逃避行デート
そして、文化祭当日。
「んじゃ、出かけてくる。」
「うん、行ってらっしゃい。」
母さんも父さんも相変わらず朝早く働きに出てしまっている。
見送りは春姉だ。
「なんか悪いことしてる気分で楽しいぞ。」
「ふふ、学校の人には会わないようにね。」
家を出ると、ミー子がすでに待っていた。
「ランニングは終わった?」
「1時間前には終わらせてシャワーも浴びたよ。」
「さすがだなあ・・・。」
「そんなことはいいからさ、早く行こ。」
「ちょっと待ってな。」
「はやくさ。」
「ちょっと待ってって。」
鍵を閉める余裕さえくれなかった。
「お、その格好はなんか久しぶりだな。」
今日の服装は、以前ミー子が好んでいたボーイッシュな服装だ。
帽子までかぶっている。
といっても、前よりも髪が伸びているので若干受ける印象は違うけど。
「かわいいな。」
「やめてよ。今日は密行だからね、いつもとは違う服装でね。」
「京介が見たら一瞬でわかると思うぞ。」
「そ、それは、まあいいよ。なっちこそいつもの服装とか気が緩んでない?今日は悪いことするんだから。」
「そ、そうか?」
「そうだよ。だからほら、見つからないうちに早く行くよ。」
ミー子に手を引かれ、早足で駅の方へ向かっていく。
「行き当たりばったりでって言ってたけど、どうする?」
「実は行きたいところができたんですよ。」
「ほう?じゃあ行こう。」
「あ、いいのね?」
「もちろん、ミー子の行きたいところならついていきますよ。」
「あら嬉しいわ。じゃあ行こう。」
行先は確認せずに、電車に乗る。
どこまで行くんだろうか。
「途中でわかるとは思うんだけど、今は楽しみにしておいて。」
「分かった。」
電車に乗るのはちょっと久しぶりだ。
進路の決定後にミー子の声が回復したことも含めて心療内科に報告しに行ったとき以来か。
ミー子の通院は次で最後だ。
「ちなみにどのくらいかかるんだ?」
「大体3時間くらい。」
「結構遠いな。」
「朝早く出てきてよかったでしょ?」
「そうだな。」
最近は過ごしやすい気温になってきた。
朝は少し冷えてきた気もするけど。
「乗り換えは何回?」
「ん~・・・3回、かな?時間によっては2回。」
「乗り換え回数じゃどこ行くか分からないか・・・。」
「そりゃ、乗り換えだけは無理でしょ。例えばだけど、次で新幹線に乗り換えて函館まで行ってそこから特急に乗り換えて札幌まで行っても乗り換えは2回だよ?」
「確かに・・・、え、北海道まで行くの?」
「例えばって言ったでしょ。それに北海道なら3時間じゃきかないよ。」
確かにそうか。
「さて、乗り換えるよ。」
「おう、どの電車だ?」
「あれ、高尾行の。」
「へえ?」
高尾行か。
じゃあ山にでも登るのかな?
「高尾じゃないよ?」
心を読まれていたらしい。
「どこまで行くんだよ?」
「もっと先よ先。」
もっと先・・・ちょっとわからない。
電車とか詳しくないしな。
「高尾から先は私も分からないし、ちゃんと調べないとだけど。」
自分で調べたい気もするけど、多分ネタバレになってしまう可能性もあるし、やめておこう。
今日はミー子についていくんだ。
「いつもは乗らない電車だな。」
「そうね、専門学校もこっちじゃないしね。」
普段行かないところに行くのは楽しい。
このままどこまで行くんだろう。
とりあえず高尾から先か。
「有名なところなんだよな?」
「そう、とっても有名。」
有名か・・・。
有名な場所というと・・・うーん。
「さて、ここで乗り換えだよ。」
高尾駅に到着。
反対側のホームに、乗り換えの電車が来ている。
「・・・お。」
なんとなく、どこに行くか分かった。
「ミー子、あそこに行くんだな?」
次の電車は大月行。
「正解、いいよね?」
「ここまできてダメも何もないだろ、行こうぜ。」
その次の電車は、河口湖行だった。
「紗由さんに写真撮ってあげようかな。」
「お、いいんじゃないか?紗由さん喜ぶぞ。」
「デートの途中に他の女の話たぁいただけねえな?」
「ミー子が話題に出したんだよな!?」
華麗にスルーして写真を撮るミー子。
河口湖行の直通列車があったにも関わらず、俺とミー子はいったん大月で降りた。
「富士急行だって、初めて乗るよね。」
「そりゃ、こっちまで来たことはないからな。」
「まあ別に富士山まで行くわけじゃないんだけどね。」
「河口湖から富士山を眺める感じか。」
「そうそう、そんな感じ。」
河口湖行の電車に乗る。
「すごいよね。」
「何が?」
「だってさ、今日は学校のみんなは文化祭頑張ってるんだよ?」
「確かに。」
デートだから若干忘れかけてたけど、本来今日は登校日だ。
「私たちだけデートしてるよ。」
「ちょっと悪いことしてるみたいで、楽しいじゃんか。」
「うん、楽しい。」
ミー子がにこっと笑う。
「俺も楽しいよ。」
「行ったことないところに行くの、楽しい。」
「そっちかよ。」
「うふふ。」
あーこれはおちょくられてますね・・・。
「でもあれだよ?なっちと一緒だから楽しいんだよ?」
「油断してたところに直球で来たか・・・。」
「あはは、なっち顔赤いよ。」
完全にしてやられた。
「お、紗由さんから早速ラインが返ってきたよ。」
ケータイの画面には「いいなああああああああ!!!」と書いてあった。
紗由さんは今家にいるんだろうか。
「土曜だし紗由さんも来ようと思えば来れるよね。」
「さすがに来ないだろ・・・。」
「分かんないよ?紗由さんだし。」
「・・・否定しきれないな。」
そして、河口湖駅に到着した。
「・・・うおお、すっげ。」
ミー子が後ろを見て驚く。
「ん?」
それを見て、俺も後ろを振り向く。
河口湖駅をバックに、雄大な富士山が見て取れた。
「確かにこりゃすげえや。」
「思わず女の子っぽくない言葉が出てしまったよ。」
「もともとそこまで女言葉意識してないだろ。」
「まあね。」
ミー子が富士山の写真を撮る。
「ああ、これ電車と富士山一緒に撮れるのか。」
「・・・それこそ紗由さんが喜びそうね。」
「帰りに撮ってやるか。」
「私より紗由さん優先?」
「まさか。ちょろっと撮るくらいだよ。」
「ふふん。」
ミー子が俺の手を握る。
「河口湖の周りを歩いたら、ロープウェイに乗ろう。」
「へえ、ロープウェイか。」
しばらく乗ってないな。
「富士山がすごくきれいに見えるところがある。」
「そりゃいいな。」
「高校生のデートっぽくないね。」
「そうか?」
「うん、富士山を見るための観光って、なんか大人・・・いや、老後っぽい気が。」
「老後!?」
そこまで言うか。
まあ確かに高校生っぽくないといえばわかる気もしなくもないけど。
「まあいいや、せっかくのなっちとのデートだし、楽しく行こう。」
「そうだな。」
「バスに乗ろう。私は大石公園に行きたい。」
「大石公園を知らないけど、ミー子が行きたいなら。」
「よし行こう。」
河口湖周遊バスに乗る。
これで大石公園に行けるのかな?
「私が行きたいところでいいんだよね?」
「もちろん。」
「王道的ではないかも。」
「いいんだって。ミー子の行きたいところに連れてってくれよ。」
「分かった。」
「「おおお。」」
花と、湖と、富士山。
なるほど、すごく絵になる光景だ。
「これはいい写真が撮れるぞ。」
「あれ、そういう目的?」
「違うけどね。」
それでもこの光景は思わず写真を撮るだろう。
今日は天気も良いし、景色を楽しむには最高の日だ。
「ミー子の写真を撮りたいな。」
「え、恥ずかしい。」
ミー子が一歩後ろに下がる。
「ダメか?」
「いやほら、こんな景色の中に私なんかが紛れ込んじゃったらそれこそ一つの汚点のような。」
「ちょっと何言ってるか分からないね。」
「え、ええ~・・・。」
どうしてもミー子の写真を撮りたいと思った。
「ど、どこにいればいい?」
「ちょっと待ってな。」
花と河口湖と富士山とミー子が写れる場所を探す。
「私を汚点にしないでね。」
「しないっつの。あ、そこに立ってくれ。」
「おう。」
ミー子をいいところに立たせてケータイのカメラを向ける。
「撮るよー、笑って。」
「え、笑うの!?」
「せっかくだからさ。」
「う、う~ん・・・。」
ミー子がもじもじしながら肩を狭める。
「いくぞー。」
「えっ!?」
強引に撮影を進める。
「え、えへへ。」
若干照れた笑いのミー子が、写真に収まった。
大石公園を歩いた後、河口湖駅まで戻ってきた。
「ロープウェイに乗るぞ~。」
「上に行くとどうなる?」
「いい景色の富士山が見れるよ。」
「なるほど。」
「というわけでロープウェイの乗り場まで歩くよ。」
「オーケー。」
今でも十分景色のいい富士山は見えているが、ここからさらにいい景色だと思えば楽しみだ。
ロープウェイ乗り場はすぐ近くに会った。
「乗ろう。」
「おう。」
ミー子が俺の手を引き、ロープウェイに乗る。
「今日はノリノリだな。」
「悪いことしてる時ってのはワクワクするもんよ。」
あ、そういえば今日は文化祭の日だっけ。
みんなは今頃文化祭を楽しんでるだろうか。
「やばいねなっち。」
「何が?」
「いやほら、ロープウェイって密室じゃん、2人きり。」
「確かにそうだな。」
ミー子と2人でロープウェイに乗ったのっていつぶりだろう。
もしかして初めてか?
「興奮する。」
「するな。」
「楽しいって意味でだよ。何を考えていたのかな?」
「いやミー子のことだからてっきり。」
「私を変態みたいな扱いするのはやめていただこうか。」
「ほら、ミー子ってわりと」
「そんなんじゃないから!!」
ミー子が詰め寄ってくる。
「違うの?」
「・・・いや、その。な、なっちの前だけだから。」
「・・・。」
お互い黙ってしまい、気まずい空気が流れる。
「・・・なんかごめん。」
「・・・いやいいんだよ。大丈夫。」
「そ、そろそろ着くみたいだぞ。」
「よし、さっきまでの会話は忘れて、楽しみますよ。」
「すっげ。」
ミー子が展望台から見える富士山を見てそういった。
女の子らしさの欠片もないような言い方で。
「今の私ものすごく可愛くない声出したね。」
「面白かったからいいけどね。」
「本当に晴れてて良かったな。」
「最高だよ。」
富士山の写真を撮るミー子。
「富士山をバックになっちと一緒に写真を撮れないものか。」
「それじゃあ誰かに頼もう。」
展望台にいる人は・・・。
「私話しかけられないよ。」
外国人ばっかりだった。
くっそ、外国語が達者な祈木が一緒にいれば。
学校サボった罰が当たったかもしれない。
し、仕方ない。
「え、エクスキューズミー。」
「?」
外国の方に話しかけてみる。
「あ、あー・・・。」
たしか頼むときに使う英語って・・・。
「クジュー・・・えーと、写真を撮るってなんて言うんだっけ。」
「写真デスカ?」
「えっ。」
なんとまさかの日本語だった。
「そ、そうです、あの子と俺の写真を撮ってもらえますか?」
「オウ!ツーショットね!分かりました!」
「英語で話しかけようとチャレンジするなっちよかったよ。」
「やめて。」
「動画も取ったよ。」
「消して。」
「じゃあ、ソコニ並んでくだサイ!」
外国人のお姉さんの指示で、富士山に背を向ける。
「Hey,are you ready!Smile!」
日本とは違う掛け声に戸惑いながらも、写真を撮ってもらった。
「ドウデスカ?」
「ばっちりです!ありがとうございます!」
「イエー!」
お姉さんに頭を下げて、展望台を降りる。
「ほらなっち、今度はあの有名な鐘を鳴らしに行くぞ。」
「有名な?」
俺知らんぞ。
「ほら、あれだ。」
ミー子が指をさした先に、なんかハート形の鐘があった。
「あれか。」
「あれだよ。」
「一緒に?」
「もちろん。」
なんか恥ずかしいな・・・。
「ダメかい?」
ミー子が上目遣いでこちらを見てくる。
おい、卑怯な手段に出るんじゃない。
「なっち。」
「悲しそうな声を出すんじゃないよ。や、やるから!」
「フヘッ。」
「おい。」
やっぱり計画通りってやつか。
「これを眺めながら鳴らせば恋愛が成就するらしいよ。」
「えっ、浮気?」
「そんなことないからね!?私はなっち一筋だから!」
「じゃああれだな、これからもこの関係が続きますようにってやつだな。」
「そう!そういうこと!」
鐘の紐に手をかけ、2人で鳴らす。
「これでなっちと永遠に結ばれるね。」
「そうなの?」
「縛ってでも離さないでいてやる。」
「怖いんだけど!?」
「冗談だよ。」
「うさぎ神社だって。」
「かわいいな。」
狛犬ではなく狛うさぎが俺たちを迎えてくれた。
「この狛うさぎどちらかを撫でるといいことがあるらしい。」
「そうなのか?」
「この頭を下げている方を撫でると頭がよくなるらしい。」
「へえ。」
「そしてこの立ってる方は撫でると足が強くなるらしい。」
「足。」
足が強くなるのか。
足か……。
「パティシエとかって基本的に立ち仕事だし、いいんじゃない?」
「なるほど、確かにそうだな。」
仕事ができなくなるのは困るし、こっちにしよう。
「一緒に撫でるのなんかいいね。」
「そうか?」
「そうだよ。」
撫で終えた俺たちはお賽銭をして、祈る。
「私は腰をやらかしませんようにってお願いした。」
「言い方が面白いわ。」
腰をやらかすって・・・。
「なっちもお願いしておいた方がいいかもよ。」
「確かになあ・・・。」
さっきうさぎを撫でただけじゃ足りないのかもしれない。
「なっちの方が腰いわす可能性が高いかもしれないし。」
「え、なんで?」
「・・・さあ。」
「?」
ちょっと言っている意味が分からないですね。
俺の方が腰を痛める可能性が高いかもと?
「ミー子、顔が赤いぞ?」
「な、何でもないよ。」
こういう時はあれだな。
言おうとしたことが伝わらなくてすべった時の反応だ。
「そろそろ行こうか。」
「ん、降りるのか?」
「うん、まだ行きたいところがあるからね。」
「分かった。」
もう一度ロープウェイに乗り、下まで降りる。
「バスに乗って氷穴まで行くよ。」
「氷穴?」
「うん、氷の洞窟があるのよ。」
「なんだそれ、面白そうだな。」
「なっちなら乗ってくれると思ったぜ。」
「氷の洞窟とか、ミー子好きそうだよな。」
「かっこよくない?」
「中二病的な?」
「聞き捨てならねえなコラ。」
笑顔の表情が一瞬で変わる。
しかしバスが来ると、ミー子の表情が戻った。
「いや仕方ないじゃん。天使を操って悪魔を倒すゲームにはまってる時点でお察しよ。」
「天使の名前に詳しくなれるからな。」
「そうだよ。なっちも一緒だよ。」
「俺はミー子に付き合っていただけであってだな・・・。」
「いや、なっちも一緒です。」
「はいはい。」
「ちなみにどこのバス停で降りるんだ?」
「氷穴。」
「まんまだな・・・。」
でも氷の洞窟ってなんかわくわくするな。
「なっちさん、割とちゃんと楽しみそうな顔をしてますよ?」
「結構氷の洞窟楽しみになってきた。」
「人のこと言えないじゃん。」
人のこと言えませんでしたね・・・。
だってほら、手を広げて遠くから写真撮ってもらったらさ・・・。
広範囲の氷魔法で洞窟を凍らせたように見えるかもしれないじゃん?
「くだらないことを考えてるな?」
「ああ考えていたとも。」
「なっちが考えていたことを当ててやるよ。」
「当ててみろよ。」
「手を広げて・・・。」
「ストップ。みなまで言わなくていいぞ。」
エスパーかよ。
「そろそろ降りるよ。」
「おう、分かった。」
本当にバス停の名前が氷穴なんだな・・・。




