリっと見開く。
ただしそれも長くは続かない。
「ほーれよしよし、寝ときんしゃい。」
「んぐぅ・・・。」
ミー子が目をつむる。
すでに外は少しづつ暗くなってきている。
さすが特急だ、速い速い。
それになんだか特別感もあっていいね。
「すぅ。」
ミー子は電車に揺られてすでに寝てしまっている。
「・・・。」
改めて考えると、ミー子の声が戻ってよかったなあ。
そういえば、声が戻ってから初めてのデートかな。
本当にいろいろあったけど・・・。
「んふふ。」
寝ながら笑っているミー子。
なにか夢を見ているんだろうか。
幸せそうで何よりだ。
「ただいま。」
「お帰り、夏央。」
ミー子を家まで送り、自分の家へ戻った。
「あんた学校サボってたんだってね?」
「どこからその情報を得た・・・。」
「そりゃあ、京介くんのお母さんによ。」
「京介め・・・。」
母親に話しやがったな。
そこまでは止められなかったか・・・別に口止めしようとしていたわけじゃないけど。
「まあいいけどね。そんなこと学生のうちじゃないとできないんだからね?」
「はい。」
「あと、専門学校に行ってからそんなことしたら学校辞めさせるからね。」
「はい。」
やりたくて行ってるのにサボったらそりゃあな。
こういうのは今回きりだ。
「それで、どこに行ってきたの?夏央のことなんだから、どうせミーちゃんと一緒なんでしょ?」
「ああ、河口湖の方まで行ってきたよ。あの、富士山の近くの。」
「なかなか距離あるわね・・・ちゃんと出かける時はお母さんにどこに行くかくらい言っておきなさい。」
「はい。」
さすがに何も言わずに出かけるのはまずいか。
「学生のうちは楽しむのは大切。でも親からしたら自分の子がいつの間にかいなくなってるしどこに行ったのか分からないっていやでしょ?」
「そうだね。」
「だから、出かけるのはいいからちゃんと行先だけは教えて。まあできれば何時に帰ってくるのかもね。高校卒業するまででいいから。」
「分かった。」
高校卒業するまでか。
割ともうすぐじゃんか。
「そして、月曜日からはちゃんと学校に行くこと。またサボっちゃったらサボり癖がついちゃうからね。お母さんさすがにそれは許しません。」
「はい。」
ここは素直に従った方がよさそうだ。
次の日学校に行くと、珍しく早く学校に来ていた京介がニヤニヤしながら近づいてきた。
「よう夏央!みんなにぶん投げて彼女といった旅行はどうだった?」
「最高だったよ。」
嫌な言い方しやがって。
まあぶん投げたのは本当だけど。
「ヘイヘーイ、どうだったのよBOY~。」
「教えてちょうだいよー。」
いつものように近づいてくる秋島と五十嵐。
そしてその様子を見ている相沢。
あいつちょっとしたら絶対混ざってくる。
というかそもそも秋島さんも文化祭休んでますよね。
「それじゃあね。」
適当にあしらうと、唇を尖らせながら秋島と五十嵐が席に戻った。
「・・・。」
入るタイミングを逃がしてしまった相沢がつまらなそうな顔をした。
そうそう、俺はそれが見たかったんです。
「よしよし。」
ミー子が相沢を撫でる。
「あらやさしい。今日から私の彼女にならない?」
「さよなら。」
「鏡崎さぁぁぁん!!」
コントかな?
「美衣ちゃんなんかいい写真ある?」
「なっちがアブソリュート・ゼロを使う写真があるよ。」
「アブ・・・なんだって?」
氷属性の大魔法か。
今それ知ってる人いるのかな。
「ほら見てこれ。」
「おっ、夏央が氷魔法使ってる。」
「タイトルは「キミたちはここで終わりだよ。」です。」
「なるほど?」
多分京介分かってない。
ゲーセンのゲームはやってるイメージあるけどファンタジー系のRPGとかやってるの見たことないし。
「てかどこまで行ってきたんだよ?わりとすごそうな場所だけど。」
「あれですよ京介くん、河口湖の方面だよ。」
「どこのあたりだっけ。」
知らんのかキミィ。
考古学者目指してる人って、地理極めてないとだめなのでは?
「富士山とかがある方だよ。」
「ああそうか、そうだった。」
「そんなんで大丈夫か考古学者志望さんよォ。」
どうやらミー子も同じことを考えていたようだ。
「なかなか痛いところを突いてくるね美衣ちゃん。今は世界の地理を勉強してるのさ。」
なるほど、それで日本がおろそかになっていると。
でも世界の各国に比べたら日本って狭くないでしょうか。
「もし夏央のお父さんについていくことになったら世界を飛び回ることになるだろうからね!」
「んー・・・。」
どうだろ、そんなに世界飛び回ってるかな。
確かに外国行くときはしばらく帰ってこないけど・・・今は日本にいるし。
大学の助教もやってるから、しばらく外国に行かないんじゃないかなあ。
「なんにせよ日本の地理だって大事だと思うよ~?日本にだってまだまだ知られていない世紀の大発見があるかもしれないしね!」
「確かに美衣ちゃんの言う通りだな・・・。」
まだあるんだろうか、日本での世紀の大発見。
もう調べつくされているのでは?
「地名を言ったらそれがどこ分かるようにしないと。」
「なかなか難しいな・・・。」
かなり無理難題じゃあなかろうか。
「猿払って言ったら北海道のどこだか言えるようにしないと。」
「初めて聞いた地名なんだけど!?」
どこなんだそこは・・・。
「まだまだね。」
「ミー子もほとんどわからないだろ。」
「・・・そうね。」
その地名を何で知ったのかは知らないけど、多分そこくらいしか知らないはずだ。
「日本の地理か・・・うん、避けては通れない道だもんな。」




